レイフォルの燈を   作:ぽらりす

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列強という名の肩書き

また、爆発音が響いた。

程なくして細かい瓦礫や砂埃を纏った爆風が僕たちを襲う。

 

「・・うわっ!くそっ、蛮族の奴ら、無差別に攻撃しています!」

 

「わかってる!全員、道の真ん中を通れ!建物が崩れたら瓦礫に押し潰されるぞ!」

 

「少尉!サガリカが行方不明です!」

 

まずい、これで市街地に入ってから二人失った。

この調子じゃ部隊は機能しなくなるし、僕もいつか吹き飛ばされて死ぬ。

 

他の部隊もこんな感じなのか?

というか、海軍は何をしている!このままじゃ敵が一方的に攻撃してくるだけだぞ!

 

幸い、魔信を持っている隊員は生きている。

攻撃が止んだ時に司令部か中尉に連絡しなければ。

 

「少尉!師団長からです!」

 

「通話機貸せ!」

 

乱暴な手つきで魔信士官から通話機を取り、大声で話す。

 

「師団長!レイレスです!防衛線に向かっていますが、これ以上進むのは危険です!

 撤退の許可をください!」

 

『レイレス少尉、師団長のエドワードだ。私は今、2個大隊を連れて防衛線にいるが、

 敵の攻撃で徐々に少なくなっている』

 

師団長が最前線に!?

あまりにも危険すぎる。

 

「師団長!今すぐそこから逃げてください!危険すぎます!」

 

『初動で対応していた第13師団が壊滅した。この地区でまともに行動できるのは我々だけだ。

 レイレス、残っている部下を連れて直ちに防衛線に来てくれ。

 砲弾の着弾位置を見る限り、敵は街の中心部を砲撃している』

 

中心部ということは、敵は皇城あたりを狙っているのか!?

指揮系統を壊滅させようとしている事を見る限り、敵の司令官はかなり有能だ。

 

それに、砲弾の1発があんな威力じゃ、この街にある全ての建物は遮蔽物に使えない

初動対応している師団が壊滅した理由はこれか

 

とにかく、師団長がいる防衛線へ・・!

 

「どこに逃げればいい!こっちで合っているのか!」

 

「家族が下敷きに!誰か手伝ってくれ!」

 

市民は軍の指示に従い、落ち着いて避難を―――うわぁぁぁっ!』

 

奥に見えていた市民の列が吹き飛ばされた。

飛んできた肉片や血が、僕たちに降りかかってくる。

 

「・・嫌だ・・・、もう、進みたくない・・・」

 

あまりにもショッキングすぎる光景に、部下たちの士気が急激に下がっていく。

 

「嫌だ。・・痛い、痛いよぉ・・・助けて・・・」

 

「衛生兵!衛生兵はいるか!あっ、少尉!衛生兵をお借りできませんか!」

 

偶然生き残っていた兵士が僕に頼み出てくる。

ただ、僕はまともに言葉を返せなかった。

 

「・・・・衛生兵は、さっき死んだ・・・防衛線に行きたい」

 

「防衛線ですか?ならここから走れば、すぐに着きます。

 あの・・・・私も連れてっていただけないでしょうか」

 

兵士は腕がない民間人を担ぐと僕に尋ねる。

そうだ、敵艦への攻撃は海軍や沿岸砲部隊の仕事だ。

僕たちは今、防衛線に向かい、一人でも多く市民を助ける義務がある。

 

「わかった!ついてこい!全員、負傷者を救助しながら防衛線に急げ!

 オマー、ここの指揮を頼んだ!僕は師団長に頼んで応援を呼んでくる!」

 

「了解っす!一人でも多く助け出しておきます!」

 

「その意気だ。君、ついてこい!」

 

僕は途中で拾った兵士を連れて走る。

呼吸をするたびに鉄の匂いや煙を吸い、何度もえづいた

 

「少尉!そこを右に曲がってください!その先に――

 

 

 

 

 

 

砲弾が一つ隣の道に着弾した。

 

 

 

 

 

 

連れてきた兵士が飛ばされて倒れる。

なんとか耐えた僕にも、細かい瓦礫を含んだ爆風が襲う。

 

「・・・・ゔっ!・・・大丈夫か!」

 

