降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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江戸川コナン誘拐事件と共謀①

 

 書店からの買い物帰り。

 現在、私は何者かにつけられている。

 

 相手は緑の乗用車だ。

 組織の人間だとしたら少々面倒かもしれない。

 あえて道を逸れ、人通りの少ない路地裏へと誘導する。

 人通りの多い場所で拳銃をぶっ放されたら大変だからな。

 

 立ち止まって空を見上げる。

 冬の曇り空には少しばかり雪がちらついていた。

 小さな身には少しばかり寒さが堪える。

 

 私を追い越し、その先に横付けするように緑の乗用車が止まった。

 中から出てきたのは思いもかけない人間であった。

 

「君が空君だね。組織の実験体である967-OA2という」

「………初めまして。貴方のお顔は写真で拝見したことがあります。工藤優作さんですね?」

「そうだ。少し話したいことがあるんだ、いいかな」

 

 整った顔立ちに口髭はダンディで、俳優さんにも見えるかもしれない。

 工藤新一に良く似た彼は、落ち着いた様子で私を手招きした。

 車に入れ、と言うとらしい。

 内緒話がある様子。

 

 大人しく車の後部座席に乗り込んでおく。

 

 どうやらいつの間にか帰国していたらしい。

 ロサンゼルスを拠点にしていると雑誌には載っていたが。

 一時帰国というと、確か原作の初期の頃にそんな話があった気がする。

 コナン君を誘拐する偽の母親事件とかそんなんだ。

 

 ともかく、私が後部座席にちょこんと座ると、助手席には工藤有希子さんもいることが確認できた。

 「はぁい!」と明るい声でウィンクとともに手を振ってくれる。

 なんとなく居心地が悪くて、私は「初めまして」と言いながらみじろぎした。

 

 優作氏が柔らかく笑って運転席に戻る。

 

「そう身構えなくてもいい。……どうだね、研究所を出て此処での暮らしは」

「良くしていただいています。僕はガワこそ人間の児童の見目をしていますが、中身は危険な兵器です。このように人間として扱っていただけるのは、望外の幸運でしょう」

 

 どうやら二人はある程度の事情を阿笠博士から聞いているようだ。

 軽い雑談、ということのようなので私も本音で答えておく。

 

 私が渡したUSBメモリには、生物兵器たる私のスペックが事細かに書かれていた。

 体力測定でもおよそ小学一年生とはかけ離れた数値が出ている。

 

 つまり、「貴方は家で野生のヒグマを飼育できるか?」という話だ。

 可愛くて賢いヒグマだからって、そんなの頷ける奴がどれだけいることだろう。

 阿笠博士の善性には本当に感謝しか無い。

 

 優作氏は頷いて、穏やかに言葉を紡いだ。

 

「それは君が人としての感性を持ち、人として生きようとしているからだ。阿笠博士は君の頑張りを受けて、それを助けようと思ったんだ」

「人として………僕の意図したことではありません。それは、わずかに焼きついたオリジナルの人格が故でしょう」

「君は近所の小学生とも仲良くしているそうじゃないか」

 

 優しく微笑んで、彼は諭すように言葉を続ける。

 いまいち何を言いたいのかわからない。

 

「君が外界に出た時、君を迎え入れてくれるものなど何一つなかったはずだ。祝福されぬままに、何不自由なく生活する彼らと接して。君は容易に縊り殺せるだろう状況で、手をあげることはなかった」

「少しばかり理解に苦しみます。殺害する意味がありません。彼らを殺して、物質化した幸福が取り出せるわけでもない」

「……そうか。君は本当にまだ随分と幼いのか」

 

 幼いってなんやワレ。

 私がちょっと苦境に立たされたからってむしゃくしゃして無関係の子供を殺すわけなかろうに。

 

 困惑して首を傾げていると、有希子さんがこちらを振り返ってにっこり笑った。

 

「あのね、空ちゃん。困ったことがあったら新ちゃんにも、私たちにも、阿笠博士にも言っていいのよ。皆喜んで貴方に力を貸すわ」

「ありがとう、ございます。博士から詳細を伝えられているとは思いますが、僕は生物的に人とは異なります。迷惑は最小限に抑えますので、どうかよろしくお願いします」

 

 二人は困ったような様子で曖昧に微笑んだ。

 何が言いたいのかわからん、怖い。

 あと工藤優作さんサインください。

 

 実は最近文庫版闇の男爵第1巻を買ったんだよな。

 コナン君にいつでも借りられるけど、自分の分が欲しくてお小遣いを工面して購入した。

 今も持ち歩いているので、ついでにサインしてもらえると超嬉しい。

 

