あわいの灯   作:篠乃

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注意書き

山あいに生きる薬師の兄妹が、
人と鬼、命と死のあわいを渡りながら、小さな灯を繋いでいく話。
原作『鬼滅の刃』の余白に触れるような静かな補完連作です。

時代は室町末期〜戦国初期頃。
政治の世界における「神秘」や「祈り」の力が、
ゆるやかに失われつつある時代です。

※原作要素を含む二次創作/時代背景に基づく死生・医療描写あり。
※史実・設定改変を含みますが、世界観の整合を重視しています。
※本話には原作キャラクターは登場しません。
※シリーズ作品のため、第一話「序 灯明」からお読みいただくのをお勧めします。

それでは、どうぞ、ゆっくりと。



古寺1 落葉

鷹丸に別れを告げ、里に向かう。

朝のひんやりとした草のにおいのする静けさは、太陽が昇るにつれてあたたかな稲穂の匂いと人の暮らしの音に変わった。

柔らかな里の色合いの中にきっぱりした赤が浮いている。

根に毒を宿し、田畑を荒らすモグラを退ける彼岸花は、黄金色にひかる田圃をぐるりと囲っていた。

 

里の入り口で、綴弦たちはひとりの男に呼び止められた。

つい先日、炭焼き小屋に向かう折に声をかけてくれた男だった。

 

「あんたら……篝一は?」

 

返す言葉がなく、綴弦はただ首を振った。

男はしばし沈黙し、それから目を伏せて息を吐いた。

 

「……そうか。……あんなに嫁と娘の話ばかりしてたのにな。あいつの惚気を聞くの、好きだったんだ」

声が少しだけ掠れていた。

 

男に案内されて、ふたりは里長の家を訪ねた。

老いた里長は話を聞き終えると、長く目を閉じていた。

炭のこと、伝達のこと、里の務めを思いながらも、その表情にはただ人としての悲しみがあった。

 

「あの一家は、よう働いて、よう笑っていた」

そう言って、しばらく動かなかった。

 

泊まっていけという誘いを固辞すると、ならばせめてと、女房が握り飯を包んでくれた。

その手のぬくもりが、胸に痛かった。

 

 

 

里は、活気に満ちていた。

秋晴れの空の下、黄金の稲が風にさざめく。

並んで刈る者、干場に稲を掛ける者、杭を打つ音が調子をとる。子どもたちの笑い声が、澄んだ空気のなかに響いて溶ける。

 

そのすべてが、遠かった。

桃源をのぞき見るような、現実味のない眩しさ。

空の青も、稲の金も、ただ目に痛いほど輝いている。

 

黄金色の海の上を、蝶とんぼがひとつ舞った。

金属の粉を散らしたような羽が、陽の角度にあわせて色を変える。青く笑い、紫にすね、黒に沈み、そしてまた金のひときらで、ひどく楽しげに光った。

 

田を囲うように、赤い彼岸花が咲き乱れていた。

モグラを遠ざけるために植えられたその花は、彼らと己の境界のように映った。

 

やはり——ここにいてはいけないのだ。

 

 

***

 

 

里を出て一度途切れた稲穂の香りが漂ってきた。

東の空はまだ青いが、西の山の縁に朱が混じる。

 

隣の里の縁に着いたのだろう。

ふと先を見ると、稲穂の原がざわめく中に一本の大きな木が見えた。葉は青々と茂り、枝葉は横に伸びている。

 

「今夜は、あの木の下で休もう」

綴弦がそう言うと、月詠は小さく頷いた。

 

ふたりが木の前に着くころには、夕陽はすっかり傾き、世界を朱く染め上げていた。

それは(えのき)の老木だった。幹には深い皺のような亀裂が走り、根のあたりには秋草が寄り添うように揺れている。

 

全てが朱に染まる中、枝先に揺れる黒紫の実が柔らかく光を受け止めていた。

 

胸の奥で、何かが静かに定まっていく。

庵へ帰りたいという思いは、まだある。けれど、それは彼自身の郷愁だ。

 

月詠を連れて行くには、あの庵では足りない。

生き延びるための場所を、選ばなければならない。

 

風が吹き、稲の穂がさざめいた。

綴弦はその音を聞きながら、背の薬箱を下ろした。

「……ここなら、静かに眠れそうだ」

 

 

***

 

 

まるい月が、夜を青白く照らしている。

深緑の葉は夜空に溶け、枝葉の合間から差す月光がもう一つの星空を作っていた。

 

綴弦と月詠は、榎の幹に背を預け、それぞれに木綿の(あわせ) に包まっている。

夜風が榎の星空をさわさわと乱す。

触れる肩はあたたかいが、ひとり抱える膝に秋の夜を感じた。

 

月詠は甘えるように綴弦の肩に頭を預ける。

触れているところの熱が心地よく、幸せや懐かしさを噛み締めるように、ふふっと笑った。

綴弦はどうしたのかと目線をやる。

 

