今日やってきたのは東都美術館である。
都内にある大きな美術館で、非常に大きくリッチなイベントもたくさん行われている。
今は世界秘宝展なる特設展示が開催されているようで、美術館前は人でごった返していた。
元太君がふわふわ妄想顔で呟いた。
「すげーよな!黄金の仮面!うな重何杯食えんだろ?」
「質にも寄りますが、一生うな重だけで生活できる程度には買えるかと」
「すげーーー!!!空にもちょっと分けてやるよ!ちょっとだけだぞ!」
「元太君、仮面は元太君のものじゃありませんよ…」
オモロイおにぎり達と一緒にIQ溶けたみたいな会話をするのがここ最近の私のもう一つの趣味である。
コナン君との推理小説感想会との温度差で整うんだよな。
雲の上のお城に住みたい!食べ物持ってくるのが大変そうですね、みたいな。
でも美術館に小学一年生だけで来てお利口に回り切るあたり、この子らは上澄中の上澄なのである。
若干コナン君が引率はしていたが、普通はテンションMAXボーダーコリー並みにとち狂うはずだからな。
さて、美術館を回り終えて帰宅、となった頃のことである。
「んー、なんだこれ?」と元太君が一枚の紙を太陽に透かして見ているのを私は発見した。
不思議な図形が描かれたメモ用紙の切れ端だ。
星型に、四角に……魚?
私はメモを覗き込んで首を傾げた。
原作にこんな話があったような気もするが、流石に全部は覚えていない。
記憶に微かに残っているということは、アニオリではなくコミックスの方だろうか。
コナン君に暗号だと指摘されて、おにぎりはにわかにぶち上がった。
「きっとお宝だぜ!財宝財宝!ざっくざく!」
「凄いですよ!大発見ですよ僕たち!」
らんらんるーと手を取り合って踊り始めたので、コナン君がガックリと肩を落とした。
「んなわけあるか!ったく、ならひとまず暗号の一番上の東都タワーに行ってみて考えればいいだろ。悪いな空、付き合わせちまって」
「構いませんよ。こういう児戯は僕も好むところです」
「児戯ってお前な……」
言い回しに苦言を呈されてしまったようだ。
いや強く意識しないと微妙に変換されるのはこの体の特徴だから、そこを言われても困る。
バーボンベースの皮肉げな口調も幼児が言ってると妙にヒネてて可愛いもんやろ。
と、いうわけでバスを乗り継ぎえんやこら。
一路東都タワーに向かう私たちである。
小学一年生の有り金で往復のバス代は重くのしかかるらしい。
子供達はむむむと苦悩しながらお小遣いから支払っている。
私もバスに乗り込んで、最後尾で皆と座りながら到着を待つ。
その間にちょいと、隣のコナン君に囁いておいた。
「尾行です。このメンツで撒くのは困難ですが、如何しますか」
「っ、この紙の持ち主か?」
「恐らくは。中々きな臭い方々のようで、外国籍の方でしょうか、見たところコーカソイド、ラテン系が二人。日本人一人。殺意が漏れています」
敏感にその手の気配を感じ取れるのは私の肉体のスペックゆえだろう。
コナン君は少し眉間に皺を寄せてから、決心するように頷いた。
「このまま警察に駆け込んでも、子供のいたずらだと思われるだけだからな。なら虎穴に入らずんば虎子を得ず、といこうぜ」
「ご随意に。僕はあなたの判断に従いましょう」
「いやお前も自分の意見は出していけよ」
「………僕を戦力とカウントした判断は、少し嬉しく思います。必ずやご期待に沿ってみせましょう」
コナン君は「お、おう」と虚をつかれたようにパチクリ瞬いた。
おうじゃないのよおうじゃ。
私の貴重なデレをなんだと心得とるんだ君は。
ちなみに、子供達はお宝を思ってウハウハ個々に上の空である。
幸せそうでいいね。
光彦君が「お宝が手に入ったら空君は何を買いますか!?」と聞いてくる。
「そうですね、兄弟にちゃんとしたお墓を、ではなく。ええと、ナイトバロン買い揃えます。小説だけでなく映像化作品も全部」
「いいですねぇ!僕も仮面ヤイバーのカード全部集めることにします!」
「俺も俺も!」
危ない危ない。
コナン君と会話してたせいでIQを落とし損ねた。
こんな妙なところで本音をポロリしてせっかくの明るい空気を台無しにするのは良くない。
大金手に入れてまず作るのが墓は小学生の思考じゃないんよ。
ちらり、とコナン君の方を確認する。
コナン君は憂いを帯びた目を伏せて俯いてしまっていた。
だめだった、誤魔化せなかったらしい。
コナン君がすっかり鬱になってしまっていて、私は内心後悔した。
それでも事件のことは調べているらしく、コナン君は手元のスマホで何やら検索を続けている。
夢談義に盛り上がる子供達を尻目に、こっそりと情報共有する。
「ディノ・カパネというイタリアの強盗団メンバーがメイプルリーフ金貨1万5000枚を盗んで日本に逃亡、か。どう思う?」
「カナダの純金金貨ですか。重い嵩張る運びづらいと……ずいぶん気合の入った強盗団ですね」
「警察が捜査中らしいぜ」
見せてくれた記事によると、事件の詳細はまだ出てないようだ。
まだ金貨の行方もわかってないとのこと。
私のアムピを模した頭脳が冷徹に推理を回してゆく。
「強盗団と言うにしては逮捕者は一名。トカゲの尻尾切りにあったか、あるいは裏切ったかでしょうか」
「暗号はこの金貨の隠し場所かもな。紙にもイタリア語でore(金)って書いてあるし。分かりやすすぎだろ」
「自分用のメモなどそんなものでしょう」
嘲笑うような響きで表情筋がせせら笑う形になったのがわかった。
「経緯を考えるに、ほとぼりが冷めるのを待ったら自分か、もしくは手のものにメモを渡して金貨を回収させるつもりなのでしょう」
「………だろうな」
「さっさとおさらばすることを考えれば、そう凝った暗号でもないし、永続性を考えてもいない使い捨ての暗号だと思われます」
と、あむぴクローンの肉体は仰っております。
頭良い!私より遥かに頭良い!
