ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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今回のタイトルは、感想にて突如勃発した脳筋大喜利に御参加いただいた読者様たちに捧げます。ありがとうございます。
なお、原題は「橋がなくても」でした


第三話:橋がないなら

ボンモールの城が、その国土からすると極端に南側に寄って建てられているのは、その南下政策のためだ、とバルザックは言う。

 

「北は海。西も狭い海峡を隔てて大国サントハイムと接している。東は険しい高山地帯。つまりボンモールが国土を広げられる余地は南側にしか存在しない。エンドールの抱える交易路の権益も魅力的だろうしな」

 

地政学、というらしい。地図を見て、その国が置かれた地理的な環境から政治的、経済的、軍事的な戦略に与える影響を読み解くのだとか。

 

「その土地によっても事情は異なるが、サントハイムやエンドール、ボンモールにかけては陸上で出る魔物よりも海に出る魔物の方がおおむね強力だからっていうのもあるだろうな。そうでなかったら、北のレイクナバの方に大規模な港を整備して海軍を整備するという手も考えられただろうが」

「バルザックって、よくそんな小難しいことを知ってるね」

 

きっと半分ほどは聞き流しているだろうアリーナだけど、一応は感心したように頷く。

 

「このぐらいは王族としても必須の教養のはずなんだが。ブライの爺様に、この辺のことも試験問題に加えるよう言っておくべきだったな」

「やめて! ボクはもう、あれ以上の勉強はしたくないっ!」

 

両手で耳を覆ってブンブンと頭を振って見せるアリーナは、あの試験勉強の日々がすっかり悪夢として定着してしまったようだ。彷徨う鎧や骸骨剣士と正面から殴り合っている時の方がよほど楽しそうにしている。

その気持ちはわかる。私だって、もう二度とやりたくないもの。

 

「だから、まあ、エンドールとの国境ともなっている橋が落ちたというのはボンモールにとっても痛手のはずだ。橋の修復についても何らかの手は打っているだろうよ。()()()()()()()()、エンドールの目が届かない間に別の手はずを整えているかもしれないが」

 

思わせぶりに付け加えるバルザックの顔は実に悪そうだった。あるいは、あくどそう、と言うべきだろうか。これはこれで妙に似合ってるのが、また何とも言えないのだけど。

 

「はいはい、もったいぶってないで早く言いなさいよ。ボンモールが何か企んでるの?」

 

私はさっさと先を促す。バルザックもそれ以上は焦らさずにあっさり言った。

 

「エンドールへの軍事侵攻」

「ほう?」

 

白い髭を撫でながらブライが応じる。

 

「サントハイムとエンドールにはそれぞれ婚儀を申し込む一方で、ボンモールには裏からエンドールへの出兵を(そそのか)す、か。キングレオの連中も、とんだ三枚舌を使ってくれたものじゃな」

「外交とはそういうものでしょう」

「それにしたところで限度はあるぞ。わざわざ先方の悪感情を高値で買い付けてどうするつもりなんじゃ」

「遅かれ早かれいずれは征服する予定の国ですから、その辺りのことはどうでも良いとでも思っているのでしょう」

 

私は思わずミネアと目を見交わして肩を竦める。別にバルザックの意見に反対するつもりはないけど、アリーナたちの機嫌が目に見えて急降下してる。

 

「じゃあ、なに? ボクはサントハイムを征服する口実にするためだけに結婚を申し込まれたの?」

「受ければ合法的に兵を送り込まれて征服される。断れば『恥をかかされた』とでも言いがかりをつけてきて攻め込まれる。その時にはエンドールを征服したボンモールも一緒になって攻めてくるかもな。それ以外の理由で結婚を申し込まれる心当たりがあるのか?」

「あるわけないし! あってもお断りだけど!」

 

ぷんすかと大声を張り上げるアリーナを宥めるべきクリフトも目尻をつり上げているし、ブライもブライで鼻息が荒い。

だから、そんな状況でノコノコと出てきた蠍アーマーの集団はアリーナたちの鬱憤を晴らす八つ当たりでボコボコにされた。

私たちが何かをするまでもなく、ブライが真っ先にヒャダルコで頭数を削り、冷気と氷で動きの鈍った反撃はクリフトのはぐれメタル鎧にあっさりと受け止められ、あとはアリーナの怒りの鉄拳で派手にぶっ飛ばされた。

エンドールへ行く途中で、硬くて打撃を受け流すはずのメタルスライムを拳で真正面から殴り倒したことにも驚かされたけど、あれからアリーナは何かのコツを掴んだように目に見えて腕を上げている。

念のために私とバルザックもギラを用意していたけど、その必要もないくらいの傍若無人な暴れっぷりだった。

 

「ふんっ、だ!」

 

氷漬けの蠍アーマーの破片を靴の裏で踏んづけて、少しは気が済んだのかアリーナは私に手を差し出す。

 

「マーニャ、干し肉ちょうだい!」

「はいはい」

 

私ももう慣れたので、ミネアと手分けしてアリーナの分も多めに買い足すようにしている。その分のお金はクリフトが後でちゃんと払ってくれるし。

干し肉を噛みながらアリーナが水を飲み、水袋をクリフトに返す。

 