「なんだか師匠を送った夜みたいだと思って。さっきこの樹が師匠みたいに見えたからかなぁ」

 

目を細めて控えめに笑う。

師匠が恋しい、子どもの顔だった。

 

「庵、帰りたいか」

「…うん。でも、冬越えはかなり厳しいでしょう」

 

月詠がす、と目線を上げ、綴弦の目を見る。

綴弦の顔の奥、榎の葉の隙間から覗く月光が榎の実の暗さを際立てている。

 

「……寛浄様の寺に、お世話にならないか。師匠のおっしゃっていた」

 

かつて彼の寺のそばに立ち寄ったとき、旅の僧侶や薬師が共同で冬越えを出来るよう開放されているのだと師匠から聞いたことがあった。

 

「うん。わかった。……お寺って、女のひとは離されちゃうから寂しいけど、冬の間だけなら」

月詠が耐えるように目を瞑る。

 

「珠世さんの病気の件もある。きっと寛浄様のところほど大きい寺なら、資料もたくさんあるだろう。

だが女の場所は資料がないだろう。俺ひとり調べるのも現実的じゃない」

 

言い訳のように早口に話す。

少しの間。

口にするのを躊躇い、勢いをつけるように一息吸う。

 

「……男の格好をすれば、薬師見習いの少年で通せるだろう」

 

月詠は言外に、いっしょにいていいと言われた気がした。

 

「ほんとう⁈綴弦といっしょにいられる?」

 

パッと目が開かれる。自分の着る袷越しに綴弦の手を握る。

嬉しくてたまらないという目で綴弦を見た。

 

 

 

 

綴弦はその顔越しに揺れる月詠の髪を見る。

喜ぶ月詠の顔をまともに見てしまったら、どうなるのかわからなかった。

 

移動中さえ誤魔化せればどうにかなった去年の冬とは違い、寺の中では旅笠や蓑の中に髪を隠せない。

つまり、少年を装うなら腰あたりまで伸ばした髪を、自分のように肩口程度まで切り揃えなければならないのだ。

 

珠世に女の子だからねぇと髪の手入れを教わっていた。

梳られて指通りの良くなった髪を喜んで、触ってくれと手を引かれた。

ふたりで旅するようになってからも、許される範囲内で手間をかけていた。

薬師の仕事の邪魔にならないようにと、いつしか三つ編みに結うようになっていた。

 

垂髪でなくともわかるほどの夜の混ざった濡羽色の髪を、自分の勝手で切り落としていいものか。

師匠の面影を老木に見るほど恋しがる月詠から、郷愁にくれる時間だけでなく、その髪まで?

 

だから、月詠の堪えるような顔を見て、つい、言い訳じみた言葉を並べてしまった。

束の間の離別さえ、身を切るような顔をする幼さに付け込んだ。

 

”いっしょにいられる”と嬉しそうにする月詠に、仄暗い喜びが湧き上がってくる。それは、神を地上に引き留めようとする罪の悦びにも似ていた。

 

風が一瞬、榎の梢を渡っていく。

月光の下で、月詠の輪郭がほの白く透けた。

このまま放っておけば、どこか遠く——空へ還ってしまいそうな気がした。

 

 

 

 

朝日が、世界を正しい色で満たしていく。

葉の緑、彼岸花の赤、稲穂の金、

月光の下で見たときには闇色だった実は、琥珀色の粒のように透けていた。

 

月詠はまだ眠っていた。

幹に背を預け膝を抱えていた寝入りの姿勢ではなく、そのまま横倒れになったような形で、綴弦の膝と腹の間に頭を挟むようにして、寝息を立てている。

朝露に濡れた三つ編みの髪が、目の前にあった。

 

腰の小刀を抜く。 

 

刀の背が日の光を弾いて、罪人を映した。

網目の根元より少し下に刃を当てる。

根本からの距離が自分の偽善の証のように感じられた。

 

「ゆるさないでくれ」

 

——しゃり、と音がした。

 

天女の羽衣を奪った男は、こんな気持ちだったのだろうか。

 

切り落とされた髪は、男の手の中に残った。

陽の光がそれを透かし、まるで朝の空を掬ったように淡く光った。

けれど、その髪はもう、天を連れてはいなかった。

 

守ることと、奪うことは紙一重だ。

そのままを包んでやりたいのに、身を削らせてしまう。

 

それでも、あの子は笑うだろう。

「いっしょにいられる」と言ってくれたあの顔で。

 

その優しさは、強さだけでは届かない場所にある。

言葉にならぬまま、胸の奥で小さく形を成した。

 

 

 

 

月詠は、日の光にまぶたを細めながら目を開けた。榎の枝の向こう、空はもう秋の青に澄んでいる。

 

「……あさ?」

寝起きの声が、霧のように柔らかい。

体を起こして、綴弦を見上げる。

 

