降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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戦慄の楽譜終

 

 コンサート当日、私たちは堂本音楽ホールへと足を運んでいた。

 

 今回の私たちは園子ちゃんの口利きでゲネプロ見学ができるようになっている。

 本番と同じ内容の総通し稽古だ。

 

 暗いホール内には本番さながらの緊張感が満ちている。

 だが、空っぽの座席の好きなところに座って見学するそのリッチさは素晴らしいものだ。

 園子ちゃんがお茶目にVサインをして口を開く。

 

「本番はパパにおねだりしてバルコニー席にしちゃった!残念だけど新一君は来られないみたいだし取ってない。ごめんね蘭…」

「いいのよ、なんか凄く忙しいみたいだし、海外なら簡単には来られないもん」

 

 寂しそうな蘭ちゃんが遠くを見つめるものだから、つい私も下手くそなフォローに回った。

 

「きっと工藤君も寂しがってるよ。蘭さんと一緒にコンサートを聴きたかったと思う。こんなロマンチックなイベントはないからね、世の男子が羨むシチュエーションを逃して、さぞや彼も辛かったことだろう」

「そう、かな。新一もそんなふうに思ってくれてるのかな」

「もちろん。同じ男子の僕が保証するよ」

 

 私は生態的にはクイーンなのでちょっと性別があやふやだが。

 まあ、あむぴは正真正銘の男だしその記憶を受け継ぐ私も男で特に問題はなかろうよ。

 

 蘭ちゃんは悔しがる工藤君を想像したのか、頬を染めて俯いた。

 うむ、青春だなぁ。

 

 とはいえ当のコナン君はといえば秋庭さんとヒソヒソと内緒話にしけ込んでいる最中だ。

 おい君、蘭ちゃんの可愛い姿を見てなくていいのか。

 君を思って頬を染める彼女を目に焼き付けとかないのは明確な人生の損失だぞ。

 

 どうやら事件のことで頭がいっぱいらしい。

 何か考えているのか、心ここに在らずの顔をしていた。

 

 直前に調律師のミュラーさんが来ないハプニングがありつつ、リハーサルの時刻がやってくる。

 

 まず一曲目はアヴェ・マリアだ。

 荘厳なパイプオルガンに、ストラディバリウス。

 そこに合わせた歌唱はとてつもない美しさを伴ってホール全体に反響する。

 マイクもないのにここまでの声量とは、どんな鍛錬か生まれ持った才能か。

 

 私が聞き入っていると、パイプオルガンの音がおかしいことに気がついた。

 原作知識からすると、確かパイプオルガンの中に爆弾のセンサーが仕込まれてるんだったか。

 

 私もこの程度ならばよく覚えている。

 今回の爆弾はこの堂本音楽ホールの柱の一本一本に仕掛けられていて、パイプオルガンのある音と連動している。

 

 その音が鳴るたび、パイプ内の検知器が作動して爆弾が爆発するという仕掛けだ。

 調律師のミュラーを排除したのも、この仕掛けに気づかれないようにするためだったはずだ。

 

 特定の鍵盤を弾くことで進んでいく爆発。

 ドラマチックではあるが、犯人譜和匠の弛まぬ努力と綿密な下準備が光る演出ではある。

 普通にタイマーでドンじゃダメだったんかワレ。

 自分一人であの馬鹿でかいパイプに潜ってセンサー取り付けたんか。

 

 

 

 変なことを考えているうちにリハーサルは終わってしまった。

 うむ、せっかくの機会だったのに勿体ないことをしてしまったようだ。

 

 ゲネプロ見学の終わりと共に、仕方なく私は一人コンサートホール周りを丹念に見て回った。

 

 中はほとんど匂いもしなかったが、廊下は立ち上る独特な甘い化学臭で大変臭かったんだよな。

 これは爆弾の添加剤によるものだろう。

 

 一つ一つ爆弾のありかを探っていく。

 これだけ匂いが強ければ場所は明らかだ。

 しかし目や手の届かない箇所に設置されているものも多くあり、目視確認が可能なのは三個だけであった。

 

 これだけ見つけられれば十分か。

 私が写真を撮っていると、コナン君がうろっと現れた。

 まだ何か考えているらしく、厳しい表情をしたまま言葉を落とした。

 

「なあ、お前の内側からの声は今も聞こえるのか?」

「……灰原さんから聞いたんですね。あまり彼はお喋りではないので、そこまでは」

 

