【更新停止中】ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第二話:農夫の王

「あちらが、我がソレッタ王国が国王陛下にあらせられます」

 

そう言って城からわざわざ案内をしてくれた大臣が小走りに駆け寄り、何かを囁くと、その人は畑で鍬を振るう手を止めて顔を上げた。

日除けの麦わら帽子を被っていてもその顔は日に焼けて真っ黒で、伸ばしっぱなしの髭は手入れもされていない。節くれだった手は土に汚れ、同じように汗と土が染み付いた麻のシャツやズボンも一応は洗濯こそされてはいるようだけど、お世辞にも上質な仕立てとは言えない。

サントハイムで言えば、テンペの村の村人とあまり変わらない。どこからどう見ても、毎日畑で汗を流す農夫そのものだ。

 

だけど。――()()()()

 

ボクを、ボクたちを見る目。それは紛れもなく父上と同じ。一国の王としての目だ。冷たくも威圧的でもないけれど、国を、そして民を背負う重圧に耐えるだけの大器を感じさせる目だ。

 

「お初にお目にかかります。ソレッタ国王陛下。サントハイム王国が第一王女、アリーナと申します」

 

せっかく王が手ずから耕した畑の畝を踏まぬように気をつけながら、ボクは丁寧に頭を下げる。例えどんな格好をしていたとしても、ボクは、この人を軽んじる気にはなれなかった。父上に対するように、心からの敬意を籠めて礼をするべきだと思ったのだ。

 

「ほう!? これは驚いた! サントハイム! 遥か遠方から、よくぞはるばる我が国においでなされた!」

 

首にかけた手拭いで顔の汗を拭ったソレッタ王は快活な声を上げて、腰に提げた水袋から喉を鳴らして水を飲んだ。

 

「しかし、本来であれば国を挙げて歓迎するべきではあるのだろうが、恥ずかしながら貧しき我が国では他国の王女殿下を満足にもてなすことすらままならぬ。全ては我が身の不徳ゆえ。どうかお許しいただきたい」

 

手にした鍬を王笏のように堂々と地面に突いたソレッタ王は躊躇いもせずにボクに向かって頭を下げた。一国の王が。他国の王女に。

自国を訪れた他国の王族に対して饗応の用意すら出来ないことは、本来なら国の恥のはずだ。だけど、この人はそれを全て自分一人の責任にしてしまった。自分の裁量で、自分の評判と引き換えに、貧しい国庫への負担を避けたのだ。凄い。本当に、この人は凄い。

 

「いいえ、陛下。どうか、頭をお上げください。国の為、民の為、王が自ら畑で汗を流すその献身と度量、まことに感服いたしました」

「そう言っていただけるとは実にありがたい。して、何の御用かな?」

「はい、貴国の特産品として名高い万能薬、パデキアを求めて参りました」

 

ボクが答えると、ソレッタ王は予想していたように頷いた。きっと、ボク以外にも同じような話をしに来た人の相手で慣れているのだろう。

 

「やはり、そうか。しかし、我が国のパデキアが干ばつで全滅して既に久しい。我が父、先代の王がもしもの時にと南の洞窟にパデキアの種を保管しておいたそうだが……何時の頃からか洞窟には魔物達が住み着き、ただでさえ数の少ない我が国の兵ではどうにも出来ぬ。まことに相すまぬが、望みを叶えられぬことを許していただきたい」

 

前もってバルザックから聞いていなかったら驚いていたかもしれないけど、この国を見れば窮状は一目でわかる。ボクは落ち着いてソレッタ王を見返す。こうなった時のことは、もう皆と話し合って決めている。

 

「ソレッタ王陛下が気に病まれるようなことではございません。ですが、その南の洞窟への立ち入りをお許しいただけますでしょうか」

 

鍬を持ち直して畑仕事に戻ろうとしたソレッタ王も、その傍らで肩を落としていた大臣も驚いたように目を丸くする。

 

「……いま、何と? アリーナ姫、何と仰せになられた? わしが申し上げたことを聞いておられなかったのかな?」

「いえ、陛下。南の洞窟には魔物がいて、貴国の兵士では手が出せないこと。それゆえにパデキアの種が手に入らず、貴国が貧しいまま陛下までもが自ら畑で鍬を振るうほどに追い詰められておられること。全て、理解しております」

「ならば、なおのこと考え直されよ。貴き御身が、わざわざ危険を冒されてまで我が国に肩入れなさる理由がどこにあろうか。サントハイムの名は大国として遠く我が国にまで轟いておる。ならば腕の立つ名医の招聘も思いのままであろうに」

 

もっともな問いだ。ボク個人としては無償で人助けをするのもやぶさかではないし、むしろ王族として積極的にそうするべきだとも思うけど、それではかえって下心を疑われてしまうことはソロと初めて会った山奥の村でダズンやガロンと話して学んだ。

 

「もちろん、無償でとは申し上げません。――トルネコ」

「はい、アリーナ姫様」

 

半歩横にずれたボクの傍らに進み出たトルネコが帽子を脱いで、丁寧に跪く。

 

「初めてお目にかかります、ソレッタ王陛下。わたしはトルネコと申します。幸運にもアリーナ姫様の知己を賜り、エンドールやボンモール、さらにはブランカにても商売をする許可を頂戴した商人でございます」

「ほう。四ヵ国を股にかける大商人が遠路はるばる我が国までとは、ご苦労なことであるな。……なるほど、望みはパデキアの新たな販路開拓か」

「ご明察、恐れ入ります」

「確かにパデキアが全滅したことで、それまで我が国に出入りしていた商人たちはほとんどが手を引いた。金の匂いがせぬところに商人は近づかぬ。わざわざ危険を冒してまで我が国に肩入れする物好きな商人もおらぬ。それは致し方ない」

