ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第三話:野営の夜

「よう、ロレンス。お手柄だったな。いやぁ、ちょっとしたメラとかホイミぐらいならともかく、広い草原に散った魔物の群れを纏めて片付けられるような攻撃魔法が使える傭兵なんて滅多にいないからな。お前が一緒に来てくれて、今回は本当に運が良かった。どうだ、軽く一杯」

「いや、酒は止めておこう。明日のこともある。すまないが、付き合いが悪いのは許してくれ」

 

野営の焚き火を囲みながら隊商の頭目が機嫌よく話しかけてくる。それを躱して、馬車の列の横を歩いていく。視界の隅でオーリンが色気たっぷりの踊り子たちに囲まれているのがチラッと見えた。キリキリバッタの群れを俺が一掃している間に、街道を挟んで反対側ではオーリンも鉄の槍でスライムベスを一撃で貫いていた。

もともと女に受けが良くて、今日は魔物を相手にして良いところも見せた。それはモーションの一つもかけられるだろう。まあ、本人がその誘いに乗るかどうかはまた別の問題だが。わざわざ俺がその中に入っていく必要もない。

 

「美味そうだな、その串焼き。一本もらってもいいか」

「構わんよ。今日の魔物を退治してくれた礼だ。もう一本もってけ、こっちは相棒の分だ」

 

焚き火の火で肉を炙っていた行商人に礼を言って、俺はそのまま歩いていく。見通しの良い街道の外側に半円を描くようにして複数の馬車を停め、それを防壁の代わりにして複数の焚き火を作った野営地には隊商の一行が思い思いに座り込み、賑やかに夕食を共にしていた。近くをうろつく獣や魔物を遠ざける為にも大勢で声高に喋り合い、互いに存在を知らせ合って安心するという意味もある。

 

「……」

 

野営地の端の方に停められた、荷物を運ぶための大型馬車。周囲の賑わいはそこまで届かず、静かだ。ここなら目立たない。周囲を確認する。俺を見ている者もいない。近くを通る者もいない。

 

「バルザック?」

 

馬車の幌をめくり、中の衣装箱の蓋を開けると、予想通り二人の姿があった。すぐに顔を出したのはマーニャの方だ。ミネアは慎重に箱の壁に身を寄せて隠れていた。

 

「外に出てもいい?」

「いいぞ。今なら周りに誰もいない」

 

すぐに二人は草原の草むらの中に入って行った。一応、我慢できなかった時のために革袋も用意はしていたはずだが、そういう問題でもないだろう。俺は周囲を見張っておく。

戻ってきた二人に新しい水袋と二本の串焼きを渡す。

 

「わ、美味しそう。ねえ、バルザック。一杯だけでいいから、葡萄酒とか手に入らない?」

「ダメだ」

 

このところのマーニャは酒の味を覚えやがった。俺の方でも気をつけていたつもりだったんだが、同じ劇場に出入りしている若い踊り子たちから飲ませてもらってしまったらしい。原作ゲームの大酒飲みの設定が、まさかこんなに早く顔を出すとは。

 

「もう、ケチねぇ」

「ミネア、ちゃんと見張ってろよ。お前だけが頼りだ。なんだかんだでオーリンはマーニャに甘いからな」

「任せて」

 

俺としては、何かの間違いでマーニャがエドガンと再会する時に酒の匂いをさせていたりしないことを願うばかりだ。しばらく見なかった間に可愛い娘がすっかり悪い方向に進んでしまって、などと過酷な牢獄に閉じ込められていた師を嘆かせたくはない。

内心で頭を抱えつつ、並んで座って大人しく串焼きにかぶりつく姉妹を見守る。思ったよりも平静に見えて、少し安心する。

 

「バルザック」

「なんだ」

「昼間の魔物を退治したのって、やっぱりバルザックだったの?」

「俺だけじゃない。オーリンもだ。見てなかったのか?」

「私たちからは見えなかったの。馬車の位置が悪かったのね、多分」

 

二人が食べ終えた串を受け取る。適当に捨ててもいいが、後で焚き火の中に投げ込んでおこう。

 

「思ってたよりも強かったのね、バルザックって」

「大したことじゃない。俺より強いのは幾らでもいる」

 

例えば、いま俺を見上げてる姉妹に足りないのは時間だけだ。マーニャはもう、メラを習得した。ミネアもホイミが使える。もう既に、ゲームの初期魔法は覚えているのだ。

あとは成長するに従って魔力もどんどん上がっていく。マーニャは攻撃魔法を極めていくし、ミネアも補助系と回復系をバランス良く使える。後衛向きでありながら姉は体力もあり、打たれ強い。強力な装備を身につければ、妹は前衛と並んで殴り合いまでこなせる。俺を追い越すどころの話ではない。いずれ俺は遥か彼方に置いて行かれる。

世界を救う勇者と並ぶ、運命に導かれし者たち。(バルザック)では、そこに並ぶことさえ叶わない。――それどころか、二人の影を踏むことさえも。

 

「もうっ、せっかく褒めてるんだから、もっと喜びなさいよ」

「姉さん、そんな風に言うものじゃないわ。バルザックだって照れてるだけかもしれないじゃない」

 

だが、そんな俺の内心に気付いた様子もないマーニャは拗ねたように頬を膨らませ、ミネアがそれを宥める。

 

「あ、ああ、悪かった。マーニャが俺を認めてくれた、ってことでいいのか?」

「知らないっ」

 

だいぶ大人びてきたように見えても、こういうところはまだまだ子供か。俺は苦笑しながらマーニャの頭を撫でた。

 

「悪かったよ。葡萄酒は無理だが、罪滅ぼしに何か買ってくる。何がいい?」

「……むぅ」

「バルザックもバルザックで、かなり姉さんに甘くないかしら?」

「そうか?」

 

葛藤するように小さく唸る姉から俺に視線を移し、ミネアが小首を傾げた。

 

「あ、干し葡萄がもっと欲しいかも。ずっと馬車に乗ったままだと口が寂しくて」

「姉さん、今日だけで袋の半分くらい食べちゃったの。明日には無くなっちゃいそう」

「言わないでよ、ミネア」

 

とはいえ、乗り物酔いに飴だのガムだのを口にするのは定番と言えば定番か。

 

「わかった。多めに用意しておこう。他には?」

「え、まだいいの?」

「バルザック、やっぱり姉さんに甘い……」

 

態度が一変して目を輝かせるマーニャとは対照的に、ミネアの目がどんどん冷たくなってくる。

 

「いや、干し葡萄はむしろ必需品だからな。馬車に乗ってて気分が悪くなっても、俺もすぐには駆けつけられない。足りなくなる前に補充するのは当然だろう?」

「そういう問題じゃないんだけど」

「じゃあ、じゃあ、干し肉と、チーズと、あと、」

「待て、マーニャ。ちょっと待て。今はピクニックじゃないんだぞ」

「いいじゃない、別に。他にやることがあるわけじゃないんだし。箱の中じゃ食べるくらいしか楽しみがないんだから」

 

だから言ったのに、とジト目で語るミネアから顔を逸らす。

 

「仕方ない。まあ、夜までずっと空腹を我慢しろって言うのも酷か。とりあえず、干し葡萄と干し肉とチーズは買ってきておいてやる」

「やった!」

「……バルザックって意外と姉さんの尻に敷かれるかもって、オーリンにも報告しておかなきゃダメね」

「おい、ミネア。やめろ。それは勘弁してくれ」

 

嬉しそうにバンザイするマーニャとは対照的に、俺を見るミネアの紫の目が怖かった。

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