ウマ娘・ロイヤルファミリー   作:風鈴草

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ロイヤルホープ登場!(前編)

朝、アラームが鳴るより前に目が覚めた。朝練を見るためにグラウンドに向かう時間。ベッドから体を起こし、カーテンを開けたところで気づく。グラウンドに行ったところで一体誰が待っているというのか。

一日の流れが、この一年ですっかり体に染み込んでしまっていた。

 

ゆっくりと、ベッドに腰を下ろす。時計の針の「カチ。カチ。」という音が部屋に響いている。いつもなら支度を済ませて寮を出ている頃だろうか。

 

カチ。カチ。カチ。カチ。

 

規則正しく刻まれる音が、まだ部屋にいる自分を急かしているようでひどく落ち着かない。呼吸をするたびに、胸の辺りが狭く、空回りしているような不快感を感じる。いくら息を吸い込もうとしても肺の奥まで空気が届かないような感覚に、汗が滲んでくる。

 

弾かれるようにベッドから立ち上がる。これ以上、この感覚には耐えられなかった。

上着を手に取り、鍵とスマホをポケットに入れて逃げるように部屋を出て、トレセン学園とは反対方向に歩き出す。どこか、静かな場所に行きたかった。

 

 

――――

 

当てもなく歩き続けてたどり着いたのは河川敷だった。辺りを見渡して人気がないことを確認する。

ここなら何にも邪魔されないだろう。そう思いベンチに腰掛ける。遠くの景色を眺めると東の空が白くなり始めていた。

 

これからどうするか。今の自分がもう一度ウマ娘の横に立ち、彼女たちを導いている姿が想像できなかった。これ以上、誰かの人生を背負う資格が自分にあるのだろうか。

中途半端な覚悟で指導に当たるくらいなら、いっそここで身を引くべきではないか。

 

「……ぇ、……ょっと。」

 

この休みが終わって、残っているであろう仕事を片付けたら理事長に辞表を出しに――

 

「ねぇってば。」

 

視界にトレセン学園のジャージを着たウマ娘が入って来た。いきなりのことに肩が跳ねる。

 

「え、あ、はい?」

 

完全に不意を突かれ、思わず声が裏返った。目の前に立っているのは、稲妻のような流星を持つ栗毛のウマ娘だ。ジャージの襟元を少し緩め、うっすらと額に汗を浮かべている。ランニングの途中だったのだろう。 彼女は少し呆れたように腰に手を当て、ベンチに座る俺を覗き込んできた。

 

「やっと気づいた。何回声かけたと思ってるの?」

 

「ご、ごめん。ちょっと考え事をしてたから……」

 

栗毛のウマ娘がため息をつく

 

「まぁ、そんなことはいいわ。あなた、フロワレア先輩のトレーナーでしょ?」

 

フロワレア。その名前を聞いて、胸の詰まりが一層大きくなったような気がした。

 

「こんなところで何してるの?いつもなら学園のコースで朝練してる時間よね?」

 

「……もう僕は彼女のトレーナーじゃないよ」

 

栗毛のウマ娘が驚いたように目を見開く。

 

「…意外ね。外から見ててそんなに悪い雰囲気には見えなかったけど」

 

「僕も、彼女から契約を解除したいって言われるまでいつも通りできてると思ってたんだけどね…」

 

一番近くにいたはずなのに、彼女の苦悩にも、離れていく心にも気づけなかった。そんな自分の傲慢さと無能さに、今はただ押し潰されそうだった。

 

栗毛のウマ娘は、しばらくの間、言葉を失ったように俺を見ていた。

彼女の綺麗な耳がピクリと跳ね、その強い瞳の奥に、どこか挑戦的な、あるいは獲物を見つけたかのような鋭い光が灯る。

彼女はふっと不敵な笑みを漏らすと、ベンチの前に一歩踏み込み、俺の顔を覗き込んできた。

 

「ねぇ、あなたって今日フリーよね?」

 

「え――」

 

突然の質問に思考がストップする。

稲妻のような流星を揺らし、目の前で不敵に微笑む彼女からは、他人の感傷など容赦なく踏み荒らしていくような、圧倒的な唯我独尊の気配が放たれていた。

 

「時間はあるのかって聞いてるの」

 

「え、いや、まぁ、あるけど」

 

「じゃあ決まりね。」

 

彼女は満足げに小さく頷くと、こちらの返答を待たずに、土手の向こうへとすっと指を差した。

 

「ここから川の流れに沿ってしばらく歩いたところにちっちゃいコースがあるのはわかる?」

 

「え……? ああ、確かに、地元の人が使うような古いランニングコースがあった気がするけど」

 

「今日の12時、そこに来て。私の走りを一度見てもらうから」

 

唐突な指定に、俺は言葉を詰まらせた。

 

「ちょっと待って……僕はもう、誰かの期待に応えられるような人間じゃないんだ。誰の横に立ったって、また同じように――」

 

「そんなの、私の走りを見てから考えればいいじゃない」

 

こちらの事情など最初から聞く気がないと言わんばかりに、彼女は俺の言葉を綺麗に遮った。有無を言わせない、あまりに傲慢で、けれど不思議とこちらの暗雲を吹き飛ばすような強い声だった。

 

「まぁそういうことだから。遅れないでね」

 

「ちょ、ま――」

 

朝日を浴びて、栗毛のたてがみがキラリと輝く。 彼女はそれだけを一方的に言い残すと、こちらが引き留める隙すら与えず、軽い足取りで土手の向こうへと走り去っていった。こちらの明確な承諾をとるでもなく、ただ「来るのが当たり前」だと信じて疑わないような、圧倒的な自信の残像だけをそこに残して。

 

「せめて名前だけでも教えてくれよ……」

 

そうつぶやいた時には、いつのまにか胸の詰まりがなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり長く文章を書くのは難しいっすね…慣れるかすら分かりませんけど慣れるまでは毎話このくらいの文章量で書きます。誤字訂正、アドバイス等あればよろしくお願いします。
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