降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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高校生の話
起床


 

 パリパリと何かを破る感触がある。

 

 どこかやけに狭苦しいところから、体を起き上がらせる。

 だんだんと意識がはっきりしてくる。

 目を開ければ、やけに新鮮に感じる光が目に飛び込んできた。

 

「ここ、は………?」

 

 喉が掠れて、少しだけ嗄れた声が出た。

 狭い窓のない部屋だ。

 けれど天井にプロジェクターが投射され、爽やかな朝の空が映されていた。

 何か大掛かりな装置がいくつもあり、湿度と温度を常に一定に保たせているようだった。

 

 見下ろすと、どうやら私は何か透明な膜を破って出てきたらしい。

 背中に膜の名残のようなものが張り付いている

 

 粘性のある液体で濡れていて不愉快だ。

 大量の液体が溢れ、床を汚している。

 

 膜には観測機材が仕掛けてあったようだ。

 横にあった医療機器のようなものがビービーとアラームを鳴らし立てている。

 

 遠くで「哀君!哀君!!!」と阿笠博士の叫び声が聞こえた。

 扉に隔てられずいぶんと小さいはずの声が、ずいぶんと鮮明に耳に入る。

 階段を駆け下りる慌ただしい音。

 

 扉が勢いよく開かれ、「空君!!!」と血相を変えた二人が入ってきた。

 

 灰原さんの姿も阿笠博士の姿も変わりない。

 浦島太郎にならずにすんだようだ。

 いや、灰原さんたちアポトキシン4869の影響下にある人間は体が変化しないようだから確かなことは言えないが。

 

 私はやや小さくなってぺこりと挨拶した。

 どうもです。完全にあむぴの見た目になってしまったので別人感あるけど空です。

 

 こちらの姿を見て、灰原さんは目を見開いて絶句した。

 

「あの、僕は一体、どれくらい時間が経ちまし、……ではない!!全裸!!僕全裸です!!!」

「それは今更よ。気にすることはないわ」

「しますけど!?流石に羞恥心は捨てていません!せめて下を、下を隠す布をください!」

 

 私はなりふり構わず叫んだ。

 まずいですよこれは、本当に!

 うら若き乙女の前で全裸はあかんのよ、見た目はあむぴなんだぞ!?

 今更って蛹の間も見てたんかワレ!セクハラでしてよ!?

 

 私の焦りように灰原さんはくすくすと笑っている。何わろてんねん。

 憐れんだ阿笠博士がバスタオルを持ってきてくれたので、それで下半身を隠す。

 

 羞恥に縮こまってベッドに座ったが、素足がヒヤリとした床について身が引き締まる。

 

 改めて、そこで自らの声もずいぶん低いことに思い至った。

 間違いなく降谷零の声だ。

 なんとなく気恥ずかしくで、私は咳払いして仕切り直しの気配を出した。

 

「改めて、どの程度僕は寝ていましたか?」

「1ヶ月も寝てたわ。お寝坊さん」

「それは…子供達へのフォローもあったでしょう。ご迷惑をおかけしました。僕の状態の観察もしていてくださったみたいですし」

「いいわよ。国外に入院すると言っておいたし。貴方は、体に不調はないかしら」

「不調などはありません。体も軽いです。どうも少し……まだ未成熟なようですが」

 

 本来はこれで完全な成体になるはずだったのだと感覚で理解できた。

 だが期間が大幅に短かったからか、今の姿は高校生程度であった。

 

 原作を見逃したくなくて頑張って魂パワーで促成栽培したからな。

 うまく行ったようで何よりである。

 

 なんとも顔立ちが若いあむぴが金属製の機器の表面に映り込んでいる。

 どんな不具合があるかわからないが、ともかく、ひとまずの危機は脱出したというわけだ。

 

 ゆったりと灰原さんが近づいてくる。

 

 そして、私の体に乗り上げ、その頭を小さな体で優しく抱きしめた。

 柔らかな手つきがさらりと私の金の髪を撫でた。

 

 慈愛に満ちた声が落ちる。

 