「ゲホっ!・・・だっ、大丈夫です!中尉!市民を起こすのを手伝ってください!」

 

兵士は無事だったが、背負っていた民間人はすでに事切れていた。

 

「ダメだ!もう死んでいる!防衛線はすぐそこだ、急ぐぞっ!」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ!さっきまで生きていたのに!」

 

「行くぞ、立て!」

 

なんとか正気を失った兵士を立たせ、腕を引きながら走る。

 

どこもかしこも地獄絵図だ。

奥の方に兵士や市民が見えたと思えば、すぐに砲撃で吹き飛ばされる。

砲撃で死ななくても、崩れた建物に潰される人間を何度も見た。

 

僕も、いつかはあのように死ぬのだろうか

 

何度も転びそうになりながらも、必死に走り続ける。

 

どのくらい走っていたのだろうか?

すると、集団で固まる兵士たちを見つけた。

 

やっと防衛線に着いたんだ!

 

「師団長!師団長はいるか!」

 

僕は大声を出してエドワード師団長を探した。

しかし、彼はどこにもいない。

 

もしかして、別の防衛線にいるのか?

いや、撤退したのかもしれない

 

「第3小隊のレイレスだ!師団長に呼ばれて来た!エドワード師団長はどこにいらっしゃる!」

 

すると、急に兵士たちは静まり返った。

一人の兵士が悲痛な表情で僕に近づいてくる。

 

・・・・まさか・・・いや、そんなはず・・・・

 

 

 

 

「・・・師団長は、先程の攻撃で死亡しました。今は、副師団長が指揮を執っています」

 

 

 

 

そんな・・・

 

「・・・・副師団長はどこにいる?」

 

「副師団長は基地に戻りました。少尉、上層部は敵の攻撃が止むまで応援を送らないそうです。

 ここにいる1個大隊と救助活動をしている兵だけで耐えなければなりません」

 

「・・・か、海軍は、海軍はどうした!なぜ敵に一方的に攻撃されている!」

 

「艦隊は全滅しました!竜騎士団も、沿岸砲部隊もです!それに――

 

敵の砲撃だ!伏せろぉ!

 

敵艦の動向を監視していた兵士が叫ぶ。

僕たちは一斉に物陰に隠れるが、砲弾は遥か真上を通りすぎた。

 

着弾しない?・・・・まさか!

あの方向には皇城がある!

 

 

 

 

着弾の爆発音と共に地面が軽く揺れて、遠くで大きな煙が上がった。

全員が茫然と高く上がる煙を見る。

魔信士官が震える声で報告した。

 

 

 

 

・・・・皇城との、魔信が途絶えました・・・

 

 

 

 

数人の兵士がショックのあまり、膝から崩れ落ちる。

士気は最低だ。

 

パッと見る限り、この場で一番階級が高いのは僕だ

なんとかしてここにいる兵士を指揮しなければ

 

「曹長。一個小隊を沿岸砲に向かわせてくれ。負傷者の救助及び敵艦への攻撃だ。

 海軍がダメなら、僕たちが攻撃をするしかない」

 

「ですが、戦列艦の至近距離での砲撃が効かなかったんですよ!?

 そんな装甲の硬い相手に、沿岸砲が通用するわけありません!」

 

「は・・?」

 

戦列艦のゼロ距離射撃が効かなかった?

ミリシアルの最新鋭魔導艦の装甲を貫けなくない火力が?

 

だとしても、相手はたった一隻だぞ

 

300年間無敵だった艦隊が、敵になす術なく全滅したなんて・・・

 

 

・・・いや待て、敵は本当に文明圏外の蛮族だったのか?

ムーか、世界第二位が攻めて来たのか。国名を偽って?

 

いや、それもない。

表面上であってもレイフォルとムーは友好的な関係で、お互いを攻撃する必要性がない。

 

もしかしたら、未開拓の海域に存在する国家か?

・・・・なんにせよ、いずれ嫌でもわかるはずだ。

 

そもそも、今考えるべき内容ではない。

 

 

 

 

そして僕は考えることをやめたおかげで、あることに気づいた。

 

 

・・・・敵の攻撃が止んだ?

