降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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第59話

 

 と、いうわけで私達は目暮警部に連絡。

 すぐさま警部達は駆けつけてくれた。

 

「分かった、これは分析に回しておく。それで、最後に秋庭さんがお茶を飲んだのはお昼前だと言っておられましたな。それはどこで?」

「堂本アカデミーよ。練習室においてトイレに行ったから、誰かに何かを入れられても気づかないわ」

 

 秋庭さんの話に、目暮警部がううむと眉間に皺を寄せた。

 アカデミー内となると監視カメラも無いだろうし、犯人の特定は難しそうだ。

 

 その後は皆で夕暮れの中帰宅することになった。

 念のため、分散せず皆で固まっての下校だ。

 一部の子は保護者が迎えに来たから、自然と面子はいつもの少年探偵団となった。

 私も念のため送迎役としてついてきた次第である。

 

「まったく。人の飲み物を勝手に飲もうとするなんてどういう教育をしてるのかしら。親にはひとこと言ってやらないと気が済まないわ」

「ごめんなさい……」

 

 元太君がしょんぼりしているが、秋庭さんの本心としては子供達が心配で、きちんと送り届けてやりたいのだろう。

 秋庭さんもどうもツンデレ気質の強い人らしい。

 

 灰原さんが歩きながらポツリと呟いた。

 

「イタズラにしては悪質ね。殺意があったにしては手ぬるいけれど」

「飲んでれば少なくとも口と喉は焼け爛れていたでしょう。コンサートは難しかったと思います」

「ああ。間違いなく明後日のコンサートに出られなくするために何者かが仕組んだんだと思う」

 

 コナン君が静謐に瞳を細めて推理を口にした。

 赤い日差しがアスファルトを照らす。

 独特な時間帯に、静かで刺すような殺気が一握り。

 

 私は思わず身構えた。

 後ろから、大きなトレーラーが私たちにひたと狙いを定めていた。

 一直線、坂道に入った時それは動いた。

 

 私の次に異変に気づいたのはコナン君だった。

 

「まさかあの車……お前ら走れ!」

 

 「へ?何が?」「危険なんですか!?」「逃げよう元太君!」と子供達がバタバタと遅れて走り出す。

 大人なら疑問で動きが遅れていたところだが、子供達は素直で助かる。

 

 灰原さんがバランスを崩して転けそうになったので、後ろからひょいと担ぎ上げてそのまま走る。

 「キャア!」と可愛らしい悲鳴をあげさせてしまったが、ここは危険なので仕方のないこととする。

 

 車は察されたことを理解してアクセルを踏み込んだ。

 どんどんと彼我の距離が縮まっていく。

 

 逆光の中、私の優秀な眼球が運転者の顔を捉える。

 

 結局、車は私たちを轢殺することはなかった。

 一人別方向に逃げた秋庭さんを狙い、民家の石塀を破壊しながら追いかけていったからだ。

 

 偶然タクシーが通り掛からなければ、秋庭さんは死んでいたことだろう。

 もちろんそうはならないように、灰原さんを置いた後タクシーが来る直前まで秋庭さんを立体駆動で追いかけていたが。

 

 だがこれでよくよく皆が理解した。

 犯人の狙いは秋庭さんだけで、それを殺すためなら犠牲者は厭わないと。

 

 

 

 

 

 阿笠邸に帰ってこれたのは、警察の事情聴取が終わってすっかり夜になってからだった。

 

 灰原さんは私をソファに呼び寄せ、優しげに視線を向けた。

 

「ありがとう、助けてくれて」

「いえ、どうも最初から犯人の狙いは秋庭さんのようでしたから、僕が助けずとも命を落とすまでは行かなかった可能性もあります」

「それでもよ」

 

 私が顔を近づけると、顎をくすぐるように手が伸びた。

 なんだか犬猫を慈しむような動きだ。

 でも可愛がられている実感はあるので、目を閉じてその感覚を享受する。

 

