降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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本音でない話

 

 灰原哀はゆるゆると息を吐いた。

 

 鈴木園子に連れられてパーティに出席するのはいつものことだ。

 子供達はその常にない空気に大喜びするし、自分としてもそこまで苦ではない。

 一緒に参加した毛利探偵が、いかにも腹に一物抱えてそうな連中と知り合いになるのも慣れたものだ。

 

 問題は、そうしてパーティの中程になると、その連中の一人が遺体で発見されることだが。

 

 室内は悲鳴と、慌ただしい足音であっという間にいっぱいになった。

 

 素早く駆けつけた警視庁捜査一課の面々が規制線を張っている。

 灰原はいつも通りに子供達を連れて部屋の端に退避した。

 

 あの推理オタクと違い、灰原はことがやり過ごせればそれで良い。

 「捜査開始です!」「おー!」と盛り上がる子供達を一喝して、灰原は阿笠宙へと声をかけた。

 

「散々なことに巻き込まれたわね。大丈夫?」

「血の匂いでやや本能が沸き立ちますが、このぐらいなら。しかし照明が落ちた暗闇の中での殺人ですか。困ります、僕には見えてるのに」

「やっぱりそうよね。あ、江戸川君が呼んでるわよ。たぶん事情聴取ね」

「行ってきます」

 

 心底困った様子で眉を下げ、阿笠宙はビニールテープを跨いで現場へと駆けていく。

 人が死んだとして、彼の表情はいつだって淡く平坦だ。

 人並みに冗談も言うし優しく穏やかだが、どこか浮世離れした空気を持つ子であった。

 

 灰原はそれを俯いて送り出す。

 

 彼の本能は、彼の言葉による表現を遥かに超えて強い。

 あれから脳波を精密に測る設備を整えて調査した結果から分かったことだ。

 

 おおよそ我を失ってもなんらおかしくない、薬物じみた反応が常時、絶え間なく彼の身を襲っている。

 今血を前に、彼は気が狂わんばかりの衝動と戦っているはずだ。

 それを意思のみで耐えて、彼はいつもと同じように笑うのだ。

 いくら慣れていると言っても、驚嘆すべき自制心と言って良いはずだろう。

 

 未だ彼は人を襲ったことがない。

 寝起きでも、高校のレクリエーション中で友と語り合う時も。

 それは検査の記録を知る灰原には信じられないほどのことだ。

 

 コナンにはすでに情報を共有している。

 

 あの神海島での一件は、本当に仕方がなかった。

 海中での幼生の放出という、一歩間違えばパンデミックの連鎖を引き起こしかねないことではあったが。

 人を感染させたく無い彼のせめてもの抵抗と思えば、彼はよくやったことだろう。

 

 その後のサメをその場で殺さず利用して使い捨てたのは。

 あるいは灰原哀の実験の真似だったのかもしれない。

 

 それを灰原が責める事はできなかった。

 

 阿笠博士がそっと、考え込む灰原の肩に手を当てる。

 

「哀君、哀君」

「………大丈夫よ。少し考え事をしてただけ」

「君のせいではない。新一もそう言っておったじゃろう」

 

 気遣わしげな視線が灰原を捉えている。

 

 灰原の行っていた実験を知ったコナンは、絶句して顔色を青くした。

 もうすでに阿笠宙の「子供」は15体以上が焼却炉にくべられた。

 おもちゃ用にツギハギにされて遊び尽くされた被験体に子供を作らせて。

 その子を被験体自らの手で殺させて。

 そうして出た死体を、焼却炉に詰めて黒々とした煙に変えていたのだから。

 

 阿笠宙はその非道に何も気がついていないようだった。

 ただ「灰原哀の手伝いをできた」と嬉しそうにすり寄る、猫のようであった。

 

 コナンは雨の中灰原にはこう声をかけた。

 「お前一人に任せて悪かった。お前は悪くないし、悪いとするなら無責任に押し付けた俺の方だ」と。

 そのように言うのみだった。

 

 お前一人に背負わせた。

 

 彼はそう言って灰原に頭を下げた。

 でも、でも。

 こんなことを行うと決めたのは灰原自身だったのに。

 

 

 考えに耽っている間に、随分と推理は進んでいたらしい。

 コナンが慎重に後ろへ回って、毛利探偵を麻酔銃で狙おうとしていた。

 子供達は完全に暇になって、今は隣の部屋でトランプをしている。

 

 うまく毛利探偵を狙える位置にコナンが回り込んだ。

 いつも通りの推理ショーが始まる、その時であった。

 

 タバコの箱を落としてしゃがみ込んだ容疑者の一人の方が、隣にいた阿笠宙に当たった。

 おとと、とよろけて宙が斜線上にきてしまう。

 

 その針が、吸い込まれるように阿笠宙にジャストヒット。

 くらり、と阿笠宙の上体が揺らぐ。

 コナンがおわーーー!?という顔をした。

 

 あの子の体に麻酔がどう作用するのかもわからないのに!

