降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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思い出の語らいと思慕の形

 

 午後。

 阿笠亭にやってきたのは、とんでもなく暗い顔の降谷零であった。

 

 お通夜かと見まごう鬱々とした気配で玄関に現れた時は、どこの幽鬼かとびっくりしたものだ。

 

 そして玄関先に立つ私を見て驚愕に目を見開いた。

 だがそれも一瞬のことで。

 またハイライト無しの瞳に戻って、「安室です」という平坦な声を発するのみだ。

 

 どうしたあむぴ、元気ないってレベルじゃないぞ。

 

 眠れていないのか、目の下に黒々とした隈が刻まれている。

 化粧による顔色の調整はNOCとしての嗜みなのだろう。

 隈をコンシーラーで隠している跡が見受けられる。

 あまりに限界すぎる。

 

 今すぐベッドに叩き込みたかったが、本人は平気なフリをしているので一応応接室に案内する。

 

 阿笠博士の同席は私が断った。

 潜入捜査官を前提とした話もしたいしな。

 

 ソファに座り、私は彼と初めて正式に向き合った。

 

「改めまして、阿笠空です。今は阿笠宙と名乗っています」

「ひ、ろ………」

「宇宙の宙と書いてヒロです。あなたの親友より名前を借り受けました」

 

 どうも反応が鈍く、そのまま安室さんは俯いてしまった。

 

 いや、それもそうか。

 若かりし頃の自分の姿で、死んだ親友の名前を名乗っているのだ。

 そりゃ罪を抉り出されたような気がして、かつての志がその裏切りを告発してきたような気がして冷静ではいられないだろう。

 

 意図せず少しばかり残酷な名前になってしまったようだ。

 だが今更変えられないし、申し訳ないが続投とさせてもらう。

 

「まず、僕の事情はどこまでご存知ですか?」

「……組織の、被験体であること。僕のクローンであること、僕の記憶を持つこと。故に僕がNOCであることを知っていることは、理解している」

 

 ぼんやりした口調だが、その知識は確かだった。

 事情は概ね知っていると見ていいだろう。

 NOCの事情にも触れたということは、私のメッセージ動画も見てくれたらしい。

 説明は全て省いてよさそうだ。

 

 私はまっすぐに彼と向かい合い、前置きなしで本音を口にした。

 

「会いたかったです、オリジナル。これほどまでに嬉しいことはありません」

 

 ついになんの蟠りもないあむぴとの邂逅することができたのだ。

 嬉しくて嬉しくて、つい笑顔になってしまう。

 

 これを求めて三千里、研究所から逃げ出してきた甲斐があったというものだ。

 繭に包まれた時はもう諦めようかと思ったこともあったが。

 頑張って魂パワーで促成栽培した甲斐があったものだ。

 

 私がニコニコのウハウハになっていると。

 何故か安室さんは逆にどんどん負のオーラを纏ってじっとりジメジメし始めた。

 

 そのまま俯いて、ぼんやりとした覇気のない声を出す。

 

「僕は、君にそんなふうに想われる資格はない」

 

 そうして出てきたのは、なんとも卑屈な言葉であった。

 そのままむずがるように首を振り、瞳を伏せて肩をこわばらせる。

 

「僕はいつも間に合わない。いつも後手に回る。君の信頼を裏切った。今回もそうだ。君の眠りに間に合わなかった」

「間が悪いだけでしょう。運の悪さは本人のせいではない」

「僕の選択の結果だ」

 

 しかも、なんだかとても頑なな態度だ。

 深い深い絶望と落胆、自己への失望が垣間見える。

 何をそんなに鬱屈としているのだろうか。

 

 私は鼻白んで腕を組んだ。

 

「なら、勝手に一方的に僕は慕いましょう。内心の自由というものがありますから、迷惑に思われようが僕は自分の意思で慕っているに過ぎない」

「………それは」

 

 瞳が揺れている。

 なんでこうも卑屈になっているか全然わからない。

 ともかく、推しを推すことにまで干渉される謂れはない。

 偶像なんだからいつも元気でいてもらわないとこっちが困る。

 身勝手という勿れ、ファンというのはそういうものだ。

 

 私はキッパリと宣言した。

 

「失敗など関係ない。欠点など関係ない。好意とは身勝手なもの。あなたもそれはよくご存知のはず」

「なんで、そんな、僕にそんな価値はないのに、」

「貴方が貴方だからでは、いけませんか」

 

 心弾ませるその精神的造形、紙面上での活躍、影のある設定。

 理由なんてない。

 ただかっこいいから、好みだから、惹かれたから好きなだけ。

 刷り込みに似た絶対性がそこにある。

 

 私は柔らかく笑って彼に親愛の情を向けた。

 

「僕は貴方に憧れて、警察官になりたいと思ったんですよ」

「───────、」

 

 にっこり、秘密を打ち明けるように囁いた。

 

 ミーハーな動機ですまん。

 でもコナン作中にも危ない婦警物語にハマって警官になった人もいるし、憧れなんてそんなもんだろうよ。

 

 でも現実には身分がしっかりしないから警官にはなれないだろう。

 悲しみである。

 

 安室さんは俯き、肩を震わせて右手で顔を隠した。

 恥ずかしいのかもしれない……と、おもったら。

 ぐずっと鼻をすする音が若干聞こえた。

 なんで泣いてる!?!?

 

 あわわわわわ、と私は動揺して右往左往した。

 安室さんは涙を拭い、潤む瞳で私を見ている。

 

 嬉しいようなむず痒いような、なんとも言い難い表情で口を開く。

 

「これから。君の、身分を作る予定だ。何をするにも戸籍と住民票は必要になるだろうから」

「!!いいのですか、僕は人間ですらない…」

「いいんだ。人間に弄ばれた君には、その権利がある」

 

 力強い言葉だ。

 どうやら安室さんの元気も戻ってきたようだ。

 

 私は顔を綻ばせて頷いた。

 

「嬉しいです。オリジナルからの贈り物と思って大切にします」

「こんなの、ただの最低限の償いでしかない。君は何か欲しいものは無いのか」

「これ以上を願うの不躾な気がしますが…あえていうのなら、しばらくこのまま取り留めのない話をさせてください」

 

 握手会時間延長申し込みだ。

 潜入捜査官として後ろも詰まってるのに、これはとんでもなく不躾な願いに違いない。

 でも強欲なのでもっと推しと喋りたいファン心理である。

 厄介ファンって言うなし。スタッフにまだ退室を促されてないから大丈夫。

 

 私が推しとの会話にニコニコとしていると、安室さんは何故か壮絶な表情をした。

 「そんなことで、いいのなら」と再び潤む瞳を右手で隠す。

 なんか涙脆くないかあむぴ。

 

 ともかく、そんなふうに私たちはしばし語らった。

 時に思い出を振り返り。

 時に記憶を懐かしむように。

 

 しばし同じ時を共有したのであった。

 





・あむぴ
感情のジェットコースター。
純粋な思慕を向けられて、憧れていると宣言されて、原初の決意を思い出した形。
この子の想いにふさわしい己であらねばと誓いを新たにした。

・雑談クローン
推しと雑談して有頂天。
「そういえば空というのも君が自らつけた名前なのか?」
「はい。空文字すなわちNullの意味を込めました。ゼロと似て非なる概念、あり得ざるものと」
「…………」
何故また鬱々としてしまうのか。
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