降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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戦慄の楽譜①

 

 今日は堂本音楽ホールに来ている。

 

 園子ちゃんのお誘いで、こけら落としの公演に連れて行ってもらえることになったのだ。

 本日はその本番前リハーサル。

 まさにお金に換えられない価値を持つ体験だ。

 

 ホールの中には、まさに見上げるほどの大迫力のパイプオルガンが広がっている。

 ホールを埋め尽くすような、という言葉が相応しい。

 

 私にクラシックの知識はないが、この身に宿る降谷零の知識がそれを「トッカータとフーガ ニ短調」と私に教えてくれた。

 なんだそれ聞いたことない。ふーんバッハの曲なのか。

 名前だけはわかるぞ。

 

 そんな無知な観客の顔を晒しつつ。

 座席の中程に座って子供達と神妙に聞き入っているわけである。

 

 肉体君も音楽は嬉しいのか、リラックスした感覚が伝わってくる。

 なになに、「人間で唯一称賛できる点」?

 いやもっとあるだろ称賛できるとこ。

 

 曲が一つ終わってから、隣の灰原さんがそっと耳打ちしてきた。

 

「大丈夫?」

「ええ、成長して大音量には耐性がつきましたから。素晴らしい音色ですね」

「ならよかったわ」

 

 灰原さんが少しだけ微笑んだので、私もつられて笑顔になった。

 彼女が嬉しいと私も嬉しい。

 肉体君もちょっぴり機嫌が良さげだ。

 憎まれ口は叩くが、結構感情豊かなタイプなんだよな、肉体君も。

 負の方向にも感情豊かだが。

 

 その向こう側では、子供達がパタパタと足を振ってモニョモニョと何かを喋っている。

 

「空君もいれば一緒に聞けたのに、残念ですねぇ」

「ねえねえ、帰ったら空君にお手紙送ろう!きっと空君喜ぶよ!」

「送ろうぜ送ろうぜ!!」

 

 どうも私に手紙を送る話を相談しているらしい。

 

 海外の病院に入院したということになっているからな。

 なんとなく罪悪感だが、本当のことを伝えるわけにもいかぬ。

 私は話を合わせて「そうだね、僕に渡してくれれば空に一緒に送っておくよ」と優しく声をかけるだけに留めておいた。

 

 あんなに目線が近かったのに、なんとも寂しいものだ。

 

 その五列ほど下には、ソプラノ歌手である秋庭怜子の姿がある。

 これすなわち劇場版名探偵コナン、「戦慄の楽譜」であることの証左である。

 

 二曲目のアヴェ・マリアが始まる。

 

 これはヴァイオリンとオルガンが使われるようだが、どうにもヴァイオリン側の調子が悪いらしい。

 バイオリニストさんがダメ出しを食らっている。

 

 耳のスペックはいいものの、私では経験がないため最善の音が何かはわからない

 

 美しいヴァイオリンの音色に耳を傾けながら、後部座席にいる警視庁捜査一課に注意を向ける。

 数日前、堂本音楽アカデミーでプラスチック爆弾による爆破事件があった。

 その調査のため、関係者に話を聞きに来ているらしい。

 

『くだらないくだらない!どうせ皆僕らに弄ばれ血潮の中に沈むというのに!同族殺しの愚か者ども!』

 

 厨二病か。香ばしいな。

 口には出せないので内心思うだけである。

 そういえば肉体君はまだ真性の四歳児であったか。

 そういう意味ではすごく大人びていると言っていいかもしれない。

 

『おい今僕のこと馬鹿にしましたよね。冷笑は高二病って聞きましたよ』

 

 落ち着いてくれ、言ってもいないことで一人で荒ぶらないでくれ。

 思春期の難しさについて思いを巡らせながら、私はぼんやりと曲に聴き入った。

 

 アヴェ・マリア終了と同時に休憩に入ったので、そこを狙って目暮警部が秋庭さんに声をかけにいく。

 私はコナン君に「盗聴器、貸して」と言ってそれを受け取り、何食わぬ顔で目暮警部に近づいた。

 

「あの、僕も同席してもいいですか。何かわかったことがあれば共有させていただきますから」

「ふむ、君も先日事件解決に協力してくれたからな。いいだろう」

「警部殿、素人を同席させるのは…」

 

 毛利探偵にすごく嫌そうな顔をされてしまった。

 「そこをなんとか、出しゃばるような真似はしませんので」と言って食い下がる。

 根本的に高校生を事件に関わらせるのに否定的なのだろう。

 厄介者を疎む素振りの奥に、私を心配する色が見え隠れした。

 

 まあともかく、同席できればこっちのもんよ。

 盗聴器を襟につけて、そのままコナン君に話を横流しする。

 

