降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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カウントダウンと組織の影②

 

 灰原さんがコナン君に現行犯逮捕された。

 電話してる現場を押さえられたようだ。

 

 昨晩のことだ。

 やはりコナン君は、これ以上の危険を冒してほしくなかったらしい。

 

 きっとジンはこれを聞いていただろうから、あらかじめ私が博士に頼んで事前に電話に細工をしておいた。

 そのためもし逆探知に成功しても、こちらの番号は知られていないことだろう。

 

 灰原さんは暗い表情で俯いていた。

 

「昨日は……ごめんなさい。私も止めなきゃと思っていたのに、どうしても止められなくて」

「灰原…」

 

 コナン君が気遣わしげに手を伸ばそうとして、途中でやめる。

 灰原さんは己の手を見て、自嘲を含んだ昏い笑いを見せた。

 

「この頃思うのよ。自分が誰なのかわからなくなりそうって」

 

 肩をすくめて首を振って、いかにもくだらないとでもいう様子で手を広げる。

 

「笑っちゃうわ。私はしっかりした身分の持ち主で、自分だけの記憶と経験の持ち主なのに。……『自分が誰なのかわからなくなる』なんて、甘えたことを思うんですもの」

「………」

 

 コナン君が息を呑んだ。

 間違いなくこれは私のことを踏まえての発言だ。

 クローン体のように他人の記憶に苛まれず、自我を持って生まれたというのになんて体たらくだと。

 でもそれは違う。苦しみの形は万人が万人ごとに抱えるもの。

 

 私は思わず灰原さんの手を取っていた。

 

「いいえ、いいえ!甘えてなどいません。それは当然の不安です」

「っ、空君…貴方」

「命の危機の中隠れ潜み日々を過ごすことに恐怖を感じないなら、それは人間ではない。貴方は人間だ。当然恐怖し、不安に心を痛める夜もあるでしょう」

 

 その手は小さい。小学生の、紅葉のような手の平だ。

 だからこそそれを強く握り、私の意思を伝えてみせた。

 

 私の言葉にコナン君も同意してそっと笑いかける。

 

「そうだぜ灰原。それに、オメーは一人じゃない。だろ?」

「彼らもいます。それにあの子達の無垢さは、いつだって僕たちの心に本質を教えてくれます」

 

 少年探偵団の存在も間違いなく、彼女に失った平穏な幸せを一つ一つ教えて行ってくれることだろう。

 しばらく灰原さんは瞳を揺らしたあと、優しく穏やかに微笑んだ。

 

「そうね。私も、少しナイーブになっていたみたい。ありがとう空君、工藤君」

 

 儚い笑顔はどうしてもこちらの不安を掻き立てる。

 ああ、大きくなりたい。降谷零のように大人になって、彼らに頼られるものになりたい。

 

 大きく、大きくなって………。

 

 瞬間、不意にめまいが私を襲った。

 くらっと世界が揺れたので、慌てて私たち近くの棚に手を当てて踏ん張る。

 ガタンと上の小物が落ちて、床に傷をつけた。

 ああしまった!フローリングに傷が!

 

 気持ち悪さで立ち上がれない。

 うおおおお吐き気がするんじゃあ!

 

「空っ、おい空!?どうした!?」

「少し眩暈が……すみません。だいぶ、これで良くなり、ました」

 

 時と共にさーっと波が引くように眩暈が薄れていく。

 なんだったんださっきの。

 

 血相を変えた灰原さんにベッドに案内されつつ、私は疑問符を飛ばしまくったのだった。

 

 

 

 

 

 さて、その二日後。

 

 西多摩市のツインタワービルのオープン記念パーティが開かれる。

 先週の出会を縁にして、社長の常盤氏は私たちの分の招待状も用意してくれたらしい。

 少年探偵団もそこに出席するのだと、みんなワクワクテカテカになっている。

 

 まあ、私は辞退させてもらった。

 万が一ジンに見られたら、本気で阿笠博士が消されかねないからな。

 あのバーボンの弱みがうろついてた、とかなんとか言って攫おうとされたら非常に困る。

 体調がすぐれないと言って私は家でお留守番である。

 

 ちなみに、体調がすぐれないのは本当のことだ。

 あの眩暈が起きてから、なんだかずっと熱っぽいんだよな。

 阿笠博士が心配して休んでくれようとしていたが、それは私が断った。

 

 お前、こういう時を逃したら灰原さんの目を盗んで肉をしこたま食べることはできんのやぞ!

