降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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ウェディングイブアフター

 

 部活のための登校中のことである。

 静かな朝日の中、ポアロの前で話をする安室さんとコナン君の姿を目撃した。

 

 二人とも結構顔つきが険しい。

 安室さん自体、コナン君と接触することはほとんどないから、何かあったのかもしれない。

 

 耳をそばだてて民家の影に隠れることとする。

 

「どういうことだ、バーボン」

 

 コナン君の声は詰問と言っていい険しさを帯びていた。

 隠れながらそれを窺うと、安室さんは嘲笑うような色合いで笑ったようだ。

 

「何がかな?君の気に触るようなことしていないつもりだけれど」

「毛利のおっちゃんに弟子入りだと?組織幹部がか?笑わせんじゃねーよ」

「おや?名探偵たる毛利小五郎の弟子ともなれば、僕の表の顔も随分と動きやすくなる。利用価値は十分すぎるほどだと思うが」

 

 それ以外に何か隠し事でもあるのか、と言外に問いかける。

 コナン君は冷静に言葉を重ねた。

 

「ベルモットに聞いてるぜ。FBIの赤井秀一について探ってると」

「……お喋りな魔女には困ったものだ。そうだね、君も知ってるだろう?」

「碌に知らねーよ。俺はジョディさんとばっかつるんでたし。子供の話をFBIで聞いてくれる人なんてそうそういなかったし」

「奴ならば、君の話に耳を傾けるだろう。そして奴と君なら、あるいはジンの目すらも欺けるかもしれない」

 

 コナン君が鼻で笑ってその追求を否定した。

 

「仮定に仮定を重ねた話でわざわざおっちゃんに弟子入りまでしたのかよ。暇なのか?」

「まさか。これでも多忙な身でね、アイリッシュが消えた穴埋めに大忙しさ。こっちも何かしらないかな、裏切り者の捜索も任されてるのだけれど」

「知ってたとして言うわけねぇだろ。あんま性格悪ィと宙にチクるぞ」

 

 そこに来て初めて、安室さんに動揺が見られた。

 眉をハの字に下げてこまりはてたような様子を見せる。

 

「それは勘弁してほしいな。彼の中では理想の存在でいたいんだ」

「………アンタ、どうしてそうも宙のことを気にかけてんだよ。どうせ組織に勝手に作られたなんの関係もないクローンだろ」

 

 コナン君の言葉に、少しだけ目を伏せて安室さんは沈黙した。

 まるでの己の中からその心を言葉にしようと奮闘しているような、苦しげな様子だった。

 

 しばらく後、安室さんがゆるりと顔を上げる。

 

「家族みたいで少々心が揺れるってだけさ。僕には家族がいなかったからね」

「降って湧いた家族に情を向けるような男が組織幹部してんのか?」

「意外とこの手の情は深い悪人が多いよ?だから人質が効くんだし。シェリーだってそうだろう」

「ッ一緒にすんなバーロー!」

「一緒さ。あの恐るべき生物兵器を製作した重要参考人。表の世界で知られれば闇から闇へ取引されるだろう、稀代の頭脳だ」

 

 昏い昏い、濁った瞳で言い放つ。

 コナン君はそれに少しだけ気圧されて、けれどそれに真っ直ぐに向き直った。

 

「アイツは姉を人質に望まぬ犯罪に加担はせられてた。悪い奴じゃない。だから、俺たちが守ってみせる」

「………本当に眩しいなぁ、君は」

 

 朝焼けを見るような、本当に眩しそうな顔で安室さんがつぶやいた。

 そろそろ苔が生えそうな湿度だ。

 

 私は恐る恐る、そろそろと顔を出した。

 

「あの。朝っぱらからダークな話を通学路でしないでください」

「うぉぉおお宙!?!?」

 

 コナン君が飛び跳ねて驚いた。

 安室さんも目を見開いて驚愕の様子を見せている。

 そんな気配を消してたつもりはなかったはなかったが、二人とも無防備すぎである。

 

「オリジナルも、なぜそんなにも赤井秀一を追うんですか。ただ仲が悪いだけと仰っていましたが、そんな熱量とはとても思えません」

「……………」

「ふむ、やはり相当な事情があるご様子。深く聞くわけにはいかないようだ」

 

 あまりにも壮絶な色合いを帯びて黙り込んだので、私は秒で聞き出すことを断念した。

 そんな追い詰められた顔をさせるつもりじゃなかったんだ……。

 

 いや、まあ。

 ヒロって名前の若い自身の似姿が復讐を糾弾したら、そりゃ心も傷つくってもんか。

 

「僕はもう行きます。オリジナルが言えないようであれば、貴方のクローンとして鏡合わせに動きましょう。すなわち、貴方は探り屋なのですから、自ら探すこととします」

「……君には関係のないことだ」

「貴方の苦しみを解きほぐすのが僕の望みですから。原初の時より、僕の最優先は貴方です、オリジナル」

 

 つまりテメェの意見なんざ関係ねぇ!

