獲物を持ち帰ったら灰原さんに驚愕されたなり。
アイリッシュ一匹という私の収穫物を自慢げにお披露目したわけだが。
仰天されて、そのままコナン君も緊急招集がかかり、流れるように家族会議がはじまった。
その辺に放り出したアイリッシュの横で私は正座をしている現在である。
なんでや……大きい獲物取ってきたのに……。
飼い主の枕元にネズミの死骸を置いた飼い猫みたいな反応された……。
速やかにアイリッシュは完全に武装解除されて、今はグルングルンに縛り上げられている。
悩むコナン君に、私は許しを乞うべく言い募った。
「この男はコナン君の正体に辿り着いていました。コナン君の周辺関係も調査していたようですし、灰原さんの正体に気づくのも時間の問題だったでしょう。生かして帰せません」
「………捜査一課で俺の話を聞いて調べたのか。宙はなにか危害は加えられてないか?」
「拳銃を向けられましたが、撃たれる前に意識を落としました。これ、アイリッシュが持っていた拳銃です」
「お前が撃たれなくて良かったよ。よくやったな」
やったぜ。
ひとまず褒められて私は満足した。
しばらくすると、アイリッシュは目を覚ました。
念のため場所は物置も兼ねた地下室で、阿笠博士と灰原さんは別室で盗聴器越しに話を聞いてもらっている。
アイリッシュは素早く身構えようとして、それができないことに気付き嘆息する。
勝敗が決したことが理解できたようだ。
「やるな、バーボンもどき。俺も油断したつもりはなかったが」
「僕は特別製ですので」
私は胸を張って堂々と答えた。
どや、組織幹部も捕まえられる優秀な生物兵器なんやで。
リワードの一つも与えてええと思わんか。
アイリッシュは私の隣のコナン君へと視線をやり、目を細めた。
「俺をどうする気だ?」
「まず、誰がどこまで情報を掴んでいるのか聞きたい」
「テメェの事情を知ってるのは俺だけだ。こんな美味しいネタ、他の連中に握らせるのは惜しいからな」
「………組織に報告するつもりか」
「ああ。ジンの野郎を追い落とすネタに使うのさ。あの間抜けが殺しをしくじってたと知ったらどんな顔をするか。見ものだな」
くつくつとアイリッシュは忍び笑いした。
正直なことだ。
別にこの内容は正直に話しても構わないと思っているらしい。
コナン君が探るような目つきで問いかける。
「なぜジンを陥れようとする?お前たちは仲間じゃねーのか」
「はぁ?虫唾の走ることを言ってくれるなよ。ピスコを、俺の親父を殺した奴を仲間だと?」
「………父親」
「血の繋がりは無ぇがな。そんなの些細な問題だ。俺は親父に育てられて、全てを託された。返しきれない恩義がある。復讐する理由がある」
その言葉は強固な意志を伴っていた。
ジンを絶対に殺すと、そのように目が確かに物語っている。
そんなに身を捧げられると死者の側も困ると思うんだが。
せっかく次の生を楽しもうとしてるのに心残りができて快適に暮らせない。
まあ、それも含めて生者の自由というものか。
コナン君がごくりと生唾を飲んで向き直った。
「なら、俺たちは協力できるはずだ」
「どういう意味だ?ジン抹殺のための餌になってくれるってか?」
「ピスコを裏切ったのは組織だろう。ジンはその命令を聞いたに過ぎない」
「………」
アイリッシュが押し黙った。
沈黙が部屋を満たす。
静かに、コナン君が口を開く。
「俺たちは組織の壊滅を目指している。協力しろアイリッシュ」
「ふざけてんのか」
「でなければ、俺はテメェを警察に突き出す」
「!」
アイリッシュが舌打ちした。
そもそも、捜査一課のメンバーに成り代わっている最中だ。
それはメンバーの誰かを監禁もしくは殺害しているということとイコールである。
こうして本人を捕らえた以上、その所業は調べればすぐに明らかになるはずだ。
そして警察に捕まったアイリッシュを、ジンは生かしておかない。
元々アイリッシュのことを疎ましく思っていただろうことは明らか。
余計なことを口走る前に始末するのは間違いない。
それを分かっていないコナン君では無いはずだ。
これは遠回しな死刑宣告に違いなかった。
私が慌てて口を開く。
「コナン君、僕が……」
「お前は動かなくて良い。俺がなんとかする」
全てを言い切る前に、コナン君が私の言葉を押し留めた。
私の幼生を使えば、死者を作ることなく完全な支配が可能となるはずだ。
だが私に幼生を使わせるより、コナン君が遠回しに死者を出した方がマシだと思っているらしい。
これはとても奇妙なことだ。
殺人はコナン君自身の主義に反するはずだからだ。
何故それほどまでに幼生の使用を制限するのか、説明がつかない。
私に、組織の研究者と同じ非道を犯させたくない?
