ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第三話:軽口の縄梯子

「あの、バルザック。これは、いくら何でも……」

「何がだ。いいから黙って着ろ。お前に前に出てもらわないと、この塔を最上階まで登るのは無理だとわかっただろう?」

 

囀りの塔の地下の宿屋で、まだ未練がましくうだうだと言い訳を口にしているクリフトめをバルザック殿が叱りつける。

塔の周辺、そして塔の内部にも強力な魔物が集団で現れる危険地帯にあって、のんびりと着替えをしていられるような場所はおそらくここぐらいなものじゃろうな。

 

「おーっ、すごいねクリフト! かっこいいよ!!」

 

着終わった途端に手放しで姫様に褒められて真っ赤になっておるわ。若いのう。

 

「それがエンドールで密かに買い求めさせたという、はぐれメタル鎧か」

「護衛兼監視兼鍵開け兼荷物持ちのオーリンも同行させた甲斐がありました」

「いっそオーリン殿一人でも十分だったのではないか?」

「オーリンもキングレオではお尋ね者ですからね。しかもエンドールにも手配書が回っている可能性は高い。もし万が一にも誰かに見咎められた時、オーリンだけでは言い抜けられるか自信がなかったもので。その点、旅芸人の三人は口もそれ相応に達者ですから、四人でなら誤魔化せるかと」

「ふんっ、口が達者とは言っても、おぬしほどではなかろうが」

 

軽く鼻で笑ってやりながら、クリフトの身につけた鎧を見やる。

水銀か何かのように液体金属めいた光沢と質感を持つ、普通の金属ではありえない流動的でありながらも確かな硬さを併せ持つそれは、確かに『はぐれメタル』の名を冠するに相応しい。

たったの一領で15000ゴールド。サランの街でクリフトめが払いを肩代わりした理力の杖2本と身躱しの服3着の合計額をも超える高額な出費ではある。だが、クリフトが姫様の身をお守りし、ひいては陛下を回復させるためとあらば、これはむしろ安上がりと言えよう。

何より、この件でもしクリフトを私的流用だの横領だのと非難するような不届き者が城におったなら儂が黙らせてみせる。

 

「いいか、クリフト。スカラでアリーナ姫を援護するべきお前が真っ先に倒れては意味がない。むしろお前が先頭に立って、アリーナ姫に向く魔物の攻撃を全て受け止めてみせろ」

 

守備に偏らせて前に出るクリフトに代わり、逆にマーニャ嬢は儂と共に中衛に下がって理力の杖を持つ。そしてミネア嬢はバルザック殿と共に後衛で戦局を見渡す視点を養う、か。

前に出るか後ろに下がるか、立ち位置によって見えるものも変わってくる。それぞれの視点を経験させて視野を広げさせる。姫様の国内巡察の時といい、つくづく先を見ておるわ。

 

「ボクも何か強い武器が欲しくなってきたかも。さすがに拳だけだと倒しきれない魔物が多いよね、ここって」

「大丈夫よ、 私がルカニをかけてあげるから。それからぶん殴れば倒せるわ」

 

だが、姫様とマーニャ嬢の殺伐とした会話を聞くと少しばかり遠い目をしたくもなる。この状況では致し方ないと言えばその通り。じゃが、これが本来なら蝶よ花よと育てられてしかるべき姫様と、その女友達の会話かと言えば、あまりにもあんまりじゃろう。

 

「タイミング良く闘技場が開いていれば、鉄の爪を買うという手もあったんだがな」

「え!? 何それ、そんないいものがあるの!? ボクもエンドールに行ってみたい!!」

「ええい、やめんか。話が脱線しとるぞ」

 

ただでさえ陛下のことで暴走気味の姫様をこれ以上焚きつけられてはたまらぬ。

 

「ああ、失礼。ミネア、魔法の聖水は持ったか?」

「ええ。こんなものまであるだなんて、本当にエンドールは何でもあるのね」

 

万一に備えてと儂とマーニャ嬢にも渡された魔力を回復させる聖水は、あるいは緊急時の脱出手段にもなるじゃろう。

例え道中で魔力が尽きても、これさえあればリレミトの一回分にはなる。そうすれば、この宿屋で体力を回復させることも出来る。

 

「普通の道具屋で売っているものじゃなく、カジノでコインを買ってから交換するという手間はかかるがな。フェブが賭け事で遊びたがるのを、メイと二人がかりで止めるのが大変だったとオーリンが愚痴っていた」

