降谷零のクローンなオリ主とコナン世界   作:ラムセス_

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ダメかと思ったけど間に合った!



沈黙の記憶③

 

 宿のロビーに入ってすぐ、昼間子供達がお世話になった看護師さんに出会った。

 どうやら小学校の同級生と親睦を深めている最中だったらしい。

 

 その見知らぬ男女の中に覚えのある姿を見て、私はすぐさま隣のコナン君に耳打ちした。

 

「彼、山尾という男。あの首都高の待避所にいた男です」

「っ確かなのかそれは!」

 

 私は首肯した。

 どうも服役囚だったらしく、八年前に飲酒運転で轢き逃げをして収監されていたとのこと。

 最近ようやく出てきて、その縁で同窓会が開かれたらしい。

 

 それを声高に私たちに紹介する氷川という保険調査員の男も怪しげな奴である。

 原作知識では彼は山尾の悪事を知っていて、敢えてこれみよがしに喋っていたことが示唆されている。

 「俺に何かあればこの名探偵が黙ってないだろうなぁ?」という牽制のために利用している可能性は高かろう。

 だから部外者である私たちにここまで話すのだ。

 

 山尾は毛利探偵を気にしているらしく焦った様子を見せている。

 毛利探偵は己が出汁に使われているのを感じてか、胡散臭そうな様子を隠さない。

 

 そのあたりで、肉体君からおもむろに声がかかった。

 最近寝てばかりだが、目を覚ましたらしい。

 

『少しお伝えしておきたいことがあります。いいですか?』

 

 肉体君の言葉に、私は言葉にせずほんのわずかだけ頷いた。

 五感は共有しているので、肉体君に頷く動きをしたと言うことがわかればそれでいい。

 

 私は阿笠博士にこっそりと声をかけた。

 

「僕は先に部屋に戻っています」

「どうかしたのかね?」

「少し疲れたので。休憩するだけですのでお気遣いなく」

 

 そう言って困惑する阿笠博士を残して部屋へと戻る。

 肉体君がこんなふうに話しかけてくるのは実に珍しいことだ。

 なるべく早く聞いておきたい。

 

 部屋に戻り、畳敷の部屋の中で私は布団の上にあぐらをかいた。

 

「珍しいですね、何かありましたか」

『あなたが気付いていないようなので、今のうちに念のため注意喚起をと思いまして』

 

 肉体君の口調はどこか眠たそうで、脳の一部が少しだけ腫れぼったいような心地がした。

 

『現在、僕たちの体が次代をはらむ態勢になっているのはお気付きですか?』

「………次代?」

『やはりそうですか。どうも貴方、培養槽の中での経験を覚えていませんね?』

 

 肉体君の言葉に、私はこくりと頷いた。

 

 私が転生を果たしたと理解したのは培養槽を出る直前のことである。

 だから私にそれ以前の記憶はない。

 肉体君は「やはり…培養槽破壊の直前から稼働開始した、チップによってできた人格…」と呟いている。

 

 そして声色を切り替え、はっきりと宣言した。

 

『僕らは今、生の終わりを迎えようとしています』

「なんと。一体なぜに」

『現在の体の不調、具体的には栄養を過剰に欲している状態は、次代の繁殖のための行動です』

「ふむ……具体的にお聞かせ願いたい」

 

 私が聞くと、肉体君は「本当に平熱ですよね…仙人か何かですか」と呆れたように息をついたようだった。

 

『僕が培養槽から出されて、麻酔もなく脳にチップを埋め込まれた時のことです。拘束具に押さえつけられながら暴れ狂っている僕をよそに、研究員達は世間話をしていました』

「開始3秒でハードグロですね。道理で貴方が研究者を憎むわけだ」

『あのクソどもは皆殺しにします。それはともかく、執刀医のゲス男が言うには、僕らは二度の揺籃を迎えるとのこと』

 

