ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第九話:御遊覧から、冒険へ

「結局こうなったか」

 

サントハイムの王が本気になった。国としてキングレオへの対処に本腰を入れる気になった。それはつまり、資金や予算という形で後援してくれることをも意味している。

ある意味でバルザックの狙い通りになったとも言える。だが、肝心のバルザック本人の顔色は優れない。

 

「何か問題なのか」

「現状が、既に問題なんだよ。後出しで辻褄を合わせようとしているから俺の読みが当たっているように見えるだけで、実際はどうなのかなぞわかったものじゃない。さっきの推察が外れてる可能性だって半々でありうる。何より、向こうに先手を取られっ放しという事実は動かない」

 

それぞれが慌ただしく再出発の準備を整える中で、先生の傍らに寄り添う俺と話す弟分はすっかり冷めてしまった茶の残りを啜る。

 

「フレノールの南の洞窟から『黄金の腕輪』を奪おうとしているキングレオの連中を出し抜いて、あるいは最悪、横から殴りつけてでも現物を掻っ攫うわけだ。当然、向こうは追ってくる。俺たちこそが盗人だ、と声高に叫びながら」

「また、冤罪で追われる身になるのか。これで二度目だな」

「なのでフレノールの街には戻れない。位置的にテンペの村に戻るのも難しい。必然的に南へと逃げることになるだろうな」

 

俺の軽口に取り合わず、バルザックは愚痴を漏らした。

 

「ブライの爺様に余裕があれば、リレミトで洞窟から脱出し、即座にルーラで離脱。という手も無いわけじゃない。それが出来れば一番楽だ」

「出来なければ?」

「そこから延々と追いかけっこになる。向こうの装備は鉄の鎧か鎖かたびら、鉄兜、鉄の盾に鉄の槍、といったあたりか。向こうに比べればこっちの装備は身軽だが、アリーナ姫もマーニャとミネアも、まだ子供だ。ブライの爺様も含めて、体力勝負の持久戦は厳しい」

「そこまでか?」

「向こうはおそらく兵士が中心。洞窟に入るのも戦士系の人員で揃えているはずだ。回復手段は薬草が中心になる。遠距離から足を狙って魔法を撃ち、逃げる。傷を手当てをして追ってくるところを、また遠距離から撃つ。そうやって回復手段を削って、追手の足を鈍らせる。だが、やはりジリ貧になる。基礎体力の差はそれほど大きい」

 

先生は俺たちの話を黙って聞いている。

 

「必然的に、どこかに逃げ込む必要がある」

「エンドールか?」

「それも考えたが、エンドールへの旅の扉が問題だ。サントハイムの兵士が俺たちを通したという事実が問題になる可能性がある。少なくとも、キングレオの連中は『キングレオの財を盗んだ賊をサントハイムが見逃した』と主張してくる」

「だが、悪いのは向こうだろう?」

「それはこっちの言い分だ。現場のキングレオの兵士にしてみれば、上の悪だくみは何も知らない可能性が高い。連中にとっては間違いなく『盗賊』だろうさ。もし俺の顔を知っているのが一人でも紛れ込んでいれば、尚更」

 

思わず俺は腕を組んで唸ってしまう。バルザックは悪いことをしているわけじゃない。

モンバーバラの街で問題を起こしていた兵士を片付けたのも街の人たちに依頼されたからだ。キングレオの城で騒ぎを起こしたのも先生を助けるためだ。今回だって、最初に他国で悪さをしたのは向こうなのに。

 

「いつもお前は真っ直ぐだな、オーリン。だがな、世界は良い事、正しい事、善人と善行だけで回っているわけじゃないのさ」

 

空になった茶器を置いて、バルザックは皮肉げに肩を竦めた。

 

「世界の半分は悪人と悪党の悪事と悪だくみで出来ている。汚いことは俺に任せておけよ」

「そういう言い方はよせ。俺はお前のそういうところが危なっかしくて仕方ない」

 

溜め息をつきながら返す。偽悪趣味か露悪趣味かは知らないが、無駄に悪役ぶる必要などないだろうに。

 

「……」

「ふふふ、これは一本とられたな、バルザック」

 

先生が低く含み笑いを漏らした。

 

「オーリンに勝てたと思ったことは一度もありませんよ」

「それは俺のセリフだ。俺ではお前には敵わないよ」

 

俺たちは互いの顔を見合わせ、やはり苦笑する。先生も愉快そうに笑っていた。

 

「全く、昔からお前たちは仲がいいのか、悪いのか」

「お互いに仲良く反目している、といったところでしょうか」

 

バルザックは腰を上げる。

 

「すまん、オーリン。この分では明後日までに帰れるかどうかも正直わからん。なるべく早めに片をつけたいが」

「気にするな。俺では状況の変化についていけないからな。お前に任せるしかない」

「俺の方でも上手くやれる自信があるわけでもないんだがな」

 

艶の無い長髪を煩わしげに掻き上げ、小さく溜め息をつく。

 

「それで、バルザック。エンドールに逃げ込むのが悪手だとするならば、お前は一体どこに逃げ込むつもりだ? 儂の知る限り、そんな場所は一か所しか思いつかぬが」

 

先生が水を向けると、バルザックはどこか遠くを見るような目つきで答えた。

 

「はい、先生の仰る通り、砂漠のバザーです。あそこは盗品なども扱う、怪しげな商人の溜まり場ですから。財宝を盗んだ賊が逃げ込むにはうってつけの場所ですよ」




明日は午前3時台、12時台、それから21時台に3回投稿予定です
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