「それで、バルザック。どうやってボンモールまで行くの?」

「……今頃それを訊くのか」

 

むしろ一番最初に訊けよ、とバルザックが小さく呟く。まあ、訊いてたら訊いてたで多分バルザックに意地悪問題を出されてたと思うけど。

 

「ん? 泳いでとか?」

「この川を見ても、まだそれを言えるのは大したものだが」

 

バルザックが壊れた橋のたもとから遥か下の川を見下ろす。その水深は深く、かつ水流も速い。

エンドールの北側の峻険な山岳地帯から北側へと向かった急流はボンモールの城のすぐ南側を大きく抉り取るように急角度に流れを変えて南方に向かい、やがてはエンドールの南西にある河口から海へと注いでいる。

橋から水面までの高低差も考えると、仮に飛び込んで向こう岸まで泳いだとしても、その後どうやって向こう側まで這い上がるのかと考えるだけで眩暈がしそう。

 

「この突洲(とっす)の先端から向こう岸までルーラで飛ぶ」

「ブライ、出来る?」

「出来るかどうかという問いであれば、可能ではありますな。わざわざこのような短距離をルーラで飛ぶなど、はっきり言って魔力の無駄遣いではありますが」

 

そこで頷いたバルザックは、そこで私を差し招いた。

 

「マーニャ」

「え?」

「ルーラだ。やってみろ」

「ちょっ…」

 

いきなりのご指名だ。目を丸くする私に構わず、バルザックは言った。

 

「自信がないなら、まずは自分一人か、ミネアか俺を連れて向こう岸まで飛ぶイメージでやってみろ。失敗してもブライの爺様がいるからボンモールまで行くだけなら問題ない。だが、お前もルーラを使えるようになりたいのなら、ここで練習すればいい。もし魔物が出てきても、さっきみたいにアリーナ姫たちに任せられるから大丈夫だ」

「で、でも、もし落ちたら……」

「お前らしくも無いな。試してみる前からもう失敗した時の心配とは」

 

からかわれて思わずカッとなる。

 

「バルザック、遊びじゃないのよ!?」

「わかったわかった。なら、そういう時に備えて()()を用意してある」

 

荷物袋から取り出されたものを見て思わず目を丸くしてしまう。

 

「それ、キメラの翼じゃない! 一体いつの間に……」

「囀りの塔の宝箱から、ちょっとな。……ああ、もちろんサントハイム王には報告して許可ももらってる。緊急時のための避難用としてな」

 

そんな貴重なものを私の失敗の尻拭いに使わせていいわけがないじゃない。ますます尻込みしたくなる私の背中を(ミネア)が押す。

 

「姉さん、ほら」

「ミ、ミネア?」

「ルーラが使えるようになれば、コーミズ村やモンバーバラの街の様子だって見に行けるかもしれないって言ってたのは姉さんじゃない。わざわざバルザックがここまでお膳立てしてくれたのよ?」

 

グイグイと前に押し出された私の手をバルザックが取る。

 

「大丈夫だ。川に落ちたらサランの街の先生のところに戻って、慰めてもらえばいい」

「なっ……」

「昔、コーミズ村で思い通りに踊れなくて癇癪を起こした時は先生に泣きついてただろう?」

「な、何年前の話をしてるのよ!?」

 

思い出したくもない恥ずかしい過去を今さらのように掘り返されて思わず頭に血が上る。

 

「見てらっしゃい! このぐらい一発で成功してみせるんだから!!」

 

勢いのままに口走ってしまって、それでもう後には引けなくなってしまった。向こう側の岸を睨む。でも、視界の下では轟々と音を立てて流れている急流を意識してしまう。もし、失敗したら。もし、落ちたら。そんな風にイヤな想像ばかりが頭の中をグルグルと回る。

 

「おい、マーニャ」

「な、何よ」

 

バルザックが手を優しく握ってくれる。いつの間にか手汗でびっしょりと濡れてしまっている私の手を。

 

「俺は今も踊りが下手なままだぞ」

「え?」

「いつだったか、言ってただろう。お前との約束を破った時の罰を。確か、()()()()()()()()()()()()だったか?」

「……」

「だから、未だに下手くそのままの俺はお前にリードしてもらわないと踊れやしない。ステップの一つも踏み出せないままだ」

 

だから、ほら、早くしろ、と。

妙に偉そうに。こんな時だというのに。足が竦んでしまっている私に向かって。

 

「ねえ、バルザック」

「なんだ」

「……。ううん。やっぱり、なんでもない」

 

ふと胸に芽を出してしまったモノから目を逸らすように、私は首を横に振った。

 

「マーニャ、頑張って!」

「姉さん、しっかり!」

 

見守ってくれている友達(アリーナ)(ミネア)に向かって軽く手を振ってから、私は深く息を吸って、吐いた。

 

「ルーラ!」




吊り橋効果って別に橋の上じゃなくても発生する場合があるそうですね。
なお、今回の短距離ルーラはダイ大のトベルーラのイメージです。
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