降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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阿笠邸同居

 

 三日目の朝である。

 

 今日の朝食を作った私は、阿笠博士の分のそれを持ってテーブルに運んだ。

 

「どうぞ、ハムエッグとポテトサラダ、トースト、それにコーヒーです」

「すまんのぉ。運びづらいじゃろう、ワシも手伝うぞ」

「ありがとうございます。僕は成人男性以上には力がありますので、お気遣いなく」

 

 結局、紆余曲折あって私は阿笠博士預かりということになった。

 同居という形だ。

 工藤邸においておくにも見張りがないことが心配だったのだろう。

 

 食費等は阿笠博士が出してくれている。

 私も研究所からパクってきた金があるが、汚い金だし大して保たないだろうから意味はあまりないからな。

 まったく、頭が上がらないとはこのことだ。

 

 1日目の朝に自分の分抜きで朝食を作ったら、阿笠博士は大慌てだったんだよね。

 生物兵器としてのスペックで、一週間ぐらい飯抜きでも全然平気なのだけれど。

 その旨は話したはずだが、阿笠博士は困ったように私を諭した。

 

 「ワシと一緒に食事をとってくれんか。食事の席で話をするのも老人の楽しみなんじゃ」とね。

 

 優しい、本当に優しい人だ。

 

 食べ終わって食器を片付けて、広い阿笠邸の庭の軽い草むしりだ。

 定期的に業者が庭の手入れしてくれるが、雑草に関してはすぐに生えてきてしまう。

 根ごと抜き取るのが一番いい。

 

 あと棚の上に積もった埃を取ったり、阿笠邸の小屋の整理をしたり。

 一人暮らしで業者を入れたのも結構前らしく、割とオンボロ感が漂っていた。

 古びた清掃用具も小屋にしまってあったから、無尽蔵の体力を持つ生物兵器にかかればあっという間に掃除を終わらせることができる。

 

 そんなふうにここ数日働いていたわけだが。

 

 「博士ぇー」と草むしりしている私の耳に、コナン君の声が入ってきた。

 私は立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。

 

「彼ならば地下のラボです。新たな実験に取り組んでいるようですよ」

「……オメーほんとマメだな。家政婦の真似事なんて」

 

 半目でそのように言われてしまう。

 まあ、原作キャラに奉仕できるのは嬉しいことだからな。

 憧れの阿笠邸生活だし。

 

 とはいえ、そう説明できない以上、当たり障りない別の理由を言うしかない。

 

「僕は人に役立つべく製造されました。何も返せるものがない以上、これは本望です」

「……なんか趣味とかねーのかよ」

「趣味?」

 

 急に言われても困ると言うか、脈絡なくてわからんと言うか、

 アムピにペンラ振ることが趣味といえば趣味だが、やりたいことって意味合いならば他にもあるか。

 

「家事がひと段落したら本を読みたいと思っています。僕には世界の知識が、常識が足りなさすぎる」

「そういうんじゃなくて」

「……?それと、肉体性能の調査をしたいと考えています。カタログスペックは把握していますが、未知数な部分も多いので」

「そうでもなくて。もっとこう、あー、楽しむための行動を言ってんだよ」

 

 コナン君に睨まれて、私は慄いた。

 これ以上なく今楽しんでるんだが???

 この世の春だが???

 

 しかし純粋なお遊びのことを聞いているなら、確かに私にもあるかとしれない。

 私やや躊躇ってから、観念してそれを打ち明けた。

 

「……小説が読みたいです」

 

 ぱちくり、とコナン君が予想外の言葉を聞いたように瞬いた。

 私は恥じらったが、ここまできたら言うしかない。

 

「貴方のことを調べている時、図書館で見かけました。『闇の男爵』というタイトルの文庫本が並んでいるのを見て……読みたいな、と」

「お前…」

 

 だってマジの劇中劇で世界的名作って設定のそれなんだから。

 図書館で読み耽ってやろうかとも思った。

 だが、こんな場所で小説に捕まって黒の組織に追いつかれるのはアホすぎるし。

 でも機会があれば読みたいなと思っているわけである。

 

 コナン君が息をついて少しだけ笑った。

 

「来いよ、俺んち隣だし、何冊もあるから貸す。ほら」

「は、はい」

 

 手招きされて、とことこと歩き出す。

 

 隣の工藤邸は人がいない分やや埃っぽかったが、普段丁寧に掃除されているのがわかった。

 たしか蘭ちゃんが掃除してくれてるんだっけか。

 いや、それは工藤新一が失踪してからか。

 

 しばらく廊下を進むと、書斎が見えてきた。

 天井をつくほどの高い本棚に、数えきれないほどの本が収まっている。

 まるで図書館だ。

 誰もが圧倒されるであろうその威容に、私は内心息を呑んで感動した。

 

 大人しくついて行くと、階段を上がった二段目の端からコナン君は本を数冊引っ張り出した。

 

「これ、文庫版。まず無印の最初の三冊を渡しとく」

「無印、というとバリエーションがあるんですか?」

「父さんの人気作だからな。スピンオフも結構あるし」

 

 そのように渡されたのは、不気味な仮面の男が描かれた表紙の文庫本であった。

 年季が入っていて、繰り返し読み直されたであろう手垢で少し変色している。

 コナン君が昔読んだのだろうか。

 

 私は本を抱えて、少しだけ嬉しくなった。

 

 ここはコナン世界で、私は望外の幸運により彼らに迎え入れられた。

 それがどれほど幸運なことか、言葉にできないほどだ。

 

 コナン君がやや笑って、肩をすくめた。

 