 バイキングの利点である。

 うなぎ小僧もうな重のコーナーがないか探す予定とのこと。

 

 パーティ用のややカチッとした服に身を包み、出発前に阿笠邸にやってきたコナン君に私は声をかけた。

 まだ頭がくらくらするが、普通に動けるからな。

 

「すみません、少しいいですか?」

「どうした空」

「嫌な予感がしたものですから。あの数日前の原専務殺害の件についてです」

 

 コナン君は私の言葉に、瞬時に瞳に鋭い光を灯した。

 そしてそのまま低い声で聞き直す。

 

「あれはジンの仕業って話だったよな」

「はい。とすると、その目的が疑問でして」

「どういう意味だ」

「プログラム関係は近年組織が力を入れていた分野です。そのための優秀な人員を集めていました。原専務も、そうして引き入れられたメンバーの一人だったのかもしれません」

「……それで、裏切りをしようとして殺されたと?」

「原専務の腕前如何ですが、その可能性はあります。そして、ただ人を殺すだけで良かった前時代とは異なり、今はあらゆるデータがネット上に保管されています」

 

 たとえば、会社のサーバーもそのうちの一つでしょう。

 そのように伝えると、コナン君の目が大きく見開かれた。

 

「まさか、この会社のデータサーバーも諸共消すって話か!?」

「原専務がどこまで掴んでいたかによります。専務の立場だと、安全のためにここにバックアップをとっていてもおかしくない。組織もそう考えるでしょうね」

「………ありがとな空。気をつける。お前も体をしっかり休めておいてくれ」

「はい。ご武運を」

 

 出発する彼らのお見送りに出て、私はにこりと手をふっまた。

 

 コナン君達ならば、私がいなくとも劇場版の一つや二つなんとかなるだろう。

 というより、私が変なノイズになって脱出できなかったら大事だしな。

 

「では、僕は奥で寝ていますので」

「ああ、悪いな空。無理せず休んでろよ」

「美味しい料理が出たら覚えておいてあとで教えてください。再現して出しますので」

「ははは、お前ほんと凝り性だよな」

 

 彼らを見送ってから、私は背を向けた。

 

 さて、今晩は夕飯は作らなくていいから、自分の分だけチンして温めて、さっさと寝ようかね。

 

 そのように思ってキッチンに向かおうとした瞬間。

 またしてもくらくらとした強烈なめまいに襲われてしまう。

 

 本格的にまずそうだ。

 風邪ならすぐにシャットダウンするのだが、どうにも違った雰囲気た。

 まだ稼働限界は早いと思ったか、寿命だとしたらちょっと未練。

 

 うおおおまだ原作半ばで死にたくねぇ!!!

 

 ベッドまで這って行こうとするも、途中で力尽きて床にへたり込んでしまう。

 

 背中が疼く。

 体が熱く、これ以上動きたくないと全身が悲鳴を上げている。

 

 こういう時は辞世の句を読むか?

 あぁあむぴ、……そんなんすぐには思いつかんわい。

 そのままあっけなく意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 気づいたら天国へのカウントダウンが終わっていたらしい。

 

 時計からしてあれから一日経っているようだ。

 まだすごく熱っぽく、意識は朦朧としている。

 

 ベッドに寝かされた私の体は節々が痛く、みじろぎのたびに呻いてしまう。

 その声で灰原さんとコナン君が気づいたらしい。

 慌てて二人が駆け寄ってきた。

 阿笠博士も一緒だ。

 

「目を覚ましたか空!?」

「………は、い。すみません。僕ももう少し動けると思っていたのですが、想定より早く限界が。ご心配をおかけしてすみません」

「いい、お前は寝ててくれ」

 

 灰原さんが私の頭をそっと撫でて「無理しないで、寝てていいのよ」と慈しむように柔らかい声を出した。

 

 背中が熱くて熱くて、溶け出してしまいそうだ。

 まさかついに翼の実装か!?とか変なこと思いつつ、どうも違いそうでなんとなくむず痒い。

 

 耳を限界まで澄ませて、少し離れたところでボソボソと会話する二人の言葉を聞き取ることに集中する。

 だから患者の容体は患者本人に教えんかい!

