ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第七話:存在しない宝物

フレノールの街に入ると、何やら不穏な雰囲気だった。不穏というか、困惑というか、剣呑というか。

 

「何かあったのかな?」

「そりゃそうだ。何かあったから、こうなんだろうよ」

 

ボクの小さな呟きにバルザックが応える。街の人たちがヒソヒソと小さな声で囁いては、二階建ての宿屋らしい建物の方をチラチラ見てる。で、その建物の周りをキングレオの兵士らしい一団が囲んで、妙にピリピリしてる。

 

「詳しく話を聞いてみたいところだが、俺たちだとキングレオの兵士に目をつけられた時に面倒なことになりそうだ。俺はマーニャとミネアを連れて、あっちの墓場の方に行ってる。なるべく目立たないようにアリーナ姫たちが街の人間から話を聞いてきてくれ」

 

フードを目深に被って顔を隠したバルザックが離れていく。マーニャとミネアも一緒だ。クリフトもブライも何も言わないのは、その判断が正しいと思ったからだろう。

 

「じゃ、ボクたちで街の人から話を聞いてみよっか?」

「かしこまりました」

「御意」

 

クリフトが噴水の周りでヒソヒソと内緒話をしてる女性たちの方に近づいていく。

 

「ご歓談中のところ、失礼いたします。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あら」

「ええと、何かしら?」

 

女の人たちはサランの街でも時たま見かける店主の奥さんみたいな感じだ。クリフトの方を振り向いた時はちょっと警戒している感じだったけど、頭に被っている神官帽を見てホッとしたように小さく息をつく。あの緑の帽子に大きく刺繡で縫い取りされている印はサントハイムの国章だ。これはお城に仕える、もしくはお城からの許可がないと勝手には使えない。だからクリフトが他国の人間じゃないってわかったんだと思う。

 

「自分たちはつい先ほど街に来たばかりの旅の者で、ここで一泊しようと思ったのですが、あちらの方々が何やら物々しい雰囲気で近づけず。一体何があったのかと気になりまして」

「そうなの? お気の毒にねぇ、きっと今夜は……いえ、もしかすると当分は宿に入るのは難しいかもしれないわ」

「ちょっと、不吉なことを言わないで。あんな連中が長々と居座るなんてイヤよ」

 

思わせぶりに顔をしかめる女性に、もう一人の女性が窘めるような声をかける。あ、これは根っからの噂話が大好きな女の人たちだ。お城の侍女にも似た感じの人がいるからわかる。『ほら、気になるでしょう? だからもっと聞いて?』という声にならない声が聞こえてくる。

 

「ということは、何か事件でも?」

 

心得たようにクリフトが水を向けると、それを待っていたと言わんばかりに口々に話してくれる。

 

「宿の方に盗人が現れたんですって」

「なんでも外国から来た偉い人が被害に遭ったとか」

「大切な財宝が盗られたって、今朝からずっと騒いでるそうなの」

「『この責任は誰がとってくれるんだ!?』とか、外にまで響くほどの大声が聞こえてきたらしいわ」

「宿の主人は大弱りよ。せっかくの上客がカンカンに怒ってるんだもの」

「おまけに宿の周りも殺気立った兵士が囲んで、さっきから誰も入れないの」

 

一通りの話を聞いたボクは爺やの方に目を向ける。ブライは白い髭を撫でながら鋭い目で宿を見上げていた。

 

「ねえ、爺や」

「はい」

「こういう場合はどうするんだっけ」

「まあ、普通なら城に遣いを出しますな。他国からの使節が盗難に遭ったとなれば一大事。すぐにでも役人と兵士を遣わして対応するでしょう。被害に遭ったものを弁済できるかどうか、どこまで補償するかはその時と場合によります。こういう話し合いは長引くのが常ですが、とはいえ、いつまでも国内に居座られてもこちらも困りますし、向こうとて無駄に時間を潰せるほどに暇というわけでもない。どこかで大抵は折り合いをつけるものですが……」

 

そこまで言ったブライが口を閉ざして、街の入り口の方に顔を向ける。つられてボクも顔を向ける。

 

「……誰?」

 

ボクの目からすると決して上等じゃないけど、ヒラヒラとフワフワの飾り付けをこれでもかと取り付けた、まるで()()()()()()()白いドレス。あまり質の良くない染料で金色に染めてるせいで日に焼けたように色褪せた髪も傷んでいて艶がない。足取りも無駄に大仰だ。少なくともボクに作法を躾けた先生が見たら、小一時間は説教されそうなくらい。王族として、品位に欠けた歩き方はしてはなりません、とか言われそう。

でも、態度だけは堂々としてた。目は真っ直ぐ前を向いてて、頭を揺らさない。少なくとも、『人に見られる』ことには慣れてる。

 

「引け! サントハイム第一王女殿下のおなりである!!」

「……は?」

 

白いドレスの女の子の横で、背の高い男が大声を上げた。顔に白い顔料を塗りたくっているから元の人相がよくわからなくなっている。こちらも、ボクの目からは使っている布や糸はあまり上等には見えないけど、遠目には()()()()()()()()も見えなくもない服を着てる。

