爆弾事件が無事解決し、平和な日常が戻ってきているなり。
FBIのジェイムズ・ブラック氏と出会ったりその直後に当のFBIが攫われたり。
耳栓して無理して東京スピリッツの試合を見に行ったら、帰りに殺人事件に遭遇したり。
なんとも米花町らしい日常を謳歌しているところである。
昨日なんかは目の前で警官が撃たれて、この犯罪都市はやべえなぁと思う今日この頃だ。
後学芸会の練習してたあゆみちゃんも攫われた。
私の暴れる機会が多くていいけど、警察は多分過労死してると思う。
さて。そんな本日、私は元太君の背に背負われて阿笠邸に緊急搬送された。
ままままま待って元太君揺れる、揺れる酔うって吐くので丁寧に!
「大変だコナン!空が、空がおかしくなっちまった!」
「急に酔っ払ったようになってしまったんです!」
「な、それ本当か光彦!?」
ソファに降ろされた私は、くにゃっとしたまま倒れ込んだ。
気分は最高、完全に出来上がった気持ちでヘラヘラくすくす。
えー、またたびです。
子供達が持ってきた猫用の少量のまたたびを受動喫煙しました。
最高です。
毒物扱いで二度と効かない可能性が高いけど、ようやく酒を摂取できたんだなぁ。みつを。
それを説明しようとしたのに、口から出てきたのはふわふわと頼りない言葉のみ。
「えへへ、コナン君らぁ。んー、ふわふわしますぅ」
「しっかりしろ空!お前ら心当たりはないのか!!」
「わかりません…元太君が猫用のまたたびを持ってきたので、みんなで大尉にやっていたんですけど」
「そしたら急に空君がフラフラになっちゃったの!」
うおお頭がふわふわて肉体の制御が利かねえ!
魂はほろ酔い程度でしかないが、肉体の頭が働かないので、私が全部肉体の制御までするしかないのである。
いつも無意識でやってる範囲まで全部マニュアル操作してる気分だ。
本能が全面に出て、私はくしくしと顔を擦ってゴロゴロした。
コナン君の手を取って擦り寄り、蕩けた目を向けてしまう。
「コナン君……もっと欲しいれす。コマンド…くらさい……んー、んぅ」
「っ、灰原!来てくれ灰原っ!!」
切迫したコナン君の声が遠く聞こえる。
すまん、めっちゃ救急病院の空気感にしてしまってすまん。
あとコマンド欲しい寄越せ。酒乱ワイ、酒のおかわりを所望するなり。
ああ、歯がイライラと疼く。
生き物を噛みたくて仕方がない。我慢のために自分の腕をガジガジと噛んでしまう。
まあ私の血液の中には幼生が潜んでて、各種機能を担っている。
多量出血時にはこうして自分で血液中の幼生を増やすもののようなので、自分を噛んでもなんの問題もない。
すぐに取り押さえられ、腕に包帯を巻かれてしまった。
「すまん空君…!」と凄く辛そうな阿笠博士の声と共に拘束される。
私の膂力なら振り払うことは容易いが、阿笠博士に乱暴なんてしたくないからな。
そのまま、むりやりベッドに拘束されてしまうのであった。
結局、5分ほどで完全にまたたびは抜けてしまった。
短い酔いでブスくれる私である。
私は徹底的に検査されることになったので、その間に子供達は一旦帰宅させられたらしい。
心配させて本当にすまぬ。
灰原さんが私の頭を撫でながら眉を下げた。
「大丈夫空君、具合が悪いところはない?」
「問題ありません。完全に酔いも抜けています。ご迷惑をおかけしてすみませんでした…」
「いいのよ。人間とは違う生態だもの、流石にそこまでは注意しきれないでしょうし」
どこまでも優しく穏やかな瞳で見つめられ、柔らかな手つきが髪の毛越しに伝わってくる。
コナン君が考え込むような表情をした。
「猫用のまたたびが効いてるってことは、やっぱり人間には問題のないはずの危険があちこちに潜んでるってわけだ」
「至福の時でした。リワードの方が良いですから、どうかコナン君にはリワードを僕に恵んでいただきたく」
「ダメだ。副作用がないのは分かってるけど、俺たちはお前を洗脳するつもりはない」
「そんな。灰原さん」
「だめよ」
二人してにべもなく却下されてしまった。
私はしょぼんとして全身の力を抜いてゴロンとした。
私に酒をくれたもう。
「お前が腕を噛んでたのは、やっぱり欲求のためか?」
「はい。歯が不愉快で、生物を噛みたい本能を抑えるべく。貴方達を宿主扱いにはしたくなかったので」
「………そうか。よく頑張ったな」
コナン君がにっと笑って私の手を握ってくれる。
パパ、ママ……。どうしてこう小学生しかいない空間に核家族が出来上がってしまうのか。
灰原さんが息をついて、PCに表示されたデータを確認している。
