あれから、なんとか警察の奮闘によって爆弾は解除され犯人も逮捕された、
私がコナン君を救助してから、彼が工藤新一として警察に策を授けてくれたのだ。
うまく関係者を騙しつつ犯人逮捕に漕ぎつけたのは工藤新一の助言があったからこそ。
流石、コナン君の頭脳は凄まじいものよ。
私も目一杯捜査一課の面々に褒められて鼻高々だ。
心なしか肉体君の機嫌も良さそうである。
さて、そうして日常に戻った本日夜。
コナン君が珍しく人目を忍んで阿笠邸へとやってきていた。
灰原さんと私が地下の実験室に詰めている間にコソコソと声を顰めて会話しているので、私たちに聴かれたくない内容かもしれない。
ちなみに、今の私たちは「手足」の知能の実験の最中である。
「手足」はそこそこ賢い。
こんなダバダバした見た目だが、お手もお座りもすぐに覚えた。
私が餌の生肉を手づからあげると、「ギギギ!」と言って喜び舞い踊ったものだ。
今回はテストのためにクイーンとしての特殊な通信網を使わず、口頭のみでの指示での実験だ。
「手足」は戸惑ったようだが、何度も根気強く教えることで理解したようだ。
「お手」と言えば、ギチギチ鳴きながら恐る恐る私にたくさんある手を乗っけた。
私は「手足」の頭をたくさんヨシヨシしてやった。
すると「ジャッジャッ!!!」と変な声で鳴いて、「手足」は喜んだようだ。
通信網から喜びの気持ちが伝わってくる。
撫でられると嬉しいらしいぞ、この生き物。
わからん……もっと撫でるに足る見た目をしててくれよ。
灰原さんが記録を取りながら頷いた。
「やっぱりこの子達はあなたの言うことしか聞かないみたいね。私では、餌を使っての教育も受け付けない」
「でも鏡像認知もあるので結構賢いですね。迷路も一瞬で解きますし」
「人間を宿主に孵化した時が怖いわ。ベルモットの中の幼生、ちゃんと管理しておきなさいよ」
「定期的に会って確認はしていますが…頻度を増やしましょう」
そんな会話をしている間にも、上で密やかな話し合いが続いている。
どうやらアイリッシュが動き出したらしい。
コナン君がベルモットに教えてもらったようで、彼はそれを追うつもりとのこと。
なんか最近はベルモットも開き直って「貴方みたいな化け物が守ってるんですもの、クールガイには組織もそうそう手が出せないわ」とか言ってるんだよな。
ただ意図せぬ感染には気をつけろと口酸っぱく注意されてはいるが。
ベルモットさん、変な寄生虫脳に入れられたにしてはとてもおおらか。
と、よそごとを考えていたら「手足」が私の手に顎を乗せた。
「ギギギ」
「あら、もっと撫でてほしいみたいよ」
「こいつ強欲ですね。仕方ない、鶏肉がどっちの手に入ってるか当てるゲームをしましょう。ほうら………はずれ。コイツ鼻悪いです」
「ギ」
手足はしおっとして項垂れた。
エイリアンがしおっとしても可愛さは横ばいである。
七夕が近い。
もうそんな時期になるのか、と感慨深い気持ちになる、
すなわち「漆黒の追跡者」が始まるのだ。
そのように、少しだけ私は目を細めた。
翌日から、コナン君は学校を休んで阿笠博士と事件現場を確認しに行ったようだ。
組織が関わっているということで、彼の気合の入り方も違う。
私は普通に高校である。
部活もあるし一学期の期末テストももうすぐだから、休むというわけにもいかない。
テストは余裕だが、現在はテニス部で手加減を身につける方が難航中だ。
私は筋力が人間のはるか上だし、各種身体能力も同様である。
大会に出ずお茶を濁す程度の成績を取り、かと言って鈍臭すぎない程度にするのは一瞬たりとも気が抜けない。
ちなみに、園子ちゃんはそこそこの成績をキープしている。
いずれ京極さんとテニスデートするらしく、青春を謳歌しているようだ。
良いことよ。
さて、練習を終えて夕方。
私が阿笠邸近くのオフィス街裏を歩いているときである。
背後から、聞き覚えのない声がかかった。
「バーボンの関係者がこんなところをうろついてるとはなぁ。まあ、ラッキーだったと見るべきか」
近道にビルの間を通ったから、そこを好奇と見て話しかけてきたのだろう。
付けられていることは分かっていたので、あえて人通りの少ない道を選んだのだ。
振り返ると、背後には特徴的な大男が立っていた。
ガタイがよく、どこか熊に似た大柄な体躯を誇る。
組織幹部アイリッシュだ。
私は振り返って静かに問いかけた。
「組織の方ですか。僕に何かご用でしょうか」
「ほう、知っているのか。なら分かっていると思うが、足の引っ張り合いは業界の常でな。あの男の弱みを握れる機会を逃す手はねぇんだ」
悪く思わないでくれ、とアイリッシュは私に銃口を向けた。