皇城への砲撃を最後に、発砲音が聞こえない

 

 

「・・・双眼鏡を貸せ」

 

僕は双眼鏡を覗き込み、敵艦がいる方向をみる。

あまりにも見慣れない戦列艦だった。

 

ムーのラ・カサミ級に似ているが、あれの方が巨大で魔導砲が大量についている。

・・・・あれが、グラ・バルカス

 

「・・・少尉?何かありましたか?」

 

「敵が、撤退している」

 

「・・・・え?」

 

「理由はわからないが、敵は撤退している。今のうちに応援を読んで救助すべきだ」

 

僕は魔信士官を読んで待機している部隊を呼ぶ。

魔信が繋がると僕は一度、曹長に防衛線を任せ、オマーを探した。

 

着いた時、オマーたちは救助を続けており、たくさんの負傷者を助けていた。

幸いに部下たちも誰一人欠けておらず、僕はこの日初めて神に感謝した。

 

 

さらに数時間後、応援の2個師団が到着し、僕たちはやっと休むことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きてる心地が全くしない

 

僕は、今、本当に生きているのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、目の前で何人死んだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この手から、何個の命が零れ落ちた?

 

 

僕は、何が出来た?

 

 

ただ、目の前で人が、仲間が死んでいくところを呆然と眺めていただけじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中尉に頼まれ、こんな僕について来てくれた部下を失った。

 

 

到着が遅れ、師団長が犠牲になった。

 

 

師団長が教えてくれた情報に従わず、近道を選んだから負傷した民間人が死んだ。

 

 

僕が沿岸砲で敵艦の注意を奪えば、陛下が逃げる時間を稼げたのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、ダメな人間だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・・・レイレスさん?大丈夫っすか・・?

 どっか怪我したなら、医療テントが向こうにありますよ」

 

「・・・あ、オマーか。どうかした?」

 

「あ、いえ、中尉が、『よく、あの地獄のような攻撃を乗り切ったな』って褒めてましたよ」

 

中尉には、本当に申し訳ないことをした。

判断を誤った、間違いを犯しすぎた。

 

「・・・僕は、その称賛を受け取るに値しない人間だ」

 

「レイレスさん・・・・」

 

「それだけか?それなら、今は一人にしてくれ」

 

しまった。突き放すような言い方をしてしまった。

僕は慌ててオマーの顔を見る。

 

彼は、表情を完全に暗くしていた

 

「一つ、聞きたいことがあるんです」

 

オマーは決心したように口を開いた。

 

 

 

 

 

「レイレスさん、・・・皇帝陛下が死亡したって、本当ですか?」

 

 

 

 

 

オマーの顔に微かな希望に縋るような表情が浮かんでいる。

・・・口が、開かない。

 

多分、いや、絶対に僕が本当のことを伝えれば、オマーは絶望に叩き落とされるだろう

だからといって、伝えないわけにもいかない

 

オマー、許してくれ。

 

「・・・ああ、陛下は亡くなった。敵は指揮系統を集中狙いしたんだ。

 将軍も師団長も、先輩や友人まで、みんな死んだ!」

 

僕は、間違った選択を選び過ぎた。

 

「・・・サガリカ・ティー、クープ・サイプス。・・・覚えているか?

 僕が率いた分隊で、死んだ二人の名前だよ。死体すら見つからなかった。

 ・・・なぁ、僕は、二人の家族に、本人に、なんて顔をすればいいと思う?

 なんて言えばいいと思う?」

 

部下になんてことを聞いているんだろう。

全部、僕の責任じゃないか

 

ほら、オマーもなんて言えばいいかわからないって顔をしている

 

「・・・悪かった、こんなこと聞いて。オマーも早く休め。

 また、敵がいつ来るかわからないからな」

 

「・・・わかったっすよ。じゃあ、俺は飯でも食べてきます」

 

オマーはそう言うと、テントの外に向かう。

・・・これじゃ、僕は食べられなさそうだな。

 

そのまま彼の背中を見送ると、急に首だけがこっちを向いた。

え?こわっ

 

そして大股でこちらに近づいてくる。

 

「・・・やっぱり、レイレスさんが全て背負うなんてありえないっす!

