一人称おじさんな美少女転生者、昼行灯な門番になる   作:ばんぺー

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1 ハクリは門番である

 門、とはすなわち境界である。

 あちら側とこちら側、二つの異なる区域を隔てる境目。

 そして、通すべき者を通し、通すべきでないものを通さないための場所。

 故にそこには番人がいて、通ろうとする者たちを見定めるのだ。

 

 まぁ、そんな仰々しい言い方がふさわしい門というのは、実際そこまで存在しない。

 大抵の門はただ旅人を通すだけのものだし、門番の仕事も単純だ。

 そう、単純なのである。

 やってきた人の旅の目的と簡単な来歴を聞いて、門を通していいか判断する。

 許可証を向こうが最初から持っていればほぼ素通しで問題ない。

 ピークタイムも特定の時間だけで、それ以外は基本暇していることが圧倒的に多いのだ。

 なんとも楽な仕事である。

 だからこそ私は、門番になることを選んだわけだ。

 

 それに、門番として人の話を聞くのは、結構面白い。

 何せここは剣と魔術の異世界ファンタジー。

 やってくる人間は、その多くが何かしらの冒険譚を抱えている。

 彼らにしても、そういう自慢話は話していると楽しいのだろう。

 ついつい話がはずんでしまうこともある。

 ピーク時にやると怒られるけど、人がいない時はのんびり話に興じるのも悪くない。

 

 まぁ、でもアレだね。

 おじさんとしては、やっぱりのどかで穏やかな感じで行きたいわけだよ。

 こちとら昼行灯気取ってる、ごくごく普通の門番でしかないんだから。

 顔はいいってよく旅人にも知り合いにも言われるけどね。

 でもこんなおじさんの顔がよくて、一体誰が得するっていうんだか――

 

 何にしても、異世界で少女に転生した私は、今日ものんびりと門番生活を続けるのだ。

 

 

 ●

 

 

 ――空は青々と澄み渡り、風は心地よく頬を撫でる。

 当たり一面はどこまでも広がる雄大な草原。

 そんな穏やかな場所に、突如として巨大な”門”が現れた。

 旅人は、そういう光景を目にするだろう。

 そこは交易都市アルビア。

 この辺りの交通の要衝であり、多くの旅人が行き交う街。

 東西南北に四つの門を構え、それぞれに人を受け入れる。

 南門はその中で、最も往来する人間が少ない門だ。

 

 ――そんな門の前で、椅子にどかっと座り込み眠りこける門番がいた。

 

 背丈は小柄で、少し癖のある髪の色は黒。

 背骨の当たりまで伸びた髪を首のあたりで一本にまとめている。

 兵士としての制服が似合っていない小柄さとあどけなさで、どことなく門番らしくない雰囲気があった。

 ――まぁ、私のことなのだが。

 

「ふがっ」

 

 自分の寝息で目が覚める。

 あるいは、遠方からやってくる旅人の気配に目を覚ましたか。

 あくび混じりに周囲を見渡すと、隣には男なんだか女なんだかわからない長い茶髪で糸目の兵士が立っていた。

 

「……おはようございます」

「ええ、おはようございます」

「うわ、一緒に警備してるの隊長じゃん。んへぇ、いつの間に交代したんだ……」

「貴方が寝たあたりからですかね――ハクリ」

「ふああ……おじさん暇な時はこうやって寝るのが一番の至福なんだよ」

「……まあ、貴方はそれでもいいですけどね」

 

 門の兵士にあるまじき発言だ。

 正直、これでも雇ってくれているアルビアのお偉いさんには感謝しかない。

 まぁ解雇されたらまた適当に生きていくだけなのだが、そこはそれ。

 一応今はちゃんと定職についてお賃金を貰っている身。

 相応の仕事ってやつをしないといけない。

 

「……それより、久々の旅人がそろそろくるみたいだよ」

「おや、さすがハクリですね。私ではさっぱりわかりませんでした」

「……到着するまであと二十分くらいあるからねぇ」

「それはそろそろとはいいませんよ」

「だね」

 

 といいながら、私はもう一度うつらうつらと船を漕ぐ。

 おそらくこのあとは()()()が待っているだろうから、今のうちに英気を養っておかないと。

 というわけで、二十分後。

 私は本当にやってきた旅人の相手をしていた。

 

「――名前は?」

「ゆ、ユーリ……です」

「どこから来たの?」

「な、南方の山奥の村です……ヒステルダって言って……解ります?」

「あー、確かそんな村が奥の奥にあったような……」

 

 現れたのは、黒髪の少年だった。

 地味な印象の、年の頃は十代半ば。

 どこか、顔に陰のあるやつれた少年だ。

 

「アルビアに来た目的は?」

「……ぼ、冒険者になろうかと」

 

 

 ――()()()

 

 

 内心で、そう判断する。

 私は直感的に、人の嘘を見抜く事ができた。

 これは門番をするうえでは非常に有用な能力で、変な輩を街に入れずに済むというのは非常に大きい。

 過去に何度か、これで凶悪犯を取り押さえたこともある。

 まぁ今回は私でなくとも気付けるくらい、ユーリ少年が挙動不審だっただけだけど。

 