逸らされた視線を辿ると、彼の手の中に自分の髪があった。

切り口のそばで光が跳ねる。

 

「……切ったの?」

 

綴弦は何も言えず、唇を噛んだ。

 

けれど月詠は、しばらくその手を見つめてから、ゆるやかに息を吐いて、ふふっと笑った。

 

「おそろいだね。……ねえ、似合ってる?」

 

綴弦は、返す言葉を見つけられなかった。

ただ、こくりと頷いた。

 

月詠は残った髪を手で撫で、指先で切り口を確かめる。肩に落ちる髪の重みを確かめるように、首を傾げた。

 

「うん、軽い。なんだか、少しだけ強くなれた気がする」

笑みの端に、ほんの小さな寂しさが宿った。

 

「これ、売ろっか。薬草代くらいにはなるよね」

 

そう言って、切り落とされた三つ編みを両手で受け取る。髪の先についた露が、指先で光った。

 

綴弦は、胸の奥に痛みを覚えた。

その明るさが、赦しではないことに気づいてしまった。

奪われることに慣れた者の笑みは、あまりにも静かだった。

 

「……怒らないのか」

 

ぽつりと問えば、月詠は首をかしげた。

「怒っても、髪は戻らないでしょう?それに……綴弦がそうしたのなら、きっとちゃんと理由があるんだと思ってる」

 

淡い声だった。

その優しさが、刃のように胸を裂いた。

 

綴弦は俯き、息を詰める。

この子はいつも、赦すことでしか生き延びられなかったのだ。奪われるたび、笑って受け入れることでしか。

 

「……俺は、おまえの羽衣を隠したんだ」

 

呟いた言葉に、月詠は小首を傾げた。

「ふうん。じゃあ、私はまだ天に帰れないね」

「帰りたいのか」

「さあ? もう忘れちゃった」

 

そう言って、笑う。

風が吹き、短くなった髪が頬にかかる。

朝の光がそれを透かして、淡く揺れた。

 

 

その笑顔を見ながら、綴弦は思う。

人は誰かを包もうとして、身を削らせてしまう。

それでも、誰かが微笑んでくれるから、生きていけるのかもしれない。

 

——強さだけでは、きっと届かない場所がある。

庇うことも、許すことも、どちらか一方では足りない。

 

親が子に育ててもらうものならば、

兄はきっと、下の子に作ってもらうものだ。そうして、ようやく人は「誰かになる」のかもしれない。

 

綴弦は、切り落とされた髪を月詠の手に戻した。

「売るのは……やめておこう。おまえの羽衣だから」

 

月詠は小さく笑って、うなずいた。

「じゃあ、春になったらまた伸ばすね」

 

榎の上で、鳥が鳴いた。

遠くの稲穂が風にそよぎ、朝の色がすべてを包んだ。

 

その光の中で、綴弦は初めて、“天女の物語の続き”がこの地上にもあるのだと思った。

 

 

***

 

 

夜明けの気配が、山の端を淡く染めていた。

風は乾いて、柿の葉がひとひらずつ落ちていく。

羽衣の夜から一夜明け、綴弦と月詠は山を下り、里を抜けていった。

 

稲架(いねかけ) の並ぶ谷では、風が通るたびに藁の匂いがひろがった。

 

急な斜面の村々では、はざ掛けが壁のように連なり、人々は黙々と働いている。

その姿に、綴弦はわずかに肩をすくめる。

彼にはその風が、少し冷たく感じられた。

 

次の谷に入ると、景色はやわらいだ。

そこでは稲ぼっちが丸く腰を下ろし、まるで、寄り添い合う小さな生き物のように見える。

月詠が足を止め、笑った。

「かわいいね」声にはしないが、唇の動きでそう読めた。

 

綴弦は、うなずきもせずにその笑みを見ていた。

あの夜に見た微笑と、同じ光を帯びている気がした。

稲の束のわさわさと風が混じり、ふたりの影だけが細くのびてゆく。

 

綴弦は息を吐き、月詠の肩越しに空を見上げた。

 

”強さだけでは、きっと届かない場所”、か。

 

背後で、稲ぼっちの列が手を振った。

 

 

 

 

山道を抜けると、石畳の先に古い山門が見えた。木鼻(きばな)には苔がびっしりとつき、欄間の蜘蛛の巣が風に揺れている。

風がひと吹き抜ける。

足もとで紅葉のかけらが円を描き、くるくると舞いながら門のほうへ吸い寄せられていった。扉と柱の継ぎ目にたまった葉が、触れ合うたびにかさりと鳴る。

その音が、静かな呼吸のように響いた。

 

寂れてはいるが、どこか懐かしい静けさがある。

綴弦は荷を下ろし、手を合わせた。

師が冬を越したという寺。

庵を結ぶ前、ただの旅の医僧だった頃、この門を幾度もくぐったという。

 

「……着いたな」

 