 どうも秋庭さんが事情聴取を受けているのは、先日の爆破事件の直前、被害者からメールを受け取っているからということらしい。

 現場からはフルートの胴部管が見つかっているとのことで、皆考え込んでいる。

 

 ご想像の通り、コレは連続殺人事件である。

 フルートの胴部管、胴部管、足部管に合わせて殺人が起こるわけで。

 なぜこの世界の犯人ってこういう演出が好きなのか。

 

 事情聴取が終わって解散すると、コナン君が小走りで駆け寄ってきた。

 

「悪い宙、助かった」

「構いませんよ。小さいと何事もままならないのは僕もよくわかりますから」

「ははは…俺も早く元の姿に戻りたいぜ」

 

 コナン君が肩をすくめてパシパシわたしの太ももを叩いた。

 労ってくれているようだ。嬉しみである。

 短い事情聴取が終わって戻ってくると、秋庭さんが子供たちに囲まれていた。

 

 どうももうすぐ学校である合唱大会にむけて、歌唱指導をしてもらいたいらしい。

 プロ指導ならちゃんと謝礼払おうね。

 ためているお小遣いから払える額か脳内で勘定していると、「いいわ、受けてあげましょう」と返事が耳に入った。

 

 ツンツンな言葉を放ちつつ、なぜか帝丹小OGとして話を受けてくれるらしい。

 「だから今日は帰りなさい。練習の邪魔」と言い放ち颯爽と立ち去る。

 子供達がポカンとしてその後ろ姿を見守った。

 

 灰原さんが素朴な感想を放った。

 

「女王様タイプね。高飛車な感じだわ」

「ああ。なんか灰原に似てるよな」

「灰原さんの方が柔らかな雰囲気ですよ。もっと深みがあるとも言います」

「ありがとう宙君。そこのデリカシーのない男はシメておいて」

 

 「灰原に似てる」とか、コナン君はなんで地雷原を直進するのか。

 灰原さんの指令を受けて、わたしはコナン君を肩車するという強制羞恥の刑に処すことにした。

 

 すぐさま肩車に気づいた子供達が「あっコナン君いいなぁ!」「俺も俺も!」「僕もしたいです!」と騒ぎ出す。

 蘭ちゃんが微笑ましそうにクスクス笑ったので、コナン君は真っ赤になって顔を私の頭の後ろに隠した。

 

「テメェ宙……覚えてろよ……」

「今のは完全に自爆でしょう。僕のせいじゃありませんよ」

「いい子ね、帰ったらリワードをあげるわ」

「!!!!コナン君はしばらくこのままですのでご承知おきください」

「灰原ァ!」

 

 リワード、わたしの殺戮を乞う本能を抑えてくれる効果があると最近分かってきたんだよな。

 適切に運用すれば身体への負担が減るということで、少しずつやってくれるようになってきたのだ。

 酒だ!酒が飲めるぞ!!!

 

 園子ちゃんがチラリと振り返って私に声をかけてくる。

 

「そうだ、明日私たちテニスをする予定なの。宙君もテニス部だし、一緒にどうかしら」

「お誘いはありがたいのですが、あなた方のお相手に睨まれそうなのでやめておきます」

「そんなの気にしないのに!」

 

 いや、実際今まさにコナン君からの激しい視線が突き刺さってきているんだよな。

 穴が空きそうな殺気である。私の後頭部攻撃入れないでね。

 

「その代わり、明後日の子供達の合唱練習にご一緒しても構いませんか?」

「え、ただの練習よ」

「プロの指導に興味があるんです」

 

 と言いつつ、事件があることを知っていての発言である。

 何ができるというほどでもないが、いた方が便利だろうという配慮である。

 

 そのように約束しつつ、本日のところは平和にお開きとなったのであった。

 

 なお、リワード酒は存分に楽しんだ。

 アルコールはこの身に毒の可能性が高いから、代替酒は貴重である。

 ああ、あむぴのリワードが一番度数高いからあれが欲しいんだよな。

 

 

 

 

 さて、合唱練習当日である。

 私はついぞ立ち入ることのなかった帝丹小学校にやってきている。

 

 教室の後ろにはたくさん絵が飾られていて、前の黒板の上には「えがお」と大きな文字で張り紙がしてある。

 子供もいないのにどこか明るさと騒がしさとを感じる、いい教室だ。

 

 そこから少し行った突き当たりにある音楽教室が、練習の会場である。

 

 そこにはグランドピアノがあって、蘭ちゃんが座ってその様子を確かめていた。

 というか蘭ちゃんピアノ上手いな。

 私も弾けない事はないが、こんなに綺麗に滑らかな音が出せない。

 どうしても間違えず弾くのに精一杯で、音が乱雑になってしまうんだよな。

 