 実のところ、肉体君は割と頻繁に寝ているのだ。

 強い衝動を受け流すために眠りに逃げているのだと思われる。

 私は魂の優先権でもって本能を無視できるが、彼はそうではない。

 封じられた衝動をやり過ごすためには眠るのが一番手っ取り早いということなのだろう。

 

 本来の運用は基本寝かせておいて、必要があれば起こしてコマンドで制御、という形だったのだと思われる。

 

 コナン君は「そっか」とだけ言って陰鬱に俯いた。

 

「ところで、お前もさっきのコンサート。音がズレてたの気づいたか?」

「ええ。パイプの一つに異常があったのか、低かった印象です。それと関係があるのかわかりませんが」

 

 そう言って、私は視線のみで天井近くに設置された謎の機器に目を向ける。

 

「あれ。甘い化学臭、ジメチルジニトロブタンかと」

「な……プラスチック爆弾の探知剤!?おい、他に爆弾はあるか!?」

「少なくとも26個はあると思いますが、この外周フロアだけの話です。他出入り口付近はもっとあるかもしれません。ただ、目視確認できたのは三つだけです」

 

 「この爆弾も、見上げるだけで本当に爆弾かどうかの確認はできていません」と私は締め括った。

 

 柱は24本。

 それを爆発させるための爆弾が同じく24個。

 犯人に気づかれないように解体するとなると、かなりの手間になるに違いない。

 コナン君が舌打ちして駆け出した。

 

「っ、……お前は警察に連絡してくれ!俺は秋庭さんを保護する!」

「わかりました。お気をつけて」

 

 コナン君が一人で勢いよく建物の外へと出ていく。

 彼も何か心当たりがあるのだろう。

 

 まだ18時からのコンサートには時間がある。

 客も来ていないから、警察もやりようはいくらでもあるはずだ。

 

 取り出すのは高木刑事の直通の電話番号だ。

 鬼ほど忙しい捜査一課の面々の中で一番繋がりやすいから重宝している。

 

 仕事を増やしてすまん!という気持ちで電話をかける。

 一応電話は一旦その場を離れてからにした。

 あまり立ち止まって万が一犯人に見つかったら爆破されてしまうかもしれないしな。

 

 いつも通り、ややのんびりとした声の高木刑事が応答してくれた。

 

「すみません、高木刑事ですか。阿笠です」

『どうしたんだい宙君。また何か気づいたことがあったのかい?』

「堂本音楽ホールに爆弾が設置されていました。確認できる限り三つ。それらしいのみで確認できていないものが八つ。至急爆発物処理班をお願いします」

『え、えええええ!?!?!?』

 

 バタバタバタバタ、と何か慌てて駆ける音と「警部!警部!!」「なにぃ!?本当かね!?」という目暮警部の怒号。

 またガサガサバタバタという音の後、電話先は目暮警部に代わったようだ。

 

『目暮だ!宙君、爆弾があるというのは本当なのかね!?』

「はい。三つは確認済みで、何か特殊な通信機器のような仕掛けがありました。時限爆弾とも違いそうで手が出せません。他に天井に張り付いていて確認できないが、怪しい機器が八つ。小型基盤が取り付けてあり、遠隔で爆破できるかもしれないので爆発物処理班を入れる時注意する必要があるかもしれません」

『………!!!』

 

 目暮警部は絶句したようだ。

 一応追加情報も付け加えておく。

 

「この堂本音楽ホールで18時からコンサートが予定されています。僕もそのコンサートで来ていました。客が来る前に対処すべきかと」

『今すぐに爆発物処理班に連絡を入れる!我々もすぐにそちらに向かおう!』

「ありがとうございます。到着し次第、爆発物疑惑のあるものの場所をご案内します」

 

 電話を終えて、出入り口で待機する。

 蘭ちゃん達はお昼ご飯に行っているらしく姿は見えない。

 今の所人通りはまばらで、今ならば被害は最小限に抑えられそうだ。

 

 警察車両が到着したのは十分後だった。

 サイレンを鳴らさなかったのは犯人を刺激しないための配慮だろう。

 静かに車が到着し、中から大きなボストンバックを手にした私服の男性がいく人か。

 もしかしたら爆発物処理班かもしれない。

 

 目暮警部が先頭車両から降りて、鋭い目つきで私を見た。

 

「阿笠君。すまないね、案内を願えるかな」

「はい、こちらです」

 

