ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第三部開始時点:第二部終了から1年後(第一部開始時点からは7年後)
現在の年齢:アリーナが13歳、クリフトが16歳、マーニャが14歳、ミネアが12歳、オーリンが32歳、バルザックが30歳

日間加点総合ランキング28位(同二次18位)という信じられないところに本作が入って驚愕しております。
起き抜けに見て、思わず顔を洗ってから二度見しました((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル



第一章:ブランカ動乱
第一話:放浪の戦士


「らっしゃいらっしゃい! 焼き立ての串焼きはいかがかね!?」

「エンドールの土産にするならモニカ姫とリック王子の顔を刻んだ記念の硬貨だ! こいつを見せりゃ外国でも自慢できるぞ!」

「樽を開けたばかりの麦酒が入ったよー!? 今年の麦酒はさっぱりとした飲み口で喉越しもスッキリ! さあ、まずは一杯飲んでってくれ!」

 

エンドールの大通りは、かつて訪れた時よりもさらに賑わっていた。まだ養父が存命だった頃。もう7年か、あるいは8年近くにもなるだろうか。あの旅は自分にとっても実り多きものであったし、帰国したら病床にあった養父にも様々な土産話が出来た。

特にキングレオの高名な錬金術師から譲ってもらっていた薬湯のおかげで、養父の病状は一時的にでも持ち直したのだ。だが、自分が持ち帰れた量にも限りがあった。薬湯が切れてしまうと、再び養父は病が篤くなり、徐々に衰弱していった。とはいえ、最期は安らかに迎えられたのはせめてもの慰めか。

 

「よぉ、そこの戦士さん! 今夜の宿は決まってるかい!?」

「む。……自分のことか?」

「そうとも! おおっ、近くで見るとすっげぇいい体してんなぁ、あんた! ここのところエンドールは大賑わい! 何処の宿も満員御礼! 早めに決めちまわねぇと今夜は野宿になっちまうぜ!?」

「そうか。ご教授に感謝する。とはいえ、自分は野宿にも慣れている」

 

その答えに、声をかけてきた男は何が面白いのか大笑いをした。

 

「ぷっ……はっはっはっ、面白いなぁ、あんた! わざわざエンドールまでやってきて、自分から野宿をしようだなんて物好きにもほどがある!」

「いや、そういうつもりではないが」

「だったらなんだ? もしかして路銀が心もとないとか、そういうことか!? だったら色々と仕事もあるぜ!? ブランカへの洞窟がとうとう開通してよ! 東へ向かう隊商の護衛とか、腕の立つ戦士を欲しがる連中は幾らでもいる!」

「ほう?」

 

初めて耳にする話に興味をそそられる。

 

「ブランカへの洞窟、と? それは一体?」

「知らねえのか、あんた!? 北のボンモールとの戦争を開戦直前で食い止めたサントハイムのお姫様とも懇意にしてるって噂の、今や押しも押されぬ大商人トルネコが大金を注ぎ込んで掘らせたって話の洞窟さ! こいつのおかげで東のブランカとも自由に行き来できるようになったんで、今やエンドールはこれまでになく大賑わい!」

 

辺りを憚らぬ男の大声を聞きつけて、道行く人も軽く腕を突き上げる。

 

「おー! トルネコ様々だ!」

「俺ぁ今日もネネさんに会いに行くぞー!」

「トルネコに乾杯だ!」

 

よくはわからないが、このエンドールにおいても有名人のようだ。そのトルネコという男は。

 

「あんたも試しにトルネコの店に行ってみたらどうだい!? この通りを真っ直ぐ行って、教会の真向かいだ! トルネコがいない時は美人の奥さんが店番をしてる! ネネさんの笑顔に癒されてぇって野郎はエンドールにも腐るほどいるからよぉ、一見の価値はあるぜ!?」

「そうか。では、試しに足を運んでみるとしよう。感謝する」

「いいってことよ! じゃあな!!――おっ、そこの兄さん、今夜の宿は決まってるかい!?」

 

気の良い男は、軽く手を挙げて離れて行った。そしてまた、すぐに別の旅行者に声をかけている。どうやら宿の客引きだったようだ。もし今夜の宿が見つからぬ時は、あの男に声をかけてみるのも良いか。