 

「参りましょうか、姫」

 

そして女の子の手を引いている老人は、……なんだか、ついさっき見たことがある気がする。というか、隣のブライに似てる。

 

「ほう……なんでしょうかな。まるで()()()()()()()を見せられているようですな」

 

ブライが低い声を漏らした。怒ってる。すごく怒ってる。ボクだってイラっとしてる。何、あれ。

ボクを名乗る偽物が堂々と街の通りを歩いていく。宿屋を囲んでいた兵士たちが道を開ける。一行を通して、すぐにまた元通りに道を塞ぐ。

 

「姫様」

 

戻ってきたクリフトの声も刺々しかった。わかる。ボクもブライも同じだもの。

 

「うん。…とりあえず、バルザックのところに戻ろうか。何か、とんでもないことが起きてる。それも、絶対に良くないことが」

 

ボクの声に二人が大きく頷く。あんな風に目立つ三人が宿に入っていったという噂はすぐに街中に広まるだろう。クリフトが話を聞いていた女の人たちも興奮したように噂話に夢中になってる。ボクたちの方には見向きもしない。だけど、好都合だ。今ならボクらに注目してる人は誰もいない。素早く墓場の方に移動する。

 

「――…なるほど、宿では盗人が出たと騒ぎ立てているキングレオの大臣がいて。そして、その現場になった宿にはサントハイムのお姫様を騙る偽物が入っていった、か」

 

墓場の外れで、バルザックとマーニャとミネアは小休止していた。水を飲んで、干し葡萄やチーズを軽くつまんで。そこに合流したボクたちも相伴にあずかる。この分だと宿で休めそうにはないし、山の方から街まで歩いてきてボクも少し疲れてもいたから。

 

「うんっ、一体何が起きてるのさ? ボクにはさっぱりチンプンカンプンだよ!」

 

マーニャから分けてもらった干し肉を噛む。すごく硬い。でも口に水を含んで何度も噛むと少しずつ柔らかくなって、口の中にキツイ塩気が広がる。こんなに味の濃い物は生まれて初めて食べたかも。ちょっと癖になりそう。

 

「やっぱり、峠で会ったあの三人組か?」

「女の子と男の方は変装してたから、絶対にそうとは言い切れないかも。でも、爺やに似てたのは間違いなくそう」

「儂とあれほど似ている他人がそうそういるとも思えんからのう」

 

爺やは墓場を取り囲むように流れている小川と木立の枝越しに屋根の一部が見える宿の方を見て、つまらなさげに鼻息を吹いた。

 

「なんともつまらん茶番劇を見せつけられたような気分じゃて」

「まさに。姫様を騙るなど許せるものではありません」

 

クリフトは声を荒げないけど、すごく怒ってる。目が据わってる。こんなにご機嫌斜めのクリフトはボクにとっても珍しい。

 

「バルザック、宿で何が起きてるのかわかる?」

「宿の中に踏み込むか、壁に耳をつけて聞き耳でも立てなきゃわかるはずがないだろう」

 

そりゃそうだよね、と思った。こんな状況で何が起きたのかわかるなんて、それこそ神様でもなければ――

 

「とはいえ、キングレオの連中が何を狙っているのかなら見当はつくが」

「ええっ!?」

 

あっさりと前言を翻したバルザックにボクも思わず声を上げてしまう。

 

「わかるの!?」

「何が起きてるのか、じゃない。何を狙ってるか、だけだ」

「どっちでもいいよ、そんなの!」

 

というか、むしろ後ろの方がもっと大事なことだと思う!

 

「説明して! 今すぐ!」

「それは構わんが。…その前に、ブライの爺様には手間をかけることになるが、お願いしたいことがある」

「何じゃ」

「あの様子だと今夜の宿をとるのは難しいだろう。しかも、この状況だ。()()()()()()()()()事態だと思うが、どうだ?」

「……。まあ、そうじゃな」

 

宿の方からバルザックの顔に目を戻したブライが大きく頷く。

 

「サランの街に――いや、一度サントハイムの城に寄って状況を報告。それから……」

 

そう言ってバルザックが続けた言葉に、ボクは思わず目を丸くする。まん丸になった目を、思わず呆然とマーニャとミネアへと向けてしまう。

 

「だから、前にも言ったじゃない。『バルザックは平然とした顔で時々とんでもないことを言うのが得意技なの』って」

「きっと、これで終わりじゃないわ。まだ続きがあるわよ、この調子だと」

 

半ば慣れたように、半ば諦めたように二人が言うと、ボクはそのまま視線をクリフトとブライに転じる。クリフトはボクと同じように大きく目を見開いていて、ブライは逆に目を閉じていた。

 

「おぬし、本気でこの件に関わっておらぬのか? おぬしこそが黒幕で全ての糸を引いているのではないかと思えてきたぞ」

「濡れ衣ですよ。俺は無関係です」

「そう願いたいものじゃ。ただでさえ残り少ない儂の寿命を、これ以上は縮めて欲しくないからのう」

 

小さく鼻を鳴らしてから、ブライは杖を地面に突き立てて呟いた。

 

「ルーラ」

 

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