隣で、月詠がうなずく。肩にかけた荷が、軽く揺れた。彼女——いや、“彼”の装いは、どこから見ても若い薬師見習いのものだった。

 

髪は肩口で切りそろえられ、風にふわりと揺れる。

かつて腰まであった黒髪は短くなり、その分だけ光をよく拾うようになった。陽を受けた黒が、ところどころ青みを帯び、まるで新しい名を得たように見える。

 

綴弦は、ほんのわずかに息をついた。

屋根と火と食のある場所へ辿り着いた安堵と、これから偽りを抱えて冬を越さねばならぬ緊張が、胸の奥でせめぎ合う。

 

呼び鈴代わりの木槌を打つと、しばらくして内から足音がした。

戸を開けた僧は、想像していたよりも若々しい目をしている。皺の奥に光るものがあり、それが一瞬、師の面影を連れてきた。

 

門の奥には、広い庫裏(くり)堂宇(どうう) が見える。

夕方の光を受けて、瓦が淡く鈍く光っていた。出迎えに現れたのは、白い眉をたたえた老僧だった。

 

「遠い道のりであったろう」

老僧は穏やかに微笑み、合掌した。

「わしは寛浄(かんじょう)という。……旅のお方か」

 

「はい。旅の薬師にございます。師、澄玄(ちょうげん) のもとで薬を学びました。

僧としての修行は浅く、今はただ、草木を頼りに人を癒すばかりにて。

師がかつてこちらで冬を越されたと伺い、せめて一夜の火をお借りできればと、道を頼って参りました。」

 

老僧はしばらく、言葉のないまま綴弦たちを見つめていた。澄玄——その名が口にされた瞬間、胸の奥で遠い季節の風が鳴った。

 

焚かれた薪の匂い、雪明かりの夜、言葉を交わさずとも確かにあった静かな日々。

ひとまわり年上の友人。春になれば去ってしまう旅の医僧。

 

あの冬を最後に、再び門をくぐることのない人。

 

「……澄玄。」

 

寛浄の声は、凍った水面を撫でるように低く、ゆるやかだった。 

 

「もう長く……。その名を耳にすることもなかった」

 

綴弦が深く頭を下げると、寛浄は小さく息をのんだ。

弟子たちの中に、あの頃の友の面影が確かにある。まるで時が円を描いて戻ってきたようだ。 

 

「——あの冬の灯が、またここへ来たのか」

 

そう言って寛浄は、門を大きく開いた。

雪を待つ寺の境内に、乾いた木の香が漂う。

 

その呟きは、懐かしさでも、悲しみでもなく、長い間止まっていた季節が静かに歩き出す音のようだった。

 

 

***

 

 

寛浄の先導で宿坊の奥に通された。

文机と、行李(こうり)、灯明台がひとつ残された部屋は、先日までの主人のものか、香炉のかすかな残り香が漂っている。

 

寛浄が小さくこぼした。

「この部屋を、まだ取っておいてよかった」

「……まだ?」

綴弦は、老僧を見つめた。

寛浄は首を振るでも笑うでもなく、

「縁というものは、いつか戻ってくる」とだけ答えた。

 

綴弦が荷を下ろし、手を合わせる。

月詠もそれに倣って頭を下げた。

その仕草を見て、寛浄は目元をわずかに潤ませた。

 

「夕餉の支度が整い次第、小坊主に声を掛けさせましょう。

それまで、しばし休まれるがよい」

 

襖が閉まると、部屋は静寂に包まれた。二人の呼吸が、かすかな灯の揺れと重なる。

 

***

 

夕餉にございます、と戸の向こうから呼ばれ、案内役の小坊主に続いた。

ずらりと並んだ膳の前に、冬をここで越す僧侶や旅人たちが座していた。

 

下座の方に向かおうとした兄弟を、小坊主が呼び止める。

「おふたりは、こちらに。寛浄さまよりこちらの席に案内するよう申し付けられておりますので」

 

兄弟の目が困惑に揺れ、一度視線を絡めた。

「はい、分かりました」

兄の方が答え、弟の方も続いた。

 

 

 

 

夕餉の時間は、いつも通りの静けさの中に、確かな緊張感が流れていた。

 

その中心である兄弟は、旅の薬師だと聞いた。

普通より三寸あまり高い上背の兄は、僧侶のような微笑みで、作法通りに器を受け取っていた。

小柄で華奢な弟は、女性的なのに異様に整った箸使いをしている。

 

食べているのは皆同じ、雑穀の粥と漬物なのに、彼らの膳だけは高貴な方のそれなのではと錯覚する。

整った作法でしあわせそうに食べる姿に、これほど心動かされるとは思わなかった。

 

食後の礼拝を終えても、部屋に戻る者はそう多くはなかった。

皆、あの不思議な若い薬師が気になって仕方ないらしく、湯殿に向かう者さえ名残惜しそうな顔をしていた。

私も、上っ面をなぞるような歓談をしながら、上座の方に耳をそばだてていた。

 