 推しは黙って推されてりゃいいんだよ!!という身勝手宣言である。

 ぐへへ、困ってるあむぴぺろぺろ。

 外道である。

 

 と、言うだけ言ってそろそろ退散することとしよう。

 部活に遅れてしまうからな。

 遅刻はあらゆる意味で心象が良くないし。

 

 ととと、と私は軽快にその場を後にした。

 朝っぱらから湿度が高くて苔むしそうな空間からは早めにおさらばである。

 

 

 

 

 

 降谷はしばらく何も言葉を発することができなかった。

 彼の、己のクローンたる阿笠宙の後ろ姿を見送って、ただ沈黙するのみである。

 

 江戸川コナンが困ったようにこちらを見上げた。

 

「あー、あいつちょっと空気読まねーときがあっからさ」

「…………あの子は、強いな。こんなに突き放しているのに、こんなに彼の期待を裏切っているのに、ずっと真っ直ぐに…」

 

 言葉の途中で続かなくなってしまって、降谷は少しだけ焦った。

 言いたいことはたくさんあるのに、飽和して詰まってうまく出てこない。

 こんなことは初めてだ。

 舌を回すことは得意だと思っていたのに、どうして喉が詰まったように苦しいのか。

 

 コナンが呆れたように肩をすくめる。

 

「お前、そんなに宙のことを思うなら悪事なんてやめたらどうなんだ?」

「それはできないな。ぼくにはコレしかないから」

 

 そう、これしかない。

 もう全て親友失ってしまった。もう日本に身も心も捧げてしまった。

 積み重なった犠牲を無視して、後戻りできる段階では無くなってしまったのだ。

 

 降谷の言葉は限りなく本心だった。

 

「アンタが足を洗えば宙も安心できるんだけどな」

「あの子も理解してくれているはずさ。僕の記憶があるんだから。もしもの時はそのために身を捧げることだろう」

「………テメェ」

 

 阿笠宙を犠牲にすることを匂わせれば、コナンは素早く敵意を剥き出しにした。

 その善性が心地いい。

 そうだ、降谷は人でなしだ。もっと蔑み、見下げ果て、罵るといい。

 それが膿んだ傷を僅かばかり癒すのだ。

 

「宙を利用しよってんなら容赦はしねえ。宙は絶対に俺達が守ってみせる」

「怖い怖い。心しておくとしようか。だが、足場を確かめることは欠かさないように。少しでも姿勢を崩せば、僕はその足元に食らいつくだろう」

 

 送り狼だ。

 転べばたちまち食い殺そう。

 だって結局、阿笠宙は国家のために死んでもらう必要があるのだから。

 心が冷える。吐きそうだ。

 

 「まだ諦めないでください、きっと手はあります!」と己の肩を掴んで叫ぶ風見の声が遠く響いている。

 やめてくれ、そんな手があるわけないのに。

 縋ってしまいそうになる。

 

「ともかく、おっちゃんに変なこと言うのはやめろよ。ただでさえオメー風当たり強いんだから」

「それは、うん、誤解されてる気はしてる。僕そんな妻子を捨ててフラフラしてるダメ男に見える?」

「29歳フリーターの設定なのにおっちゃんに高額授業料入れようとすっからだろ。ヒモの香りしかしねぇよ」

「確かに……。困ったな。別にそこまで黒くない金なのに、受け取ってくれないし」

「全く黒くないわけじゃないのかよ。宙の教育に悪ィんだよ」

「なるべくクリーンな形で行かせていただきます」

 

 テンポのいい会話だ。

 江戸川コナンも相当頭が回るのか、会話していて遅れがなく心地がいい。

 彼もまた普通の小学生ではありえないが……そこは、探りを入れるつもりはない。

 これ以上抱えきれないので。支えきれないので。受け止めきれないので。

 

 そのまま、安室は軽く目を細めて背を向けた。

 追求したいことが山ほどあるだろうに、彼はそれをしなかった。

 

 半歩の距離が遠く、探り合いは始まったばかりだ。

 

 降谷は己が現実逃避をしていることを理解している。

 理解したままそのままにしている。

 

 この束の間の平穏が、なるべく長く続くことを祈って。

 





・安室の受難
毛利探偵は一目で「どう見ても空の親父じゃねーか!?」って目を剥いてた。
聞いてみたら「あの子は、その」って言い淀むから完全な有罪と断定。
「俺に高ェ授業料払えるなら病気の子供の面倒見ろ!」って突っぱられた。
誤解は蔓延しており、その後バイトで梓さんにも「あの、結婚詐欺で儲けてるって聞きましたけどほんとですか?」って神妙に聞かれた。
噂に尾鰭が付き背鰭が付き龍になった。
いいこと何もない。
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