沖矢さんの推理力に興味を惹かれた女子高生組により、工藤新一君と推理勝負させようという流れになったなり。
おそらく基本的な推理速度はコナン君の方が僅かに上か。
総合力は赤井さんの方が遥かに上だが、推理の差を素早く汲み取った赤井さんは素早く足となることを選ぶだろう。
自身がずば抜けて優れているからこそ、自身が認めた存在へのリスペクトが強いのが赤井さんだ。
人を頼ることに躊躇いがない。
……いやまぁ、自分より上の人しか頼らないから単独プレイの迷惑一匹狼になるんだが。
ともかく、出されたお題の事件の方だ。
それはここ数日世間を騒がせている「紙飛行機野郎」の件についてであった。
ここ数日、何日も何日も東都の周辺に変な模様のついた大量の紙飛行機が飛ばされている。
それが悪戯なのか何か目的があるのか、推理してほしいという内容だ。
「で、迷惑野郎が何を考えてこんな変な紙飛行機を飛ばしてるのか分かる?」
「なるほど、興味深い。拝見します」
園子ちゃんの自宅に落ちてたという紙飛行機を受け取った瞬間、沖矢さんは驚いた様子を見せた。
意外とただ事ではなさそうだ。
私も興味を持って紙飛行機を覗き込み、思わず目を見開く。
これはこれは。流石米花町。
「……悪戯だとしたらタチが悪いし、悪戯でなかったら早く警察に連絡した方が良さそうだね」
「ええ。とはいえ何日も飛ばしているとの話なので、別の飛行機を確認してからでも遅くはないかと」
私の言葉に、沖矢さんが同意しつつ慎重な姿勢を見せた。
「どゆこと?」とたくさん疑問符を見せる園子ちゃんに、私は丁寧に説明した。
「モールス信号だよ。この紙飛行機、開くと欧文符号でSOSと書かれてる。誰かからの救難信号だ」
「…うそ!?本当にただの悪戯じゃなかったの!?」
私は沖矢さんから紙飛行機を受け取って、広げてそれを検分した。
「一昨日の朝の分って言ってたね。テレビでも注目してたし、もしかしたらテレビ関係者で気づいた人もいたかもしれない。警察も動きかねているのかも」
「そうですね。このモールス信号だけではなんとも言い難い」
「ネットで調べるに、広範囲ではあるものの発見箇所はこの近辺に集中しているみたいだ。ビルの高層階などからと想定するのが早いかな。ともかく、別の紙飛行機を手に入れるのが早いと思う」
「同感です。ネットを探すとして…」
話がポンポン進んで心地いい。
まるで等速で走って、完璧なタイミングでパスを決めているようだ。
ほへぇ、と女子高生二人が感心したような様子を見せている。
ふむ、と少し考えてからイタズラに口角を上げて沖矢さんが問いかける。
「そういえば、この家の持ち主である新一君も探偵でしたね。貴方と知り合いということは、声をかけてみてはいかがでしょう」
「……へっ!?いや、新一は最近家には帰ってきてなくて」
「そうなんですか。彼も随分とミステリアスな方のようですが。ここには彼の住んでいた形跡が何もなく、まるでごそっと持ち去ったような跡が見えます」
「何かご存知ですか?」とメガネを光らせる沖矢さんに、蘭さんは大いに慄いたようだった。
そのまま「そういえば来る前に寄ったウェルカムバーガーにも紙飛行機がありました!とってきます!」と戦略的撤退を決める。
だだだっと慌ただしく彼女らは部屋を出て行った。
部屋に残されたのは私と沖矢さんだけだ。
沖矢さんが顎に手を当てて、なんだか訝しげな顔をして考え込んだ。
「どうも警戒されているようだな」
「言い方が悪いですよ。工藤君のことを探ろうとしているのが丸わかりでしたから」
「代わりに君が答えてくれても良いんだが?」
「お断りします。他人のプライバシーを吹聴するのは無礼ですので」
私が断ると、くつくつと笑って沖矢さんは書斎の山のような本を見上げた。
まるで、それが登るべき山と見た登山家のような視線だった。
「知識欲は強い方なんだ。秘密があれば探りたくなるのが人のサガ。熱病のようなものだ」
「厄介な病ですね。死に至る難病です」
「そうとも。だからこそ向き合い甲斐があるというものだ」
手元の紙飛行機を弄び、沖矢さんが私に問いかける。
「それより、君は工藤新一と知り合いだったのか。研究所を出てすぐにここに向かった君が、いつ彼と知り合ったんだ?」
「そういうところですよ。一般人はそんなふうに設定のアラをついてきたりしません」
「……難しいな。もう大学院生探偵とかじゃダメだろうか」
「面倒臭がらないでください。身の回りの探偵が飽和してしまいます」
暗に「教えるつもりはない」と答えれば、化けの皮が剥がれかけてる沖矢さんは心底おもしろそうにくつくつ笑った。
もうこれ6割赤井さんなんだよな。