 

 

 

「今夜は湯を焚いておる。旅の疲れもあろう、使うといい」

 

寛浄が穏やかに言った。炭の火に照らされた老僧の瞳は、どこか懐かしさを含んでいる。

その言葉に、綴弦はわずかに身をこわばらせた。胸の奥にひやりとしたものが広がる。

 

「ありがたきお言葉にございますが——」

声を整えて、深く頭を下げた。

「湯は桶で十分に。旅の身ゆえ、湯殿などは勿体のうございます」

 

月詠も、静かにうなずく。ふたりのあいだに短い沈黙が落ちた。

火の爆ぜる音がひとつ、間をつないだ。

 

寛浄はその様子を見つめ、やがてふっと微笑んだ。

責めも詮索もなく、まるで昔話の続きを思い出すような声で言う。

 

「そうか。……澄玄もそうであったな。湯殿の煙を好まず、いつも桶で身を清めていた。

冬の夜に、外の井戸で冷たい水をかぶるのを見て、わしなどは震え上がったものだが——どうにも頑固な人であった」

 

懐かしげな笑みとともに、部屋の空気がやわらぐ。

綴弦は胸の奥で、小さく息をついた。老僧の言葉が、まるで彼らの沈黙を包むように流れていった。

寛浄は続けた。

 

「師の弟子とは、よく似るものだ。……そうして似ているところほど、懐かしくもあり、切なくもある」

 

そう言って、静かに湯呑を口に運んだ。

 

 

 

 

広間の膳をまとめ終えた頃、小坊主が湯を運んできてくれた。

薄く湯気の立つ桶を抱えて広間を辞し、与えられた客間へと足を向けた。

 

広間のざわめきが湯の音に溶けていく。

戸を閉めると、遠くのものになった。

 

灯明がひとつ。

芯を短く切った油皿の炎が、壁にふたつの影をゆらす。

 

綴弦は、桶に湯を張り、そっと手を浸した。

湯の温もりが、知らず凍えた指先をほぐしてゆく。

音を立てぬよう、手拭いを濡らして絞る。

 

月詠は隅に膝を折って座り、ただ炎の揺れを見つめていた。

衣を脱ぐ所作にためらいがなく、まるで殻をひとつ外すように静かだった。

 

綴弦は顔を背けて、桶に濡らした手拭いを渡す。

 

「冷める前に……」

 

掠れた声は、ほとんど息のようだった。

添えられた手は、触れることを恐れるように小さく震えていた。

 

月詠はうなずき、首筋から肩へと湯を滑らせた。

湯気が細く立ちのぼる。

ぽつり、ぽつりと音が落ちて、それがふたりの会話のように続く。

 

綴弦は目を伏せ、背を向けた。

桶の水音が沈黙を渡っていった。

 

けれど、不意に背に感じた視線があった。

振り向かずとも分かる。

月詠がこちらを見ている。

その眼差しは、羞恥でも警戒でもなく、ただ確かめるような静けさを帯びていた。

 

綴弦は、息を吐いた。

そして自らも衣を脱ぎ、湯をすくった。

湯の匂いに薬草の香が混じる。

手拭いが肩を滑るたびに、皮膚の奥に沈んでいた疲れが少しずつ浮かび上がった。

 

灯明が壁にふたりの影を映す。

ひかえめな水音と衣擦れだけが響く部屋で、雪の上を戯れる雀のように触れ合った。

壁の中のふたりは時折ひとりになり、ふたりに別れた。

 

身を清め終えると、また外向きの顔をして部屋を出た。

湯が苔を撫でる一拍、微かな湯気が立ち、夜風に消える。

 

部屋にひとつ残った灯明が、ゆらりと揺れた。

それは風でも、ため息でもなく——

言葉の代わりに交わされた、無垢の祈りそのもののようだった。

 

 

斎堂の片隅、まだ湯気の残る炊事場で、小坊主たちは器を洗いながら囁き合っていた。

 

「聞いたか? あの旅の薬師、湯殿を断ったんだと」

「せっかく湯を焚いたのに?」

「この冬、初めてだったのにな。俺らだって指折り数えて待ってたってのに」

「修行者らしいな。澄玄さまの弟子だとか。倹しいのも道のうち、ってやつかもな」

 

手桶に水をあける音が、ぴしゃりと響く。

湯気の名残りの中で、誰かがふとこぼした。

 

「……でもさ、あのふたり、いいなぁ。

あんなに身丈が違うのに兄のほうが弟に歩調を合わせててさ。しかもそれが自然なことみたいだった」

 

「へえ……兄弟ってのは、ああやって並んで歩くもんなのかね」

 

「さあな」

 

笑い声が、桶の水面に散って消えた。

灯の揺れが、その波を追うようにかすかに揺れていた。

 

 

 

 

寛浄は、灯明の下で掌を合わせていた。

火は小さく、芯が傾くたびに影が壁を走る。

 