 秋庭さんは一足早く到着していたようで、窓の外を眺めて黙ったままだ。

 

 というわけで、早速子供達が集まったら練習開始。

 

 子供達は元気良く声を出して歌っている。

 いいことだ。

 あとコナン君明確に酷ぇな、合唱コンクールにおける障害にしかなってない。

 お荷物というレベルですらない。

 堂々たる音痴が目の前に立ちはだかり、隣の子が釣られてわけわからんくなってしまっている。

 

 ああ、なぜ神はこのような哀れな不得意を与えたもうた。

 私はほろりと涙を流した。

 一緒にポソポソ校歌を歌う。

 私も少し歯車がずれれば帝丹小に通うことになっていたんだし、その気分だ。

 

 一度歌が終わると秋庭さんが次々子供達に指導していく。

 その指導は的確で、正確に個々の歌声を聞き分けてのものだった。

 

 最後に、私に向き直って眉間に皺を寄せてビシッと指を突きつける。

 

「それと、君歌ってるの聞こえてるからね」

「!?!?」

「地声と違いすぎてしばらく誰か分からなくて邪魔だったわよ。上手かったけどどこから声出てんのよ」

「大変申し訳ありませんでした!」

 

 私は深々と頭を下げた。

 「宙お兄さん歌ってたんですか?」「兄ちゃんも一緒に歌いてーんだろ!」と子供達がワイワイガヤガヤ私を取り囲む。

 あまりに恥過ぎて私は顔を隠して縮こまった。

 

 ちなみに、彼女の違和感は至極正しい。

 

 私の声は人間のように声帯からでているのではない。

 鳥の鳴管に似た独自の器官から声を発しているのだ。

 だから自在に他人の声真似ができるし、機械音などの高度な真似も可能となる。

 

 ちなみにこれは割と幼生の方も同じ仕様だ。

 人間の声を真似て獲物を誘き出す行為も確認されている。

 知能があまり高くないので言っている意味はわからないみたいだが、宿主の知性をある程度受け継ぐようだ。

 人間から生まれた場合、結構厄介な狩人になるかもしれない。

 

 先ほどの歌も子供の歌を真似てモブ子供Aのつもりで声を出していた。

 それを見抜かれてしまうとは、もう恥オブ恥である。

 

 私は咳払いして誤魔化しの言葉を発した。

 

「それにしても、ピアノの音が下がってませんか。歌に影響があるといけないので調律した方が良さそうですね」

「そうね。まあ、学校の予算でピアノを調律してくれる人がいるかはわからないけど」

 

 私の言葉に秋庭さんは同意してくれた。

 多分武士の情けだと思う。

 蘭ちゃんが「そうなの?」と首を傾げている。

 

「そこの裏声君にも絶対音感があるみたいね。まあ、音楽家に絶対音感は必須ってわけじゃないけど」

「へぇー、すごいじゃない宙君!」

「それより裏声君は名誉に関わる呼び方なのですが」

 

 私の嘆願を無視して、秋庭さんは颯爽と仕事は終えたとばかりに荷物を背負った。

 さて、そこで事件は発生した。

 

 元太君が秋庭さんからお茶を盗んで、飲もうとカップに注いだのだ。

 人の飲み物に勝手に口をつけるのはマジ処刑案件ですわよ!

 

 同時に、明らかな異臭が鼻をつく。

 私は咄嗟に元太君の手から茶を払い落とした。

 派手に茶が床に転がり、びしょびしょになる。

 ギリギリ服にはついていないようだ。

 

「うわっ!?なにすんだよ宙のにーちゃん!」

「理科室にpH試験紙はありませんか、コナン君」

 

 私は声を低く抑えてコナン君を見た。

 コナン君が「まさか!」と目を見開く。

 

「そのお茶から異臭がしました。秋庭さんも、そのお茶を飲まないように。念のため試験紙で見て、あまりに異常なら警察に相談しましょう」

 

 コナン君の瞳がパチリと推理たる怜悧な光を帯びたのだった。

 





・「手足」幼生型
生涯幼生として過ごすタイプ。洗脳用やクローンの体内の免疫係など。

・「手足」兵士型
一番数が多い、単純な兵器。
宿主の影響を受けて多様な形を取る。人語を真似するかも。

・「手足」寄生型
よく成熟した手足が死ぬと生まれる。
死体からわっと蚊のように大量に沸き立ち、生物を刺すことで幼生を寄生させる。
まだ誰もコレの存在を想定してない。

・研究者(故人)
「ロマンを詰めたんだ。悔いはない」
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