無事に工藤君は元の姿を取り戻した。
舞い上がらんばかりに喜ぶ工藤君を見ていると、私も嬉しくなってくる。
「空、こうして見るとお前ちっちゃいな!」と私を抱きしめてヨシヨシと撫でくりまわしてと落ち着きがない。
念願叶ってテンションも上がっているようだ。
意気揚々と着替え始めた。
うーむ、よほど嬉しかったらしい。
いっときの姿と分かっているとはいえ、嬉しいものは嬉しいということだろう。
灰原さんが舞い踊るでかい犬でも見るような目をしている。
キリッとした顔で工藤君は宣言した。
「ついでに蘭とデート行くからよろしく」
「なにデートでタイムアタックしてんのよ。途中で戻りでもしたらデート途中失踪男よ」
「それはよくやるから大丈夫」
「何が!?」
だからよくやるんだろ、デート途中失踪。
トロピカルランドでもやったしな。
デートすっぽかして消える悪質常習犯とまだ付き合ってる蘭ちゃんは慈母神か何かだと思う。
私ははあ、とため息をついた。
私も早く大きくなりたいものだ。
いや大きくなれるか分からんが、来世のその次ぐらいでは大人の美男美女になりたいものだ。
あむぴクローン以上の物件があるかは甚だ疑問だが。
灰原さんが穏やかに私に問いかけた。
「どうしたの、空君」
「僕も早く大きくなりたいなぁと。オリジナルみたいにカッコいいといいんですけど」
最悪、成体になったら人を取って喰うタイプのクリーチャーが爆誕する可能性もあるからな。
流石にそんなものにはなりとうない。
私がぼやいた途端、灰原さんの表情が凍りついた。
何何何何何。
私はその絶望顔に思わず面食らった。
いや、そうだ。今世の私の残り寿命一年は灰原さんも知ってたんだったか。
実質三十年以上あるから忘れてたが、割と儚い身の上だったな。
というか私が隠れてこっそり確認したのはバレてないらしい。よかった。
昏い表情で黙りこくる灰原さんに代わり、コナン君が私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「……お前ならきっとかっこいい奴になるよ」
「そうでしょうか?」
「ああ。俺が保証する」
コナン君は優しげな笑みで目を合わせ、語りかけてくる。
すっっっごく気を遣わせてしまったようだ。
本当に申し訳ない。失言だった。
でも、実際100%成長の芽が無いわけでもないからな。
いい具合にクリーチャーにならず成長できたらバーボンコスしたい欲望のある私である。
あのミステリートレインで着てたオシャレな奴だ。
鏡の前でイケメンになれた喜びを堪能できたらいいなぁ。
などとよそごとを考えつつ、私は二人を見送ったのだった。
彼はその後、高校学園祭に参加するらしい。
なにやら蘭ちゃんを騙すための作戦があるのだとか。
黒衣の騎士だっけか。
私も気分だけでもお祭り気分を味わおうと、帝丹高校前にやってきた。
学園祭は人で賑わっていた。
手作り感あふれる看板に屋台が立ち並んで、そこでは軽食が売られていた。
おそらくライブ会場もあるのだろう。
学生達が歌って踊る騒音が外からでも分かった。
体育館では劇が開催されると聞いている。
おお、すばらしい!アニメで見たような青春!
外部の人も含めた多くの人が行き交うそこをちょいちょいと縫って進んでいく。
すると、入り口近くでぼんやりと佇む一人の長身の男の姿が見えた。
黒いニット帽に鋭い目つき。
高校生が多い場所ということでタバコは控えているのか、腕を組んで壁にもたれかかってる、顔立ちから国外の血を感じる男。
目つきの悪さからどうも近寄りがたい印象を受けるが、その容姿は間違いなく整っていた。
FBIスナイパー、赤井秀一その人である。
彼は私の姿を見て、僅かに目を見開いた。
そして「おいボウヤ」と私に声をかけた。
何だか激しく胸がムカムカイライラする。
あむぴの肉体の反応は激烈だった。
時系列から言って、培養開始した頃はまだ決定的な決裂に至る前だと思うんだが。
生理的に合わないというやつだろうか。
赤井さんは立ったまま私をまじまじと見下ろした。
それからふむ、と小首を傾げて口を開く。
「父親の名前は分かるか?」
「僕に父も母もいません。ここには保護者と来ています」
「ふむ。君の名は?」
「阿笠空です。あなたは…?」
私の質問に答えることなく、至極マイペースに赤井秀一は懐に手を突っ込んだ。
名刺をポンと渡されて、私は眉をハの字に下げた。
何なのだろうか?