 じゃれつくように頭を擦り付けると、灰原さんは私の頭をわしゃわしゃしてくれた。

 

「ねえ、バーボンがツテを使って表の仮の身分を用意してくれてるんでしょう?どの程度信用置けるかは疑問だけど、やりたいことはあるのかしら」

「将来ですか?正直迷ってます」

 

 まだ寿命がいつまで続くかは判然としないし。

 高校を卒業できるか微妙なラインだから、あまり滅多なことは言えない。

 将来大人になれたとして、あまり長期的に責任ある仕事は難しいだろう。

 

 ルパン一味に内定しているので、第一志望は泥棒さんということになるか。

 いつ死んでもおかしくないって意味で適職には違いない。

 

 公安は多分第一命令が「死んでくれ」なので却下。

 コナン君を通して優作氏の動向を見ている限り、ICPO周りもダメ。

 とすると、どんな身分があったとして表の職業には難しかろうよ。

 

 ああ、脳裏で降谷零の記憶が踊っている。

 桜の舞い散る中、誓いの言葉が遠く響いている。

 人々を守りたい。この営みを守りたい。

 

 その思いが反転したのが、肉体君の憎悪でおる。

 

「本当は警察官になりたかったんですけど、無理そうなのでコナン君に助手として雇ってもらえないか直談判します」

「………あの推理マニアさんなら引く手数多でしょうから、ちょうどいいんじゃない?」

「今のうちに事務仕事の腕を磨きましょう。経理系もあった方が良さそうです」

 

 こんな危険な生き物である私を雇ってくれる場所なんてない。

 それを灰原さんとて重々承知で、それでもひと時の間夢を語る。

 

 この間も、灰原さんは手足の一匹に喰われかけた。

 檻を凹ませ、その隙間から頭を出して阿笠博士の声真似をして灰原さんを誘き出したのだ。

 私が咄嗟に手足を一喝したから無事で済んだものの、命を落としても不思議ではなかった。

 

 手足は目を離すとすぐに大きくなる。

 妙なことに身体がぶくぶくに膨らんでいた個体もいたっけか。

 嫌な予感がしたので、すぐに私が死を命じた後丁寧に火葬した。

 

 手足を孵化させた後は、3日以上育成しないルールも新たに設けた。

 

 灰原さんが私の髪をさらさらと愛おしそうに撫でてくれる。

 見つめる瞳は、どこか黒々とした決意が宿っていた。

 

「私があなたを守るわ。何があっても。どんなことが起こっても、私はあなたの味方よ」

「困ったな、コナン君のアポトキシン4869の解毒剤の方を優先させてください。あっちの方がまだ芽があります」

「………優しい貴方らしいわね」

 

 優しい、というのはちょっと違う。

 クローンなんて原作に一ミリも登場しない端役より主人公を優先して欲しいだけだ。

 

 どう転んでもあまりハピエンの芽がない私のせいで、本筋までバッドエンドになったら死んでも死にきれない。

 単純に労力をかける価値があるかどうかの問題だ。

 

 肉体の脳から呆れたような声が響く。

 

『だから貴方は人の心がないんだ。そう冷酷に説かれて、嘆かない彼女だと思いますか』

 

 肉体の声に、ぱちくりと私は瞬いた。

 見れば、悲痛に歪む彼女の視線と目が合った。

 

 そのまま彼女に抱きしめられ、灰原さんは私の頭を抱え込んで僅かに震えた。

 彼女がそれだけの矮小な体躯しか持たない、儚い存在なのだと実感する。

 

 そのタイミングで部屋に入ってきた阿笠博士が、おずおずと口を開いた。

 

「宙君。ワシらは君のことを心配しとるんじゃ」

 

 どうも阿笠博士、ドアの影からちょろっと覗いていたらしい。

 入ってこればいいのに、空気を壊さぬようずっと部屋の外で待機していたのだ。

 別に阿笠博士の家なんだから気にしなくていいのに。

 