「……澄玄。お前の名を、口にするのは何年ぶりになるだろうな」

 

老僧の声は、ほとんど囁きだった。火に照らされた顔に、涙の光がわずかに浮かぶ。

 

あの冬の日々が甦る。外は雪、堂の内には静けさ。雪に閉ざされた寺のなかで、彼のそばだけは夏の木陰のような心地よさがあった。 

 

十二も歳が離れているのを忘れるほど、色々なことを話した。

 

『この寺は、冬になると風が強くてたまらぬ』

かつてそうこぼした自分に、澄玄は笑っていた、と思う。

 

その顔も、声も、雪の底に沈んで久しい。

なのに、あの時感じた静かなあたたかさだけは鮮やかに残っている。

 

『風の音は、山の呼吸だ。死んでゆくものの代わりに、山が息をしているだけだよ』

 

書を借りに訪れる彼と語らうときのやさしい顔も、冷えた手に触れる乾いた手も、好きだった。 

 

寛浄は目を伏せ、両手で火を覆った。

「……お前は、とうに逝ったものと思っていた。だが、弟子を残したのだな。あの子らは……お前に似ていたよ。優しいのに、どこか痛々しいほど、誠実だ」

 

灯の揺らぎが、老僧の頬を照らす。

寛浄はそっと灯芯を整え、火を絶やさぬよう息を吹きかけた。

 

「澄玄。お前の弟子たちが、今、ここで冬を越そうとしている。どうか見守ってやってくれ。

……あの子らが、まだ道の途中にあるうちは」

 

炎がぱち、と音を立てた。

その瞬間、堂の外で夜風が鳴り、枝が軋んだ。まるで、どこかで返事があったかのように。

 

寛浄は目を閉じ、手を合わせた。灯の揺らぎの中で、かつての冬が静かに重なり合う。 

十七年の時を経て、あたたかな冬の時間が帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

【登場人物紹介】

 

※前回の投稿からかなり間が開いたため、名前だけの登場の方々もあわせて紹介しています。

 

綴弦

十九歳。

守るために奪ってしまった人。

もうこれ以上、月詠が奪われずに済むように、守ってやりたい一方で、また奪ってしまうことを恐れている兄。

異能:手に触れたもののもつ記録が聞こえる。通された客間はやさしい感じがした。

 

月詠

十七歳。

失うことに慣れてしまった人。

綴弦がすることならば、どんなことでも自分のためにしてくれることだと知っている。綴弦の隣に立ちたい妹。

異能:病で命を落とす者の幻影が見える。現の景色の横に、もうひとつの影が並ぶ。

今回は何も見なかった。

 

澄玄

享年六十一。綴弦・月詠を拾い、育てた師匠。

今回滞在する寺には、旅の医僧として籍を置いていた頃があった。

寛浄とはその頃に知り合っている。

 

寛浄

五十歳。寺の管理人。

澄玄とは、冬越えの間だけ過ごす友人だった。

気づけば十七年も待っていた。

澄玄の弟子たちの仕草に、澄玄の面影を見ている。

 

里の男

三十代前半。里に住む農民。

篝一が炭売りに来る時話す、妻や娘の惚気話を聞く時間を楽しみにしていた。

綴弦・月詠が炭焼き夫妻をよく慕っていたことも知っていたため、悔やんでいる。

里長とともに、残されたふたりを案じている。

 

篝一

享年二十一。

珠世の夫。若くして炭焼き小屋の主を務め、質のよい炭を焼くことで評判だった。

赤みを帯びた目と髪、鍛えられた体つき。

綴弦と月詠を弟妹のように可愛がりながら、同時に薬師として深く信頼していた。

里に降りると、妻子のことを幸せそうに話していた。

 

澄羽

享年三歳。夏生まれ。

珠世と篝一の娘。現代でいえば二歳ほどの成長具合。

人に花を渡して喜ばれるのが嬉しい年頃。

父の髪と瞳の色に、母の穏やかな目を受け継いだ。

名前は、蜻蛉の羽が青空のなかできらめく色から。その羽のように軽やかに生きてほしいと願われた。

 

鷹丸/伊作

四十代後半。猟師。

五年前、若くして父を亡くした篝一を見守り、

炭焼き小屋で冬を越す子どもたちの面倒も見てきた。

山では鷹丸、里では伊作を名乗る。

山と里のあわいに立つ、境の守り人。

 

珠世

十九歳。

炭焼き小屋に嫁ぐ前、薬屋の娘だった頃から綴弦・月詠たちと交流がある。

男所帯の月詠に、女性としての髪の扱いを姉のように教えてくれた。

晩年は、母としても妻としても十分に在れぬことを、誰よりも悔いていた。

家族と共に生きたい、そう願ってしまった。

その願いのまま、鬼舞辻無惨の患者となった。

 

 

 

 

 

【世界観補足】

 