言われるがままに大通りの人込みの中を歩いていくと、立派な教会と通りを挟んで反対側に2階建ての建物が見えた。他の建物よりも古びているようには見えない。いや、頑丈そうな石造りの外壁には丁寧にペンキが塗られ、まだ真新しい印象の『武器屋トルネコの店』と大書された看板も掲げられている。

 

「いらっしゃいませ」

 

中に入ると、嫋やかそうな印象の女性が迎えてくれた。だが、こちらを見る笑顔には強い芯が通ってもいるようだ。どことなくバトランドのフレア夫人を思い出す。

 

「まあ、スコットさんにも負けないくらいご立派な体をされていらっしゃいますのね。きっと名のある戦士様とお見受けしました」

 

店内には武器のみならず、防具や道具も陳列されていた。どれもこれも埃一つ被っておらず、よく管理されている。奥のカウンターにいる女性は自分を見るなり、一つ頷く。

 

「大変ご立派な武器はお持ちのようですが、鎧の方が少々くたびれてきていらっしゃる様子」

 

腰の破邪の剣の手入れは欠かしていないが、長旅で鉄の鎧がやや摩耗してきているのは事実だった。一目でそれを見通すとは。

 

「新しい鉄の鎧を買い直されるでも良いかもしれませんが、どうせならもっと良い装備に買い替えなさった方が良いでしょうね。困りました、もし主人がいれば刃の鎧やはぐれメタル鎧でも仕入れてきてくれるでしょうに」

 

頬に手を当てて物憂げな吐息を漏らす女性は、こちらの事情に親身になってお勧めの品を選んでくれるようだ。これは確かに店が繫盛するのも理解できるというものだ。

 

「む、お気遣いいただき(かたじけな)い」

「いえ、こちらこそお客様に相応しい装備を見繕えずにお恥ずかしい限りです。鉄の鎧や鉄の盾ならばエンドールの他の防具の店でも揃えられるでしょう。せっかく当店に足を運んでいただいたお客様なのですから、それ相応の装備をご紹介するべきですのに」

 

刃の鎧やはぐれメタル鎧などと、いまだかつて聞いたことも無い装備に興味を大変そそられるのも事実だが、現物がないものを欲しがっても仕方ない。

 

「いや、どうかお気になさるな。たかが飛び込みの一見(いちげん)の客、ただの冷やかしと思っていただければ良い」

「そうですか? では、鎧ではございませんが、こういうのは如何でしょう?」

 

女性がカウンターの上に乗せたものに目を向ける。

 

「鉄仮面、と申します。兜の一種です。頭部のみならず顔から首回りまで防いでくれる優れもので、戦士の方には自信をもっておすすめできますわ」

「ほう?」

 

女性に目で確認してから、手に取らせてもらう。ずっしりとした重さ。だが、なるほど、確かにこれは堅牢で丈夫そうだ。

 

「ふむ。やや視界に難があるか」

「はい。それから人によっては呼吸がしづらい、首を回しづらいと言われる方も」

「なるほど」

 

長所のみならず、はっきりと短所も言ってもらえるのは実にありがたい。

 

「良い装備だ。しかし、一人旅の自分には周りが見えにくくなるというのは、少々。他にも仲間がいれば、また話は違うのだろうが」

「ああ、確かにそうですわね。失礼いたしました」

「いやいや、これはなかなかの逸品であろう。――…ちなみに、お値段はいかほどだろうか?」

 

興味本位で訊いてみた自分に、女性はニッコリと笑顔で答えた。

 

「そうですわね……7000ゴールド、と申し上げたいところですけれども」

「!?」

「戦士様には今後もごひいきにしていただきたいところですし、6000ゴールドでいかがでしょう?」

「う、ううむ……」

 

兜一つで、鉄の鎧の5倍だ。正直なところ、自分の懐具合からするとかなり厳しい出費と言える。

 

「今でしたら、私が作ったこちらのお弁当もおつけします。その上で、5800…いえ、5500ゴールドまでお値引きいたします」

 

鉄仮面の隣に置かれたのは、実に美味そうなお弁当だ。そして自分の顔色を見ながら小刻みに値段を下げていく。それくらいなら何とか出せなくも無い、か?などと考えが購入の方向に自然と傾いてしまうのだ。何と恐ろしい、そして魅惑的な笑顔と話術だろうか。かのフレア夫人の()()()()もかくや、とさえ思える。

 