 まず、一番確認しやすい位置にある爆発物のところに連れていく。

 処理班の人がさりげなくバッグを下ろし、中から工具を取り出して軽く外部を確認した。

 

 そして冷や汗を一筋、目暮警部に目配せして頷いた。

 目暮警部が帽子を目深に引き下ろす。

 

「ありがとう。他のものの場所も教えてくれ」

「パンフレットに簡易地図がありましたので、そこに印を打ちました。これをどうぞ、案内します」

「助かる。君は冷静で、まるで工藤君のようだな」

「まさか。僕ではこの程度が限界です。かの高校生探偵、日本警察の救世主の足元にも及びませんよ」

 

 まさに、私は分かっていることを伝えているだけだ。

 降谷零たる本体ならば十分に動けるだろうが、どちらかといえば彼は組織人。

 粛々とした連携と部下への指示を得意とする人である。

 工藤君のようなたった一人の賢者、救世主とは立ち回りが異なる。

 

 佐藤刑事がやや表情を緩めて笑顔を作った。

 

「ほんと、頼りになるわ。将来警察官になる気はない?」

「実は第二志望です、警察官。でもなれるかどうかは話が別なんですよね」

「何言ってるの。成績良しに身体能力抜群。落ちる道理が無いわよ。どうせならキャリア組でも目指してみなさい」

「どうしましょう佐藤さん、将来阿笠君が僕らの上司になったら」

「いい上司になりそうじゃない?白鳥君が先輩になるのかしら」

「ふむ……待っているよ、頑張りたまえ」

 

 白鳥警部に面白そうな顔をされて、私はペコペコ頭を下げた。

 どうせ私の身の上で警察など夢のまた夢だが、夢を語るのは悪いことでは無い。

 少しだけ明るい気持ちになって、思わず笑顔が溢れた。

 

『馬鹿馬鹿しい。虚しくなるだけだ。憎らしくなるだけだ。できもしない夢を語って、傷が開かないとでも言うつもりか』

 

 なんか肉体君が臍を曲げているが、それは仕方ないだろうに。

 というか言い回し的に肉体君も警察官には乗り気だったのか。流石はあむぴの血を継ぐもの。

 

 ともかく全ての爆弾を知らせ終えることができた。

 

 怪しい箇所として他の柱の周辺も教えておく。

 怪しいというだけなら大して根拠もいらないから、匂いのあった場所を片っ端から伝えるだけだ。

 

 爆弾の確認は処理班に任せておけばいいから、私は昼飯を食べにいくとしよう。

 目暮警部がふうと大きく息をついて肩を落とした。

 

「わしは堂本氏と譜和館長に話をつけてくる。コンサートは中止してもらわねばならんからな。君もご苦労だった。早く避難して…」

「お気をつけて。この爆弾はどうも、内部の設計に詳しいものの犯行です。責任者の中に犯人が紛れ込んでいれば、その場で爆破されます」

「!!!」

 

 目暮警部が迫真顔で「むううう」と唸った。

 そこからは政治と交渉の話だから私の出る幕ではない。

 公安降谷零の頭脳が「別に説明などせず『捜査上の都合でコンサートは中止しろ』でいいでしょう」などと考えている。

 おいおい、そんなだから目の敵にされるんだぞ公安。

 

 ともかく、私の仕事は終わった。

 そろそろコナン君達の動向を確認せねば。

 

 堂本音楽ホールを出て、ごそごそとポケットから犯人追跡メガネの予備を取り出す。

 これで縦横無尽なコナン君の後を追うことができるはずだ。

 こういう時の彼って推理に集中して電話出ないからな。

 

 位置を確かめるとそれは近くの川のど真ん中を指し示した。

 ん?川の上?

 

 そういえば原作で犯人に気絶させられて川流れの刑に処されてたような。

 

「コナン君!?!?!??」

 

 私は慌てて救助に向かったのだった。

 





・捜査一課
何も知らない。
阿笠宙を「将来有望な頼りになる高校生」として見ている。
後輩として一緒に仕事をすることになったら嬉しいな。

・文明制圧型生物兵器「アストロ」
通称クローン。
人型の頭脳体たるクイーンをトップに据えた最高傑作。
一つの文明を制圧、支配することを目的にデザインされた。
……完璧な生命は寿命に縛られてはいけない。だがどうしても機構を詰め込むと短命になる。
そこにどう組織のお題目たる「永遠」を組み込むかが課題だった。
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