「よく、頑張ったわね。戻ってきてくれてありがとう」

「灰原さんも、待っていてくださってありがとうございます。中々男前になったでしょう?」

「そうね。ずいぶんな色男だわ。惚れてしまいそう」

 

 震える声色は涙を含んで揺れている。

 細く小さな肩にそっと手を添える。今の私の手では、彼女の方がずいぶんと小さく見えた。

 

 抱えられたこの体勢では彼女の顔は見えない。

 でも、見る必要はない。

 

 私は彼女の小さな体を抱きしめ返した。

 両腕の中にすっぽりと収まるその体に、こんなに小さかったのか、と改めて感慨深くなる。

 

 背中に回った手がきつく私を抱きしめている。

 震えて震えて、泣いているのだろうか。

 

 ふと見ると、後ろで阿笠博士がズビズビのぐずぐずになっていた。

 私はクスクス笑って阿笠博士にも手を振った。

 

「博士、ただいま戻りました」

「うう、ううううう。空君、よかった、よかったわい…!」

「あと服が欲しいです。オシャレでかっこいいやつ」

「それよりまずは健康診断ね。それから採寸して、適当な服を買ってくるわ」

 

 それからは軽く採血等々だ。

 コナン君も到着したのか、片手にターボエンジン付きスケートボードを抱えて部屋に飛びこんできた。

 相当急いだのか、その額には玉の汗が浮かんでいる。

 

「空!!!」

「みんな早いですせめて僕が服を装備してから来て欲しかったです」

「んなこと言ってる場合か!お前体調は!?」

「万全です。力も強くなりました」

 

 力瘤を作って無事をアピール。

 半裸の肉体は生物兵器として鍛え抜かれた美しいものである。

 

 多分戦闘能力も上がってるんじゃないかと思われる。

 ふふふ、前の記録を更新してやるぞ。

 私はニッと笑ってピースを作る。悪童のようなイタズラな顔をしている気がする。

 

「言ったとおり、男前になって帰ってきたでしょう?」

「………ああ。そうだな。本当に男前だよ!」

 

 その言葉に、コナン君もようやっと笑ってくれたようだ。

 灰原さんが目を細めて警告する。

 

「油断は禁物よ。本来半年もかかるはずの第三段階が1ヶ月で終わってるのよ。どんな不調が隠れてるかわからないわ」

「そうだな。頼んだぜ灰原。頼れる主治医はお前だけだ」

「ええ。全力を尽くすわ」

 

 何やらシリアスなので、私はふうむと腕を組んで考え込んだ。

 

「ところで、そちらの組織関連のことは何か動きはありましたか」

「ベルモットには生存を偽装しておいた。それと、FBIとの協力体制も結べたんだ」

「それはそれは。流石コナン君。見事なお手前です」

 

 そこまで話したあたりで、ピンポーン、とこの家のチャイムが鳴り響いた。

 どうやら来客のようだ。

 

 「げっ、昴さんだ!」「あの生煮え男!また性懲りも無く!」などと塩対応を受けている。

 

 私が寝ている間に赤井秀一の死亡偽装が済んでいたらしい。

 ということは木馬荘は火災が起きたのか。

 安室さんが引っ越してくるのももうすぐということだ。

 

 あわあわとひとまず阿笠博士が送り込まれるのを尻目に、やや控え目に私は問いかけた。

 

「あの。オリジナルはどうしていますか?」

「…………」

 

 コナン君は少しだけ沈黙した。

 そして瞳を揺らして、何か思うことでもあるように頼りない声を出す。

 

「……あの人は本当にただの組織の人間なのか?」

「それはどういう、」

「なんでもない。あの人には空の経歴も含めて全て伝えてある。その上で、組織に報告はしないらしい」

「自分の恥だからか、それとも他に何か理由があるのか。わからないけど、油断しないことね」

 

 灰原さんがふんと鼻息荒く憤りをあらわにした。

 

「この無鉄砲を絵に描いたみたいな男が何もかも教えちゃったから、本当にびっくりしたわよ」

「うっせ。結果オーライだよ」

「オーライも何もないわよ!殺される可能性の方が高かったの分かってるのよね貴方!?」

 