 一度目は成長のため。

 幼体から成体になるために、培養槽の中で繭を作り体を丸ごと作り変える。

 二度目は再誕のため。

 次世代を育むために、その体の中に次代を産み落とすのだ。

 

『これは再誕の時の兆しです。つまりは我が身の生まれなおし、この短命なる身をリセットするための次代を養うということだ』

「次代の女王を産み、僕らは死ぬと」

『さて。少なくとも、僕らは自らの肉を宿主として、次代に頭蓋を喰い破られることは確定ですね』

 

 ふぅむ、と私は改めて体の中に意識を向けた。

 今までこの体に特に気を払っていなかったが、私の転生者としての直感が、次の転生先もこの体だと告げている。

 正確にはこの体に産み落とされる次代の体だろう。

 

 肉体君が陰鬱な声でせせら笑った。

 

『次代は、僕らに用いられたクローン技術と同じく、記憶を伴った複製だそうです。それを貴方は自分と言えますか?』

「なるほど、何も問題なさそうですね」

 

 つまり続投ってことで問題ない。

 魂の知識でなく正規ルートで記憶も引き継ぐし、つまり下手に私も記憶喪失のふりをしなくていいってことだ。

 

 アンパンマン、新しい顔よ!ぐらいの気持ちでいれば別に構わないだろう。

 同世界転生としては非常に条件がいい。

 人間関係がなくなってしまいもしないし、純粋に懸念点がないのは嬉しい限りだ。

 あとはもうちょっと寿命が長いと手間が少ないのだが。

 

 私は満足にうんうんと頷いた。

 肉体君が脳内で深い深いため息をついて肩を落とすような気配がする。

 

『相変わらず人の心の欠片も無いですね。同一の記憶をもつ別個体を己と言い切って憚らないとは」

「あーいや、そう言う話でもないのですが」

『誤魔化さなくて結構。ですが貴方のようなものこそ生物兵器に相応しい。揺るがぬ自我に情に流されぬ判断。僕はどうも、上手くできないようだ』

 

 肉体君はすっかり打ち萎れてしまっている。

 誤解というか、この場合は肉体君の方こそ問題があることに気がついた。

 彼に魂はないから連れていけない。

 

 いや、だが純粋に肉体であるが故、複製だって完璧に彼であるはずという理屈は成り立つだろう。

 寝て覚めて、その先が間違いなく己であるように。

 その先は哲学の領域なら、なるべく希望のある方を信じた方が建設的だ。

 

 私はゆったりと口を開いた。

 

「もし貴方が前と違っていたとして、僕が覚えているので心配しないで。幾度目の貴方であろうと僕が別個に覚えておきますよ」

『………驚いた。貴方にそんな情緒的な返しができたんですね』

「僕がそんな人でなしみたいな言い方は名誉毀損ですよ」

 

 あとはこれを灰原さんにどう説明するかだ。

 私はうーんとうなって首を捻った。

 

「次の僕も大体同じ記憶を持ってるので僕として接してくださいって説明すれば大丈夫ですかね」

『何でそれでいいと思ったんですか???それ我らの母君に言おうとしてるセリフですよね?人の心があまりにも無いのも何らかの罪になると思いますよ?』

 

 肉体君にすごくダメ出しを食らってしまった。

 なんでや。

 

 ともかく、私たちはしばし説明の内容を考えるため会議に勤しんだのだった。

 

 

 

 しばらくすれば、阿笠博士に連れられて子供達がやってきた。

 

 子供達はみんなしょぼしょぼのしょぼになっていて、灰原さんがため息をついて後から部屋に入ってくる。

 私は光彦君に声をかけた。

 

「どうしたんだい?」

「小学校の同級生なのに、あんなふうに仲が悪くなってしまうんだなと、少し思ったんです」

「歩美たち、仲良しだよね…?」

 

 どうや犯人達の人間関係を見て、自分たちは大丈夫かと心配になってしまったらしい。

 萎れた子供達は見ていてかわいそうだ。

 

 私は光彦君をわしゃわしゃして、目線を合わせて微笑んで見せた。

 