「ありがとうございます。博士も灰原さんも、とても優しい。ですがリソースには限りがあります。有効活用すべきだと……思ったのですが……悲しませてしまったみたいですね。すみません」

 

 私はぺこりと頭を下げた。

 

 ちょっと空気が読めていなかったのかもしれない。

 でも現実問題として、もうクローン問題はどっかに投げるべきだと私は思っている。

 普通に危険すぎるし、私でも殺処分一択なのはよく理解できる。

 

『そうでしょうとも。だから僕はその判断に全力で抗い、蔑み、文明の全てを壊し尽くしましょう』

「それはごめん被ります。僕はヒトを害さない。その営みを守り慈しみたい。貴方の願いは叶えられない」

 

 つい反論してしまい、灰原さんが困惑の顔で私を見上げた。

 

 私はハッと声を出してしまった自分に気づいて頭を下げた。

 

「すみません、なんでもありません」

「最近貴方、部屋で誰かと一人で喋ってるわよね。電話もしていない様子なのに」

「…………」

 

 大ポカってことらしい。

 いや、これはどうも前々から見られていたようなので、遅かれ早かれということか。

 どっちにしろ大ポカやんけ。家の中だからって気を抜きすぎ。

 

 観念して、私はどうこの話を打ち明けようか思案した。

 と言っても、魂と肉体とかそんなオカルトの話をするわけにはいかないからな。

 私はうんうんと悩んでから、眉をハの字に下げてしょぼくれた。

 

「………あー、その。笑いませんか?」

「言ってちょうだい。笑うはずがないわ」

「そんな真剣にならずとも、与太話の類だと思って」

「早く」

 

 灰原さんに急かされ、私はしおしおになって観念した。

 

「ええっと。声が、聞こえます。その、頭の内側から。精神的なもの……のような気はしますが、詳しくは不明です」

「……具体的に何を言ってるの」

 

 灰原さんは驚くほど顔面蒼白になった。

 それでいて、どこか心当たりのあるような口調だ。

 私は気圧されて正直に打ち明ける。

 

「彼は人間を憎み殺戮を望んでいるようです。なので、特に益のない行為だと説得していました」

「…………本能の、彼」

 

 何やら訳知りらしい。

 いやどうして私の脳内にしかいない存在のことを知っているのか。

 

 いや、まさかあの麻酔銃がブッ刺さったとき、ただ暴走したんじゃなくて肉体君が表に出たのか?

 それはかなり事案だったのでは?

 

 私がおろおろしていると、灰原さんは陰鬱に俯いて口を開いた。

 

「彼の言ってることは正しいわ。ええ、貴方の情緒が正しく育っていれば、人を憎むのは当然のことだもの」

「ですが、僕はそれを選ばないでしょう。意味がないし、何よりあなた方が悲しむ」

「そうね。でもきっと、その強い理性が貴方を苦しめてる。私たち研究者が勝手に埋め込んだ強固な理性が、貴方に非合理を許さなかったから」

 

 それは……いや、これは普通に私の性格の問題だ。

 だから乖離性同一性障害ではなく肉体と魂の問題だし、何の心配もいらないことだ。

 でも突然前世とか言い出したらいよいよお薬が処方されてしまうし。

 

 困ったなぁ。

 優しく抱きしめてくれる灰原さんを前に、私は困り果ててその感覚を享受するのみだった。

 





・灰原さん
強制的埋め込まれた理性によって抑圧された本音が、乖離性同一性障害となって現れていると思っている。
こんなにも苦しんでいるのに、この子は己の苦しみすら自覚できていない。

・コナン君
乖離性同一性障害の可能性を示唆されて苦悩してる。
隠さなければ。
クローンの精神に異常をきたしたと知られれば、余計に議論はクローン抹殺に傾く。
俺たちが守らねば、誰が彼を守ってやれるのか。
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