【更新停止中】ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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なんだかんだでいつの間にか連載100話目となりました。
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第六話:灯台の炎に向かう者、街の灯火を守る者

昨日までは大いに賑わっていたはずのコナンベリーの酒場は、今や戦場の跡地の如く混沌としておった。

疲れ切った表情で男たちが食事をし、酒を喉に流し込む一方で、床に毛布や帆布を敷いて寝ている者たちも少なくはない。宿の客室のほとんどは、辛うじて手当てが間に合ったとはいえ、今なお予断を許さぬ容態の者たちが占領している。おそらく造船ドックも似たようなものじゃろう。

ソロ殿はシンシア嬢と互いの肩にもたれ合うようにして壁際に座ったまま寝息を立てている。二人の肩にはメルタ殿の心遣いで毛布がかけられている。

その横の床で丸くなっておるクリフトめは、なんと傍らの姫様に腕枕をする幸運に恵まれておる。起きた時に一体どんな顔で慌てふためくのか見物ではあるが、今は放っておいてやっても良かろう。

 

「今回は、あんたらの尽力のおかげで大勢が助かった。礼を言う」

「いえいえ、わたしたちに出来たことなど大したことでは。コナンベリーの街の皆さんが一致団結して救助に動いたからこその結果でしょう」

 

視線を戻すと、コナンベリーの造船ギルドの幹部と名乗った老人が、やはり疲れ切った顔で座っていた。

その隣には今にも首を括りそうなほど不景気そうな暗い顔をした中年男が俯いている。トルネコ殿と同じくらい恰幅の良い体つきのはずが、萎れ切った顔のせいで一回りも二回りも小さくなっているように見える。

 

「先に言っておくと、こっちが沈没した船の持ち主だ。いままさにドックで造ってる真っ最中の船の注文主でもある」

「……まだ、造船ギルドへの支払いは終わってませんでした。今回の出航で船に積んだ荷をエンドールで売って、その金で残りの支払いを済ませるはずだったんです」

 

古くなってきた船を新しくしようと注文した。新しい船が完成すれば取り返せるからと有り金を残らず(はた)き、それでも足りない分を古い船を使った交易で稼ごうと借金までして仕入れた品々は沈没した船と共に残らず海の藻屑と消えた。他人事ながら同情したくなるほどの不運じゃな。

 

「本来なら、支払いの見込みがなくなった以上は建造も中止になる。解体して他の船を造る時の資材に流用する、ってのがお約束だ」

「ですが、それならばわざわざ造船ギルドの方がこちらにいらっしゃる必要はありませんよね? 何やらご相談があるとお見受けしましたが」

「トルネコと一緒にドックを見せてもらった時に内部を少しだけ覗かせてもらったが、もう船体の大部分は出来上がっていて、内装にも手を入れ始めている段階だった。あそこまで出来上がっている船を解体して一から作り直すというのは、確かに勿体無いな」

 

トルネコ殿の問いに、少し離れたソファに座ったバルザック殿が低い声で続ける。

バルザック殿の左右にはマーニャ嬢とミネア嬢がもたれかかって寝息を立てておる。両手に花、と、からかってやったらさぞ面白い顔になるのではなかろうか。今はそんなことを言っていられる事態ではないが。

 

「話が早いな。いま造ってる船は、エンドールとここ(コナンベリー)を結ぶ遠距離航路に使うはずだった。交易に使う船だから大型で頑丈だし、魔物の襲撃や外洋の航海にも耐えられる。あんた(トルネコ)の注文とも、さほどの差異はないと思うが」

 

なるほど。造船ギルドはここまでかかった工賃や資材を無駄にせずに済む。沈没船の船主は作りかけの新造船をトルネコ殿に転売することで少しでも借金を減らせる。トルネコ殿は新しい船をそれだけ早くに手に入れられる。聞く限りでは誰も損をせぬ話じゃ。

 

「正直に言ってしまうと、ドックに積んであった造船に使う木材もかなり薪にして燃やしちまったし、新品の帆布も砂や海水で汚れてダメになっちまったものも少なくない。このまま一から船を造り直すことになると、完成はいつになるかもわからん」

 

しかも、港の目の前で船が沈んでしまった為、入出港にも支障をきたす可能性が高い。これを撤去するにしても、どれほどの時間と手間がかかることやら。当面、海路で物資を搬出入するのは、少なくとも大規模には難しい。沖に停泊した船から小型船に積み替え、港にまで運ぶ手間をかけねばならないときた。踏んだり蹴ったりじゃな。

 

「そういうことでしたら、お引き受けしましょう」

「ありがたい。あんたから手付けにもらった金はそのまま建造に使わせてもらうから、追加の支払いは不要だ。とはいえ、細かい部分は詰める必要があるだろう。今はこんな状況だから、こっちもバタバタしてるが、あんたの方も落ち着いたら造船ギルドに顔を出してくれ。改めて契約や艤装の変更について話をさせてもらいたい」

「かしこまりました」

 

すんなりと話は纏まり、席を立とうとした二人にバルザック殿が声をかける。

 

「待ってくれ。今回の沈没の原因についてはわかっているのか? もし不明のままなら、これからも出航した船の沈没が相次ぐことになるぞ」

 

酒場の空気が凍り付いた。足を床に縫い付けられたように動きを止めた二人のみならず、食事をしていた周囲の客たちまでもが思わず手を止めてこちらを見た。

 

「……あの沈没は事故や偶然ではない、と?」

 

振り向いた造船ギルドの老人が唸るような低い声で問いかける。

 

「失敗すれば破産するような一世一代の賭けに出た商人が、出航前の準備や確認を怠るものかよ。船そのものが古くなっていたのなら尚更のこと、安全確認は厳重にしていたはずだ」