「冒険者……ね。村では何してたの?」

「え――」

「……ほら、得意な武器とか、戦い方。冒険者になるなら、そこら辺ははっきりしておかないと」

「あ、えと」

 

 だから問いかける。

 明らかに動揺した様子で、ユーリ少年の村で”何か”があったことは明白だ。

 まぁ、それ以上の追求は避けるけど。

 ……いくらなんでも、着の身着のままで来た人間をこれ以上虐めても仕方がない。

 

「まぁ、特にそういう得意がないってことは、別に珍しいことでもない。これから見つけていけばいいと思うよ」

「……」

「人生は長いんだから」

「……っ!」

 

 そうやって慰めると、ユーリ少年は更に複雑そうな顔をした。

 ……どうやら、事態は結構深刻みたいだ。

 まるで、自分の人生が長くないとでも言うかのような。

 あるいは、()()()()を終えた家族がいるかのような。

 私はちらりと隣に立っている隊長に視線を向けて促しつつ、少年の肩に手をおいた。

 ……ちょっと背が高いな。

 

「だからこそ、一つだけ言っておくよ」

「え……」

 

 それから、少年の横を通り過ぎて一歩前に躍り出ると――

 

「よくここまで頑張ったねぇ」

 

 

 ――その後方に隠れている魔物に、炎の魔術を叩き込んだ。

 

 

「え――」

『ガ、ギャアアア!』

 

 現れたのは、コウモリ羽を持つ黒一色な人型。

 悪魔、と呼ばれる種類の魔物だ。

 非常に狡猾で、このくらいの大きさなら村一つは容易に滅ぼしてしまうだろう。

 こういう悪魔の厄介な点は、人を弄ぶ傾向にあるということ。

 たとえば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか。

 憑依された人間は、そもそも憑依されたことにも気付かないだろう。

 しかしおかしいのだ、着の身着のままで何日もかかる旅路を普通の少年がこなすなんて。

 悪魔がそれを助けたりしないかぎりは。

 ――本人的には、何日もさまようようにここまで歩いてきた感じなんだろう。

 しかし実際は、悪魔がユーリ少年を操っていたのだ。

 

「な、え、あ……」

『ギ、ギアア! キサマァアア!』

 

 おそらく、概要はこうだ。

 今ここにいる悪魔は、ユーリ少年の村を襲撃した。

 それにより村は全滅、たまたま生き残ったのがユーリ少年である。

 悪魔はそれを容易に殺すこともできたが、利用することを思いついた。

 アルビアのような街は結界が貼られていて、悪魔は近づけない。

 しかし少年に憑依した状態であれば、話は別。

 そうしてユーリ少年を操ってここまで運んできた……といったところか。

 

「隊長、こいつを倒したらおじさん今日はゆっくり家に帰ってやすんでもいいよねぇ? 休養規則、休養規則」

「門を攻撃しようとする魔物が発生した場合、これを討伐した兵士はその日は帰宅し、身体の休養に当てるべし。休養してもその分の給与は支払われる……コレ、ハクリが使う想定の規則じゃないんですけどねぇ」

「まぁまぁ」

 

 否定はされなかった……というか、これまでもそうだったから問題ないことは間違いない。

 私は満足げに頷くと、腰の剣を抜き放って構える。

 すると、私の黒髪が淡い紫の光を帯び始めた。

 

『キサマ……ナゼ、ワカッタ! ナゼ! ナゼ!』

「えー、なぜなぜうるさいなぁ。おじさんは勘がいいんですよ」

 

 ――アルビアの四方門のうち、南門は人の往来が極端に少ない。

 故に一部からは閑職だとか何だとか言われるが、そもそも往来が少ない理由はとても単純だ。

 アルビアの南方には、巨大な魔物の領域がある。

 時折そこから、魔物がちょっかいをかけにくるのだ。

 故に、南門を守る兵士はクセが強く、そして”番人”にふさわしい実力がなければならない。

 

「ま、おじさんの担当した日にたまたまここへやってきた君の運が、悪かったってことで……勘弁して、ね!」

 

 

 ――例えば、私のように。

 

 

 気がつけば私の体は宙にあり、悪魔を両断し切り捨てていた。

 真っ二つになった悪魔は、それに気付くことすらなく、消え果てるのだ。

 

 

 ●

 

 

 アルビアの南門の門番、ハクリ。

 元は優秀な冒険者だったが、ある時からアルビアの門番として働き始めた。

 その働きぶりは実に怠慢、職務中の半分ほどを睡眠で消費する自堕落っぷり。

 昼行灯とはまさにこのことで、これが普通の門番であれば今頃解雇されていることだろう。

 しかしハクリは、アルビアで最も危険とされる南門最強の門番。

 更に彼女は、不思議と”真実”を見抜く特性があり、それは門番として非常に得難いものだった。

 

 彼女の見抜く真実は、決してただの事実だけではない。

 そこにある人の思いや願い、そして本当にその人が知ってほしかったことを詳らかにする。

 これは、そんな真実を見抜く力を持った門番のハクリが、やってくる旅人の”真実”を明らかにしていく物語。

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