 

 思わず腰を浮かせた灰原の前で、阿笠宙がタタラを踏んで持ち堪えた。

 そのまま、コナンの耳元で何か言葉を発する。

 

 コナンが表情を凍り付かせる。

 いったい何を言われたのだろうか。

 

 堂々とした立ち居姿で、阿笠宙が咳払いした。

 

「………わかりましたよ。一連の事件の真相が。この誤解の間で起きた惨劇の真実が」

 

 やけにもったいぶった語り口はコナンのそれだろう。

 彼自身の声ではなく、口パクに違いない。

 さっき囁いた時に胸元に隠したスピーカーから聞こえてきているはずだ。

 

 ひとまず体調は無事そうで何よりだ。

 灰原は一息ついて、おとなしく聴衆の一人となった。

 

 視線の先の阿笠宙は実にゆったりとした仕草で推理を披露している。

 面白くなさそうな毛利探偵が「あん?何が分かったってんだ?」と腕を組んだ。

 

 だが少しだけ表情の作り方がいつもの宙と異なっている。

 演技の具合だとは思うが、やけに皮肉げというか、オリジナルたるバーボンのそれに近いように見えた。

 

 犯人は社長秘書の女らしいが、それはまあ特段言及しなくてもいいだろう。

 警察に連れて行かれる後ろ姿は美人だが、それだけだ。

 

 全ての推理が終わった後、灰原はスーツの胸元を直す阿笠宙に駆け寄った。

 

「さっきの麻酔銃、だいじょうぶなの?」

「……馴れ馴れしく話しかけないでもらえますか、研究者風情が」

「っ、!?!?」

 

 冷徹な視線が灰原に突き刺さった。

 嫌悪が並々と注がれた声で、阿笠宙が灰原を睥睨する。

 

「あなたの献身は認めますが、所詮は第七生物科学研究所のゴミどもと同じ穴の狢。近寄らないでください。うっかり縊り殺しそうになるので」

「………なに、を」

「ああ、いつもの阿笠宙の言動と違いすぎますか?それはそうですね」

 

 阿笠宙は悪質にせせら笑った。

 コナンが困惑の強い顔で灰原を庇う位置に立つ。

 

「オメーに何が起きてるのか、説明してくれ」

「単純に理性が寝てるだけですよ。いつもの阿笠宙は麻酔銃で夢の中。現れたのは醜い本能と憎悪のみというわけだ」

「…………」

「良い子ちゃんしか愛せませんか?僕を想って殺される気概ぐらい見せてくれても良いんじゃありません?」

 

 悪意と憎悪でギラギラと輝く瞳を前に。

 灰原はコナンの手を除けて、その前へと進み出た。

 

「いいわよ。殺されてあげても。でもここはダメ。あっという間に警察に連れてかれるわ」

「ッ灰原!?」

「………なんです、それ。僕に同情でもしてるんですか?」

 

 至極不満そうに阿笠宙は片眉を上げた。

 灰原はまっすぐにその視線と向き合い、宣言する。

 

「最初から言ってあったはずよ。貴方に殺されるのなら悪くないって」

「薬でおかしくなってるだけかもしれませんよ」

「だとしても、まるごとの貴方を想ってはいけないのかしら」

「…………」

 

 むすっと、彼は子供じみて膨れて見せた。

 そして腕を組んでため息をつく。

 

「江戸川コナン。貴方の麻酔銃のせいですよ、この人がこんな覚悟決めたの。責任取らないんですか」

「そ、それは本当に悪かった…今後再発防止に努めます…」

「はぁ。人間なんてゴミばかりだ。潰されて悲鳴を上げて、僕を満たすことぐらいにしか使えない」

 

 眠そうにゆったりと宙の瞼が落ちかける。

 

「取り繕った理性たる僕が目を覚まします。せいぜい労ってください。僕を丸ごと愛すというのなら」

「………ええ、わかってるわ」

 

 そう答えた次の瞬間。

 激しい動きで灰原は片手で首を絞め挙げられて、苦悶の声が喉から勝手にこぼれ落ちる。

 「灰原!」とコナンが叫んだ。

 悍ましいほどの憎悪に満ちた瞳で、阿笠宙は宣言する。

 

「次僕という本音の出る機会があったら、幼生で地表を地獄に変えます。覚えておくように」

 

 それだけ言って、宙は静かに目を閉じた、

 

 次にパチリと目を開けた時。

 彼はいつもの彼に戻っていた。

 

「ん!?!?って灰原さん!?!?!?」

 

 慌てて灰原から手を離した彼は、激しく咳き込む灰原にワタワタと動揺したようだ。

 自分の手を信じられないかのように見て、あんぐりと口を開けて、かなり混乱しているようだ。

 

「ちょっと、僕が寝てる間に本能が暴れてませんでしたか!?パンデミックですか!?」

「大丈夫だ。オメーはなんもしてねーよ」

「灰原さんの首絞めてましたけど!?何もないわけ無いですよね!?!?」

 

 そんなふうに、目を白黒させて動揺する彼を前に、コナンが灰原へと目配せした。

 

 「無事か」と問うているのだろう。

 その上で、灰原がこれ以上宙を心配させることを望まないと知って、声をかけるのを控えた。

 

 灰原はできる限りいつもの声で「大丈夫よ、貴方は少し寝ぼけてただけ」と口を開いた。

 

「帰ったら検査よ。このノーコン探偵のせいで結構強力な麻酔を受けたんだもの。どんな影響が出ても不思議じゃないわ」

「その節は本当に…申し訳ありませんでした…」

「あはは、あれは仕方なかったですよ。完全に事故じゃないですか」

 

 あれが彼の隠している本音だとして。

 

 灰原哀は、ゆるゆると息を吐いた。

 己の罪が許されることは決してないのだ。

 





・本能
気性がすごく激しい。
愛おしさと殺意は別。好感度上げても平然と殺しにくるタイプ。

・コナン
実は工藤優作とコンタクトを取って必死に海外機関が動くのを阻止している。
この子は穏やかアピールしたり観察記録送って「ほらこんなに無害!」ってやったり。
代わりに自分が、と工藤新一の能力の高さを誇示して管理できると言い張ったり。
地味にめっちゃ忙しい窓口。
優作氏と裏で激しく言い争ってる。

・工藤優作
いやでもこれは正味の話処分すべきだろう…。
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