内心知恵者ごっこにはしゃいでいると、コナン君が推理を進めているのか眉間に皺を寄せて考え込んだ。
そのまま、都営バスを降りてすぐが東都タワーだ。
休日の昼間ということで、多くの観光客でひしめき合っている。
私は思考補助を兼ねて、考え中のコナン君に問いかけた。
「あなたのお考えは?」
「こういう暗号なら、何かを簡略化した記号をさっと書き込んでこの紙に清書したんだと思う」
「同意見です。まず犯人は人気のない場所に金貨を隠し、そこから逆算して暗号を作り上げた」
緊張もしていたでしょう。警戒もしていたでしょう。
急ぎ金貨を隠したら、すぐにその場を離れなくてはならない。
土地勘もないでしょうね。だから、ふと見つけた人気のない場所を選んだ。
目立つ金貨の山を隠すのに、昼間からうろつく可能性は低い。
ならば夜でも見えるもの、目立つものを目印にした可能性は十分にある。
そうして現場から見えて、短時間で考えつく暗号。
口が犯罪者視点で勝手に推理を紡いでいく。
なお私はといえば ば な な である。
なーんもわからん。私のIQは少年探偵団寄りなので戦力外通告。
コナン君が意味ありげに私をみてから、嘆息して言葉を紡いだ。
「お前、犯人目線で推理すんのやめろよな」
「こちらの方が性に合ってますので」
「ったく。なら地図を示してるってのが妥当か。わざわざ店なんかには入らず、逃亡中でも見えて目立つ……ネオンサインか?」
「分かりません。実際夜になってみれば、わかる部分も出てくるでしょう」
「だが、この月のマークが夜を示しているとするなら辻褄が合う。ともかく夜まで待ってみっか」
コナン君が視線を鋭くして声を一段顰めた。
「まだ奴らはいるか?」
「ええ。粘着質な視線を感じます。どうやら私たちを泳がせることにしたようです。殺気が収まりました」
「人気のないところまで行くのを待ってるのか、暗号を解かせようとしてるのか」
私は念のためコナン君に問いかけた。
「あなたの装備の程を聞いても?」
「腕時計型麻酔銃が一発。キック力増強シューズはあるから、蹴るものがあれば一人ぐらいは」
「では、麻酔銃は切り札として。僕が二人落としますので、あなたは一人仕留めてください」
「仕留めねーよ。いや言いたいことは分かるけど」
コナン君にジト目で睨みつけられてしまった。
てへぺろ。
いやぁ、体は殺る気満々なんだよな。
邪魔者だ!消せ!消せ!みたいな感じで盛り上がっている。
狩りの高揚感に瞳孔が開いていく気がする。
うーん物騒。
「子供達は先に帰したいところですね。どうせすぐ飽きますし、見つからなかったことにして解散するふりとしましょうか」
「そうだな。お前も子供達と一緒に帰したい気持ちでいっぱいだけどな」
「あなた一人では戦力不足でしょう。やってやれないことはないとは思いますが、相手は拳銃を所持していますから」
「拳銃持ち二人を相手取れるオメーは何者だよって話だよ」
「組織の最高傑作ですよ。暗殺、すなわち狩りの性能を第二の指標として高められた生物兵器こそが私なので」
ややわざとらしく誇らしげに言えば、胡乱な顔をされてしまった。
私があえて冗談めいて話しているのがわかったらしい。
「第一の指標は?」
「秘密です」
人差し指で秘密のポーズ。
きっとアムピがやればさぞやミステリアスで格好良かったことだろうが。
今の私では小学一年生が可愛いだけである。
なお、調子乗ってるのは私ではなくこの肉体の無意識の所作であることを留意されたし。
脳が活性化して喜んでる感じがする。
転生者たる魂は、元々肉体を介さずそれのみで自律的に思考する。
つまり、肉体にある脳はまた別の思考があると言うわけで。
だから私は悪くねぇ!という盛大な言い訳タイムはここで終わり。
解散解散!