 これには私も驚いた。

 コナン君は安室さんのことを単なる組織幹部だと考えていたはずだが。

 そんな人間に教えれば、口封じのために殺されることは間違いない。

 

 彼なりの理論で安室さんの無害さを確信していたのかもしれないが。

 それとも、なんらかの情報を掴んでNOCだと推理していたか。

 あるいは………私の最期の想いを汲んでくれたか。

 

 わからないがともかく情報が伝わって何よりである。

 

 ほっと安心すると、だんだんと己の今後についてが不安になってくるものだ。

 己の育ち切った体を見下ろし、私は困り果ててコナン君に助けを求めた。

 

「これ、どうしましょうね。ご近所付き合いとか子供達への対応とか。育ち過ぎましたよ明らかに。収穫時期を逃したきゅうり並みです」

「言い回し酷ぇよ。空の兄貴って言えばいいんじゃねーか」

「弟はどこ行ったんだよって話になりませんかそれ」

「じゃああれだ。すごく育った。子供は育つのが早いから」

「投げやりになるのはやめてください。工藤新一の家系図作りますよ」

「俺が雑な親戚設定持ち出すからって責めんなよ。わかったわかった。俺が悪かったから」

 

 いきりたつ私をコナンくんがどうどうと宥める。

 おらおらおら!工藤新一と怪盗キッドが親戚関係にあることを暴いてやるぞオラ!

 ガルルルル。

 

 灰原さんが「転校生、でどうかしら。遠方に住んでた親戚ということで」とポツリと漏らす。

 

「つまり?」

「高校生はどこに行っても通じる強い身分よ。学生証だけで身分証明にもなるわ」

「なるほど!帝丹かどこかに入学させるのか!ならひとまず怪しまれることはねーな!でも、耳と免疫の関係がネックか」

「羽化してどう体質が変化したかも不安ね。なんにせよチェックの期間は設けなきゃならないわ」

「入学に関しては父さんがある程度顔が利くから頼んでみることにすっか」

 

 なんか流れるように話が進んでいる。

 私、ついに華の高校生デビューをすることになったらしい。

 

 トゥンク、と謎にときめきつつ、私はまじめくさった顔で胸を張った、

 

「ふむ。遠距離恋愛で傷心中の蘭さんにそっと近づいて肩を抱き、愛を囁くわけですね」

「あ゛?その気がなくなるまで顔面変形させればいいって話か?」

「冗談です。虫がつかないよう陰ながら見張っておきます」

「この妖怪嫉妬男に蹴られないよう気をつけるのね。油断するとサッカーボールが飛んでくるわよ」

「心しておきます」

 

 子供時代も秒で鬼のような視線を貰ったのに、今は殺気すら混じりかねない迫力があったな。

 うむ、蘭ちゃんにはあまり近づかないようにしておこう。

 

 コナン君が少しだけくすっと笑って、私の背をバシバシ叩いた。

 そこには溢れんばかりの親愛が宿っている。

 

「お前とこれからも過ごせるようで良かったよ、本当に」

「僕も、貴方たちとの平穏な日々をまた過ごせそうで嬉しいです」

 

 つい、自然と笑顔になってしまう。

 こんな幸せな日々を続けたいと願う。

 

 背後で再びおいおいと号泣タイムに入った阿笠博士を添えて。

 私たちは、新たな出発となったのであった。

 





・鬱1ヶ月
阿笠邸がガチ鬱に包まれた1ヶ月。
クローンの繭のある地下には大型設備が運び込まれ、温度湿度の厳重な管理と、いつ彼が起きてもいいように朝昼夜に合わせたプロジェクターでの光量管理が行われていた。
横には折りたたみ椅子が置いてあって、夜は灰原が座って子守唄を歌っていたようだ。
目覚めた後クローンが風呂に入っている間に、灰原はガチ泣きした。

・コナン君
まめに阿笠邸に通って思い詰めすぎないよう声掛けをしてた。
バーボンにも連絡しねーとな。
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