「と、当然ですとも! 積みこんだ荷の固定はもとより、浸水の兆しがないかどうか、自分の目で船底を覗いてまで確認しました! 何も問題はありませんでした! 船長や船員たちも、長く航海に携わってきた信頼できる者たちを選びました! それが、あんなところで沈むはずがないんです!!」

 

悲鳴のような大声を上げる沈没船の船主の叫びに、寝ていたソロ殿たちや姫様たちまでもが目を覚ます。手で眠たげに目を擦るマーニャ嬢やミネア嬢に挟まれたままのバルザック殿は、あくまで淡々と状況証拠を積み上げる。

 

「なのに船は沈んだ。それも座礁するような岩礁や浅瀬が存在するはずもない港の目の前で。挙げ句、その沈没をあらかじめ見計らっていたかのように救助の最中に魔物の群れまで現れやがった。ずいぶんと都合の良すぎる()()だな」

「……」

「おそらく、東の大灯台で()()が起きた。これを放置しておけば、港町としてのコナンベリーの機能は完全に死ぬ。船の出入りが出来なくなった港に価値はないからな」

 

誰かがゴクリと喉を鳴らした。儂の隣で黙って話を聞いていたライアン殿が胸の前で腕を組み、厳しい表情を浮かべる。フレノールの街に戻らずコナンベリーに今も留まっているダスン殿やメルタ殿らも同様じゃな。

 

「そこまで言うなら、何か心当たりがあるのか」

「大灯台の聖なる炎が汚された。邪悪な炎――と言っても具体的にどんなものかはわからないが、ともかく、ソレがコナンベリーの近くに海の魔物を際限なく集めている、といったところか。聖なる種火によって炎を浄化しない限り、コナンベリーに近づく船、コナンベリーから出航する船、全てが危険に晒される」

「本当ですか、それは」

 

シンシア嬢と共に壁際から立ち上がったソロ殿が真っ先に声を上げる。その声は酒場に広く通った。

 

「さてな。あるいは俺の当てずっぽうかもしれん」

「だけど、もしそうなら大灯台を確かめる必要がありますよね」

「あくまで仮定の話だが、俺の推測が当たっていた場合は大灯台の周辺と内部は危険な魔物の巣窟になっているだろう。言うまでもなく探索は命懸けになる。それでも行くか?」

「行きます」

 

一瞬の躊躇いも、迷いもなく断言する。

 

「お前にとって1ゴールドの得にならなくてもか?」

「はい。だって、トルネコは自分のために大損をしてくれました。バルザックたちだって、1ゴールドの得にならなくても自分たちを助けてくれました。だったら、自分もそうするのが当然です」

「別に恩に着る必要はないが」

「じゃあ、言い換えます。自分がそうしたいと思ったから、ただ何となくそうしないといけないと思うから、そうするんです」

 

バルザック殿は眩しいものでも見るように目を細めた。儂もじゃ。特に気負うこともなく恩着せがましくもない澄み切った青い目はあまりにも真っすぐで、こんなにも眩しい。若いというのは、何とも羨ましいことじゃな。

 

「ボクも行くよ!」

 

続いて姫様も声を上げられる。まあ、そうなるじゃろう。ならば儂もお供するのが当然じゃな。

 

「自分もお供します」

「私も」

「私だって!」

「今回マーニャは留守番だ」

「え!? な、なんでよ!?」

 

クリフトに続いて声を上げたマーニャ嬢とミネア嬢じゃったが、しかしバルザック殿は無情にもそれを退ける。

 

「邪悪な炎、と言っただろう。相手は炎に関わりを持つ、つまり炎に耐性のある魔物である可能性が高い。お前の火力はメラやギラ系で、今回は相性が悪い。留守番の間にカダルにメラミをみっちり教えてもらえ」

「ぬぐぐぐ……」

「となると、わたしも留守番ということになりますね。ここ(コナンベリー)で造船ギルドと折衝をしなくてはなりませんので」

「そうなるな。今回は前衛にソロとライアン、中衛にアリーナとクリフト、後衛にブライとミネアで――」

「待って。私も行く」

 

ソロ殿の手を強く握りしめたシンシア嬢が声を上げる。

 

「シンシア、今回は――」

「ダメ。ソロが行くなら私も一緒」

 

これはもうダメじゃろうな。ソロ殿が言っても頑として聞き入れる様子がないのでは、他の誰が言っても無駄なのは目に見えておる。

 

「ならば、自分が譲るといたそう。もしバルザック殿の推察が当たっていた場合、コナンベリーにも海から魔物が襲ってくる可能性もあろうかと存ずる。となれば、マーニャ殿と共に街を守る戦力が必要。自分もその一助となりましょう」

 

ライアン殿の落ち着いた声に、しかし造船ギルドの老人や酒場の他の客たちは逆に顔色を変えた。

 

「おい! 港に監視の人間を急いで回せ!」

「まだ浜に残ってる連中はいないか!? 今すぐ避難を呼びかけろ!」

 

バタバタと再び周囲が慌ただしくなる。

 

「なら、前衛はソロと、モシャスでソロに変身したシンシア。中衛と後衛はさっき言った通りだ。準備は入念にな」

 

話はまとまったようじゃ。

 

「姉さん、頑張ってね」

「え?」

「メラミの勉強」

「そっち!?」

「あら、他に何か『頑張る』ことの心当たりでもあったの?」

「……」

 

姉妹の囁き声が漏れ聞こえてきたが、儂は素知らぬ顔で聞かなかった振りをした。わざわざバルザック殿に教えてやる必要もないことじゃろうからな。

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