ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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ひとくいばこからは逃げられない&リレミトで戦闘離脱は不可能というツッコミは承知の上ですが、AIさんが生成してくれた流れが綺麗だったのでご都合展開そのままに投稿させていただきます。


第五話:未来の種を抱きしめて

「あった! パデキアの種だ!」

 

一面の床が氷で覆われている洞窟の最深部は、洞窟に住み着いた魔物よりもむしろ洞窟それ自体の構造の方が難敵だった。

凍っている床に足を乗せれば床の凹凸や傾斜によって勝手に体が運ばれてしまう。一層目と二層目でも同じような滑る床は存在していたが、最深部である第三層の床の構造は上層階に比べて遥かに複雑で難解だった。

勇者は床の上に這いつくばって高低差や傾斜を仔細に観察し、伸ばした手や剣の鞘で氷の凹凸を慎重に確かめて滑る方向を確認し、それでも幾度かの失敗を経て、ようやく正解のルートを見つけ出すことが出来た。

少し離れたところでそれを見ていた仲間たちは、宝箱を開けた勇者の報告に喜びの歓声を口々に上げる。

 

「やったわね、 姉さん!」

「ええ、これでお父様も元気になるわ、きっと!」

「おめでとうございます、姫様」

「うん。ボクが何をしたってわけじゃないけど、これでソレッタの人も喜んでくれるよね」

 

モンバーバラの姉妹(マーニャとミネア)も。サントハイムの姫と神官(アリーナとクリフト)も。探索の成功を笑顔で喜び合った。

 

――だからと言って、()()を油断と呼ぶのはあまりに酷というものだろう。

 

「あれ?」

 

その時エルフの少女(シンシア)が、たまたま少し離れたところにある別の宝箱を()()()()()()()()のは、果たして偶然か、あるいは必然か。

そこにいた誰もが、決して気を抜いていたわけではない。ただ、誰もが一瞬だけ目を離してしまった。

勇者は宝箱の中のパデキアの種を見ていた。モンバーバラの姉妹は互いの笑顔を見ていた。サントハイムの主従も同じだ。

その一瞬の空白に、エルフの少女が何気なく宝箱に近づいた。一人で開けてみようと思ったわけではない。中身を独り占めしようだなんて露ほども考えてはいなかった。強いて言えば、それは好奇心だ。

転生者(バルザック)であれば前世の記憶から即座に警告の声を発していたかもしれない。あるいはサントハイムの大賢者(ブライ)であれば、その叡智と経験から咄嗟に制止することも出来たかもしれない。だが、その二人はこの場にはいなかったのだ。

 

「シンシア?」

 

ふと、『何となく』猛烈な寒気に全身を襲われた勇者が顔を上げた。その悪寒は、決して洞窟内の冷気によるものではなかった。

 

『昔、俺の腕は魔物に喰われたんだ』

 

何故か。ずっと幼い頃に一度だけ耳にした養父の昔語りを今になって思い出す。

 

『どんな魔物だったの?』

『宝箱に擬態した魔物だ。好奇心で迂闊に手を伸ばしちまったことを、後になってからどれほど悔やんだか』

 

「シンシア!? ダメだ、離れて!」

「――え?」

 

勇者の警告は、ほんの一瞬だけ遅かった。仲間たちが振り向いた時、エルフの少女は既に宝箱の目の前にいた。

ひとりでに宝箱が開く。否、()()()()の口が開く。箱の縁に沿って並んだ凶悪な形の歯が涎とも消化液ともつかない粘液で濡れ光っていた。毒々しいほどに赤く色づいた巨大な舌が、箱の縁を舐めた。ソレが、その魔物にとっての舌なめずりなのだろう。

 

「――っっ!!!」

 

轟音(おたけび)。もはや声というよりは衝撃波に近い凄まじい音波が全身を叩き、五感を麻痺させる。

例え事前にわかっていたところで、防ごうと思っていたところで、それは防げるようなものではない。人間よりも鋭敏な聴覚を持つエルフであれば、尚更。

 

「イオ!」

 

