敵は全員で七名。
これには船員・乗客として潜り込んだ人数も含めるとする。
まず一人目はノコノコ子供を探してやってきたので、上から襲撃して首をこきりとな。
もちろん殺してはいないが、予後は保証しないものとする。
二人目は一人目と一緒にやってきたので、コナン君がサッカーボールぶつけてKOした。
頭から鉄柵にぶつかっていて、こっちこそちょっと命を危ぶまれるんだよな。
二人ともロープを携帯していたので、武装解除した後柱に念入りにくくりつけておいた。
その途中無線機から通信が入ったので、男の声を真似て三人目を誘き出すこととする。
私の声真似の「ガキの一人が逃げた」という言葉を鵜呑みにしたらしい。
慌てて補助員として来た三人目を昏倒させる。
で、無線機をとって元太君達の声の真似を披露。
「なんだ?このおっさん急に転けちまったぞ!」
「この辺入り組んでますからね」
「起きないよ?どうしよう…あっちのしっぽの部屋にいこうよ!」
「なんでしょうこれ?あーあー!通じませんね?」
と、わざとらしく無線機を振ってやるおまけ付き。
向こうは不慮の事故で三人目がやられたと思うことだろう。
コナン君が呆れたような顔をして私の背を叩いた。
「お前、キッド顔負けの変声術だな!」
「声の真似だけですよ。変装などとてもとても。ですが知恵がある分手足よりかは効率的でしょう。歌って踊るだけが能ではないので」
「というかお前、あの動画消したか???」
コナン君が言ってるのは、私が手足を躾けて歌って踊らせた件の動画だろう。
手足がお腹が空くとTWO-MIXの歌を歌うようになったのは前のことだったが。
それに合わせて踊るように躾けてみたのだ。
最近ではちゃんとバタバタ踊るようになったので、一番上手く踊れたやつには追加の鳥肉もあげている。
一番いい出来の踊りは動画に撮って保存してあって、時々眺めて満足感に浸っているのだ。
「あの五体連携動画を消せなんてそんな。ピッタリ動きがあっててすごく良かったのに」
「怖ェんだよ!?可哀想だろ一匹後ろで転けそうになってたし」
「あの個体は訓練が足りませんでした。やはり三日制限だとこの程度ですね…」
十日ぐらいびっしり躾ければ軍隊行動も教え込めそうなんだがな。
成熟してきたのか体が膨れてくるやつもいて、何かが起こりそうで怖くて生かしておけないのだ。
ともかく、先ほど不審に思ってやってきた四人目と五人目は捕獲しておいた。
一人は私たちを油断させるためか乗組員の姿だったが、銃を隠し持っていればバレバレだ。
軽く昏倒させて縛り上げてお仕事完了である。
本当は下手に動かれる前に海に捨てると楽なんだが、そうもいかないのが法治国家の悲しいところ。
とはいえ、残るは二人なので楽なものだ。
私は軽く伸びをして嘆息した。
「さて、あとはもう簡単には出てきてくれそうにはなさそうですね」
「スカイデッキに誘い込もう。ところ構わず乱射されたら手数の少ない俺たちの方が不利だ」
ピッピッピ、と小さな通信音。探偵バッジに着信があったらしい。
コナン君が「どうした?何かあったか!」とやや急の含んだ声で呼びかける。
『コナン君、飛行船から煙が出てます!』
「なんだって!?今どこにいるんだお前ら!」
『ハッチを開けた上です!何かおかしなものが船に取り付けてあって、そこから真っ白い煙が出てるんです!』
煙が出てる、というの重要な要素だ。
つまり本当に爆破して煙を出す必要はあまりない。
煙が見えさえすればいいということだからだ。
コナン君が眉間に皺を寄せてぼやいた。
「それ自体が目的ってことか。殺人バクテリアを乗せた船が煙を上げながら大都市に向かってくる。その絵面が犯人たちにとって重要なのか」
「でしょうね。それだけで大抵の都市機能は麻痺しますから」
「だが、それで何を成し遂げようとしてるのか……見えて来ねーな」
コナン君が頭をガシガシとかいていると、その横にとすっと猫のように軽やかに降り立った人間が一人。
真白いシルクハットに目の冴えるようなマントが翻る。
月下の怪盗の登場である。
「よ、名探偵」と怪盗キッドはニカッと笑った。
「えれぇ目に遭ったな、名探偵」
「お前何しにきたんだよ。大阪上空はまだ先だぞ」
「あんな息の詰まる場所にいられるかよ!レディ・スカイどころじゃねーし。今盗んで逃げたら怪盗キッドの名声に傷がつくし」
彼は大きな大きなため息をついて肩を落とした。
彼も苦悩しているということらしい。
コナン君はぞんざいな動きで言い捨てた。
「ちょうどいい、これからリーダーを捕まえるからお前そいつに変装して最後の一人を誘き出せ」
「なんで俺が!」
「僕からも頼みます。乗客に変装しているようで、下手に動けないんです」
「………今回だけだかんな。弟子の頼みで仕方なくだかんな」
「弟子?」とコナン君が疑問符を浮かべたので、私は思わずヤッベという顔になった。
犯罪者に弟子入りしたのを知られてしまった!