「い、いや、誠に相すまぬが、やはり自分の財布では買えるものではなかったようだ。今日のところは、これで」

 

手で顔を覆い、目の前の鉄仮面と女性の笑顔を視界から隠す。そうでもしないと引き込まれてしまいそうだった。

 

「そうですか。残念ですが、またのご来店をお待ちしております。次はもっと良い鎧も仕入れるよう主人に伝えておきますね」

「うむ、かたじけない。それでは御免」

 

無礼とは承知しているが、手で顔を覆ったまま店を出る。再び大通りの喧騒に戻ると、なんと額に薄く冷や汗さえ滲んでいることを知った。美しい女性(にょしょう)というものは、下手な魔物などよりも遥かに恐ろしいものだ。

これ以上は散策を続けるような気分にもなれず、早めに宿をとって休もうと考えた。

 

「いらっしゃい! 一人旅かい、戦士さん」

「うむ。部屋は空いているだろうか」

「運がいいねえ! ちょうど最後の一部屋が空いてるよ。一泊6ゴールドだ。泊まっていくかい?」

「頼む」

 

かつて泊まったことのある宿が今も営業していて、しかも部屋の空きがあったことは運が良かった。

 

「そういえば戦士さん、悪いが今は地下のカジノは休業中で、やってるのは奥の酒場だけなんだ。すまねえな」

「いや、それは構わぬが。何かあったか?」

「あー、王様からのお達しでよ。ちょうど今、モニカ姫とボンモールのリック王子が結婚するってんで国中がお祝いして大賑わいなわけだ。…で、だ。そんな風に気分が良いと、ついついハメを外して賭け事に熱中して身を持ち崩すヤツだって出てくるだろ?」

「ふむ、道理ではあるな」

「国中がモニカ姫の結婚式をお祝いしようって時に有り金を全部スッて道ばたで大泣きしてるような大馬鹿野郎が出たら、せっかくの慶事に水を差すようなもんじゃねえか、ってことでな。あとは結婚式に外国からも王様が来るってんで、怪しい風体の連中がカジノに入り浸るのも避けてぇってところか?」

 

なるほど、と納得する。これほど城下が賑わっているのだ。賊の一人や二人が人込みに紛れていても気付きにくい。兵士が巡回していても限度がある。

 

「まあ、こっちもこっちでその間に闘技場に出す新しい魔物を手配したり、古くなってガタが来てるスロットマシンを修理に出したりと色々と手を入れてるところさ。そんなわけで、新装開店の時は思いっ切り派手に遊んでってくれよな!」

 

鉄の鎧の肩をバンバンと叩いて大笑する宿の主人は、こんな時でも抜かりなく次の手を打っているようだ。実に商売上手なことである。

 

「それによ、こういう時だからこそ商売の種にしちまうような聡い連中がいてよ。闘技場が空いてるんなら、そこを『舞台』にして芸を披露したいって言うのさ。かのサントハイムのお姫様、アリーナ第一王女殿下の手に汗握る大冒険を演じる旅芸人の一座に、遠くモンバーバラの劇場でも踊ってたって踊り子も出るって言うんで、今やカジノは地下劇場に早変わり!」

 

宿の主人が指さす地下への階段には、活発そうな笑顔の少女を描いた絵と、肌も露わな踊り子の衣装を纏った少女の姿絵が並んで飾られている。

 

「劇場の入場料は一人10ゴールドだが、うちの宿に泊まってる客は半額の5ゴールドで見れる。いやぁ、本当に運が良かったな」

 

まだ自分は見るとは一言も言っていないのだが、カウンターの上に積まれていたチラシの一枚を自分の手に押し付けると宿の主人は部屋の鍵を渡してきた。

部屋に入り、備え付けのテーブルにチラシを置く。まずは重い鎧を外して一息つくと、チラシに書かれた演目を軽く流し読む。

 

「何々……『第一幕:サントハイムのお転婆姫アリーナ、テンペの村に巣食う魔物を退治する!』……ふむ?」

 

我が祖国(バトランド)も戦士の国などと呼ばれたりはしているが、幾ら屈強な王宮戦士を揃えているからと言って国王が自ら魔物を相手に剣を振るって大立ち回りなどするはずもない。

そもそも、王たる者が何故そんな危険を冒す必要があるのか。魔物を討伐するのは戦士の役目である。サントハイムのお国柄がどうあれ、まさか本当にそのようなことがあるはずもないが……。