だが、その瞬間。その衝撃波(おたけび)を相殺するような爆発が宝箱(ひとくいばこ)エルフの少女(シンシア)の中間で炸裂した。直撃こそしなかったとはいえ、至近距離からの爆風に煽られて後ろによろめき、体勢を崩す。そのせいで、目の前の獲物に食いつこうとしていた魔物は、ほんの半歩分ほどとはいえ距離を読み違えた。

 

「ごめんね!」

 

その半歩分の距離を魔物が詰めるよりも早く、今度は後ろからの回し蹴りで華奢な体が横に吹っ飛ぶ。壁に叩きつけられた体は床に落下し、そしてそのまま滑って魔物には手の届かない遠くへと運ばれていく。

 

「ソロ! シンシアと合流したらリレミトで逃げて!」

「スカラ!」

 

不意打ちで食いつくはずだった獲物を目の前から搔っ攫われて双眸を怒りに赤く燃え上がらせる魔物は、邪魔をしてくれた小癪な侵入者たちに牙を剥いた。

 

「くっ…!?」

 

防御魔法で硬度を上げたはずの鉄の盾にまで魔物の牙が食い込み、メキャリと鈍い音を立ててそれを(ひしゃ)げさせたことに神官(クリフト)が顔色を変える。

例え全身鎧を身につけていたところで、肘や膝の関節部までは可動範囲を確保するために装甲で覆うことは出来ない。この魔物の恐るべき咬合力は、そういった関節部ごと腕や足を食い千切りかねなかった。

 

「姫様、この魔物は危険です!」

「なら退くよ! 目的のパデキアの種は手に入れたんだ! これ以上の長居は不要!」

 

即座に撤退の判断を下した(アリーナ)の声に応じて踊り子(マーニャ)がリレミトの準備に入る。

 

「クリフト、息を合わせて! こいつの()()()()()わ!」

「はいっ!」

 

なおも飛び掛かってこようとする魔物(ひとくいばこ)が食いついていた神官の構えた鉄の盾から離れようと大口を開けた瞬間、上顎に当たる蓋と下顎に相当する箱の間に、占い師(ミネア)が理力の杖をつっかえ棒のように押し込んだ。

 

「――っっっ!?」

「シンシアの代わりにはならないでしょうけどね。ソレはあげるわ」

 

魔物が驚愕と、そして(上顎)に理力の杖の先端が食い込む苦痛に(全身)を震わせながら声にならない絶叫を上げる。杖を噛み砕こうと顎に力を入れれば入れるほどに理力の杖の先端部が口の内側に深々と突き刺さるのだ。

憎悪と憤怒の余り、地団駄でも踏むようにのたうち回る魔物を尻目に四人は悠々とリレミトで洞窟から脱出した。

 

「シンシア、大丈夫?」

「うん。ちょっと肩と背中を打ったぐらいで、それ以外は全然。……ここから出たら、アリーナとマーニャに謝らなきゃ」

 

滑る床から投げ出されるようにしてようやく止まったエルフの少女を助け起こしながらそれを遠目に確認した勇者は、小さく安堵の吐息を漏らした。大切な幼馴染が無事であったことはもちろんだが、その窮地を救ってくれた仲間に被害が出なかったことが何よりだった。

 

「大丈夫。自分も一緒に頭を下げるよ」

「ソロは謝るんじゃなくて、お礼を言って。二人で謝るより、そっちの方がいい」

「じゃあ、せめてミネアの理力の杖は二人で弁償しよう」

 

妙なところで律儀な勇者に思わず苦笑をしかけたエルフの少女は、その華奢な体を抱き締める勇者の腕が、手が、そして体が微細に、しかし確かに震えていることに気付いて、すぐにその口元から笑みを消した。

 

「……ソロ?」

「無事で良かった」

 

それだけを小さく囁いた少年(ソロ)の背中に両腕を回す。二人が早く戻らないと、外の仲間に余計な心配をかけてしまう。それはわかっている。

だけど、今は彼が、本来は誰よりも繊細で臆病なほどに心優しい幼馴染が『勇者』に戻るだけの時間が少しだけ必要だった。そして、その隣に寄り添う役目は今も昔も自分のものだった。それだけは、他の誰にも譲るつもりはなかった。

本作における船の名前は?

  • ゲームブック準拠で『トリスタン号』
  • 小説版準拠で『聖なる種火丸』
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