しばらく東都タワーの前でお宝を探していれば、子供達は案の定飽きたようだ。
もう帰ろっかの空気になった。
うまく私も会話で誘導して、明日のヤイバーのために早く寝ないとなとかそういう話をしたからな。
みんながっかりしながら解散ということになったわけである。
まあ、あまり何度も使える手ではない。
子供達も学習するから、いずれ抜け駆けがバレて致命的なタイミングで駆けつけてしまうだろう。
多用は厳禁のやり方である。
子供達に隠れてこそこそ集まって、私たちは頷きあった。
「では、時間を潰してから捜索といきましょうか」
「だな」
二人で日が暮れるまで適当に時間を潰してから外へ出る。
やはり鬱陶しい視線が物陰から私たちを粘着質に捉えている。
街にはネオンサインが煌々と灯り、夜の建物を色鮮やかに照らしていた。
夜の東都タワー近くは相変わらず人通りが激しくて、ここで襲われる心配はなさそうだ。
そして案外あっけなく暗号の謎は解けた。
やはり看板のネオンを描き写していっただけのようだ。
目的の場所に到着したのは子供の足で30分程度のことであった。
住宅街の中置き去りにされた古いビルの、使われてない5階部分。
テナントが去ってすっからかんのそこが、暗号の示した金貨の隠し場所である。
明かりのない真っ暗なそこは施錠もされておらず、不用心に開け放たれている。
非常階段から容易に侵入できて、だからこそ隠し場所に選ばれたのだろう。
コナン君がスマホのライトで照らすと、天井に吊るされた金貨の袋が見えた。
ミシミシという音がその袋の重さを示している。
コナン君は入り口をライトで照らして、優しく問いかけた。
「出てきたらどうなの、おじさんたち」
「おやおや、どこで気付いたんだ?良い子だなぁボウヤ。宝探しご苦労さん」
ニヤニヤと入口から現れたのは、拳銃も構えず舐め腐った態度の強盗団である。
私が暗がりにあえて潜んでいるのも気付かず、ヘラヘラ笑って威圧的にコナン君に近寄っていく。
「よく見つけてくれた、手間が省けたぜ。さ、おじさんと一緒に来てもらおうか」
「はっ、やなこった」
「………ガキが、調子に乗るなよ。状況が分かってねぇのか?」
懐から銃を取り出そうとしたあたりで、コナン君が不意にライトを消した。
そのまま打ち合わせ通り、銃で撃たれないよう柱の影へと飛び込む。
「クソガキ!」と男達の怒号が響く。
それからは、まあ、私の時間である。
夜行性の肉食獣の如く、私の目は暗闇を見通す。
膂力は人の遥か上。
いくら未成熟の生物兵器とは言え、このフィールドにおいて負ける道理は微塵もない。
大きく踏み切って飛び上がり、まず首に一撃。
3人いたうちの一人が、グギッという嫌な音と共に倒れ伏した。
次、その反動を利用して肘打ちを胸に叩き込む。
肋骨の折れる感覚。
無理に動かなければ死にはしないだろう。
苦悶の悲鳴をあげて男がもんどり打って倒れ伏した。
最後の一人を仕留めるのはコナン君だ。
コナン君が再びスマホライトで男を照らして、男の目が眩んだ隙に空き缶が男の脳天にぶち当たる。
可哀想に、男は数メートル錐揉み回転しながら吹っ飛んでいった。
いやこれは死んだだろ、と思えどピクピクしながら生きているのが確認できた。
うむ、終わりよければすべてよし。
「空!殺してねーよな!」
焦った様子で駆け寄ってくるコナン君に、私は梅干しよりしょっぱい内心になった。
いやそれはこっちのセリフなんだわ。
とはいえ、獲物を狩る感覚に軽く昂ったままの身体である事も否定はできない。
無意識にペロリと唇を湿らせて、私はチェシャ猫のようにうっそり笑った。
「ふふ、殺していませんよ。でも、狩りもいいものですね。本能が満たされる感覚があります」
「………」
本心だけど違くて、こう、語弊があってだな。
もう今何を言っても逆効果にしかならない気がする。
だって実際楽しかったしな…格ゲーみたいで→↓↘︎X昇竜拳!って感じで。
うむ、非暴力に生きねば。
コナン君の厳しい視線に晒されながら、私たちは気絶した犯人たちの前で警察に通報。
無事コナン君はまた毛利探偵に雷を落とされるのであった。
・子供達とクローン
常にツッコミ役のいない会話が明後日の方向に飛んでいったきり戻ってこない。
こいつよくこのノリの会話に合わせられるな、とコナン君は戦慄している。
でも本当は素がこのノリ。