 

何故かチラリとマーニャ嬢を見ながらバルザック殿が説明する。

 

「ちょっと、バルザック? なんでそこで私を見るわけ?」

「いや、別に。もしお前がエンドールで賭け事に嵌まったら俺とミネアが引き止めるのに苦労しそうだな、とか考えたわけじゃないぞ?」

「考えてるじゃない! いま! ちょっと、そこでミネアも頷かないでよ!」

 

じゃれ合うような二人の掛け合いに場の緊張が程よく緩む。クリフトは元から生真面目な堅物じゃし、儂も姫様とこれほど明け透けに打ち解けて話せるかと言われれば難しい。基本的に誰とでも打ち解けられるマーニャ嬢じゃが、バルザック殿との距離感はまた独特のものであろうな。

 

「さて、それじゃ準備が出来たら出発するか。目指すは最上階だ。それほど複雑な構造じゃないから道に迷うことはないだろうが、下から見上げた限り外壁が一部崩落しているところもあったようだ。となると、中も崩れていて床に穴が開いている可能性がある」

 

そこで儂に向かって目配せをしてくるので、先頭を行くことになるクリフトには特に念を押しておこう。

 

「クリフトよ、例え鎧を着ておっても下の階にまで落下すれば怪我では済まんかもしれん。足元には気をつけて進むんじゃぞ」

「はいっ! 姫様に怪我など自分が許しません!」

 

こやつの場合、微妙に意味を取り違えているような気もするが、まあ良かろう。

 

「そういえば、マーニャ。ブライの爺様にルーラを教わるとか言っていたが、どうだ? 覚えられそうか?」

 

バルザック殿が儂とマーニャ嬢を見比べてくるので、儂は薄く笑いながら髭を手で撫でた。

 

「マーニャ嬢は物覚えが良い。向上心もある。ルカニは既に覚えた。ルーラとリレミトも時間の問題じゃろう。おぬしがヒャダルコを覚えた時よりも進みは速いかもしれんぞ?」

「それはもう。マーニャは俺よりもずっと才能がありますから。アリーナ姫が格闘でオーリンを抜かすのが早いか、マーニャとミネアが魔法で俺を抜かすのが早いか、さて、どっちでしょうね」

「むぅ、ボクはまだオーリンから一本も取れてないのに」

 

姫様が珍しく悔しそうにしておられる。この負けん気が勉強でも発揮されておれば良かったのじゃがなあ。マーニャ嬢もマーニャ嬢で微妙な表情を浮かべておる。

もちろん使える魔法が増えるのは良い事じゃが、バルザック殿の真の強みは魔法とはまた違う部分にある。この先ルーラやリレミトが使えるようになったから、あるいはギラやイオが使えるようになったからと言って、それだけでバルザック殿を追い抜いたとは言えまい。

魔法は魔法。一つの手段に過ぎぬ。それがわかっているのであれば、たかだか新しい魔法の習得程度で驕ることにはなるまいが。

 

「ただし、マーニャ。ルカニで消費する魔力と理力の杖で消費する魔力は同じくらいだ。メラの火力とルカニの防御低下、理力の杖の打撃。それぞれの選択肢をよく考えて使い分けろ」

「う、うん」

「これは今後も新しい魔法を覚えるたびに増えていく。メラ系、ギラ系、イオ系。単体、複数、全体。どの魔法を、どの魔物に撃つか。魔物によっても魔法の効きやすさは違う。一つ一つ試して、覚えて、そうやって学んでいけ」

 

エドガン殿は本当に良い弟子に恵まれたものよ。そして、ポンポンと頭を撫でられるマーニャ嬢に、なんと姫様が少し羨ましそうにしておられる。

 

「姫様」

「えっ?」

「儂で良ければ頭でもお撫でいたしましょうか」

「い、いきなり何? ボ、ボクは別に……」

「ホッホッホッ……左様ですか。いや、これは要らぬ世話を申しましたな」

 

姫様は儂を軽く睨まれると、まるで陛下の真似をするように殊更に大きな咳払いをなされた。

かつて若き日の陛下も、まだ冊立される前の妃殿下に叱られると、こうやって大きく咳払いをして気まずい空気を必死に誤魔化されていたものよ。いやはや、なんとも懐かしい。この老い耄れも思わず目を細めてしまう。

 

「オホン、ゴホンッ! ええと、それじゃ皆、忘れ物はないね!? 出発するよ!」

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