 

かつて金の生る木だったパデキアを求めて引きも切らなかった商人たちは、そのパデキアが手に入らなくなった途端にあっさり手のひらを返したのだろう。

経済とは、金とは、そういうもの。人を生かし、人を殺す。以前のボクにはわからなかった。今でも、それに心から納得しているわけじゃない。でも、ここにいるトルネコや、今もミントスで修行しているはずのホフマンのように、()()()()()()()()商人だっているのだ。

 

「貴国との独占的な取引を、とまでは望みません。ですが、パデキアに関する限りはトルネコとの優先的な取引を望むことは叶いましょうか」

 

ボクからの申し出に、ソレッタ王は伸び放題の髭を撫でながら僅かに目を細めた。首尾よくパデキアが取り戻せたとしても、それをトルネコに安く買い叩かれることを警戒しているのだろう。だけど、この申し出を受けなければソレッタはいつまでも貧しいまま。

今のボクは、相手の足もとを見た卑怯な取引を申し出ている。でも、だからこそソレッタ王はボクからの申し出を真剣に検討している。無償での助力など信じられないけど、ボクたちにとっての利がある申し出なら王として計算するに値する案件になるからだ。

 

「――良かろう」

「陛下!?」

「まずはパデキアの種を手にしてからの話だ。サントハイムからの借りは借りとして、もしそれによって民が不満を抱くようであれば、わしがその責任をとって退位すれば良い。この身を畑の肥やしとするも覚悟の上よ」

 

最悪の場合は、自分が民の不満の捌け口となって死ぬことすら当然のように覚悟している。この人は、本当に国を愛している。一緒に畑で働く民を大切にしている。こんな偉大な王をボクは絶対に死なせたくない。

 

「ありがとうございます。あちらの宿で一泊した後、明朝に南の洞窟に出立させていただきます。どうか吉報をお待ちください」

 

鷹揚に頷くソレッタ王の横で、大臣がボクを睨んでいる。ソレッタの窮地に付けこんで、大国の威を笠に着て、パデキアの利権を奪い取りにきた王女。それだけでもボクを憎み、嫌うには十分すぎる。あるいは、もしこの話が広まれば、他のソレッタの人たちもボクに反感を抱くようになるかもしれない。

だけど、それでいい。再びパデキアを育てられるようになれば、またこの国にも大勢の人が集まる。その時に甘い言葉に乗せられてしまうようになるよりは、余所者には警戒するぐらいの方がいい。

 

「姫様」

「なんだったっけ。ずっと昔、爺やから習った古い言い回しがあったよね。ええと、確か、兄弟――……兄弟牆(けいていかき)(せめ)げども……とか、何とか」

兄弟牆(けいていかき)(せめ)げども外その(あなど)りを(ふせ)ぐ、ですな。強大な外敵を前にした時は、人は内輪揉めをしていたことも忘れて団結する、という意味でございます」

 

畑の間を通り抜けて宿に向かって歩き出しながら、付き添いのブライと話す。

 

「そう、それそれ。この国(ソレッタ)は今は貧しいから、内輪揉めをしていられる余裕なんかないだろうけど。もしパデキアを手に入れられたら、その分け前を巡って要らぬ争いが起きるかもしれない」

「では、それを未然に防ぐために姫様が強大な外敵を演じられる、と?」

「ボクとトルネコに安く買い叩かれるかもしれないパデキアに頼りきりになるよりも、それに代わる特産品を作り出して、ボクを見返してやる!って言うぐらいの気概を持つ人が現れてくれた方がいいと思わない?」

「アリーナ姫様の仰る通りですね。商人として言わせていただければ、パデキアだけに頼った単一の商売は脆弱です。鋼の剣は商品として鉄板ですが、鋼の剣だけを売る武器屋と、他にも様々な武器や防具を商う店と、果たしてどちらが長続きするかという話ですよ」

 

トルネコも横から口を挟んでくる。ボクとクリフトも頷く。

 

「一度は全滅したパデキアが再び全滅しない保証はない。そのたびに我が国(サントハイム)が助けるわけにはいきませんし、あまりにも時間と労力の無駄です。次は自国の兵だけで洞窟に種を取りに行けるほどの国力を将来的に養っていただく必要があると姫様はお考えなのですね」

「少なくとも、もしボクがソレッタの王女だったとしたら、そうするべきだと思うからね」

 

政治は綺麗事じゃない。もちろん大義名分としての綺麗事は必要とされるけれども、綺麗事だけじゃ回らない。そして、一方的な搾取をするだけ、されるだけの関係は絶対に長続きしない。

ボクはサントハイムの王女だから、サントハイムの国益も考えた上で、ソレッタに手を差し伸べなくちゃいけない。それがソレッタの利にもなる形で。

 

「クリフトはトルネコとブライとも相談して、その辺りの草案を考えておいて。最終的には父上の決裁を仰がなくちゃならないけど、現地の実情に合わせた施策を考えないと、ソレッタ王も受け入れてはくれないだろうし」

「かしこまりました」

 

今も面倒だし、ものすごく窮屈だとは思うけれど。でも、ボクという個人で何も考えずに目の前の人を助けるよりも、政治という枠組みを通した方が結果的に大勢の人を助けられるというのなら。

勇者じゃない、導かれし者たちでもない、それがサントハイムの第一王女であるボクにしか出来ないことであるのなら。

 

――ボクが、この貧しい国を立て直すための最初の一歩を踏み出させてみせる。

本作における船の名前は?

  • ゲームブック準拠で『トリスタン号』
  • 小説版準拠で『聖なる種火丸』
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