アイリッシュを殺させずに守り切るつもりがある?
あるいはその両方か。
私が想われているのは、きっと間違いない事実であった。
しばらくの睨み合いの後。
アイリッシュは肩を落として降参の姿勢をとった。
「いいだろう。俺に選択肢は無ぇようだしな。テメェの口車に乗せられてやるよ」
「……ああ」
「しかしとんだ甘ちゃんだな。俺が裏切れば飛ぶのはテメェの首だって分かってんのか?」
「ピスコの一件で、奴の死の直前まで一緒にいたのは俺だからな。少し、思うところがあっただけだ」
「!!!!」
アイリッシュが目を見開いて、思わずと言ったように口を開いた。
「親父は何か言ってなかったのか」
「その時は敵同士だったし、情の含んだ会話はなかった。だが、多少の想像はつく」
滔々と口から流れ出たそれは、推理であった。
ピスコはある意味、推理によって死なせてしまった犯人でもあったのだろう。
遠い懺悔を含むような声で、コナン君の推理は進んでいく。
「あんな状況下でタバコを吸ってた。急いでいたのにタバコを離さなかった。スピリタスにも気づかず吸い続けるほど動揺してたんだ。平静を装おうとしてた」
「………」
「たぶん、多かれ少なかれ覚悟はしていたと思う」
「ッ!」
「ピスコは国内有数の自動車会社会長だった。それほどの立場にある人間が、暗殺なんてリスクのある任務を任されるはずがない。それを任されて、その言葉の裏にある死ねというメッセージを汲み取れない人間が、組織で長年生き残れるはずがない」
アイリッシュが息を呑んで、愕然と目を見開く。
それでも迷いなくピスコが議員の殺害に踏み切ったのは、そこに紛れもない忠誠があったからだ。
あんなに勇み足で灰原さんを捕らえたのも、藁にもすがる思いだったのかもしれない。
これをもって功績として組織に居続けようと考えてなんらおかしく無い。
コナン君は目を伏せて、そのまま結論を述べた。
「死の間際までピスコは組織に忠誠を貫いたんだ」
「ッそこまでの忠誠を先に裏切ったのは一体誰だ!?親父は人生を賭して組織に尽くしたんだぞ!どれほどの貢献があったと思っている!それを……!」
血を吐くような絶叫をアイリッシュが吐き捨てた。
よほど慕っていたようだ。
まあ、悪人にだって親しい人ぐらいいる。
裏切れば恨みを買うのは当たり前か。
だが理不尽に殺してきたんだ。
理不尽に殺されもするだろう、というのが個人的な意見である。
あまり熱くなってもその辺はしょうがないと思うんだが、みんなままならないものだ。
アイリッシュは憎悪を思う存分吐き出した後、肩で息をしてからゆるゆると俯いた。
結論は出たらしい。
「ほとほと愛想が尽きた。ジンの野郎ののさばる場所に未練はねぇよ」
「まあ、僕らも復讐者の会みたいなものですから、会員資格としてはちょうど良いかと。今後はベルモットの下に送り込んで変装させたまま過ごしてもらいましょうか?」
私の言葉に、コナン君が同意して頷いた。
「そうだな。この辺には置いとけねぇし、アイリッシュだって動きたいこともあるだろうしな」
「ああ?あの魔女をだまくらかそうってのは無謀じゃねえのか」
「彼女も復讐者の会の会員ですので。僕から連絡しておきます」
「はぁ!?まじか!?!?」
目を剥いてアイリッシュは叫んだ。
コナン君が「その復讐者の会って呼び方やめねーか?」と困り果てている。
でも実際適当な呼び名なんだよな。
組織被害者の会でもいいけれど。
現会長はコナン君で決まりである。
「ところで捜査一課の誰に化けてたんだ?本物は生きてるんだろうな」
「米花の森の山小屋に監禁してる。飯は渡してあるから生きてるとは思うぜ」
「っすぐに救助に向かおう!宙、お前も来い!」
というわけで。
新たな仲間を迎え入れて、私たち復讐者の会は再出発を果たしたのであった。
・その頃の昴さん
阿笠邸に野生の組織幹部が運び込まれてスコッチ吹いてた。
流れるように仲間を増やして「流石ボウヤだ(???)」ってなってた。
そんな簡単に獲得工作って成功するのか…。
・復讐者の会
勝手にクローンが立ち上げた互助会。
赤井さんもさらりと加入者カウントに入ってる。
今加入で阿笠博士特製探偵バッジがついてくる!