ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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フェブ(偽クリフト)の言動については本作の捏造です


第二話:盗賊の鍵

フレノールの街の宿でサントハイムの王族を騙った旅芸人一座の三人は、今もサントハイムの城に滞在している。

逃亡を抑止する勾留、という意味ももちろんある。が、半分は身柄の保護、という意味もある。少なくとも、もし何かの偶然で三人がキングレオの大臣に行き会ってしまった場合、今度こそ確実に捕縛からの即処刑となるであろうことは想像も容易だ。

 

「それで、あの、陛下は大丈夫なんでしょうか」

 

特に、メイと名乗った少女はアリーナと年も近く、その友人であるマーニャと同じ踊り子でもあり、城の役人による取り調べにも協力的で、最初から知る限りのことを残らず白状したこと、何よりもアリーナが怒りや恨みを長く根に持つことのない気質であったことなどの複数の要因がたまたま良い方向に作用して、一応は監視の目もつけられてはいるものの、城の中でも比較的自由に振る舞うことを許されている。

 

「……」

「そうですか。すみません。私で何かお力になれることでもあれば良いんですけど」

 

無言で俯くアリーナを痛ましげに見やって、メイは深々と頭を下げる。

フレノールの街の宿で自分たちを見下さず、鷹揚に受け入れてくれたサントハイム王には尊敬と敬愛の念を素直に抱いていたし、王族を騙ったにもかかわらず旅芸人の自分たちに露骨な悪意をぶつけてくることもなく、少なくとも表面上は普通に扱ってくれているアリーナたちにも感謝していた。だから、自分に何か出来ることがあればとは思っていた。

 

「それなら、是非とも協力してくれないか。エンドールへの旅の扉から西へ行った砂漠の先、岬の先端に高い塔があるだろう。囀りの塔、というんだが。知らないか?」

 

サントハイム城の一室にアリーナとクリフトとブライ、マーニャとミネア、さらにメイたち旅芸人の三人を集めたバルザックが議長役として話を仕切る。

 

「あ、はい。その名前は知りませんでしたけど。遠目から見た覚えはあります」

「天気さえ良ければ、サントハイムの城やサランの街からも見えるものね。そんな名前だったんだ」

 

ここ数日、城の中で踊りの練習をする関係でメイとの付き合いが生じたマーニャが合いの手を入れる。

 

「で、その囀りの塔の最上階で、囀りの蜜というものを入手できる可能性がある。なんでも、かつて喉を痛めて声を出せなくなってしまった吟遊詩人が、この囀りの蜜で再び声を出せるようになったという話だ」

「え!? それ、ホント!?」

 

即座に目の色を変えたアリーナを静かに手で押さえて、代わりにブライが口を開く。

 

「おぬし、そんな話を一体どこから」

「エドガン先生が、昔そんな話を砂漠のバザーで聞いたと」

「ふむ、そうか。エドガン殿が、か。であるならば、単なる絵空事と片付けるわけにもいかぬか」

 

噓偽りでたばかられるのを警戒したブライも、エドガンの名前を出されては検討しないわけにもいかなかった。

 

「じゃあ! 今すぐ! すぐに出発しよう!」

「待て。落ち着け。塔の中には大きな扉があって、上に行くには鍵がないと入れない」

「そんなの! ボクが蹴破って――」

「無理だ。サントハイムの城門を蹴破るようなものだぞ」

「うぅーっ!」

 

悔しげに唸りながらも、アリーナが辛うじて自分を抑える。だが、ずっと陰鬱に沈み込んでいたアリーナが元気を取り戻したことは事実で、クリフトとブライ、マーニャとミネアが密かに内心で安堵する。

 

「で、だ。その扉の鍵を開けたいんだが、お前たちに心当たりはないか?」

 

水を向けられたメイたちは互いに顔を見合わせ、そして青年が口を開いた。

顔や手足に塗りたくっていた変装用の白い顔料を落とし、初対面の時の神父に似た服や、劇用の城の役人のようにも見える服を脱ぐと、肌はやや浅黒く、バルザックと同年代か、それよりも少し若く見える。

 

「無い、こともないが……あんた、なんでそんなことまで知ってる。俺たちの同業者、ってわけじゃあるまいし」

「お前たちとは少し毛色は違うが、キングレオにおける漂泊の民(ジプシー)は街から街を旅する特殊技能者の集団だった。マーニャとミネアはまだ小さかったから、そこまでのことは教わっていなかっただろうが。彼らは国や街といった特定の共同体に属さないがゆえに、法や官吏に守ってはもらえない。自分の身は自分で守るしかない」

 

バルザックは一同の顔を軽く見回してから、声を低くした。

 