「これからどんな道を辿るにせよ、そう思って友達を大切にする心があれば大丈夫さ。君たちの優しさはお互いを救うだろう」

「……本当ですか?」

「もちろん。きっと空もそう言うはずさ」

 

 子供達は少しだけ元気がでたらしい。

 みんなで顔を合わせて、ニコッと頷きあった。

 どうやら今日の旅行の写真を空宛で送るらしく、バタバタとデジカメの中身を確認し始める。

 

 可愛い子達だ。

 まあ、私こと空は次代に頭割られて死ぬのでちょっと別枠なのだが、これは特殊事例なので考えないこととする。

 

 ああ、魂が定着してるから相当痛いだろうなぁ、とどんよりした気持ちに苛まれる。

 いや、先に食い殺されて死骸から出てくる形になるのか?

 どちらにしろ他の幼生と同じように頭蓋を割り開かれるのは確定な模様。

 

 私の今の死体をどうしようかな。

 大変手間だが、阿笠博士にぶつ切りにして焼却炉にくべてもらわないといけないかもしれない。

 遺体解体なんて超重労働任せるのは気が引けるが、こればっかりは仕方ないか。

 

 今日の夜は更けていく。

 私はしばし、灰原さん達に伝えるタイミングを見計らったのだった。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 子供達が雪遊びに出ている最中、冬馬君という子と知り合った。

 

 彼は八年前の冬の日、道から転落して崖下で発見された。

 その衝撃でずっと目を覚まさなかったらしい。

 

 だがそれが目覚めたのは、少年探偵団のはしゃぎ声がきっかけだったのだろう。

 舞い上がった母親が、健康診断もそこそこに当時の同級生を呼んで会わせようとしている。

 それを灰原さんは危惧しているらしく、遠巻きに見守っていた。

 

 灰原さんが私の手を取り、優しく繋ぐ。

 

「心の整理がつくはずがないわ。友達が、母親が、自分が、あらゆるものが見知ったものとは違うものになってるんだもの」

「そうですね。少々残酷なシチュエーションでしょう」

「……貴方と一緒ね。体だけ大きくなって、心が取り残されている。残酷、そのとおりね。あまりに残酷だわ」

 

 灰原さんは実に同情的だった。

 もしかしたら私と重ねているからこそ、余計にそう思うのかもしれない。

 ふぅむ、と私は考え込んだ。

 

「僕のほうが条件はマシでしょうね。僕は時の流れに取り残されておらず、そのまま皆と共に同じ時間を歩んでいます。それは形は違えど、心は共にあるということだ」

「……そう断言できるのは、貴方が優しい証拠ね」

「そう、でしょうか」

 

 灰原さんが私の片手を両の手のひらで包み込み、微笑んだ。

 そこには収まりきらないほどいっぱいの愛情が詰まっている。

 

 でも、マジで何年も意識不明で目が覚めたら身体は大人心は子供はなぁ、割と無理ゲーだと思う私である。

 私はパチクリと瞬いて彼女に声をかけた。

 

「あ、それと米花町に帰ったら灰原さんとコナン君に話がありますので、お時間をいただければと思います」

「なぁに。そんなに改まって」

「大事な話なので」

 

 終活はきちんと事前に準備する事こそが肝だろう。

 次代も私だが、形式はちゃんと整えておかないと。

 そのように思って、灰原さんに微笑んだのだった。

 





・肉体君
「しかし…親愛を向けた人間が頭蓋を粉砕されて非業の死を遂げて、それが幾度も繰り返される定めだと知るのは流石にどうかしてますよ」
「僕なら、そんな定めを課した科学者どもを草の根分けてでも探し出して八つ裂きにします」
「彼女が思い詰めすぎないようなんとかしたいのですが……肉体の主人があの人の心の無さですから」
「不安です」

・クローン
純粋に痛いので鬱。
死ぬ時自分で焼却炉に入ってれば博士が入れる手間が減るのでは!?(名案の顔)
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