昨日はついに死体が上がった。
殺されたのは氷川さんだ。
間違いなく真犯人たる山尾さんに口封じで殺されたわけだが、私も爆弾犯が誰かコナン君に伝えている。
そのため、コナン君もすぐにそれに思い至ったようだ。
もっとも、現場の状況からそれを確定させるのは難しそうだ。
真犯人の動きを見るしかないだろう。
そんなこんなで今日は滞在最終日。
冬馬君と少年探偵団はすっかり仲良くなっていた。
冬馬君的には同年代の友達と遊んでいるつもりなんだろう。
大きくなってしまった体を持て余しつつ、懸命に状況を理解しようとしていた。
私はほのかに頭痛を覚えつつも、まだまだ平常運転だ。
意外と急速に症状が進行しているので、なんとかこの辺で一旦停止してくれると嬉しいところ。
一応コナン君に呼ばれて、いまから聞き込み調査諸々である。
コナン君が推理に頭を回しながら、私を見上げてニッと笑った。
「悪いな宙、やっぱガキの体だと聞き込み調査がしづらくてな。おっちゃんの弟子ってことで頼む!」
「オリジナルと一緒の立場ですね!張り切って勤めさせていただきます!」
毛利小五郎の弟子ポジ!これは美味しい!
私が俄かにワクワクし出したのに、コナン君は少しだけ苦しげな様子で「そう、だな」と頷いて見せた。
やっぱあむぴの株が低空飛行を続けているのが大きそうだ。
聞き込みは冬馬君の同級生にしたいらしい。
私が立ち寄った彼女に声をかければ、子供連れということで向こうも警戒せず話をしてくれるようだった。
見せてくれたのは八年前の写真と、冬馬君が昔に描いた犬の絵だ。
それを見てぴくりとコナン君が反応する。
何かに気付いたような反応に、あむぴの肉体も同じタイミングで閃いたようだ。
そっとコナン君に囁きかける。
「引っかかっているのは、昨日ロッジで氷川さんが見せていた折りたたんだ新聞記事のコピーですね」
「ああ。関係あるかはわからねーが、見といて損は無いはずだ」
コナン君が「じゃあ僕ロッジに戻るね!」と駆け出した。
焦るなコナン君や。
私もゆったり同級生さんに会釈して、「ありがとうございました。お忙しいところ時間をとっていただいてすみません」と微笑んでからその場を後にする。
ぽっと頬をそめる同級生さんは、ほのかな恋が来たような顔をしていた。
せやろ、若いさわやかあむぴはかっこええやろ。
まあ、本物のこの年頃のあむぴはもっと尖ってたんだがな。
ロッジに戻ると、コナン君が素早く被害者の部屋に向かっていった。
私が手配するって言ってるのに前のめりなんだから。
私はロッジの人に正式に話を通して、毛利探偵からのお使いとして被害者である氷川さんの部屋を見せてもらえることになった。
この世界特有の探偵の権力さまさまである。
私が部屋に入った頃には、コナン君は早くも家探しを完了していたようだ。
新聞記事のコピーを見せてきた。
「どう思う?」
「……まだ憶測の段階ですが、山尾が氷川を殺害した可能性も浮上しましたね。あるいは冬馬君が口封じされた理由とも」
「やっぱりお前もそう思うか」
本当はコナン君の思考速度についていくのがやっとだがな。
原作知識がなくては、いくらクローンの体といえどここまでスムーズにはいかないだろう。
まあ原作殺人事件については省略しよう。
つまり犯人は山尾という男で。
殺人の挙句ダムを爆破して、そこに沈む八年前の銀行強盗の戦利品を取り出そうとしているというわけだ。
もちろん多数の死者が出ることを承知の上での話である。
鬼畜な野郎め。
『薄汚い。悍ましい。人間など滅びるべきだ。頭が痛い。何故こんなものを尊ばねばならない?』
肉体君がまたぶつぶつ文句を言っているのでドウドウと宥めつつ。
肌をモールス信号がわりバレないようにそっと叩いて肉体君に声をかけた。
「きにすんな」と。よし。
『はぁ!?モールス信号使って伝えることがそれとか舐めてんですか!?絶対滅ぼします次代になったらパンデミック起こしてやりますよ!』
肉体君は余計にドゥルルルルってなってしまったようだ。
なんでや、気にすんなって言っとるやろがいヨォ。
さて、そのあたりでコナン君に電話である。
何やら話している間に、ふつっと通話が途切れる。
ビルの窓からもうもうと立つ煙が見えた。
これは基地局が爆破されたのだろう。
コナン君が動揺したのとほぼ同時に、私はフラッと姿勢を崩してベッドに寄りかかった。
「っ大丈夫か宙!?」
「ああ、すみません。眩暈がしまして」
「本当に大丈夫か?お前、顔色が悪いぞ」
「今は子供達を優先してください?嫌な予感がします。僕はこの事件が片付いたら説明しますから。僕は車で寝ていますのでよろしくお願いします」
「わかった。無理だけはすんなよ」
私はまだほっといてもまだ死なないから問題ない。
だが子供達は銃持った人間に追いかけられて最悪死亡するだろう。
そのうえ村は水に沈む。
原作通りなら、子供たちについては犯人に殺す気がないから多分大丈夫だとは思うが……。
私はフラフラと車に戻って行った。
もうロッジはチェックアウトしているから、あとはブランケットをかけて寝入るだけである。
目が覚めたら阿笠邸であった。
ウッソ、あのダム爆発コナン君捜索見逃したのか!?