「法の保護下にないからこそ、時には法に触れることも辞さない。それこそ盗賊の真似事も、な。鍵開け、忍び足ぐらいはむしろ必須の技能だったろうよ。自分たちの持ち物を誰かに奪われてもすぐに奪い返すために、あるいは魔物から身を隠して逃げる為にも」

 

メイは小さく溜め息をつき、その隣ではブライによく似た老人が諦めたように首を横に振った。

 

「そこまで知ってんのか。とんでもねえな、あんた」

 

頭を掻き毟った青年が胸元を手で押さえた。だが、やはりまだ躊躇いが残っているように、誰にともなく言葉を続ける。

 

「言っておくが、俺たちは神に誓って盗賊の仕事は一切やってない。どんなに食うに困っても、それだけは。ただ、劇の最中はどうしても自分らの荷物からは目を離すことになっちまう。もし劇をやってる間に誰かに荷物を持ってかれたら、それこそ俺たちにとっては生きるか死ぬかの問題だ」

「ああ、わかっている。万が一に備えての保険、ということだろう」

 

一つ頷いて、バルザックはブライに目を向けた。

 

「盗みにも使える道具を持っていた、しかもそれを城にまで持ち込んでいたことについては、今回は特別に不問に付すということでお願いいたします。サントハイム王の『急病』に対する協力への対価という形であれば、恩赦を与える理屈は通るかと」

「おぬし、屁理屈をこねるにもほどがあるぞ」

「ブライ、ボクからもお願い。これは父上のためだから。ね?」

 

呆れたように鼻息を吹いたブライをアリーナが宥める。

 

「ええい、仕方あるまい。クリフトよ、後でゴン爺を呼べ。儂が話をつける」

「はい、かしこまりました」

 

サントハイム側の譲歩を受けて、メイたちも心を決めたようだった。

 

「フェブ、出してやって」

「いいのかよ。()()()を取り上げられたら俺たちにとっちゃ万が一の時の命綱が無くなるんだぞ」

「サントハイムの王様がおらんかったら、あのフレノールの街で儂らはキングレオの大臣に殺されてたじゃろう。もしそうなっておったら、()()がその時に命綱になってくれたと思うか?」

 

メイにフェブと呼ばれた青年は、それで観念したように服の胸元の裏に縫い込んでいた隠しポケットから()()を取り出した。

 

「それが盗賊の鍵、か」

「人聞きが悪いな。さっきも言ったが、俺たちは盗賊の仕事はしてねえよ」

「悪かった。ひとまず、それを貸してくれ。囀りの塔に入るために必要なものだ。強力な魔物が出ると思われるから、同行までは求めない」

「頼まれたって誰が行くかよ、そんな危ない橋を渡るのはそっちで勝手にやってくれ」

 

放り投げるようにして手渡された鍵を受け取ったバルザックは、それをそのままアリーナへと受け流す。

 

「アリーナ姫。これが父王陛下を治す可能性に繋がる鍵だ。大切にな」

「う、うんっ!」

 

小さな金属片を両手で大事に握り込んだアリーナは、何の衒いも無くメイたちに頭を下げた。

つい先日に自分(サントハイムの王女)を騙ってキングレオの策謀の片棒を担いでいたはずの三人に。本物の第一王女殿下が、だ。

 

「ありがとう! 本当にありがとう!!」

「「「……」」」

 

思わず呆気にとられたように凍り付いた三人は、やがて互いに顔を見合わせる。

 

「……ねえ。やっぱりさ、ちょっとくらい手伝っても」

「待て。待てって。気持ちはわかる。義理もある。だけど命懸けだぞ? 相手は魔物だぞ? もしもの時に命乞いして聞いてもらえると思うか?」

「じゃが、考えてもみよ。もし成功すればサントハイムの第一王女殿下に恩を売れるんじゃぞ? 首尾よく国王陛下が回復すれば褒美だってもらえるじゃろ。何もせずに指を咥えて見ているだけなのはあまりに勿体ないのではないか?」

 

ヒソヒソと小さく囁き交わして相談している三人の様子にアリーナは思わず小首を傾げ、そしてバルザックは思わず低い笑い声を漏らした。

 

「うわ、またバルザックがすっごく悪い顔をしてる」

「そうね。アリーナの教育には良くないんじゃないかしら。鉄仮面か何かで隠しておいた方がいいと思うわよ」

 

マーニャとミネアは慣れたように肩を竦めていた。クリフトは警戒するようにバルザックとメイたちを見比べていた。

 

「なあ、お前たち。さっきも言った通り囀りの塔まで一緒に来いとまでは言わないが、その代わりにちょっとした()使()()を頼むと言ったら、引き受けてくれるか?」

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