「でも、本能的にコマンドを求めるように設計されているとしたら、過度な抑圧はストレスになるというのも一理あるわ」
「………もっと調査が必要ってことか」
「ええ。コマンド自体の機序を調べるのもそうだし、リワードやオーダーより『軽い』コマンドの捜索も急務ね」
私の酒要求が凄く真面目に処理されている。
なんかだんだん申し訳なくなって、私は至極小さく丸まった。
ふと思い立って私は口を開いた。
「そういえば、明日コナン君は結婚式に出席されるんですよね?」
「って言っても白鳥警部の妹さんのだけどな。キャリア組だし、お偉いさんも結構出席するみてーだぜ」
どうも聞き覚えのある内容だ。
話数がありすぎて上手く出てこないが、原作マンガではないと思う。
「いいですね、結婚式。華やかで幸せそうで、なんとも憧れます」
「…………」
タキシード姿のあむぴもかっこいいので、大きくなれたらぜひ着てみたい私である。
幸せの形だね。
別にあむぴの結婚式でも構わないんだが、あれはお相手が概念なので難しかろうよ。
あそこまでいくともう既婚者って言えなくもない。
コナン君と灰原さんが鬱々感の強い顔で黙り込んでしまったので、私は己の失言を素早く悟った。
おっとしまった、己の寿命の認識を大事にせねば。
私が寿命を理解していることは既に灰原さんには共有済みらしい。
ホウレンソウが行き届いていて何より。
灰原さんはしばらく私を抱きしめて離さなかった。
慌ててフォローの体制に入る。
「例外まみれの体です。なんだかんだ大きくなるかもしれませんので、コナン君と蘭さんの結婚式には必ず呼んでください」
「ああ。………必ず」
「暗くならないでください。人生は密度と言うでしょう。あなた方と過ごす日々は何より濃密で素晴らしい。それは実質何十年分にもなるでしょう」
実際間違いなくサザエさん時空してるし、言葉通り何十年分もあるもんな。
もう夏と冬何回来てるねん。
冗談めかしてもコナン君達の空気は暗いまま。
安心して欲しいのに、ままならないものだ。
ああ、大きくなりたい。
彼らを抱きしめ返せるほどに強く、大きく。
さて、翌日。
コナン君からの連絡は夜になってからだった。
どうやら結婚式場で爆破事件があったらしく、そこで佐藤刑事と蘭ちゃんが犯人に拳銃で襲われたらしい。
佐藤刑事は生死の境を彷徨って、蘭ちゃんは記憶喪失になってしまったとのこと。
私たちも明日みんなとお見舞いに行く予定だ。
今日は警察と行動を共にし、コナン君は帰らないらしい。
灰原さんが陰鬱な顔をして窓の外を眺めている。
煌々とした月明かりが夜を照らし、私には真昼のように明るく見える。
けれど人の目には暗闇に覆い隠されて、何もかもわからないように見えるのだろう。
記憶喪失。
恐ろしいものだ。
転生者たる私にとって唯一死と同義のもの。
灰原さんの背に、私は静かに語りかけた。
「貴方も記憶を捨て去りたいと、そう願いますか?」
「………私にその資格はないわ。貴方と工藤君の力になれるのは私だけだもの。罪から逃げるわけにはいかない」
その声は重く、沈んでいくような心地に囚われる。
私はキッパリと言い放った。
「願うのに資格はいらないでしょう。僕も、オリジナルと暮らせたらと願うことがあります」
「………」
「記憶は、過去は時として枷となります。貴方は弱音を吐いていい」
「…………貴方は、過去が辛いの?」
そっと私の頬をなぞり、灰原さんが苦しそうに言葉を紡いだ。
ああいや、私はあむぴの過去を無料閲覧できてハッピーだから違うんだよな。
でもこれ完全に違法アップロードだから後ろめたさで辛いといえば辛いか。
なんにせよ灰原さんのシリアスな辛さとは違う気がする私である。
だがまあ、それはこの場では野暮というもの。
私は頬をなぞる手を優しく取り、微笑んで擦り寄った。
「はい。お揃いですね」
「……、………そうかもしれないわね」
彼女がいつもくれる愛情に報いることができたなら、それ以上のことはない。
灰原さんはそっと目を閉じ、私を抱きしめたのだった。
・灰原さん
兄弟を殺したことを後悔しているのかとクローンの苦しみを思って少しだけ暗くなってる。
そういうの全然考えずに、違法アップロードあむぴ過去編を視聴して悦に浸ってるクローンを添えて。
・クローン
酒をくれたもう。
またたびもう効かなくなった。なんでや。
毒・免疫機構や血小板当の働きは血液中の幼生が担ってる。
有害な血液だが無害化が早いので今のところパンデミックは起きていない。