「困ったらここに連絡しろ。身の危険が迫ったら躊躇いなく電話していい」
「あの……僕に一体何を……?」
「ジョディの見張りのつもりが、なかなか良い拾い物をしたようだ。ああ、父親にそれを渡しても構わん。会えるならの話だが」
人の話を聞け赤井秀一ィィィイイイイイ!!!
っと、一瞬あむぴの侵食に思わず乗っ取られてしまった。
すげーな転生者たる私にここまで意思を通すとか。
道理で冷静な安室さんがこの男の前ではよく叫んでるわけだよ。
一般人が理性で抑えられる激情じゃないよ。
恐らく、赤井さんは純粋に私を心配しているのだろう。
私の口ぶりから父親との接点が薄いと踏んで、FBIでの保護を持ちかけてきてくれたのだ。
また、名刺を渡したのは単に連絡ツールということもあるが。
父親たる安室さんに知られても構わないとのことから、伝わったら伝わったでバーボンを釣り出す口実にもなると思っているのだろう。
もしかしたら文句の一つでも言ってやろうと思っているのかもしれない。
単に子供を顧みてやれよの意味で「君が責任の取り方も知らない男とは思わなかったな」とか何とかいうに違いない。
なんか考えたらまたイライラしてきた。
あむぴの検閲が厄介過ぎるんだよなぁ
赤井さんはそのまま「じゃあな」と言ってあっさりと背を向けた。
たぶん単独行動で帝丹高校教師に潜り込んだジョディさんを見張りに来ただけなのだろう。
収穫もあったしさっさと帰ろうというというわけだ。
なんとも言えず、私は中で出し物を一周してから帰宅した。
工藤君達の計画を邪魔してもいけないので、体育館には近づかないでおく。
全体的にすごく騒がしくて耳が痛かったが、こういうのもたまには良いものだと満足顔になった私である。
さっき味見で食べた唐揚げが意外といけてたから、今日の晩御飯もからあげにしようかな。
さてと
帰ってきた工藤君と灰原さんは、名刺を見て素っ頓狂な様子を見せた。
「FBI!?お前どうしてそんな人が向こうから話しかけて来たんだよ!」
「彼は潜入捜査官でした。コードネームはライ。僕の姿から、幹部との血縁を感じ取って話しかけて来たんでしょう」
「……それは、あなたがFBIに利用されるかもしれないってことかしら」
灰原さんは警戒しているのか、声を低くして眉間に皺を寄せた。
その顔と声には拭いきれぬ嫌悪と憎悪が宿っている。
そりゃ原作を知る私と違い、灰原さんはあのビル屋上での自殺事件を知っているわけではないからな。
つまりは、赤井秀一が私のことをただの組織幹部の息子とだと思っていると想定しているのだ。
そりゃ利用される危険を真っ先に危惧してもおかしくない。
加えて姉の仇の人非人だし。
説明が難しいので、私は答えに窮した。
私は、スコッチのことがあるから赤井さんは親切心で声をかけて来てくれたのだと分かっている。
「彼の手が回らないようならこちらで保護しておくか」ぐらいの親切心なのは理解できているのだ。
うーむまた脳内あむぴが余計なお世話だ!!と喚いている。
それに関しては黙殺することとする。
鎮まりたまえアムピ。鎮まりたまえ。
ともかく、心配するようなことは何もない。
「ひとまず様子を見ましょうか。現状危険はありませんし、保留としましょう」
「そうね。組織に見つかってどうしようもならなくなった時に垂らされた頼りない生命線。そのぐらいの認識でいいわ」
「俺としては赤井って人が気になるけど…まあ、確かにあえて危険に晒す必要もねーな」
赤井秀一が来日したということは。
もうすぐベルモットが灰原さんの命を狙いにくるということだ。
蚊帳の外は嫌だが、私では余計に場を混乱させてしまうだけなのは間違いない。
憂鬱な気持ちで僅かに息が漏れてしまう。
変装しようにも子供では高が知れている。
早く大人になりたいものだ。
なれるものなら、という注釈がつくのがさらに憂鬱でもある。
「………?」
その思いに呼応するように、どくりと心臓が一つ。
不思議と巡るように脈動したのを感じたのだった。
・あむぴ
将来全然そんな気のない赤井さんの一言でブチ切れる定めにある人。
地雷原を華麗なクイックターンで攻めていく赤井さんに虫唾がダッシュ。
・コナン君
クローンが大きくなれる可能性は低いことにドカ鬱になっている。
自分だけ大きくなる様を見せるのがあまりにも酷な気がして、今後解毒剤を飲むときはコソコソし出す。