レイフォルの燈を 作:ぽらりす
なんか、誰かが僕の肩を叩いてる・・・?
こっちは寝ているのにぃ・・・
「レイレス、起きてくれ」
この声は・・・・・中尉?
「・・・・ブルックス中尉?・・・おはようございます」
「・・・・起こしてすまない。少し話すことがある」
なんか、真剣な顔してる・・・
・・・・報告書、どっかミスった・・?
「・・・記入漏れですか?すぐに書き直します・・」
「いや、報告書は問題ない。・・・・部隊についてだ」
僕の目が一瞬で覚めた。
そうか、今後の師団について生き残りの将校で決めるのか。
確かに、昨日の砲撃で指揮官の戦死が相次いだと聞くし、もしかしたら僕も
部隊を率いるのかもしれない。
僕はすぐに立ち上がると、軍服を着て、側に立てかけてあるマスケットを手に取る。
隣の簡易ベットではオマーが毛布を剥いで寝ていた。
・・・そういえばコイツ、寝相が悪かったな
思わず僕は肩をすくめると、起こさないように毛布を掛け直す。
なんだか、すごく懐かしい感じがした。
「中尉、お待たせしました」
僕がテントを出ると、中尉はタバコを吸いながら燃える街を眺めていた。
「大丈夫だ、そんなに待っていない。
・・・・これから臨時司令部に向かい、生き残った将校で運用する部隊を決める」
「僕も部隊を率いるんでしょうけど、・・・・中尉。士気はどうされますか?」
僕の質問に中尉は苦虫を噛み潰したような表情になった。
そしてタバコを捨て、踏み潰す。
「・・・お前の言う通りだ。すでにケアが必要なやつがわんさかいる。
うちだけじゃないが、脱走兵も出始めてるからな」
「もう脱走兵が・・・・・・探して連れ戻しますか?」
「そんなことして何になる?
戦う気の無い奴らを前線に連れて行き、肉壁にでもするか?」
「いえ、まさかそんな非道なことは・・・・」
「だったら、どうするんだ?」
思わず言葉が詰まる。
確かに、パッと考えただけじゃ何の役にも立たない。
なんて発言をしてしまったんだろう。
あれだけ部下を失わないようにと心に決めたのに、今の発言じゃ・・・
「・・・・僕の、思考不足でした」
「わかったなら良い。・・・・行くぞ」
やがて、僕たちは珍しく砲撃の影響を受けていない建物についた。
扉の横にはマスケットを所持した兵士が立っている。
ここが臨時司令部か?
ずいぶんと綺麗な建物を見つけたもんだ。
「第3小隊のブルックスだ。師団長に呼ばれて来た」
「わかりました。師団長は二階で他の司令官と共にお待ちです」
警備兵の言う通りに建物へ入ろうとした僕だが、扉を開けた瞬間に異臭が鼻を満たし、思わずえずく。
「・・・・うぇっ、・・・・何なんですか、この臭い・・・」
「・・・レイレス、我慢してくれ。この建物の一階と地下は病院になっているんだ」
なるほど、そう言うことか・・・
野戦病院として機能できる建物が少ないんだな
・・・とは言っても、司令部と一緒にしないでほしいんだが
何とか工夫して階段を登り、廊下を少し進むと、中から話し声が聞こえる部屋についた。
中尉がノックすると、中から「入ってくれ」と声が聞こえた。
「・・・失礼します、大佐。レイレス少尉を連れて来ました」
大佐、と呼ばれた気の強そうな女性は僕の顔を見ると、深く頷いた。
僕は正直、彼女に驚いた。
レイフォル軍は男だけではなくしっかりと女性もいるが、人数は少ないのだ。
ほとんどが衛生兵や魔導士、事務などに所属しており、実戦部隊での女性比率がゼロのところも沢山ある。
その中で女将校というのはさらに少ないのだ。
「レイレス少尉。私は第6大隊指揮官のソルターだ。
今は戦死したエドワード少将に代わって師団長となっている。
・・・君が昨日からこの師団に来たと聞いているが、災難だったな」