艶消しされた鈍い光が赤い夕日を反射している。
私はゆるゆるとホールドアップの体勢を取った。
両手をあげて、無抵抗を示す。
アイリッシュがせせら笑った。
「ところで、工藤新一とは親しいらしいな」
「そうですね、ある程度は。ですが何故組織の人間が工藤新一の話を?」
「ジンに殺されかけた工藤新一を、お前が手引きして小学生の身分として誤魔化してやったのか?」
なるほど、もう江戸川コナンが工藤新一だとバレているのか。
今のアイリッシュは警視庁捜査一課に潜入していて、その会話からコナン君の特異性を把握したんだったか。
隠しても無駄だということは分かったので、正直に情報を開示する。
「いいえ、彼は自分で基盤を整えました。むしろ僕が、彼に助けられて身分を誤魔化している状態です。それにしても…」
「なんだ?」
「いえ。彼の話によると鉄パイプで殴られて薬を飲ませられてから、放置されていたのだとか。死体処理もしないとは、ジンとやらも杜撰な仕事するんですね」
「はっ、あの野郎の仕事はいつものことだ。爆破するだけして放置して帰ってきやがる」
「どうもあなたはジンに恨みがありそうだ。いや、裏社会の人間同士、因縁のない方がおかしな話か」
「まあな。殺し殺されはいつものことだ。バーボンに似てなかなか頭の回転も早ぇようだな」
一応好意的な意見を引き出すことができたようだ。
とはいえ、ここから私を見逃す道理は無い以上手の打ちようは無い。
劇場版の流れでは、この男はジンによって命を落としたはずだ。
コナン君の正体は闇に葬られ、元あった平穏が戻ってくる。
だが、時と場合によって展開が揺れ動くことは実証されている。
であるならば、コナン君に危害が及ぶのを避けるために何か手を打つ必要がある。
私に関しても、狙われれば灰原さんと阿笠博士の身が危ないのだし。
一番手っ取り早いのは、ここで幼生を埋め込むことだが。
二度とやって欲しくないって灰原さんにもコナン君にも止められてるから難しい。
幼生埋めて口止めして放流が一番面倒が少ないんだがなぁ。
いや、パンデミックの危険性を無視したらまずいか。
でも体感、洗脳に特化させた幼生が感染力を持つことはないと思うし、心配いらないんだが。
悩ましいことだ。
『憎らしい組織の男。悍ましい傲慢の塊!僕らの手で幼生を産みつけ、その頭蓋から大きな手足を生み出しましょう。大都市に化け物を放ち、地獄に変えるんです』
なにやら肉体君がズモモモモと怒りの声をあげている。
別にただの組織員をそこまで恨むことないのに。
半分以上八つ当たりじゃないか。
どいつもこいつも面倒なことだ。
ともかく、制圧して連れ帰るのが一番良いか。
この時間帯なら酔っ払いの介抱に見せかければ通行人に見られても問題ないだろう。
私は顔を上げてアイリッシュを見た。
「お聞きしたいのですが、僕をどうする気ですか。できれば五体満足で居たいのですが」
「そいつは悪いが聞けない問題だ。足を折って箱詰めするからな。飯はやるから心配すんな、多少の辛抱だ」
「バーボンの返事があまり色良くなかったら?」
「そりゃ勿論廃棄だな。運が悪かったと思って諦めな」
うーむ清々しいほど組織幹部な回答だ。
まだ人質として使えると決まったわけでもないのに攫うとか、人の命をなんだと思ってるんですかね!!!
まあ、箱詰めにされるわけにはいかないので行動は決定した。
私はため息をついてほんのわずかに重心を移動する。
生物兵器さんの本領発揮といこうではないか。
よっこらせ。
「ッ!?!?」
発砲より先に拳銃を叩き落とし、そのままハイキックで意識を刈り取る。
よし。
今日の獲れ高は組織幹部一匹。
灰原さんに褒めてもらって、あわよくばリワードを貰うんだ。
意識の失せた男の体をずるずると引きずって、阿笠邸に帰還する。
でもホントどうしようかなこれ。
幼生は埋め込めないし、コナン君の正体を知った以上放流もできない。
必要なくなったら手足用の餌にするぐらいしか使い道がないんだけど。
人間孵化実験には使えるかな。
ピスコの件を引き合いに出して寝返らせる……難しそうだ。
うむむと考えながら、私は夕闇を背に歩き出したのであった。
・「手足」兵士型
クイーンの前でのみイッヌの魂がインストールされる。
風呂に入れるとしょげる。
鶏肉にも食いつくが、本当はクイーンの隣にいつもいる柔らかそうな肉が欲しいと思ってる。
・ベルモットさん
幼生を通してクローンの抱くコナンへの深い思慕が伝わってきたので「流石クールガイ、生物兵器すらたらし込むってわけね」と大満足顔になっている。
わかる…光属性すぎてしんどいのわかる…(限界厄介ファン)