 

「ううむ……『第二幕:サントハイムのアリーナ姫、魔物を裏で操っていた悪の大臣を成敗する!』……ほう?」

 

なるほど。実は魔物を操っていた黒幕がいて、それを突き止めたのか。お見事というべきだ。きっと民のことを心から想う立派な姫君なのだろう。

このような劇を演じる旅芸人がバトランドにまで訪れてくれることなど滅多にない。できれば亡き養父にも見せてやりたかった。

 

「……そういえば。宿の主人は、モンバーバラの踊り子も出ると言っていたな」

 

昔、キングレオの小さな村で精一杯に踊りを見せてくれた小さな幼女を思い出す。いつかバトランドにも来て欲しいと言った覚えがある。元気にしているだろうか。

あの後はモンバーバラの劇場にも足を運んだが、やはり自分には踊りの善し悪しが未だによくわからない。だが、あの村で見せてもらった拙いながらも精一杯の踊りの方が、モンバーバラの劇場で見たものよりも心に残っている。

 

「入場料は5ゴールド、であったか。カジノで散財するよりはまだしも有意義かもしれぬな」

 

賭け事に金を費やす趣味はないが、外国の勇敢な姫君の武勇伝を劇で知れるというのは面白そうだ。それに、あの小さな踊り子が今はどうなったかに想いを馳せながら踊りを鑑賞するのも悪いものではないだろう。

外した鎧を磨くのは後にして、腰に剣だけを提げ、部屋を出て扉に鍵をかける。一階に下りると、地下への階段の前には行列が出来ていた。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、楽しみじゃのう。若い女子(おなご)の踊りを見ると寿命が10年は伸びるわい」

「怖いおっかぁを何とか言いくるめて出て来たぜ。ああ、マーニャちゃん……」

「ったく、男どもと来たら本当にどうしようもないね。あたしゃアリーナちゃんを応援するよ。あの明るい声を聞くと元気が出るのさ」

「ねーねー、おかーさん。ありーなひめさまはまだー?」

 

老若男女を問わず、皺深い老人から舌足らずな幼児まで口々に楽しげに話し合っている。何とも平和で心温まる光景だ。

自分も列の最後尾に並び、順番に地下への階段を降りていく。ガヤガヤと客同士で話し合いながら階段を降りた先には小さな台が置かれ、そこで入場料を支払っていた。

 

「入場料は一人10ゴールドだ。上の宿に泊まっているなら鍵を見せてくれれば5ゴールド」

「部屋の鍵か。…これで良いか?」

「ああ。じゃあ、5ゴールドだな。……って、」

 

目深にフードを被っていたローブ姿の青年は、何故か自分の顔を見て驚いていた。

 

「……。ああ、そうか。もうエンドールにまで来ていたのか。バトランドの王宮戦士、ライアン」

 

フードを外し、艶の無い灰褐色の長髪と薄い琥珀色の瞳を露わにした青年の顔はどこか見覚えがあった。

 

「バルザックだ。以前キングレオのコーミズ村で、エドガン先生と共に挨拶をさせてもらったことがある」

「なんと、これは驚いた。あの時のお弟子殿か。エドガン殿はご健在か」

「正直、あまり良くはない。あれから色々とあってな。先生は、今はサントハイムのサランの街にいる」

 

思わぬ場所での再会に驚く自分は、しかし残念ながらあまり長話をしてはいられなかった。自分の後ろから次の客が降りてきたからだ。

 

「出し物が終わったら、また改めて話そう。マーニャにはライアンが見に来ていると伝えておく。昔、コーミズ村で披露した時とは別人のようになっているはずだ」

「マーニャ……まさか、あの時の幼子が?」

「そうさ。あれからもずっと踊りの練習は欠かしていない。最近は特に()()()()()()()()()()()と意気込んでる。今ならモンバーバラの大劇場でも通用するんじゃないかってぐらいの気合いの入れようだ。あの時と比べての上達ぶりを見た感想を、是非とも伝えてやって欲しい」




以前にとある感想の返信欄でも書きましたが、ここで改めて。
読者の皆様、本作のタグを今一度ご確認ください。『原作改変』および『原作キャラ生存』です。
ご了承のほど、どうかよろしくお願いいたします。
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