「いえ、大佐こそご無事で何よりです。
生き残りの将校だけがここにいるとお聞きしましたが、今後はどう言った方法で指揮なさりますか?」
「・・・・君は、状況を飲み込むのが早いね。こっちに来てくれ」
大佐が部屋の中央にある長机の奥に立つ。
ぱっと見、机の周りに立つ将校は20人ほどしかいなかった。
「全員集まったし、始めるぞ。
報告だと、我が師団の戦闘可能人数は約7.000だ。ここに第13師団の生き残り327名を入れる。
そして現状、脱走兵が相次いでいるらしい。
・・・・本当ならここにもあと数人いる予定だったんだがな」
まぁ、あんな圧倒的な火力差を見せつけられたら、逃げ出したくなるよな。
僕だって街に入ってからすぐに基地に戻ろうとした人間だ。
「・・・で、現時点で約7.500の兵士がいる。これを均等に分けていくんだが・・
エイジャックス少佐、第9大隊を連れて後方待機。
レリック少佐、第2大隊と第4の生存者を率いて沿岸砲に向かえ。沖の海軍を援護しろ」
ソルター大佐が次々に司令書を他の将校たちに渡していく。
内容を軽く目に通した後、急いで外に走って行った。
「ブルックス中尉。衛生部隊を率いて野戦病院の防御を固めろ」
「了解!」
あれ?中尉が違う部隊に・・・?
だとしたら、残ったのは
「・・・・レイレス少尉。第1大隊を率いて港町の中部に展開しろ。
異動して来てからすぐにこんなことを頼んでしまい申し訳ないが、最善を尽くしてくれ」
僕が、大隊の指揮官に・・・
約400名の部下を率いて、敵が上陸した場合は市街戦をやるのか。
絶対に、余計な犠牲は許されない。
直ちにどこで守りを固めるか決めなければ。
「何としてでも、守り抜いてみせます」
「まぁ、そんなに硬くなるな。海軍や防衛線で食い止めてやるさ」
「大佐はどちらへ?こちらに残られますか?」
「いや、君について行こう」
・・・・はい?
僕の部隊に着いてくるって?
大佐が、少尉の部隊に入るか?普通。
「あの、それはちょっと・・・・」
「何だ?こう見えても私は優秀なんだぞ。きっと素晴らしい活躍をするだろう」
そう言う問題ではなくてですねぇ・・・
「他に誰かここに呼ぶか?どこを我々の拠点にするか決めよう」
・・・・・もう、どうにでもなってくれ
僕は諦めた。
この人に僕の話は通用しない。
ここに、少尉が大佐に命令を下せる世にも奇妙な部隊が作られた。
「・・・・で、この街中でどこが一番守りやすいか、って話っすね」
ソルター大佐の命令で軍曹に進級したオマーが腕を組んで悩んでいる。
座学が壊滅的なコイツがいくら考えても無駄な気がするんだが。
「うーん・・・やっぱり、バラバラで建物に隠れて待ち伏せっすかね!」
「オマー、あの戦列艦の攻撃力を忘れたか?」
「その作戦だと戦力を分散できるが、被害が増えるな」
「あーもう!否定ばっかりしないで、二人も考えてくださいよぉ!」
砲撃で建物は遮蔽物にならないとすると、自然の地形を活かした陣地が一番いい。
だが、レイフォリアにそんな場所はない。
だとすると、砲撃の被害を受けにくい塹壕か蛸壺が有効だ。
オマーの言う待ち伏せにも使え、塹壕内に着弾しない限り被害はほぼ無い。
問題は、塹壕を掘る時間があるかわからない点だ。
僕の予想では少なくとも、正午ぐらいには上陸が開始される可能性がある。
ん?待てよ・・・
「・・・・川だ。この川を塹壕に使うんです!」
「中心部のこの川か。確かに海岸線と並行に流れているからピッタリだな。
砲弾の爆風を防げるし、整備されているおかげで足場が不安定ではない」
「確か、火災が起きた時の対策で川の周りは建物を建てられないんでしたっけ?」
