現場は昨日から公安のメンツが出入り口で張り込みしていた。
それで気づかなかったのは、出入りした3人ともが普通に行って帰ってと不審な点がなかったからだ。
三人の容疑者は、それぞれきちんと証言している。
「今忙しいからと追い返された」「チャイムを押したがでなかった」「中に入ったが誰もいなかったから出かけたと思った」など。
死体の発見を遅らせるため、犯人が仕組んだトリックだ。
まあ、流石に一晩中警察が外で部屋の出入りを見張ってるとは思ってなかっただろうが。
ちなみに、事件は公安の方で巻き取った。
また風見さんが無闇矢鱈と捜査一課に恨まれるのだと思うと少々可哀想だが。
これも運命と思って佐藤刑事にぶたれたりしてもらえれば幸いである。
私は死体のあった部屋をうろっとしつつ、中を漁った。
部屋は片付いていて綺麗で広く、清潔だった。
ここも高級マンションだ。
休日はテニスも嗜むようで、部屋の端にはラケットがいい感じに飾ってあった。
なんともまぁ、エンジョイしてる研究者であることよ。
コナン君が険しい顔で考え込みながらこちらに近づいてきた。
「PCの方はどうでしたか?」
「開きっぱなしだったから中を漁れたの大きいな。コピーしかけのデータがあったから見たんだが、中はお前の研究データだった。灰原のところに送ってある」
「ありがとうございます。杯戸中央病院で行っていた実験の方は?」
「………そっちはまだだ。今安室さんが解析してる」
目下、一番の問題は杯戸中央病院の患者十三名に感染させられた幼生についてである。
その性能が私の生み出した幼生とどう違うのか不明。
交信方式も異なり、患者に与える影響も未知。
まさにここからパンデミックが起きてもおかしくない、厄ネタの塊なのである。
あの研究者の様子からパンデミックが起きたとして何も気にしないだろうし、自分が感染してもむしろ喜ぶまであるだろう。
つまり保身によるストッパーは一切利いていないと考えるべきだ。
コナン君が頭痛にうめくように頭に手を当てて俯いた。
「っ、杯戸中央病院に入院中の13人はひとまず杯戸中央病院に泊まってもらうらしい。公安で厳重に管理すると言ってた」
「でも公安にさえ僕の存在は公表していませんよ?」
「今のところ安室さんの権限で回しているらしい。どこまで行けるかは…定かじゃないけどな」
私は眉間に皺を寄せて押し黙った。
彼の上司である黒田兵衛は優秀で抜け目ない人だ。
どこまで隠し通せるかは非常に疑問が残る。
ふと、回路に小さな小さなささやきのようなものが聞こえることに気がついた。
頭を上げて、耳を澄ませる。
「どうした空?」
「静かに。何かが聞こえました…音声ではなく、幼生の回路に向けてです」
「!!!」
もじょもじょとした小さな情報を追っていくと、部屋にあるビデオデッキのような機器からそれが出ていることがわかった。
耳を澄ませると、それが何を言っているのかようやく聞き取ることができた。
「みやだいあやこみやだいあやこみやだいあやこみやだいあやこ」
どうやらダイイングメッセージのようだ。
コナン君が、その機材が長いコードでPCに接続されてることに気がついたようだ。
PCの前で作業を続ける安室さんに「ねえちょっと!」と言って話しかけている。
繰り返し繰り返し、それはメッセージを流し続けているようだ。
ちなみにこれは容疑者の一人の名前だ。
キーボードに血の跡が残されていたというし、死ぬ間際に入力したのだろう。
降谷さんが再びコナン君にPCを任せ、顔を上げた。
その表情はやはり暗い。
黒田兵衛の優秀さを知っているからこそだろう。
「……捜査一課のほうには風見から話をつけさせている。しばらく横槍は入らないから安心してくれ」
「ありがとうございます、オリジナル。殺人事件はともかく、患者たちはなんとかしないと本当にまずいですね」
「ああ。じきに組織で研究していた寄生虫だと上には報告する。そこまでなら君とは無関係として切り離せる」
だが私の件に手が伸びる可能性は否定しきれない。
組織は警察機構の末端にも入り込んでいるのだ。
どこでどう両者が動くか予測がつかない。
「僕が通信方式を合わせられれば、データを直接幼生から吸い取れるのですが……。あの研究者が言うような通信方式の変更は未だ実現できていません」
「そこはじっくり取り組むしかないだろう。それに、このPCの解析もまだ済んでいない。こちらから情報を特定する方が早いかもしれない」
「……ですね。ああ、そうだ。先ほど僕の回線に機械的に割り込むための機器が見つかりました」
