降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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紺碧の棺に眠る②

 

 目が覚めると夕方だった。

 

 私は端の部屋で寝ていたのだが、みんなは私を慮って二つ隣の部屋に集まっているようだ。

 一旦子供達は宝探しから帰ってきたのか、わあわあと声が漏れ聞こえてくる。

 

 宝探しマップはかなり進んでいるようだ。

 次の暗号を前に子供達の悩ましい声が響いた。

 

 そのあたりでガラリと扉が開き、コナン君が入ってきた。

 コナン君は私が起き上がっていることに気づき、穏やかに微笑んだ。

 

「よお、調子はどうだ?」

「だいぶ調子も良くなりました。ただ懸念が少し」

「なんだ?」

「本能を抑えるのが、限界に近くなってきているようです」

 

 夢を見ているうちに私もようやく理解した。

 この体は血肉を欲している。本能で殺戮を望んでいるのだ。

 それは限界まで膨らんで私を圧迫し、私の妙な寝不足につながっていた。

 

 コナン君の顔色がさっと悪くなる。

 私は言葉を続けた。

 

「言いようのない敵意が膨れ上がっています。細かく暴れて発散してはいましたが、成体となって本能が強くなった影響でしょう」

「…………」

「眠りに落ちる前後など意識が緩むときに、強く本能が現れます」

「さっき起きたときにうずくまってたのがそれか?」

 

 コナン君の問いかけに、私は小さく頷いた。

 

「はい。以前から兆候のようなものは感じていましたが、先ほど初めて明確に人への害意を抱きました。危険かと」

「……、…………」

 

 コナン君の瞳が揺れている。

 

 別に現状、私の意思を突破するほどのものでもない。

 眠りに落ちる寸前の私ですら抵抗できたものだ。

 私の体力がこの半分になったところで弾ける程度でしかない。

 

 だが、今後何らかの事故で私が意識を失ったとき、大変な惨事を引き起こしかねない可能性がある。

 

 幼生のスペックと合わせて、私と言う生物兵器は間違いなく街に悲劇をもたらしうる。

 降谷零としての頭脳が冷静に「処分するべきだ」と判断を下しているのがその証拠だ。

 

 私もそれと同意見だ。

 モンスター系パニックホラー映画の主役になるくらいなら早めに次の転生をしたい。

 原作を追いきれないのは明確な未練だが、流石に怪物になる気はない。

 

「ですので、なるべくなら薬剤耐性が付かないうちに処理をお願いしたいのですが──」

「宙!!!」

 

 がっと肩を掴まれて、私は揺さぶられた。

 

「俺たちが何とかする!灰原も、そのために頑張ってる!お前が諦める必要なんてねぇんだ!!」

「……っ、コナン君」

「いいか、ぜってー勝手な真似はすんなよ」

「はい。あなたがそう言うのであれば」

 

 何が琴線に引っかかったか知らないが、怒られが発生したようだ。

 

 いや、そうか。これは自殺の話でもあるのだから、彼が気にするのも当然か。

 転生者たる身としては次の旅ぐらいの気持ちだったが。

 魂の直感として次があることが理解できたが、普通はそんなことあるわけないしな。

 

 少し無神経すぎたかもしれない。

 反省して私は頭を下げた。

 

 コナン君が私の肩を掴んだまま、俯いて目を伏せる。

 沈鬱な空気が部屋を満たしている。

 

「なあ、我慢するのは辛いか」

「飢えに似ていますが、いくら空腹といっても店先に並んだ食品に貪りつこうとは思いませんよ。怖いのは、寝起きにお菓子と見間違って隣人の喉元に食いつくことです」

「…………そうだな。お前だって、身近な人を傷つけたくないよな」

 

 私の発言で余計に暗くなってしまったようだ。

 別に私がしっかりしてれば早々ない事なので構わないんだけどな。

 

 コナン君は布団の上に座ったままの私の頭をわしゃわしゃして、儚げに微笑んだ。

 私はその感触を享受する。

 コナン君の撫で方も優しさがあって心地いいんだよな。

 

 コナン君が撫でながら静かに言葉を落とす。

 

「お前は頑張ってるよ。腹が減ってフラフラになってもまだ、人に食いつこうとはしないんだから」

「ありがとうございます。あなた達の親愛に相応しいものでいてみせます。害悪として生まれ、兵器として望まれた上で、何者も傷つけずに身近な人を守りましょう」

「……お前ならそれができる。俺たちは、お前が害悪なんかじゃないって知っているからな」

 

 コナン君が力強く断言する。

 

 なんかすごく大袈裟な言い回しになってしまったため、ちょっと小っ恥ずかしい気持ちである。

 だってコナン君が悲壮感増し増しの顔をしていたから!