「その通りだオマー軍曹。その空いたスペースに土嚢を置けば、さらに強固な防衛線が作れる」
さすがはレイレスの部下だな、とソルター大佐が僕の肩を叩いてくる。
とりあえず、これで部隊を危険に晒す確率を下げられる。
少ない兵力でも十分機能するだろう。
「もう3時か・・・大佐、作業に取り掛かりましょう。
夜明けまでには完成させ、兵の配置も行います。
オマー。二十人ぐらいを連れて、装備をかき集めろ」
大佐は満足そうに頷く。
オマーも嬉しそうに敬礼した。
「わかった。先に私が川に部隊を集めておく。この地図は好きに使って良いぞ」
「了解っす!魔導砲もできる限り集めて起きます!」
二人が出て行き、部屋には僕と静かな空気だけが残された。
・・・・本当に、僕が大隊を率いるなんてな
何とも言えない気持ちに浸りながら地図を折りたたみ、リュックを背負う。
部屋を出て、悪臭が漂う一階を何とか通り過ぎて外に出る。
新鮮な空気を胸いっぱいに吸っていると、声をかけられた。
「大隊長になった気分はどうだ?レイレス。まぁ、冷静沈着なお前は、十分に指揮官の素質はあるぞ」
「・・・・・中尉」
「そんな顔すんなって。
お前も出世したかったなら、後にこんなことだってあるとわかっているはずだぞ
ほら、お前も吸うか?」
中尉はそう言って胸ポケットから葉巻を取り出して勧めてくる。
「僕は、葉巻は吸わないと決めているんです」
「うちの親父が作ったやつだ。ほら、お守りにでもしとけ」
どんなお守りだよ・・・
とりあえず、受け取るだけでもしておくか
「・・・正直、お前にうちの部隊の訓練をさせて見たかった」
中尉の口調に悲しみが混ざり始めた。
もしも昨日の敵が上陸したら、どちらかが死んでいるか、あの世で顔を合わせるのだろう。
これが、最後の会話になるかもしれない。
「結構キツいのでしょうけど、今よりはだいぶマシですね」
僕の言葉に、中尉はニカって笑った。
「そうだろうよ。ただ、仲間と共に訓練を終えた後は最高だぞ?」
その顔が、少しだけ光に照らされたような気がした。
日が昇ってきているのだろうか。
中尉もそれに気づき、立ち上がる。
「・・・・どうやら、お別れのようだな」
拳をこちらに差し出してきた。
僕も拳を出し、軽くぶつける。
「どんな状況であっても、最高で後悔しない決断をしろよ。レイレス」
「これが、僕の最高の決断です。ブルックス中尉」
僕が陣地と指定した川は、あっという間に立派な塹壕と化していた。
「気分はどうだ、少尉。部隊の配置は私が決めておいた。
オマー軍曹が魔導砲を6門確保したそうだ。個人の装備は足りている」
紙とペンを持った大佐が塹壕の上から指示を出していた。
「ご苦労様です、ソルター大佐。少し休まれては?僕が残りを片付けておきます」
「指揮官に仕事をやらせる部下はいないだろう?川の水は堰き止めてある。
私の独断でだが、最終手段も置いておいた」
最終手段?
ここが突破された時のか?
「何を置いたんですか?」
「爆薬だ。敵がここを乗り越えようとした時に、吹き飛ばす」
さっすが臨時師団長だ。
考えと行動力が僕とはかけ離れすぎている。
だけど、結構良い案だな。
爆発で敵を削るだけでなく、塹壕を広げて時間稼ぎもできる。
・・・下手したら味方ごと吹っ飛ばすことになるが。
「起爆装置は3ブロック先に設置し、安全に爆破できるようにしておいたぞ。
兵の配置だが、塹壕を出てから後方に土嚢や遮蔽物を作った。
これで撤退時の援護や、塹壕内に入ろうとした敵を片付けられる。
我ながらよく出来たと思うぞ!」
なんか、子供みたいだな
でも確かによく出来た陣地だと思う。
攻撃、守り、撤退が均等に保たれている。
「ソルターさん、レイレスさん!お待たせしました!
