降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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風見の見るもの

 

 キャンプから帰還後、私はいつも通り買い出しに出ていた。

 

 今日の夕飯を何にしようか考えつつ、うきうきのお買い物である。

 冷蔵庫の具材を考えつつパズルのように美味しいものを考えるのが楽しいんだよな。

 前世はただ面倒なばかりだったが、この体はポンポン美味しいものが浮かぶのでスペックの違いを感じざるを得ない。

 

 そんなふうにマイバッグを持ってフラフラ道を歩いていると。

 

「少し、いいだろうか」

 

 不意に前方に現れた風見さんが、行く手を塞ぐように威圧的に声をかけてきた。

 お巡りさんだと知っていなければ通報していたところだ。

 

 どうも家の周りを彷徨いていて、私の跡をつけて来ていたのはわかっていた。

 先回りするとは、よほど話したいことがあったらしい。

 

 しかし、どうしたもんか。

 

 私は少しばかり思案した。

 このタイミングで風見さんが私に声をかける目的が見えないからだ。

 安室さんがいつまでも動かないから、私の保護のために独自に動き始めてくれたのか。

 

 とはいえ、私の身の上で保護されると少々困ることになる。

 公安としては死んでくれとしか言えないし。

 保護されたまま私の生態隠し通すのは難しい。

 

 ともあれ私は慎重に言葉を選んで返答した。

 

「こんな場所で話せることはそう多くありません。もしお話がしたいなら、貴方のおすすめの場所は近くにありますか?」

「………この先に公園がある。そこで話そう」

 

 そう長話はしないつもり、と言うことらしい。

 私は案内に従って彼について行った。

 

 夕方だが、あまり子供のいない公園だ。

 ボール遊びが禁止で遊具も少ない。

 騒がしさもないので、多少話をするにはちょうどいいと言うことか。

 

 ベンチに座って、風見さんはこちらを見ないまま話を切り出した。

 

「私は飛田という。君は彼からどの程度話を聞いている?」

 

 名詞を出さない徹底っぷりにはおもわずおお、と感嘆した。

 私が「誰のことか」と聞くかどうかも含めて反応を見ているのだろう。

 

 私は正直に言葉を返した。

 

「何も。貴方の仕事仲間は、僕に何も話しませんでした」

「っ!?それをどこで」

「そこまで慎重に言葉を選ぶスーツ姿の人間ならば、彼のお仲間であることぐらい誰でも想像がつきますよ」

「知っているのか」

「ええ。とはいえ別口で知る機会があったので、無理やりに口を割らせただけですが」

 

 きっと私に記憶があると教えなければ、絶対に自分から公安警察であると明かそうとはしなかっただろう。

 だからあれは、安室さんに真実を告げることを無理強いしたに等しい。

 

 風見さんが驚愕にのけぞった。

 

「な……口を割らせた!?彼をか!?」

「彼は決して自分からは話そうとしませんでした。僕が無理やり白状させたに等しい。彼の口は堅かったと保証します」

 

 勘違いされるといけないので、私は繰り返し降谷さんの口の硬さを説明した。

 動揺する風見さんを前に言葉を続ける。

 

「僕は多少特殊な立場にある。例の組織についても、知識だけならあなたよりも多いでしょう」

「………まさか、取り込まれていたのか?」

「僕は組織生まれですから。ああもちろん、だからと言って忠誠などありませんよ。彼を売るなどもってのほかです」

 

 彼の顔色に急りが見えたので、慌てて言い訳する。

 言葉で言って信じられるようなことでもないが、言わないよりはマシだろう。

 

 組織生まれ組織育ちの純正培養生物兵器、それが私である。

 なお忠誠心はゼロ。みんなぶっ壊してやんよ。

 

 私は肩をすくめて舌ベロを回した。

 

「だから米国に『腐ったリンゴ』と呼び称される女性も、僕に接触してきました」

「!!!……それは」

「僕の身を用いて彼を脅そうとしたのでしょう。彼は無関心を貫いたので、その場は凌ぐことができました」

 

 風見さんが激しく思考している。

 それが顔に出るあたり、安室さんより脇が甘い感じだ。

 安室さんは交渉ごとになると喋るための回路と熟考するための回路が別に設けられるらしく、ずっと喋ってるし。

 なお、ベルモットには「おしゃべりな男」と嫌われているものとする。

 

 風見さんが困惑の顔で私を見た。

 

「何故彼は君を放っておくんだ」

「僕の存在が、組織にとってもあなた方にとっても都合が悪いからです」

 

 都合が悪い、という大雑把な言い方ではとても表しきれない害悪が私である。

 が、表現として間違ってもいないだろう。

 

 私の存在は都合が悪い。

 それは人類にとって、と表現してかまわないほどに。

 

 風見さんは私の言葉の裏を考えているようだ。

 有力政治家の妾の子とか、警察の不祥事をめぐるあれこれ陰謀とか。

 良くない想像をぐるぐる巡らせているらしく、顔色があまり良くない。

 

「どう言う意味だ」

「彼があなたに説明していないなら、僕もそれをお伝えすることはできません。でも、彼の動きが鈍いのは彼のせいではない。彼を迷わせているのは僕の存在そのものですから」

「………」

 

 風見さんは迷って、それでも真っ直ぐに私に語りかける。

 

「だが、どんな理由があろうとまだ君は未成年で、高校生の子供だ。大人の都合でこんな危険に晒していいものではない」

「………優しいんですね」

「我々の理念は、君たちのようなものを守ることにある。その上で、私はあの人の指示に従う。恨んでくれていい」

 

