ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第九話:お告げのほこら

ハバリアの南西。

海に突き出た細い岬の先端に、その小さな(ほこら)は建てられている。『聖なる祠』『海辺のお告げ所』『お告げの祠』など、その祠を指し示す言葉は様々にあれど、必ずしもその本質を表しているとは言い難い。

決して多くの人に知られた名所というわけではない。一体いつからそこにあるのかさえも定かではない。ただ、己が進むべき道に人が迷った時、その潮騒の音に誘われるように歩いていくと自然とそこに辿り着くのだという。

 

その祠で独り静かに神に祈りを捧げる乙女は、どこか謎めいた微笑みで訪れた者を出迎える。

海から吹きつける潮の香りを含んだ強い風が、祠の周囲で咲き乱れる色とりどりの花々と乙女の頭巾を揺らした。

 

「あ、見てよミネア! すっごく綺麗な花が咲いてる!」

「ええ、色んな花が、こんなにいっぱい……すごいわ」

 

祠を訪れた客の数は4人。よく似た容貌の、姉妹と思われる少女が二人。今は前のめりになって花々に見入っている。

そして、それを守るように立つ屈強な青年と、逆に細い痩身のローブ姿の青年が一人ずつ。

 

「ここは、お告げ所。神のお告げがくだる、聖なるほこら」

 

尼僧の装いをした乙女は静かに、しかし僅かな抑揚をつけた節回しで言の葉を紡ぐ。

 

「あなたがたが救い出そうとしている老人は、その禁断にして禁忌の知識ゆえに巨大な暗黒の力に狙われています」

 

はっと顔を上げた姉妹は小さく息を飲み、互いの手を握り合った。その二人の肩を屈強な青年が優しく抱いた。フードを目深に被った青年が、『知っているさ』と口の中だけで小さく呟いた。

 

「しかし、案ずることはありません。私には見えるのです」

 

乙女は不安を拭い去るように優しく告げた。今はまだ幼い二人の少女へと。運命に導かれ、いずれ大いなる力へと合流することになる姉妹を力づけるために。

 

「あなたがたもまた、光輝く力によって守られているのが……」

 

乙女は眩しげに目を細めた。炎のように熱く燃え盛る激情のままに踊る姉は、闇の中にあって冷たく凍てついた人々の心をさえ温め、溶かし、その先頭に立って導く道標となるだろう。

 

「今はまだ小さな光ですが、それらは幾つも幾つも導かれ、やがて一つに束ねられて大きな力となるでしょう」

 

乙女は共感を籠めて囁いた。自分と同じように未来を垣間見る力を持つがゆえに、そうであるからこその苦難と不安に苛まれる妹へと、せめてもの(はなむけ)となることを願って。

 

「焦ってはいけません。例え、あなたがたが絶望の闇を前にして一度(ひとたび)は膝を折ってしまうことになったとしても」

 

乙女は頼もしく思った。その姉妹の盾となり、必ずや守り通してくれるであろう実直で朴訥な青年を。

 

「今まさに打ちひしがれようとした、まさにその時にこそ」

 

――そして、乙女は真っ直ぐに見つめた。

 

今もなお用心深く顔を隠し続けている青年を。

本来であれば巨大な深淵に引き寄せられ、滅ぶべき運命に堕ちているはずだった彼を。()は、導かれし光の一つではない。世界を救う光には、なり得ない。

その()がどうして破滅の運命を回避し得たのか。それはわからない。しかし、それによって死に瀕したはずの一つの命は、確かに生き(ながら)えたのだ。

 

「あなたがたの旅が、始まるのです」

 

その運命が綾なす異なる一本の糸が、この世界に編み上げることになる模様に如何なる変化を引き起こすのか。神ならざる人の身では、決してわかるはずもないことだった。




ここから作中時間が数日ほど飛びます。この状況下でアッテムトで何をするのか、何のために行くのかなんて読者の皆様には説明するまでもなくわかりきっていることだと思われますしおすし。
章管理の関係で次話の投稿時間はちょっと前後します
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