でもトルネコ絡みのイベントってルーラ(キメラの翼)さえあれば手っ取り早く終わるお使いイベントが多いんですよね。ぶっちゃけRTAでも一切戦闘せずにレベル1で3章クリアできちゃうし。
なので山場とか作れそうにないなと思ってトルネコ絡みのイベントはなるべく簡潔に済ませます。
レイクナバの武器屋は小さい。いや、レイクナバの街にある防具屋や道具屋に比べて、武器屋だけが殊更に小さいという意味ではない。単純に、品揃えも豊富とは言えず、訪れる客の数も少ないというだけの話だ。
世界中の珍しい武器を広い店の中に所狭しと並べ、それを見に来た客の子供たちが目を輝かせる。この武器を作ったのはどういう職人で、どうやって使うものなのだろうと思いを馳せる。かつて、こんな英雄がこの武器を手にして恐ろしい怪物に立ち向かったという逸話を聞いて感動し、いつの日か自分もそんな英雄になりたいと夢を見る。
そんな武器屋で働いてみたい。いつの日か、そんな武器屋を自分で開きたい。そう思い続けてきた。とはいえ、現実は残酷だ。子供だった自分はいつしか大人になり、歳も取った。もう若いとは言えない。夢が色褪せることは決してないが、今や養うべき妻も子もいる。それを投げ捨てることは出来ない。
「……おや」
カウンターの奥に座って、そんな風にぼんやりと物思いに耽っていると、ふと店の隅に埃が溜まっていることに気が付く。毎日毎朝ちゃんと掃除しているはずなのに。
今日も朝からバイトの店番をしてはいるが、来店してくれたのは冷やかしの客が二人だけ。1ゴールドの売り上げもない。店の親方は言葉や態度こそぶっきらぼうだが、親切で優しい。まだ息子が赤ん坊だった頃に急に熱を出した時など、早く熱さましの薬を買いに行けと小銭を握らせて道具屋まで送り出してくれた。
できれば珍しい武器の一つも仕入れて驚かせ、そして喜ばせてあげたい。まあ、そんな珍しい武器を持った客が訪れること自体が十日に一度あるかどうかなのだが。
「次の客が来る前に掃除くらいはしておきますか」
若い頃に比べると、どうにも肉がついてしまった腹を揺らしながら立ち上がり、箒を手にしてカウンターから外に回り込む。軽く埃を掃いていると、店の扉に取り付けられた鈴が揺れる。
「いらっしゃいませ。ようこそレイクナバの武器屋へ」
驚いたことに、訪れた客は一人ではなかった。少女が3人。少年が一人。青年と老人が一人ずつ。全部で6人の大所帯だ。3人の少女たちのうち、二人は姉妹なのか肌の色も髪の色も同じで、顔立ちもよく似ていた。だが、他の4人はまるで似たところがない。これは一体どういう一行なのかと内心で首を傾げる。
「失礼しました。少し掃除をしておりましたので」
とはいえ、客は客だ。急いでカウンターの奥へと戻り、椅子に腰かける。
「今日はどのような御用でしょう?」
にこやかに呼びかける。一行の中で誰が出てくるのかと思いきや、カウンターに近づいてきたのは青いとんがり帽子を頭に乗せた少女だった。
「――…あの。これを売りに来たんだけど」
「おおっ、これは……!」
少女がローブ姿の青年から受け取ってカウンターの上に乗せた品を見た自分の目が丸くなるのがわかる。
「正義の算盤ですな。この辺りでは滅多に見ない珍しい武器です。かのエンドールの武器屋では売っているらしいのですが、最近はエンドールからいらっしゃるお客さんの数がめっきり減っていまして」
そのために仕入れる機会そのものが少なくなってしまっている品だ。頭の中で算盤を素早く弾く。
「売値でしたら1600ゴールドですが、下取り価格としては1200ゴールドになります」
下取り価格は売る時の値段の4分の3というのは、基本的に世界中のどこの武器屋でも同じである。ここだけが不当に安い値段というわけではない。
「ううん、もっと安くてもいい」
「はい?」
もっと高く買ってくれ、あるいは安く売ってくれという客ならば珍しくない。だが、安く買ってくれと自分から言ってくる客は生まれて初めて見た。思わず問い返してしまう。
「ボクは、この店に売りに来たわけじゃないんだ。
思わず背後の階段を窺ってしまう。親方の部屋は地下への階段を降りてから扉を開けないと入れないから、ここでの会話が筒抜けになることはないが、ただの雇われ店員が店番の仕事中に、しかも店とは別に勝手に個人で売買をして良いかといえば全く別の話だろう。