あれ割とコナン君のガチ命の危機だったのに!
ぼやぼやしていてうまく頭が回らない。
高熱らしく、節々が痛くて頭が腫れぼったい。
あと頭痛とともに、ガリガリという幻聴が頭の中に響いている。
いや幻聴かどうかはわからん。
灰原さんがちょうど部屋に入ってきたところらしく、目を見開いて駆け寄ってきた。
「あなた!?目が覚めたの!」
「すみません、どれくらい寝ていましたか」
「北ノ沢村から帰ってきたのは昨日のことよ」
「丸一日寝ていたと。困ったな」
思ったより時間がないようだ。
自覚してから結構急速に症状が進んでいる。早めに説明したほうがいいだろう。
私は灰原さんと目を合わせて、丁寧に話し出した。
「コナン君を呼んでいただけますか?あと阿笠博士も。少し話さなければならないことがありますので」
「……言っていたわね、それ。わかったわ、今呼び出すから」
というか雪崩で死亡しかけて今日には退院できてるのか。
凄まじい回復速度のコナン君だ。
発見が早かったのかもしれんが、彼こそバイタリティの鬼だと思う今日この頃。
10分後、コナン君はいつものスケボーを片手に全速力で現れた。
「宙!!!」と走ってくる姿は相当焦っていたのだろう。
玉の汗が浮かんでいる。
コナン君は眉を顰めて目を伏せた。
「悪い宙、俺がお前を放って行ったから…」
「あの場面では仕方ないでしょう。それに、子供達は大丈夫でしたか?」
「…ああ。お前のおかげで間に合ったよ」
「それはよかった」
私は微笑んで頷いた。
少年探偵団の皆が無事なら、私が頑張った元は十分取れている。
阿笠博士も私のために温かいお湯を持ってきてくれたようだ。
ベッドを囲む形で密談の態勢をとった。
「ええと、それで、本題に入りましょう」
そう言うと、周囲の緊張の糸がキリリと引き絞られた。
空気が重すぎでしんどい。
私は咳払いして、なるべく明るく声を上げた。
「間も無く僕は命を落とします。内側から次世代のクイーンに食い破られて、新しい苗床となるわけです」
「…………!?!?」
一拍遅れて、灰原さんが息を呑んで顔面蒼白になった。
コナン君の顔色もすこぶる悪い。
私に詳細を求めるが如く熱視線が突き刺さる。
うおお、話しづらい…!ごほん。
「僕も最近思い出したことなのですが、僕という生き物は次代を体内で育てます。僕の不調は次代が育ってきた証拠。まもなく、記憶を含めた完全なクローンが次代として生まれ落ちます」
「………それ、は」
「記憶もあり概ね僕なので、僕としては生まれ直しに近いですね。なので、しばしの別れですがお手数をおかけします」
ぺこりと私は頭を下げた。
実質は一旦幼児になっちゃうのと似たようなものなので、お世話をしてもらう必要があるわけだ。
本当なら手足にお世話されるんだろうが、手足はいないし。
黙ったまま誰も何も言わないので、私は困って周囲を見渡した。
皆土気色の顔をしている。
「あの。問題はですね、古い体が死骸として残るという点でして。焼却炉に入れるには大きいでしょう?それに変なものが追加で生まれても問題なので、ぎりぎりになった僕が焼却炉に入りますから、機を見て次代を取り出してそのまま」
「宙!!!!やめてくれ!!!」
コナン君の叫びに私はビクッと体を震わせた。
「!?!?」と喉奥から叫びを漏らしてあわあわとコナン君を見る。
彼は肩を震わせて、真っ青なまま私を見つめていた。
「お前の、懸念は、わかった。でも俺たちはお前をそんなふうに物のように扱いたくない」
「ありがとう、ございます」
「お前が次世代の子を自分自身だと思ってるのも、分かった。……俺たちもできる限り、そのように扱う」