 風見さんは頭を下げた。

 

 すごく誠実な人だ。

 適当に誤魔化すことも、お茶を濁すこともいくらでもできただろうに。

 優先するのはお前ではなく上司の指示だと、そのように私に伝えた。

 そしてその上で、きっと上司に嘆願するのだ。

 どうか助けてやりたいと。

 

『くだらない。ただの自己満足だ。面と向かって何様のつもりだ?組織の犬め、その肉を引き裂いてやるぞ』

 

 なんか捻くれた肉体君がモゴモゴ言っているが無視。

 私は笑顔を彼に返した。

 

「構いません。貴方達が日々懸命に仕事をしているのは十分にわかっています。そんな貴方達の姿に、憧れることもあります」

「………」

「どんな結末になろうと、僕は貴方達を恨むことはないでしょう。どうかご自愛を」

 

 それだけ言って、私はぺこりと頭を下げて立ち上がった。

 彼は明らかに疲れていて、目に隈も拵えている。

 いく日もろくに休息がとれていないのは明白だった。

 

 風見さんは実に情けない顔で右手をあげかけた。

 私を呼び止めようとして、そのまま尻すぼみに言葉を小さく消してゆく。

 ただぽつねんと、彼は迷子のように公園に突っ立ったまま私の後ろ姿を見送った。

 

 機嫌が悪かったはずの肉体君がははぁん?とニヤニヤした雰囲気を出し始める。

 

『なるほど、恨んでいないと言う口で儚さを全開にすることで、相手への精神攻撃とするということですか。僕も学ぶべき点が多いですね』

「違いますけど。純粋に風見さんに休んで欲しかっただけですけど」

『あれでは単に罪悪感による寝つきの悪さをプレゼントしただけですよ。人の心を一山いくらで叩き売りしたんですか貴方。早く買い戻したほうがいいですよ』

 

 はちゃめちゃに悪口を言われ、私は憮然として頬を膨らませた。

 

 いや徹頭徹尾私は風見さんを心配しての言葉なんだよこっちは。

 どうしてあれで寝つきが悪くなるのか。

 

 私は色々言い訳したが、全部「ふーん」「そうですか」「人の心がない」などと流されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 電話が来たのは、阿笠宙と別れた直後であった。

 

 非通知のそれに躊躇いなく電話を取る。

 それは上司からのものであった。

 

『風見』

「は、はい。どうかされましたか降谷さん」

『あの子に接触したな』

「!!!!」

 

 一体どこから見ていたのか、いつから見ていたのか。

 思わず辺りを確認するが、それらしい姿は確認できなかった。

 降谷零が本気で隠れているのなら、自分に見つけられるはずがない。

 

 風見は突っ立ったまま慌てて謝罪を口にした。

 

「すみません。独断行動でした」

『あの子は何を喋った』

「ほとんど何も。私が立場を伏せたことも貴方の名を出さなかったことも含めて、全て察していました。とても賢い子です」

『だろうな』

 

 自他共に評価基準の凄まじく高い上司にしては、手放しで褒めるようなことを言うものだ。

 身内の情で評価を甘くするような人ではないことは十分にわかっている。

 それだけ、阿笠宙のことを高く評価していると言うことだろう。

 

 風見は少し迷ってから、印象的だった言葉を告げた。

 

「彼の意図はわかりませんが。『どんな結末になろうと我々のことは恨まない』と、そのように口にしていました」

『…………』

 

 頭の回転の速い上司にしては長い沈黙の後、囁くが如き小さな声が耳を打つ。

 

『あの子は警察官になりたいらしい。憧れているのだと言っていた』

「ですが彼には日本国籍がありません。それは難しいのでは……」

『それ以前の問題だ。僕らが彼を、いや、なんでもない。忘れろ』

 

 いつになくやけに饒舌だ。

 用件を手短に確実に伝える彼にしては、あまりにも口数が多い。

 まるで喋っていないと耐えられないかのように早口で、彼の精神状態が常にないことを知らせてくる。

 

 やはり、降谷零も彼のことを気にかけているのだ。

 気にかけた上で動けない何かがあるのだ。

 

 風見は一歩、核心へと踏み込んだ。

 

「彼には特殊な事情があると言っていました。そのために我々にとっても組織にとっても彼は疎ましいものであるのだと。その事情を、お聞きしても構いませんか」

「………………」

 

 次の沈黙は長かった。

 「君が知る必要のないことだ」でもない。

 「タイミングを見て近いうちに話す」でもない。

 ただ不安になる程の空白は、降谷が迷っていることの証左であった。

 情報の扱いに長けた彼がこれほどまでに迷うほどの事情があるのか。

 

 風見は後悔して前言撤回した。

 

「いえ、失礼しました。出過ぎた真似を、」

『三日後の23時、川品コンテナ埠頭。耳は確実に排除しろ』

「!!!……っ、はい」

 

 それっきり、通話はぶつりと切れた。

 信頼されていると言う実感が胸に響く。

 

 たくさんの重荷を背負う上司の、できる限りの力になろう。

 そのように思って、風見は改めて決意を拳に込めたのであった。

 





・風見さん
これから地獄みたいな話聞かされる可哀想な人。

・降谷さん
信頼して話すと言うよりもはや縋ってる域。
もうどうしようもなくて結論が出なくて、ノープランでぶつけるように打ち明ける人。
普段なら話すはずがないが、思考停止してダムが決壊した。
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