「どういう意味でしょうか。自分はただの店員なのですが」
少女の後ろにいる老人と青年に目を向ける。これは何かの悪戯だろうかとも思う。わざわざ珍しい武器を餌にして、何か怪しい取引に自分を巻き込むつもりなのかとさえ疑った。
だが、青年も老人も動かない。黙って青いとんがり帽子の少女の背中を見ている。
「……。もうすぐ、」
口を開いた少女は、一度そこで言葉を切って唇を噛む。言葉に迷い、カウンターの上に置いた
「もうすぐ、戦争が始まろうとしてる」
「は?」
「戦争になれば、武器はいっぱい売れる。たくさん武器が売れれば、それだけ武器屋は儲かる。…そうでしょ?」
少女の声は震えていた。冗談や冷やかしで言っているようには見えなかった。自分も居住まいを正し、精一杯に背筋を伸ばした。
「まあ、そうですな。一般論で言えば、その通りでしょう」
「だけど、ボクはそれを止めたい。本当は、ボクの国とは関係ないことかもしれないけど。もしかしたら勝手に戦争を始めるのを黙って見ていた方が、ボクの国にとっては良いのかもしれないけど。でも、やっぱり人が死ぬのはイヤだ。それを止められるのであれば、止めたいんだ」
「……」
「でも。だけど。ボクが戦争を止めたら、そのせいで誰かが損をするかもしれない。ううん、違う。間違いなく損をする人は出る。戦争のためにたくさんの武器を作っていた人、たくさんの武器を仕入れていた人、売れるはずの武器が売れなかったことで大損をする人もいる」
少女は静かに語る。それに聞き入る自分は感心する。この年で、これほどのことを考えられるのは大したものだ。もしかしたら半分ほどは誰かの受け売りかもしれないが、残りの半分はきちんと自分の頭で考えて、自分の中で必死に嚙み砕いて己が血肉に変えようとしている。賢くて、素直で、そして強い。自分の息子も、こんな風に育って行って欲しいと思う。
「このレイクナバもボンモールの街だから、戦争になれば巻き込まれる人も出るかもしれない。この街で生まれたけど、今はお城の兵隊になった人だっているかもしれない。もしその人が死ねば、その家族の人はきっと悲しむと思う」
トム爺さんの息子は、ボンモールのお城に行ったきり戻ってきてはいない。今頃どうしているだろうか。元気にしているだろうか。もし息子が死んだとしたら、トム爺さんはどんなに嘆くことだろう。
「お金が大事なのはボクにもわかる。商人が損をするのを嫌うのもわかる。でも…でも! ボクは、それでも、やっぱり戦争になって欲しくない。そんなことになったら、きっとボクの友達は泣いてしまうと思うから」
カウンターの上に乗せた
「1ゴールドでもいい。何ならタダでもいい。それで、この戦争で損をさせることになる穴埋めにはならないかもしれないけど。足りない分は、いつか必ずボクが返すから。だから、ボクに手を貸して欲しいんだ」
それっきり、少女は黙った。自分は静かに沈思する。
本当に戦争が起きるのか? もし戦争が起きるとして、それで自分に何が出来るのか? この少女は何者なのか? 幾つもの疑問が浮かんでは消える。
だが、最後に残ったのは天秤の左右の皿に乗せるものだけだ。片方には、言うまでもなく利益がある。そして、もう一方には――。
「商人には、こういうことわざがあります。『タダより高い物はない』とね」
正義の算盤を握っていた少女の手に、自分の手を乗せる。小さく震えていた手を握る。
「これほどの品をタダで譲っていただけるのなら、それは将来の自分が被るかもしれない損を埋め合わせてもなお余りあるほどの御恩です。何よりも、それほど自分を高く買って下さる方に初めてお会いしました」
身の丈に合わない野放図な夢を見ていた。だが、その夢を実現するために必要な一歩を踏み出す勇気がないまま、今の今まで燻ぶり続けてきた。
「わたしなどに何が出来るかわかりませんが、このトルネコの手でよろしければ幾らでもお貸ししますとも。さあ、一緒に平和を買い付けに参りましょう。わたしの小さな財布から出せるお値段だと良いのですがね」
すると、ずっと見守っていたローブ姿の青年は口を開いた。
「商談成立だな。……よくやった、アリーナ姫」
アリーナ……姫?