*蝶とんぼ 

その名の通り蝶のような見た目のとんぼ。光のあたり加減で青〜青紫に色が変わります。

作中の綴弦たちは、蝶とんぼに澄羽を見ていました。

 

 

*榎

古くから日本各地で「境の木」として大切にされてきた木のひとつです。

村と村の境、街道の分かれ道、田んぼ道の端など、人の往来と土地の気配が交わる場所によく植えられ、里の境を守る存在とされていました。

旅人にとっては道しるべであり、広い枝葉の下で休めば、日光からも夜露からも守ってくれる頼もしい木でもあります。

榎の実は、夏の終わりから秋にかけて黒紫に熟し、陽の角度によっては赤や琥珀にも見えます。

綴弦が見た黒紫は、月詠を生かすための選択、琥珀色は、月詠の髪を惜しむ心が見せた色です。

 

 

*冬越え

冬の期間、ひと所に留まって過ごすこと。旅の間の食料や寝床を提供してくれる里の人たちも、冬の間は限られた物資で生活しているために断られるケースが増えます。飢えに喘ぎ、寒さで亡くなる旅人も少なくなかったでしょう。

今までは、炭焼き小屋に労働力を提供する代わりに食と住を整えてもらっていました。寺では仏の慈悲を分け与えるため、旅の僧侶や薬師などに冬越えの場所を提供しています。

 

 

(あわせ)

裏地のある着物のことです。

作中で使用しているのは、木綿の袷。珠世の看病でも活躍した、温藁のカバー部分です。

浴衣のように裏地のない着物(単衣(ひとえ))よりは温かいため、旅の道中では自分たち用の寝具として利用しています。

 

 

*髪型

この時代、性別や既婚未婚で髪型が決まっていました。

垂髪は、未婚女性の髪型。腰〜お尻あたりまで伸ばした髪を、先の方で結います。

作中では月詠が肩くらいまでの長さに切られていますが、これによって少年を装いやすくなるだけでなく、旅先で見初められて結婚する可能性がほぼ無くなっています。

 

 

*天女の羽衣

昔話のひとつです。いろいろ分岐はあるようですが、想定しているあらすじはこちらです。

 

* *

独り身の男が水辺に行くと、美しい天女が水浴びをしていた。近くの木を見ると、天女が天に帰るために必要な羽衣と着物がかけてある。

男は天女を娶りたいと思い、咄嗟に羽衣を隠した。嘆き悲しむ天女に声をかけ、結婚して子どもをもうけた。

そんなある日、男が隠した羽衣が天女に見つかってしまう。天女は男が羽衣を隠したことに気づき、男と子どもを残して天に帰っていった。

* *

 

これに初めて触れたとき、「なんで羽衣燃やさないの?」と思ってしまって……。

綴弦には羽衣を燃やす男であってほしいな……という願望から榎の夜ができました。

日本だけでなく世界中にも似たような民話や昔話があり、少しずつ展開が違うようです。地域ごとの比較を楽しめそうな昔話ですね。

 

 

*寺の門

表門は巡礼の僧侶や、一般の参拝者が利用するため、きれいに整えられています。いわゆる「お寺」と聞いて思い浮かべるような光景が広がるのがこちらです。

対して裏門は、寺に住む僧侶や小坊主が生活目的で利用するほか、寺を頼ってきた患者や冬越えを希望する旅の者が利用します。寝泊まりする僧坊や宿坊、記録殿、養生房などが広がります。

作中で綴弦たちが叩いたのは裏門のため、少し寂れているのに懐かしさを感じる趣きです。旅の者を受け入れる準備に忙しく、お寺の人たちも手が回りきらなかったのかも…?

ちなみに、木鼻は柱の上部、梁の端に見られる寺特有の装飾で、鬼や獣の彫刻が見られます。欄間は柱と柱の間、壁の上部にある格子や透かし彫りのことです。

 

 

*庫裏と堂宇

どちらもお寺の建物の名前です。庫裏は台所を含む生活空間、堂宇は本堂や仏堂などの建物を指します。

作中では平屋建の建物の奥に、高さのある立派な本堂や六角堂(塔のような宗教建築)が見えます。

 

 

*行李

荷物や衣類を入れる編みかごのことです。

竹や葦、(とう)を編んで作るため、軽くて通気性が良い、普段使いの収納かごという扱いでした。

現代でも柳行李など、旅行かばんや収納かごに使われています。柔らかい素材で通気性もいいため、衣や紙類を傷めにくいそうです。

作中にちらりと登場した行李は、澄玄自作の品です。一話(序 灯明)の竹籠と似た編み方の癖が出ています。

 

 

*灯明・灯明台

作中には明記していませんが、広間や寛浄の自室では、灯明台というスタンドに載せて使用しています。

灯明はお皿に植物油を満たして芯を浸しただけの照明器具です。灯明台に載せることで高さを出して、より広い範囲を照らせるようにしています。

 

 