 

 さて、夕飯は豪勢な海鮮料理だ。

 漁で獲れたてのちょっと珍しい魚が出たり、実に美味しい品々だった。

 みんな予想外の当たり宿に大満足であった。

 

 その後で多少海岸を散歩しにいったのだが、そこは鳴き砂があって子供達も大満足だった。

 ボロボロの船も停泊し、そこにお宝探しの仕掛けもあった。

 子供達は実に嬉しそうで、この旅行に来て良かったとそれだけで思う。

 

 帰る段階になって、私は皆に声をかけた。

 

「僕は少し夜風にあたってから帰ります。少しここにいたい気分なんです」

「そう?体調悪かったみたいだし、無理しないでね」

「はい。すぐ戻りますから」

 

 蘭ちゃんの心配の声を受けつつ、私は大丈夫なことを示すように微笑んだ。

 この美しい夜空の海をもう少し見ていたい気持ちになったのだ。

 

 去り行く彼らを最後まで見送って、私は海岸をゆっくりと歩いた。

 鳴き砂がキュッ、キュッ、と音を立てる。

 

 人間を引き裂け、殺せ、子を増やして蹂躙しろと本能が叫ぶ。

 これを鎮める方法が、今のところ一つだけある。

 

 現在魂で表面上肉体を操っているだけの状態を、完全に結合するのだ。

 つまり完全転生。

 でも魂が肉体に張り付くから、出ていくときとても痛いんだよな。

 シール剥がすみたいにベリベリなる。

 

 憂鬱にため息をつく。

 もう腹を括って肉体に固着するしか───。

 

 

「よお、生物兵器君。海を見て黄昏れるたぁ中々わかってんじゃないの」

「!?!?!?」

 

 

 となりからずい、と覗き込まれ、私は仰天してジブリのように全身の毛を逆立てた。

 周囲は鳴き砂なのに音はおろか気配すらしなかったぞ!?

 サル顔のおじさんの唐突な登場に、私は思わず声を上げていた。

 

「へ………ルパン三世?本物?」

「そのとーり。俺がルパーン三世ですとも。ここ数日君のこと見てました。知ってた?」

「全然気づきませんでした。え、本当に、僕は鼻も耳も凄くいいんですよ?」

「俺様にかかればこのくらいお茶の子さいさいってもんよ、にししし」

 

 ルパン三世は忍び笑いをした。

 とんでもねーな、私相手に気配のケの字すら感じさせないなんて。

 

 ひとしきり笑った後、ルパンは単刀直入に私に銃口を向けた。

 

「というわけで、一丁死んでくれねーか?」

「珍しいですね。公共の利益で動くタチではないでしょうに」

「ありゃりゃ。意外と理解してんのね」

 

 ルパンは正義の味方ではない。

 己が良いと信じたことを成す、混沌にして善のお方だ。

 それが独断で世のため人のため生物兵器を始末するというのはちょっと不思議な感覚がする。

 

 ポリポリと頭をかき、ルパンは銃を下ろした。

 

「俺も多少の因縁があったから調べただけだけどな。でも、こういうこと言われる可能性十分にあるんだぜ。例えば、お前の元になった人物とかにな」

「オリジナルですか?」

 

 私はそれは考えてなかったので、きょとんと目を見開いた。

 そりゃ考えればそうに決まってる。

 日本のために、こんな危険な兵器を始末するというのであればこれ以上自然なことはない。

 

 私はしばし考え込んだ後、うむうむと頷いた。

 

「それは……もしそうならば僕に否やはありません。オリジナルの選択に従いましょう」

「いやそういうとこなんだよなぁ。俺がわざわざ話しかけてんの。さっき偽小学生に言われたこと忘れたのか?」

 

 ルパンがため息をついた。

 全くわかってないやつの相手をしているような顔だ。

 失礼なルパン三世め。だったらどうせい言うねん。

 

「あのね、四歳のおこちゃまには分かんねーかもしれねぇけどもよ。殺さなきゃなんねぇけど殺したくないってことはあんの。わかる?」

「……?ですがオリジナルは殺害を選択するのでしょう。ならばそれは正しい」

「人の心!!!!」

 

 はあーーー、と特大のため息をつかれてしまった。

 というか私が四歳であるってことまで知っているらしい。

 どこまで知ってんだこの人。なんで知ってんだ、まさか阿笠邸の地下ラボに入ってないよな。

 

 ルパンはじろっと私を睨みつけた。

 

「お前、泥棒さんに興味ある?」

「怪盗には憧れます。ピカレスクロマンは素敵ですね」

「OKOK。どうしようもなくなったら俺らが匿ってそれでもダメなら看取ってやるよ。袖触り合うも多生の縁ってな」

「なんと」

 

 あまりにも太っ腹だ。

 私の存在は彼らの重荷にしかならないというのに。

 というか、そんなことしてもらう縁が私にはない。

 

 私はルパンを見て疑問を口にした。

 

「何故そこまでしてくれるんですか。あなた方とは縁もゆかりもないでしょう。泥棒とは慈善活動家ではないはずだ」

「多少の因縁はあるんでね。本当は野放しの生物兵器の様子を確認しようとしただけなんだけどな。でもこれまで見てきて、俺たちがそうしたいと思った。そんだけだ」

「なるほど」

 

 ルパン三世がそうしたいと思ったなら、それは正義だろう。

 

 私はむむむと唸って首を捻った。

 

「………あなたがそこまで言うほど、私の今の状況って悪いですか?」

「オメーが受け身すぎるだけなんだよなぁ」

「そんな。僕は親しい人の望むことをしたいだけなのに。世間は難しすぎます」

「人の世ってそういうもんなの。お子ちゃまには理解が難しいか?」

 

 カラカラと笑うルパンに、私もつられて少しだけ笑ったのだった。

 

 これは夜の、こっそりひと時の邂逅である。

 





・ルパン三世
別に思うところは何もなかった。単にマモーの研究の欠片を見に来ただけ。
でもぐるぐる悩む病み公安、鬼子母神研究者ママ、信じて最善を尽くす光の探偵パパ、毎晩不安で爆食いするおじいちゃんを観察して見てらんなくなった。
あーもー!泥棒おじさんがなんとかしてやりますとも!

・次元大介
いやどう考えても厄ネタだろやめとけよ…。
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