 などとどうでもいいことを考えていると、有希子さんがニコッと笑って私に語りかけた。

 

「空ちゃんに少し協力してほしいことがあるの」

「はい、どのようなご依頼でしょうか」

「実は新ちゃん、私たちにも内緒で組織と対決しようとしてるのよ。こんなことになってるのに連絡一つくれないで、失礼しちゃうわ!」

 

 ぷりぷり怒る姿も麗しい、大女優の姿は引退後も輝きを失っていないようだ。

 誰もが目を奪われる鮮やかさが所作の端々から滲み出ている。

 

 言葉を引き継いだ優作氏が頷いた。

 

「ようは一芝居打つ、ということさ。新一に少しばかり危機感と決意の程を問いたくてね。我々と一緒に組織の人間のふりをしてくれないかな?」

「それならば十分に可能です。僕はもとより、組織の人間に従うように作られていますから」

 

 まあ、私の一存で無視できるが、これは本当のことである。

 

 以前の時たくさん命令やら暗示やらが飛び交った時も誘引力があったからな。

 全部転生者特権でねじ伏せてやったので何事もなかったけれど。

 

 心配そうに眉を顰めて、優作氏が言葉を選んでいるような顔でしばし沈黙した。

 

 だが、研究所を潰した私が命令に対する対抗策を持っていることぐらい、工藤優作氏なら容易に想像がつくだろう。

 そのまま言葉を続けることにしたようだ。

 

「ではこうしよう。我々は変装して江戸川コナンの家族を装ってあの子を連れ出す。そして、君は組織の人間である我々の命令で、あの子と敵対する」

「承知しました。ではコマンド形式をお伝えします」

「コマンド?」

 

 訝しげにしているので、私はゆっくりと頷いてみせた。

 研究所脱出時に何回もやられたから私も覚えちゃったんだよな。

 

「『967-OA2、オーダー』。この言葉に続けて命令をしてください」

「……!!!」

「僕はこの言葉に従うように設計されています」

 

 二人が息を呑んだ。

 一番簡単な命令系統だ。

 凄く単純で誰でも命令できてしまうので、おそらく本来は緊急時の使用は想定されていないのだと思われる。

 

 コピーしてきたデータによると、あらかじめ主人を登録する術もある様子。

 本運用はそっちだと思われる。

 

 深刻そうな顔で優作氏が視線を鋭くした。

 

「念のため聞いておくが。その命令、君に拒否権はあるのかな?」

「心配ありません。既に僕は命令をキャンセルする術を身につけています。単にフレーバーのようなものとお考えください」

「………そうか」

 

 私にとっては、良く通る声が出る話法ぐらいの位置付けだ。

 軽くキャンセルできるが沢山耳に入ると鬱陶しい、みたいな。

 研究所ではめちゃくそこの命令が連打されて凄くうるさかったんだよな。

 頭に響いて非常に億劫になる。

 最後の方はうるせぇボケ!みたいなやさぐれた心境になっていたし。

 

 ぷくっと膨れた有希子さんが、プリプリと目を三角にして私に注意した。

 

「もう、ダメよ空ちゃん!自分を安売りしちゃ!プライベートは隠してこそ己が引き立つものよ!」

「……なるほど、貴方ほどの人が言うなら間違いはないのでしょう。次から気をつけさせていただきます」

「そうよ。オープンにするのは最小限に。それが人には魅力に映るものなの」

 

 あんたほどの人が言うなら構文で納得しておく。

 なんかアイドルのススメみたいな感じだが、一理あるのでつい頷いてしまった。

 

 

 その後はシナリオを詰めて、私は一旦彼らと別れることになるのであった。

 世界的推理小説家である工藤優作の脚本でお芝居とは、なんともリッチなものだ。

 

 若干ワクワクしてきた内心を否定はできない。

 すまんねコナン君。

 私、黒の組織には勝てなかったよ。ハート。

 

 そのように心のうちで謝罪しつつ、無事サインをもらった文庫本をギュッと握りしめて私は帰路に就いたのであった。

 





・工藤優作氏
「実際にあり得るシチュエーションで、それでもと立つ息子の覚悟を問う」の構え。
別に相談してくれなかったことを根に持ってなんかないもん。
クローンのことは「大人の智慧に、幼い情緒。こんなにも歪なものを作るとは、哀れなことをするものだ」と思っている。
非人道的の極みだと、憤っている。
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