*湯殿・湯桶

湯殿は、現在の温泉のようにお湯に浸かる場所ではなく、サウナのような蒸し風呂型です。温泉は“湯治(とうじ)“と呼ばれる医療行為や、宗教的な清めの儀式のために利用するもので、私たちの感覚よりもずっと尊ばれていたようです。

とはいえ、たくさんの薪を使う湯殿は贅沢品で、寺でも年に数回程度しか焚きません。普段は桶に井戸水を張り、身体を清めていました。

寺では来客ごとに割り当てられた湯桶に、井戸水とお湯を入れて40℃くらいになったものを渡しています。身を清めた後のお湯は、庭のお湯捨て場(苔場や砂利のところ)に静かに捨て、桶置き場に乾きやすいよう立てかけておくのが決まりでした。

 

 

*小坊主

寺に仕える年若い修行僧、幼い子ども、見習い僧のこと。日常の雑務、食事や湯の準備と片付け、儀式や修行のサポートなど、業務内容は多岐にわたります。

寺の内部で使われる、親愛や庇護のニュアンスを帯びた柔らかい呼び名です。

 

 

*宿坊

寺に併設された宿泊用の建物や部屋のこと。寺で暮らす僧侶や小坊主たちは僧坊で寝起きします。

部屋の割り当ては、性別で分けられ、それぞれ大部屋で寝泊まりします。個室を与えられるのは、位の高い客人、配慮が必要な特殊な事情のある者に限られました。

作中で綴弦たちが通された部屋は、かつて師匠の澄玄が冬の間滞在する場所でした。

 

 

*寺の広間と食事

この話の中では、広間を皆が揃って食事をする食堂として描きます。

上座の一番偉い人の席に寛浄が座り、そこから一番離れた下座の端に綴弦・月詠が座るのが本来の姿でした。作中でふたりが困惑していたり、僧侶たちの耳目を集めていたりしたのはこのためです。

 

食事マナーは意外と近しく、

・礼拝(手をあわせてお辞儀)

・箸や器の音を鳴らさない

・食事中は話さない(例外的に上座の僧侶や客人が話すこともあるが、下座の者は聞くだけ)

などがあります。

 

 

*あたたかな冬

冬の異名に「玄冬」という呼び名があります。五行思想に基づく呼び方で、一番馴染みのあるのは春の「青春」でしょうか。

澄玄の「玄」は、同じ五行思想の玄武(北を守る大きな亀の守り神)からとっています。

寛浄にとって、澄玄と語らうあたたかなひとときこそ、冬そのものだったのかもしれません。

 

 

*身長

室町末期〜戦国初期の時代の平均身長をAIに聞いてみたところ、

 

男性:155〜159cm(綴弦168cm)

女性:143〜148cm(月詠145cm)

 

作中で綴弦・月詠の身丈について言及していますが、どちらも男性平均からは反対方向に大きくずれている事への驚きです。一緒にいるのが尚更奇異さを助長しています。

一寸=3.3cmくらいなので、目視で身長見る能力高めですね、彼。

 

 

*寿命

乳幼児死亡率が非常に高く(5歳までに30〜40%が死亡)、全人口での平均寿命は30歳前後です。しかし、20歳を越えた成人に限れば、40〜50代程度まで伸びます。

職業や階層による成人寿命の差も非常に大きかった時代でもあり、戦や疫病の影響が大きい年には全体的に数年縮みます。

登場人物たちの職業の成人寿命をAI君に聞いてみました。

 

・旅の薬師や医僧(綴弦・月詠・澄玄)

男:45〜55歳  女:40〜50歳

 

・山仕事(篝一・珠世・鷹丸)

男:35〜45歳  女:30〜40歳

 

・寺付きの僧侶(寛浄)

男:50〜60歳

 

・農民(里の男・里長)

男:40〜45歳  女:35〜40歳

 

軒並み女性の寿命が短いのは、珠世のようにお産をきっかけに命を落とす母親が多かったためと推測されます。

こうしてみると、澄玄と鷹丸がかなり長生きしているのがわかりますね。

 

 




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
随分遅い投稿になってしまって、すみません。

予想通り、時代考証が楽しすぎたのもありますが——
澄玄と寛浄の過去話の筆がついつい乗ってしまい、そちらが先に書き上がってしまった影響も大きいです。
全体のプロット段階では断章くらいで流すはずだったのに、彼らの友情が良すぎたので、結局ひとつの章にまで育ってしまいました。驚きですね。

『古寺』では、今回と同様に原作キャラクターは名前だけの登場を予定しています。
次章への橋渡しとして、
「神秘に近しいとはどういうことか」「この時代の寺や戦の扱いはどう描かれるのか」など、
世界観の根を少し掘り下げながら、兄妹のことももう一歩知っていただけるようにがんばります。

しばらくの間、“二次創作とは……?”となること請け合いですが、薬師兄妹の歩みを、これからも見守っていただければ幸いです。
 
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