「なんだって!?まさか今コナン君が調べているのは」
「はい。クイーンを介さず幼生に命令を下す、人類の希望の光です」
まさに言葉通り、これは光だ。
どこまで使用できるかは定かでないが、少なくとも今まで患者に投与した幼生相手にはこれで交信していたはずだ。
それだけで、この機器がどれほど重要なものか言及する必要すらないほどだ。
そのように話していると、灰原さんから電話があった。
コナン君のスマホが鳴りたて、コナン君はPC画面から目を離さないまま電話をとった。
『工藤君、幼生の排出について新しくわかったことがあったわ』
「灰原!……何がわかったんだ」
『あなたたちが気にしてたから、って幼生排出の研究をしていた研究者の詳細がメモされてたのよ』
灰原さんが名前を読み上げる。
コナン君のスマホがピロンと音を立てたのは、抜粋を彼にメッセージとして送信したからだろう。
『元々はアメリカの国防高等研究計画局にいたみたい。専門は医学、そしてマイクロマシン。彼女の個人的なラボの住所は送っておいたわ。アメリカと日本にそれぞれあるそうよ。残念ながら死亡確認済みだけど、ラボは残ってるかもしれない』
「っ助かった灰原!」
『気をつけてね工藤君。ミイラ取りがミイラにならないように。感染したら命はないと思ってちょうだい』
「ああ………わかってる」
あのマッド研究者が、気を利かせて一通りデータは残してくれていたらしい。
どうしてそういいタイミングで死んでくれるのかと憤っていたが、やはり有能は有能ということか。
肉体君がわあわあと上機嫌に盛り上がった。
『さっすが母上!仕事が早いですね!』
「なんか……最近灰原さんのこと凄く好きじゃないですか貴方」
『!!!研究者な母君なんて嫌いです。殺してやる。父君のことも別に好きじゃないですし。勘違いしないでください』
素直になれない典型的思春期ということらしい。
私はニタニタとタチの悪い笑みを浮かべた。
肉体君が素早くいきり立ち、「全て壊して滅ぼしてやる!!!」と内側から怒号が響いた。
肉体君面白いかよ。
ちなみに、既に今回の殺人犯はコナン君がチャチャっと片付けた。
トリック解くの一瞬だったもんな。
さすがは本気になった名探偵。そんな前菜に拘っている時間はないらしい。
動機は痴情のもつれだった。
こんなに愛してるのに「君からは知性が感じられない」って振られた恨みとのこと。
妻子が事故で死んだって言ってたから後釜を狙っていたが、手ひどく振られたことが原因らしい。
「『悪いが、君を相手にするより有意義なことがたくさんある』とか言って手を振り払うから!思い知らせてやったのよ!」と女性は泣き喚いていた。
それ、どこからどう聞いても一方通行の片思いというか、ストーカーに襲われただけな感じだが。
研究員もマジで事実のみを述べてると思うよ。研究楽しい盛りだったみたいだし。
ヤバい研究者がヤバい犯人に殺されて、まさに世は世紀末。
コナン界の恐ろしさを嫌というほど教えてくれる顛末であった。
加えて、仕方なく杯戸中央病院に何かないか調べに行ったのだが。
そこでも殺人事件に遭遇した。
原作「ギスギスしたお茶会」だ。
もちろん入院した妃弁護士のお見舞いのため、毛利探偵も一緒だった。
コナン君はそこでも大活躍していたが、私と安室さんは添えるだけ。
「また杯戸中央病院か。公安が出張ってきたりしないだろうな?」と警戒する目暮警部を尻目に気配を消す私たちである。
ついでに安室さんの株を上げなおすため、仲睦まじさを演出するよう抱っこしてもらった。
推しに抱っこされてますよ奥さん!!!
私は成仏し、安らかな顔で体重を預けた。
我が生涯に一片の悔いなし……突然のラオウが脳内で拳を振り上げている。
肉体君が大きなため息をついた。
『いやオリジナルは本気でどうでもいい…母君と父君の方が優しいし。貴方の気がしれない…』
なんやてコラ。表出るかオイ。
あむぴは最高のコンテンツだろうが清廉な決意とか背負った過去とか。
ちょっと今壊れちゃってるけど!
私を抱っこして、安室さんは蕩けるような笑顔を浮かべて私の髪を撫でている。
嬉しいけど解釈違いなんだよなぁ。
眠りの小五郎が目の前で再び鮮やかに推理を完成させている。
私はそれを観客気分で眺めながら、まったり抱っこされていたのだった。
・黒田兵衛
最近降谷の様子がおかしい。
一度調べてみるか……。
・風見さん
捜査一課に嫌われまくりつつ感染した十三人に医師との相談の上外出制限とか色々ガチガチに固めるなどしている。
パンデミックの瀬戸際に全身から冷や汗が止まらない。