「お前、そんな顔もできるんだな」

「顔?何か表情の作り方に違和感でもありましたか?」

「お前子供らしくねぇからな。表情筋ぴくりとも動かねーし」

 

 それは私がめっちゃ緊張してるからじゃんね。

 だがそれが周囲にとって不気味に映るのなら、居候の身としては改善せねばなるまい。

 

 えー、私の素を出すのは論外だとして。

 アムピが穢れるので、やるとするなら表情豊かで人当たりの柔らかい「安室透」が一番いいだろう。

 確か生物兵器の基本機能にその手のものがあった気がする、ああ、これか。

 

 えー、外向きモード外向きモードと。

 

 ぱあっと柔らかく笑って、小首を傾げて目一杯に愛嬌を振り撒いてみせる。

 爽やかで人懐っこく、人好きのする笑みを浮かべられたことだろう。

 すなわち「安室透」の再現である。

 

「あはは。不愉快にさせてすみません。これでよかったでしょうか?慣れないなぁ」

「違ぇよ怖ぇよ演技しろとは言ってねぇ!!」

 

 叫ばれて慌てて私は外向きモードを切った。

 違ったらしい。難しいなおい。

 

 「失礼しました」と私はぺこりと頭を下げた。

 コナン君が大きなため息をついて頭をかいた。むすっとしていらっしゃる。

 

「思ったように、思ったことを表す練習をした方がいいぜ。オメーはまだ子供なんだろ。組織の連中が教えた通りに賢しらに振る舞う必要なんてないんだ」

「ですが、それでは僕の存在意義が」

「奴らが勝手に決めた存在意義なんて関係ねーよ」

 

 慰めてくれている、のだろうか。

 だが、それでは本当にわたしの目指すべき場所が無くなってしまう。

 なにせ私は転生者。

 この二度目の生は余談でしかないのだから、そこに意味なんて無いわけで。

 

 放り込まれた意義を多少なりとも参考にすることぐらいは許して欲しい。

 

 私の困った様子に、コナン君は「ゆっくり考えればいいさ」と大人らしい柔らかい笑みを浮かべた。

 

 阿笠邸に戻ると、TVがつけっぱなしになっていた。

 下ではゴトゴトと変な音が響いているが、いつものことらしくコナン君に動揺したそぶりは見えない。

 

 TVは不審火で全焼した研究施設について映している。

 山中の企業社屋で不審火、全焼して死者数不明、などなど。

 

 コナン君が「昨日の夕方からやってるな、妙に情報が出ねーけど」と難しい顔をした。

 私は頷いて情報を投下する。

 

「ここが僕を生み出した研究所です。研究員を皆殺しにした後、火をつけて逃げましたから。その後組織が爆弾で吹っ飛ばして証拠隠滅したのでしょう」

「!!!」

 

 コナン君が息を呑んで絶句した。

 これは明確に私の罪だ。脱出のために研究員を殺害した罪。

 私の肉体はともかく、精神年齢は大人である。

 死刑が妥当の大量殺人に違いなかった。

 

 だが後悔はしていない。

 あそこで行われていた研究はあまりにも非道で、信じられないほど有害で、降谷零にとっても社会にとっても看過できぬものであるはずだ。

 そのために死刑になるなら、十分に元は取れたと言えるだろう。

 

 コナン君がゆるりと目を伏せて、慎重に言葉を紡いだ。

 

「………人殺しが罪なのは知ってるか?」

「はい。故に己の所業とバレないようにすべきだと、教わりました」

「違う。何があってもやっちゃいけないんだ。あんな非道な実験を行う奴らの言うことを真に受けることはねーよ」

 

 どうやらコナン君も私の渡したUSBメモリの中身を全て確認したらしい。

 全人類ドン引きの実験がわんさか入ってたから、コナン君も精神を削られたことだろう。

 

 見るだけでSAN値減るというか、ビデオテープ黒の章って感じの代物だったしな。

 

 コナン君は少しだけ口篭ってから、囁くように問いかけた。

 

「復讐したい、と思ったことは?」

「復讐?何にですか」

「あいつらにだよ。お前にこんなことをした奴らを殺したいと、思ったか?」

「………?」

 

 復讐も何も、気づいたら培養槽の中だったから、それに足る感情は何もない。

 あえて言語化するなら「うわキモ」レベルでしかないんだよな。

 

 私は首を傾げて返答した。

 

「いいえ。別に、彼らは彼らの仕事をしただけです。僕になんら思うところはありません」

「それなのに殺したのか?」

「邪魔だったので。僕が歩む上で。その上で、邪魔者は消せと命じられていました」

「………」

 

 命令はマジである。

 頭に残る数々の命令が、私に常に語りかけてきている。

 別にちょっとうるさい脳内楽曲ぐらいなので害はないんだけど。

 鬱陶しいのでいずれ消去したい所存である。

 

 コナン君は番組を回した。

 TVは米花動物園のゾウさんを大アップにして、一気に牧歌的な空気になった。

 動物園特集らしい。おお、かわゆいねぇ。

 

 ぽつりと、しかし確かにコナン君は宣言した。

 まるで何かを振り払うように、絶望から守るように。

 きっと私を思って、言葉を紡いだのだった。

 

 

「あいつらは、俺が絶対潰してやるから。お前は、何も気にすんな」

 





・USBの実験内容
あらゆる非道で悪いことが詰まってる。
元々マッドサイエンティストの巣窟で、好き勝手突っ走るから限度を知らない。
敷地内に培養嬰児の遺骸の焼却した残骸がたくさん埋められている。
もちろんコナン君も見た。子供らしいところもある彼が、どれほどの非道に晒されたかも理解した。

次からは原作事件かな。
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