しばらくすると、昨日の分の紙飛行機を持って蘭ちゃん達が帰ってきた。
書いてあるのはアンテナのマーク。
電波が0、というメッセージだ。
おそらくは誘拐された造船会社社長が、監禁されたまま犯人の目を盗んでメッセージを送っているのだろうと想像がついた。
元船乗りならモールス符号を知っていてもおかしくはない。
誘拐犯が自殺したことを知らず、何日も放って置かれているとしたら。
もう体力は限界であるだろう。
今日の分の飛行機は奇妙な折り目のついた紙飛行機だ。
私は原作知識からそれをようやく思い出し、今日の分の折り紙を見て思わずつぶやいた。
「米花………イカだ」
「!!!なるほど、そういうことか!」
私のたった一言だけで、沖矢さんは思考がたどり着いたらしい。
紙飛行機をイカ型に折り直し、そこに和文符号で書かれた「べ」の文字を加える。
すなわちベイカ。米花である。
沖矢さんがイカ型に破いた手帳を折り、感心したように私に声をかけた。
「よく一瞬で考えつきましたね。私もまだ手がかりがつかめていない状況で、折ることもなく一瞬で」
「本当に偶然ですよ。再現しようと思ってもできません」
「謙遜なさらずともいいでしょう」
沖矢さんの素直な賞賛に、違法な原作知識カンニングで私は恥いった。
違うんだ…本当にさっきのは違うんだ……。
うっかり口が、この口が悪い。うむ。
蘭ちゃんが目を見開いてほわっとぼんやり口を開いた。
「新一みたい……」
「!?!?し、新一君もすごいんだね…?」
「そうね、あの探偵マニアそっくりだったわ。阿笠君本当に優秀じゃない」
単純に工藤君のことを思っているのはわかっているのだが、私を見て頬を染めるのはコナン君に殺人サッカーボールを飛ばされるのでやめてほしいところである。
なんか死角から殺気が飛んできそうで怖くて仕方がない。
しばらくするとコナン君からも連絡が来たらしい。
結論は同じ。
暗号は米花を示し、高層建築からのメッセージである可能性が高い。
とすると、1番当たるべきは米花タワーマンション。
蘭ちゃんが現場に急行する中、私は再び沖矢さんと棒立ちタイムに入った。
暇なのでと昴さんが紅茶を用意してくれたので、私も一緒に運ぶこととする。
部屋の外で警察に電話する園子ちゃんを見ながら、私はほうと紅茶を飲んで一息ついた。
現場は彼らに任せておけばよかろうよ。
ああ、なんだか奥歯がイライラする。
背筋がザワザワして、暴れたい、肉を引き裂きたいと本能が強く訴えている。
でも、こんな穏やかな日々に獣は必要ないので見ないふりをする。
沖矢さんがヒソヒソと私に声をかけた。
「どうだ、将来はビュロウで仕事をしないか。我が国なら、多少の背景は隠し通せる国力がある」
「ふざけろFBI!っと失礼。オリジナルの言葉が飛び出てしまいました」
「かまわんさ。安室君はいつも楽しい男だな。クローンにまで敵意を仕込んでいるとは」
「本能で嫌われてるって面白すぎませんか。もう全身イライラしてきますもん」
「不思議だな。変装しててもダメということは、匂いとかフェロモンとかだろうか」
警報フェロモンでいきりたつスズメバチあむぴ概念。
碌でもない発想に私はブッと思わず吹き出した。
この男は我が道をいきすぎるんだよなぁ。
その後、無事に要救助者は保護されたらしい。
なんでも蘭ちゃんが現場に突撃。焦った工藤君が電話越しに救急隊員や警察に怒鳴り散らしていたようだ。
工藤君の言葉が要領を得なくなるほど焦るとは、流石蘭ちゃんやりおるわ。
コナン君はブスッとして明後日の方向をむいているので、私はニヨニヨしてその横顔にささやいた。
「コナン君、聞きましたよ。誰でも分かるレベルで取り乱したとか。ビッグラブですね」
「うっせ。オメー大きくなって性格悪くなったか」
「オリジナルに似たかもしれません」
「バーボンのせいにすんな。聞いたぞ、お前バーボンにコマンド使わせてバーボン泣かせたんだろ」
「なんでその悪評みんな知ってるんですか。涙目でしたがオリジナルは泣いてませんでしたよ」
「組織幹部泣かせんなよお前。すごい長文謝罪メッセージ来たぞ俺宛で」
「それはすみませんでした」
そんな気にしてたのか安室さん。私が騙しただけなのに。
すまんな……またコマンド頼むぜあむぴよ!
そのように懲りずにうむうむ頷いて、本日の騒動は過ぎて行ったのであった。
・あむぴ
コマンドでトラウマになった。
たったの一言で自由意志すら奪って人形にできる、脳にチップを埋め込んだ非道な実験の被害者。
それが目の前の子供なのだと気付いてSAN値チェック。
守らなきゃ、どうやって、自分が守る資格なんて、でも。ぐるぐる。