「どういう意味だよ」
「俺が多少指導してるからな、マジックについて。だから弟子。おわかり?」
コナン君にギッと睨みつけられて、私は明後日の方を向いて聞こえないふりをした。
ひゅーるるるる、なんのことですかねー。
「静寂の中の飛行船ってロマンチックですよね。ええ」
「おいこっち見ろよ。変なこと学んでねぇだろうな」
「単にマジックだけですほんとです」
キッドからはな。
ルパン三世からは留置所お手軽脱獄法とか手錠の抜け方講座とか受けてる。
最近は金庫破りの基礎100選だった。
ルパン印の動画配信、お家でできる課題付き。
課題は送り返すと採点されて返送される仕組みである。
まだまだ技術が追いついていないのか辛口採点ばかりだ。
それがあむぴの肉体にとって新鮮なのか、やる気に火がつく好循環。
メキメキと上達を感じられて、最近の私の楽しみなわけである。
コナン君は頭が痛いのポーズをして顔を手で押さえた。
「しゃーねーな……こいつのこと頼んだぞ。こいつ、割と危なっかしいとこあんだよ」
「なんか訳アリ?」
「ここだけの話だぞ。こいつ実年齢四歳。俺の反対の事例」
「はぁ!?!?!?」
怪盗キッドは目を剥いて私をガン見した。
私は丁寧にペコリと頭を下げて自己紹介をする。
「子供姿の時も一度お会いしましたね。あの時頂いたキッドカードは大切にとってありますよ」
「え゛、同一人物!?それで高校通ってんのかよ!?」
「なんとか。僕にもいろいろ事情がありまして」
キッドはドン引きで慄いてコナン君に苦言を呈した。
「名探偵、無茶させんなよなぁ。未就学児メイン火力にしてテロリスト制圧すんのはどうなんだよ」
「うっせ。背に腹は代えられねーんだよ」
「僕は満足なのでお構いなく。コナン君の力になれるのは僕の喜びです」
「ほらー、反省しろよ」
キッドの攻撃に、コナン君はくしゃくしゃの顔になって「善処する」と苦そうに口を開いた。
本当に気にしなくていいんだがなぁ。
前世含めたら全然成人だし。
そんな呑気な会話をしつつも、つつがなくスカイデッキに到着。
誘き出したリーダーを麻酔銃で昏倒させて、アンプルを奪って武装解除する。
そうしてキッドが携帯電話を奪い取り「三人捕らえたがそちらに持っていくのに時間がかかる。その間乗客を見張っていて欲しい」と最後の一人に連絡をする。
これで布石は完了。
キッドは悪童のように笑って口を開いた。
「ルポライターの藤岡って人の声だったぜ」
「やっぱりか。いこう、喫煙室に隔離されてるはずだから、通るとしたらあの道だ!」
キッドの変装は鮮やかだった。
くるりと一瞬マントの向こうに消えてから、すぐさま顔を変更して現れる。
そのそっくりな姿は視覚情報だけにとどめれば私でも見抜けない正確無比なものである。
通路上に立つ変装したキッドに、藤岡は騙されたらしい。
「どうした!」と駆け寄ったので、そのまま予定通り気を引く会話をすら。
「予定外のことが起きた。どうやらガキどもがアンプルが偽物だと見抜いたらしい」
「なんだと!?間違いなく始末しただろうな!」
「ああ、間違いなくな………」
その言葉と共に、背後から奇襲すれば任務完了。
藤岡は倒れ込み、あっさりと制圧された。
まあ、抵抗らしきものはしたが、私の筋力はなんとかできるものでもないしな。
そのまま苦しげに藤岡は咳き込み、叫んだ。
「な、なにを…俺は隙を見て喫煙室から出てきただけで、お前にも感染るぞ!」
「甘くて渋い樹脂の香り。漆とかでしょうか」
「!!!」
コナン君がそっと横から近づいて、はたき落とされた拳銃を取り上げる。