 

「灰原。三段階目って、具体的にどうなることなんだよ」

「私もデータから類推しただけで詳しいことは分かっていないわ。生物兵器のデータはあまりにもあらゆる要素がごちゃ混ぜで、どこがどう影響してるかさっぱりだもの」

 

 やはり私のことを話しているらしい。

 朦朧とする意識でなんとか聞き耳を立てることとする。

 

「ようは蝶の羽化に似てるわ。一旦蛹になって、体の各種機能を作り変えるの。これはそのための半年ほどの中間段階に違いないわ」

「そんなの……いや、でもあいつの寿命は」

 

 灰原さんが黙り込み、陰鬱な声で「………そうよ」と頷いた。

 

「羽化する見込みのない蛹が、そのまま朽ちる公算が高い。ただ死期を早めるだけのものよ」

「…そん、なの」

 

 コナン君が絶句して、立ち尽くしている。

 

 話を聞いて私も理解が追いついた。

 そもそも、このクローン体の成長段階は四段階ある。

 第一段階は寄生虫に似た小さなもので、第二段階は今の私の幼児の姿。

 第三段階は蛹、第四段階でようやく成体になる。

 

 しかし蛹では口もきけないし、魂たる私が暇で暇でしょうがない。

 あと寿命の無駄遣い。

 なんか魂パワーを送っていい感じにできないだろうか。

 うおおお唸れ私の転生者パワー!みよんみよん。

 

 もぞもぞと体を無意味に動かしていると、背中がひりついた感覚が這う。

 多分これ、背中から体を覆うように外殻の素が出るんじゃなかろうかと直感した。

 うつ伏せの方がいいかな、よいしょ。

 あと上半身裸になっておいて、布団もめくっておいた方がいいだろう。

 

 もぞもぞ動いていると、灰原さん達が「何してるの貴方!?」と駆け寄って来た。

 

「いえ、眠りの準備を。こうした方がいいような気がしまして」

「見せてちょうだい、……………っ!!」

「あと、水をください。飲んでおきたいです」

 

 灰原さんが追い詰められたような絶望的な表情で息を呑み、「今すぐ持ってくる!」と叫んでかけて行った。

 そんな急がんくても大丈夫やで。

 

 コナン君が灰原さんのそれと全く同じような、あまりにも苦しげな顔で私の手を掴む。

 

「大丈夫だ。お前は俺たちがきっとなんとかするから、心配しなくていい…!」

「はい。僕も頑張ります。なんならもう少し男前になって帰って来ましょう。だからそんな顔をしないでください」

 

 コナン君の頬を撫ぜて、私は微笑んだ。

 なんかこう、隠されし転生特典とか無いか探っとくんで。

 コナン君も原作を頑張っておくれやす。

 

 彼はゆるゆると息を吐いて、震える手で私を握り返して。

 

「ああ。………そうだな、空」

「できればオリジナルともう少し言葉を交わしたかったですが、仕方ありませんね」

「………」

 

 私の言葉に答えることなく。

 彼は、胸いっぱいの愛情を込めて抱きしめてくれたのだった。

 

 

 

「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ空、いい夢を」

 

 

 

 

 

 

 背中から生えた蝶の如き透明な皮膜が、体を覆い。

 まるで揺蕩うようにその体が光の中に揺らめいている。

 揺籃の時だ。

 

 ベッドごと地下室に運ばれたその体を、灰原は今日も必死になって調べている。

 





・あむぴ
風見さんに死ぬほどせっつかれていやいや阿笠邸に行くことにした。
阿笠邸の扉を前に、いつまで経ってもチャイムを押す気になれない。
今更、何を話せっていうのか。

・コナン君&灰原さん
本当に今更何しに来たLvMAXの目。
単にタイミングが悪かった。
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