魔導砲に弾や火薬、有刺鉄線のあまりも貰ってきました」
「よくやった、オマー。魔導砲は半分を均等に配置して、残りの半分は臼砲として使う。
その方が砲兵も均等に分けられるし、戦力を長く維持することが可能だ」
「了解っす!ここは俺とソルターさんでやっとくので、仮眠でもとっておいてください」
仮眠?僕はこの部隊の司令官になったんだ。
部下をしっかりとまとめなければならない。
だが、大佐が毛布を片手に僕の肩を叩いた。
「戦闘中に部下に正しい指揮を出すのが指揮官だ。
私がコイツらを見とくから、今のうちに寝とけ。敵が来なかったら起こさねーから」
・・・・まぁ、それなら良いか
「わかりました。何かあればすぐに起こしてくださいね」
そう言うと、僕は椅子に座り、眠りについた。
レイレスがスヤスヤと寝息をたてている。
私は肩をすくめた。
「・・・もう少し、将校として経験を積んどけば、良い司令官になっただろうに」
「あれ?本当に寝ちゃったんすか?・・・・あ、魔導砲は設置終わりました!」
「お疲れ、オマー軍曹。お前も休んでおけ」
「了解っす!」
私はこの二人の母親か何かか?
と、思ってしまうほどコイツらは子どもみたいだ。
もう
体力が有り余りすぎている。
私には子どもはいないが、実際の母親はこれくらい苦労しているのだろうか?
・・・・は?私が独身かって?
失礼な。夫はいるわ
ま、軍人である以上、そんなに会わないんだがな。
「少尉・・・・・はお休み中ですか?」
「ああ、私で良かったら聞くぞ?」
「・・・・っ!大佐!?失礼致しました!まさか視察中とは!」
「ああ、そうではない。レイレス少尉の部下になった」
「・・・・・・はい・・・・?」
兵士は口をあんぐりと開けている。
まぁ、そりゃ驚くよな。
「コイツの方が指揮官に適任だと思ってな。
昨日の惨劇を犠牲二人で耐えたから、旅団をまともに指揮できなかった私よりは良い」
「・・・・・はぁ、そうですか。って!報告です!
洋上を哨戒中の竜騎士団が、敵の大艦隊を発見したとのことです!」
「なにっ!どのくらい前だ!」
まさかとは思っていたが、本当に来やがるとは・・!
「数分前です!今、海軍が迎撃に出ています!」
「わかった!・・・おい、レイレス!オマー!起きろ!
敵の艦隊のお出ましだ!」
敵が!?もう来たのか!
僕はすぐに起き上がり、同じく起きたオマーからマスケットを受け取る。
「司令官より、全兵士へ!敵の艦隊が出現した!警戒しろ!」
すぐに塹壕内が慌ただしくなった。
良かった、しっかりと従ってくれている。
「魔導砲は装填し、すぐにでも砲撃準備!それ以外は戦闘準備だ!」
「少尉!大佐!艦隊からの魔信です!全部隊に通じています!」
設置型魔信機に近づき、音量を最大まで上げる。
『――――!こちら旗艦のダイジェネラだ!ただいま敵艦隊と交戦中!
全く歯が立たない!こちらの数が減っている!』
魔信の向こうから爆発音、叫び声、水が甲板に打ちつける音が聞こえる。
どうやら、海軍は劣勢のようだ。
主力艦隊ですら一隻に全滅させられているのに、寄せ集めの地方艦隊じゃだめか・・・!
『ダメだ!敵が強すぎる!本当に、蛮族なのかよ!?』
悲痛な声が聞こえてくる。
僕は現場がどうなっているのかわからないが、かなり劣勢だろう。
『――クソっ!これ以上撃ち合ってもただ負けるだけだ!
・・・・・司令部へ!我が艦隊は、敵艦隊への突撃を決行する!』
突撃だと・・・?
まさか・・・・
『陸軍の連中!聞いてるか!
敵はおそらく上陸部隊を連れてきている!激しい戦いになるだろう!
・・・・だから、我々は突撃し、お前らの時間を稼ぐ!
絶対に、敵に負けるなよ!
――全艦、突撃を開始しろ!一矢報いてやれ!』
その瞬間、爆発音が響き、雑音しか流れなくなった。
「・・・・っ!レイレスさん!」
海軍は、身を挺して防衛準備時間を稼いだ。
なら、僕たちがするべきことは?
「・・・全員、戦闘準備!僕たちの力を、敵に思い知らせてやれ!」
命をかけて、自分たちの
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