「外にわざとらしく煙を出して、街をパニックに陥れることが目的か?」
「いったいなんの話を……」
「さっきの話、あながち嘘でもないんだ。このアンプル、本物じゃないよね?」
コナン君の言葉に、藤岡はくつくつと笑って肩をすくめた。
「どうだろうなぁ、テメェみたいなガキはコロッと死んじまうかもしれねぇが」
「別にどっちでも構わないよ。全員制圧したし、これからデッキの人たちを解放して緊急着陸するんだから」
「…………」
醜悪に顔を歪め、藤岡が私を振り落とそうと体を捻る。
反抗的な人にはお仕置きしちゃうぞ。
そのまま腕を捩じ切るつもりで捻り上げれば、「ギャアアアアア!」と藤岡の叫びが廊下に響き渡った。
そのまま苦痛に呻く彼の耳元に少々囁く。
「動かないで。僕、あんまり酷いことをしたくないんです。……あは、嘘。もっと抵抗してください」
「……!」
ああ、苦痛の悲鳴を浴びるほどに聞きたいと本能が叫んでいる。
殺したい殺したい殺したい殺したい。
私自身は全然そんな趣味ないので困るのに。
本能君は「殺しましょう、皮を剥ぎ取って飾りましょう」と私を急かしている。
戦地で本物の残虐を知っていたからこそ、藤岡は私の本気を感じ取ったのだろう。
そのまま黙りこくって青い顔で俯いている。
コナン君がぴしゃりと私を叱った。
「止めろ宙、こいつは警察に突き出す」
「はい。仰せのままに」
「俺は仕事終わりっと。もうそんな気分でもねーし帰って飯食うわ。お先に失礼しまーす」
キッドがスタコラサッサと逃げていく。
コナン君はそのままデッキの人質を解放しにいくらしい。
私はこの男をキュッと締め上げて意識を落とし、そのまま見張りの時間である。
ぼんやりと馬乗りになったまま外を眺めていると、私のスマホが音を鳴らした。
誰からだろう、非通知である。
「はい、阿笠です」
『飛田だ!君は今飛行船に乗っているのか!?』
どうやら風見さんらしい。
煙をあげて大阪に近づく、殺人バクテリアを乗せた飛行船。
そりゃ公安は少しでも情報を得ようと必死だろう。
「はい。ですが犯人グループ七人はたった今制圧しました。サブマシンガン5丁、拳銃2丁、爆弾6つ。アンプル一つ。これが現在確認されている犯人グループの武装です」
『!?!?………まさか、君が制圧したのか』
「はい。ですが人に成し得る手段以上のものは使っていません。ご心配なく」
つまり幼生は使ってないってことだ。
私の言葉にあからさまにホッとしたのか、ゆるい吐息が漏れ聞こえてくる。
「今デッキで囚われていた人たちを解放しています。これで捜査二課から正式に警視庁へ情報が渡ることでしょう」
『わかった、ありがとう。君も、絶対に行動を起こしてはいけない。君のためにも、周りの人のためにもだ』
「………はい」
幼生を使えば、それを危惧するものたちは動かざるを得ない。
今の状況を維持するため、幼生の使用は絶対にばれてはいけない、ということなのだろう。
風見さんの声色には私への心配のみがこもっていて、この人がいかに善性かを物語っている。
人の脳を操るような寄生虫の親玉を前にして、こんなにも真っ直ぐに人を想っている。
排除が、処分が妥当だろう生き物だというのに。
私のために、そして降谷さんのために心を砕いている。
無事未曾有のテロは解決することに成功した。
だが根本的な問題が、私の目の前に重たくのしかかっているようだった。
・怪盗キッド
なんか不思議な薬で四歳児が高校生になってると思ってる。
名探偵なんとかしてやれよ可哀想だろ!!!
心配してたくさんマジック道具が阿笠邸に寄贈される。
これ、俺がガキの時練習したやつだから使うといいよ…(ほろり)