まるで鉛でも含んでいるかのような重い口調だった。
「工藤君」と喘ぐが如き苦しげな吐息で、灰原さんが言葉を漏らす。
コナン君が真っ直ぐに灰原さんを見つめ返した。
「こいつがそう思ってるんだ。俺たちもそう受け止めるべきだ」
「…………」
いや事実として同一人物なんだけどな。
魂とかそんなオカルトなこと言えないし、ままならないものよ。
魂とかそう言う難しい話を抜きにして、記憶も性格も同一なんじゃし同じ人間でええじゃろがいよぉ。
ぶつぶつ。
「あと連絡すべきはルパン三世とオリジナルですね。ルパンは直通の連絡網からメッセージを送っておきますので、オリジナルが問題でしょう。彼は多忙で、連絡がつくかは不明です」
「お前はどの程度持ちそうだ?」
「二、三日ぐらいは」
「なら死ぬ気で予定を合わせろって送っとく。死に目に会いたければな」
コナン君が複雑そうな顔で吐き捨てた。
なんとも、あむぴも嫌われたものである。
灰原さんはまだ真っ青だった。
私の手を握って、震える吐息を繰り返し吐いている。
「………嫌よ」
「大丈夫。確かにちょっと見た目はグロテスクですが、次代も僕ですので。あなたのことは忘れませんし、心根も僕のままです」
「なん、なんとか、できるかもしれない、まだ、全て調べてないわ。だからまだ」
ぐるぐると息が荒くなり、視線が合わなくなる。
私は灰原さんの両頬を掴んで、そっと見つめ合った。
「僕がせっかく新しい体になってあなたと触れ合えるんです。どうか祝福してください」
「─────」
壮絶な表情で、灰原さんは卒倒しそうな様子でふらりと一歩下がったようだった。
「いやよ、いやよ、そんなの、だって」
「宙。お前の言ってることは確かなのか」
「はい。頭の中でガサガサ幻聴が聞こえます。手足がそうであるように、生まれてくるのは頭蓋の中からでしょう。脳内のチップを受け継ぐ必要があるので、そうなるのも当然ですね」
「……………とすると、結構小さな子になるな」
「急速成長する、と思われます。大事にしていただけると幸いです。小さくて死んでしまったら辛いです」
「わかった」
コナン君は冷静に話しているように見えて、右手が震えていた。
灰原さんは目の焦点が合わない。
阿笠博士は顔面くしゃくしゃのダバダバで、静かに号泣している。
「とも、かく。検査をしないと。早く、手遅れになる前に」
「そうだな。頼んだ灰原。辛いだろうが、頼めるのはお前しかいない」
「任せて。義務は…果たすわ」
そんなお通夜みたいな空気出さなくとも。
いや確かに私は死ぬが、生まれ変わりだって言ってるのに。
特に灰原さんたちにとって記憶も性格も一緒なんだから同一人物だろうに。
などと思っていたら、今起きたらしい肉体君が大声を上げた。
『あっ!?まさか僕に黙って二人にもう説明しましたか!?貴方が!?嘘でしょ焼却炉に自分から入る案は黙ってたでしょうね!!』
肉体君がパニックになっている。
私は布団の中で見えないよう肌にモールス信号でメッセージを送りつつサムズアップした。
「よていどおり」
『ふざけろこの生物兵器!正気じゃない状況なんだからもっと配慮して一言一句に責任持つんですよ大馬鹿者!!』
「なぜに」
すごく怒られてしまい、私はしょぼんとしつつ、ベッドの中でほかほか丸まったのだった。
・灰原さん
卒倒しそう。
一時的狂気のまま必死に全検査した。
脳内にでかい次世代がいてもう手遅れで無事卒倒した。
大事な話があると言われたあの時、帰ってからと言わずもっと早く聞いていたら。
色々考えすぎて憔悴してる。
・安室さん
またしても何も知らず海外で任務こなしてて音信不通の人。