ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第二話:潜入

キングレオ城。

世界でも屈指の大国、キングレオ王国を象徴する建築物だ。コーミズ村からハバリアへと向かう際にも近くを通り過ぎたが、改めてその威容を間近で目にすると思わず圧倒されそうになる。

前世の記憶で天を衝く摩天楼のような超巨大建造物の知識がなければ、例えそれが仮初のものであったとしても、この城の、あるいはサントハイムの城で城の主の如く振る舞っていた(バルザック)があれほど傲慢に、強気に出れたのもわからなくはない。まあ、それでも結局は勇者とその仲間に倒されてしまうのだが。

 

「さて、と。オーリン、頼む」

「ああ」

 

昨夜の問答が嘘のように、オーリンは何事もなかったかのように振る舞っている。

だが、その顔を見上げると、正直に言えば俺は今すぐに自分の胸を掻き毟ってしまいたくなる。そして目の前の顔に力いっぱい拳を叩きつけてやりたくなる。だが、今はそんなことをしている場合ではないし、マーニャとミネアの目もある。

何より、俺が殴ったところでコイツにとっては虫に刺されたようなものだろう。今は尚更それが苦しくてたまらないが。

 

「バルザック、それがハバリアの武器屋で買ってきたものか?」

 

俺はオーリンが地面に置いた壷の封を慎重に外し、その中に懐から取り出した革袋の中身を静かに注ぎ込む。

 

「毒蛾の粉、と言ってもわからないだろうな」

 

キメラの翼などと同じく使い切りの消耗品で、メダパニと同じく相手を混乱させる効果がある。本来なら、この世界には存在しないアイテムだ。少なくとも、『毒蛾の粉』という名前のアイテムを単体で入手する手段は、原作のゲームにおいては存在しない。

しかし、実に奇妙なことにハバリアの武器屋には毒蛾のナイフが売っている。これには刀身に毒蛾の鱗粉を塗り付けたもの、という設定がある。このナイフで傷をつけた相手を麻痺させる、というものだ。とはいえ、この設定には一つの矛盾というか問題がある。

 

刀身に、あらかじめ毒蛾の鱗粉を塗り付けた状態で販売されているナイフがある。まあ、それは良い。しかし、それで傷をつければ傷口からは血が出るだろう。少なくとも、傷口に塗り付けた分の鱗粉は、それだけ刀身から拭い取られることになる。そうであるのなら、ナイフの手入れをするのに毒蛾の鱗粉が無くてはならない。そうでなければ、相手を麻痺させるという追加効果は永続的なものにはならない、ということになる。

 

「だからこれは、正確に言えば、毒蛾のナイフの手入れ用に別売りされている毒蛾の鱗粉だ。これが具体的に相手を混乱させるものなのか、あるいは麻痺させるのか、それはどちらでもいいし、詳しいことは気にする必要はない」

 

アッテムトの鉱山の中で手に入れた火薬壷にありったけの毒蛾の鱗粉を注ぎ込み、元通りに封をする。

本来であれば、これはキングレオの城内にいる大臣の部屋の横で爆発させ、(バルザック)が潜んでいる隠し部屋へと案内させるためのもの。

だが、大きな音を立てる効果はあったとしても、これ自体には攻撃力はない。近くの人の耳目を一時的に集められたとしても、それ以上のことは出来ない。せいぜい『なんだ、人騒がせな』と見張りの兵士にブツブツと文句を言わせるぐらいが関の山だろう。

 

「壷の火薬を炸裂させ、広範囲に毒蛾の鱗粉を撒き散らす。何事かと様子を見に来た兵士が混乱するか、麻痺するか、どちらにしても騒ぎにはなる」

 

俺の言葉に、口元に布を何重にも巻いたマーニャとミネアが頷く。

荷物袋から布を取り出し、俺も口元に巻き付ける。これには顔を隠すのと、なるべく毒蛾の鱗粉を吸い込まないようにする二つの意味がある。

立ち上がった俺の代わりに、オーリンが火薬壷を抱え上げる。俺、オーリン、マーニャ、ミネア。4人が4人とも、全員の顔を見た。

 

「始めれば、もう戻れない。エドガン先生を救い出すか、俺たちも捕まるか。二つに一つだ」

「いいや、結果はもう決まってる。先生を助け出して、無事に俺たちと一緒に脱出する。それだけだ」

「絶対に父さまは助け出す。それだけよ」

「今朝の占いでも『成功』と『勝利』が出たわ。だから絶対に上手くいくはず」

 

オーリンがマーニャとミネアの頭を撫でた。くすぐったそうにする二人は、ついで俺の方を見た。

 

「なんだ?」

「バルザックは?」

「撫でてくれないの?」

 

これが挑発的な言い方なら、まだ俺も笑い飛ばせた。だが、二人揃ってキョトンとした風に素で言われてしまうと対応に困る。

 

「ああ、わかった、わかった。これでいいか?」

 

俺は手を伸ばした。二人の頭を左右の手で撫でる。だが、もし俺がこの後オーリンを見捨てて、犠牲にしてしまった時は、この二人は――。

 

「バルザック」

「……なんだ」

 

思わずこみ上げそうになった苦悶を無理やり飲み込み、オーリンを見上げる。

 

「行くぞ」

 

俺は掌に爪が食い込むほど拳を強く握りしめた。それを目の前の顔にではなく、逞しい肩に向かって思い切り叩きつけた。手が痛かった。

 

「ああ、行くか」

 

だが、やはり。オーリンにとって、俺の全力は全くと言っていいほど通じていなかった。

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