 俺にも分けてください!」

 

「・・・・・え?」

 

僕は両目を大きく開ける。

珍しい僕の反応の仕方にオマーは満面笑みを浮かべた。

 

「だから、俺が一緒に持つって言ってるんです!

 さぁ、レイレスさん!分けてください!」

 

涙が視界を埋め尽くしていき、やがて溢れる。

 

「オマー・・・お前は、最高だよ」

 

「いつだって俺は最高です!飯食いにいきますよ!」

 

オマーに手を引かれ、僕は外に出る。

 

外は夜なのにまだ明るい。

消火活動が全く進んでいないわけではないけど、数日あれば消えるだろう。

 

テントの周りには他の兵士もたくさんおり、僕は中尉を見つけた。

 

「ブルックス中尉、ご無事で何よりです」

 

「あぁ、レイレスか。よく生きていたな。

 あれだけの地獄を少ない犠牲で乗り切るなんて、指揮官の素質があるな」

 

中尉は僕の肩を叩いて褒めてくれる。

僕は何とか謝罪しようとしたところ、紙の束を押し付けられた。

 

「・・・お前の顔に書いてあるぞ。『中尉の部下を失ってすみませんでした』って。

 そんなことを思う暇があるなら、報告書を書いといてくれ。

 辛い過去を思い出すよりマシだろ?」

 

「・・ありがとうございます。中尉はどちらへ?」

 

「臨時司令部の命令で、第13師団の生き残りをうちに入れるんだ。

 もう300人ぐらいしか残ってないらしい」

 

「そりゃ、・・・大変そうっすね」

 

「オマー、飯を口に入れたまま喋るな」

 

中尉の話によると、初動で対応していた第13歩兵師団がここまで減っている理由は兵力を分散させなかったかららしい。

固まっているところに敵の砲撃を受けて一気にやられたとか。

 

早く遺体を見つけないと、未知の伝染病まみれになるな・・・

それに、早く火を消さないと

 

「オマー、それ食べ終わったら衛生兵からうちの師団のリストをもらってきてくれ」

 

「了解っす。

 ついでに個人用の医療バッグも持ってきますけど、レイレスさんもいります?」

 

「いや、僕は簡易的な止血方法しか習ってないんだ。兵器開発室だったから・・・」

 

「え、じゃあ、後で俺が教えましょうか?」

 

「ああ、頼んだ」

 

オマーが人混みの中に消えていくのを見届ける。

 

・・・・気分が重い

 

これから僕は、何人死んだか、何人が戦えるかを見なければならない。

僕が失った二人もリストに載っているのだろう。

仮に載っていないとしても、絶対に僕が書かなければ。

 

「・・・お待たせしましたー!オマー先生の講座のお時間でーす」

 

少し分厚い紙の束を持ってきたオマーがニヤけながら戻ってきた。

その背中には先程まで背負っていなかったリュックがある。

そんなに僕に教えたかったのだろうか。

 

「助かったよ、オマー。

 ・・・・なんか良い事でもあったか?」

 

「それはもう。俺、教官になりたいなぁ、と思っているんすけど、早速教えられるなんて・・!」

 

「・・・そ、そうか」

 

この体力バカが教官になったら新兵が辞めてくぞ・・・

まぁ、それで質の高い兵士が増えるなら良いか

 

僕がそう思っている間、オマーによって机の上は医療品に占領されていた。

 

「さぁ、まずはしっかりとした止血の方法から・・・・」

 

・・・こいつ、意外に手先が器用なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時間が僕にとって今日1番リラックスできる時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






[第24歩兵師団被害報告書]


師団長 エドワード・クルース少将 (死亡)
副師団長 マイケル・フィリオン准将 (行方不明)

構成
3個旅団
(12個大隊)

人員
13,500名

損失 ※現時点。増える可能性あり。
死者 約3,500名
行方不明者 約200名
負傷者 2,147名
   重傷643、軽傷1504

戦闘可能人数
7,622名(現時点)

追記
司令部の命令により、指揮系統が崩壊状態の第13師団を我が師団の指揮下に組み込む。
なお、この地域を担当する3個師団(第5、13、24)では首都防衛は不可能と思われる。
敵の火力から見て応援の2個師団では足りない可能性が高い。
さらなる応援を求める。


記入者 トッド・レイレス少尉




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