ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第二話:サントハイム王宮

「陛下、こちらでございます」

「うむ」

 

先導する侍従が扉を開けてサントハイム王が入室した一室では、かなりの人間が既に着席していた。王が座るべき上座に近いところでは第一王女アリーナと、その補佐役クリフトとブライ。

そこから少し離れてアリーナの友人枠としてマーニャとミネア。またサントハイムと資金面で近しい関係を築いている商人トルネコも席に着いている。

 

「父上!」

「いや、そのままで良い。今日は、余は聞き手に回るべきところだ。無駄な儀礼は不要」

 

一斉に椅子から立ち上がろうとする出席者たちを手で制し、サントハイム王がどっかと腰を下ろす。

 

「揃っておるか?」

「うんっ。でも、まずは最初に父上にも紹介しておきたい人がいるんだ。ライアン、こっちに来て!」

 

壁際で立ったままバルザックと話し込んでいた戦士が王の前に進み出てくる。

精悍に日焼けした肌と鍛え上げられた肉体。厳めしい顔立ちに黒々とした髭は一目で只者ではないと見る者に思わせるだけの風格がある。

 

「お初にお目にかかる。自分はバトランドの王宮戦士ライアン。サントハイム王に拝謁する栄誉を賜り、恐悦至極」

「昔エドガンと会ったことがあって、その縁でバルザックやオーリン、マーニャとミネアとも知り合いなんだって。()()を探して旅をしていたところをエンドールでバルザックと再会して、それでマーニャと一緒に連れてきてもらったんだ。すっごく強そうだよね。ボクも勝てないかも。こんな時じゃなかったら手合わせをお願いしたいところなのに」

 

余計な一言を口にする(アリーナ)をチラッと横目で見てからサントハイム王はライアンに向き直る。

 

「そうであったか。武名も高きバトランドの王宮戦士と言えば余も話に聞いている。若き日の武者修行をしていた頃であれば、一手ご指南を、とでも言っていたところだが。残念ながら今日はそうも言っていられぬ。またいずれ、機会を改めて旅の間の武勇伝などを聞かせて欲しい」

「はっ」

 

実は似た者同士のサントハイム王と王女の親子から距離を置くように引き下がったライアンは再び壁際に戻る。侍従が席を勧めたが、新参かつ外様の自分が着座するには及ばずと辞退する。

 

「それじゃ、本題に入るよ。はい、作戦立案役のバルザック! さっさと始めちゃって!」

 

テキパキと話を仕切るアリーナの成長ぶりにサントハイム王とブライが目を細め、クリフトが思わずその凛々しい横顔に見蕩れる中、ライアンに代わって前に進み出たローブ姿の青年は淡々とした声で爆弾を投げ込んだ。

 

「では、作戦についてだが。その前にまず、この場の全員にはっきりと言っておく。――…これは、紛れもなく()()になる」

 

部屋の空気が一瞬で引き締まり、まるで誰かがヒャダインの魔法を唱えたかのように一気に冷え込む。

 

「魔物と、そして魔物を率いる者との、個人ないし少人数の()()の規模じゃない。数千や数万という軍の単位でこそないかもしれないが、一つの村を丸ごと戦場にする()()だ。そして、これは同時に人間と魔物の本格的な()()の嚆矢ともなる。これまでのような日常的な小競り合いではなく、下手をすれば人間という種族そのものの生存を懸けた長い長い戦争の始まりともなるだろう。そのことを、念頭に置いて欲しい」

 

誰かが小さく喉を鳴らした。

 

「戦場となるのはブランカの山奥にある小さな村だ。人里からは遠く離れており、一種の隠れ里のようなものだ。だから無関係の人間を巻き込む心配はない。作戦目標は()()の保護。当然、敵が狙ってくるのも勇者の首一つだ。最終的に勇者の生死が勝敗を決めることになる」

 

侍従が掲示した地図を見たライアンが思わず低く唸った。険しい高山によって隔てられているとはいえ、その隠れ里はバトランドの城からもさほど離れてはいなかった。長らく自分が探し続けていた勇者は、実は自分の故郷のすぐ近くにいたのだ。かのイムルの村から子供を連れ去っていた魔物の狙いも、そう的外れなものではなかったのだ。

 

「だから、というわけじゃないが。残酷なことを言えば村人を見殺しにしてでも勇者の保護を最優先にする、という手も考えられる。抵抗する村人が全滅したところで、手傷を負って弱った魔物を背後もしくは横合いから殴りつける。そうすれば、正面から戦うよりはこちらの被害は少なく済む」

 

バルザックは室内を見回した。誰も頷かない。むしろ冷ややかな目ばかりが返ってくる。

 

「いい加減にしなさいよ、バルザックは。なんで、そう、いつもいつも悪役ぶって酷いことを言うわけ?」

「オーリンからも、バルザックのそういうところを何とかしろと頼まれてるのよ? 次にそんなことを言ったらラリホーで眠らせてから顔に悪戯書きをしてあげようかしら」

 

マーニャとミネアの口撃に軽く両手を挙げて降伏して見せると、バルザックは素早く前言撤回した。

 

「悪かった。俺としても、そんな風に勇者の心に傷を残すようなことはしたくない。可能な限り村人も救い出したいところだ。――…ただ、敵の戦力もおそらく精鋭と思われる。厳しい戦いにはなるだろう」

 

そこで小さく息を吐く。

 

「前衛はライアン。そしてアリーナ姫。クリフトにもアリーナ姫の盾役として前に並んでもらう」

「承った」

「うんっ」

「姫様の為ならば喜んで」

「中衛はマーニャとミネア。特にミネアは前衛が崩れた場合、戦線の穴埋めとして前に出てもらうことになる」

「任せて」

「わかったわ」

「後衛はブライと俺。そしてトルネコが補給係兼道具で援護する構えとなる。本来であれば戦場に出るべきではないトルネコの護衛として、用心棒のスコットとロレンスもエンドールで雇い入れる予定だ」

「承知した」

「わたしに出来ることであれば、可能な限り協力はいたします」

 

陣立てを発表したところで、改めてサントハイム王に目を向ける。

 

「ブランカ側には何と?」

リック王子(ボンモール)モニカ姫(エンドール)の婚儀のため、(アリーナ)がサントハイムの儀仗兵を引き連れてブランカに赴く、という形式は整えておる。表向きは余の親書を携え、婚儀への招待状を手渡すために。当事国である両国は婚儀の準備で多忙であり、またサントハイムの王族が自ら招待状を届けに来ることでブランカを重視する姿勢を示す、といったところか」

「まあ、その辺の面倒なことは全部メイたちに任せる(押し付ける)んだけどね!」

 

そのために王族としての礼儀作法や外交用の挨拶を叩きこまれている旅芸人の三人が涙目になっていることや、それを教える側のサントハイムの教師陣が内心で『姫様のように頻繁に逃げ出そうとしないだけ教えやすい』と思っていることは当のアリーナが知る由もない。

 

「洞窟を抜けたところでブランカ城へと向かうメイたちとは別れ、俺たちは北上する。木こりの家の近くで小休止を挟み、山奥に入る。村が襲われる前に到着できればそれが一番だ。その場合は村の中には入れてもらえないかもしれないが、トルネコの話術で勇者の身を守るための装備を村人たちに贈ることにしよう」

「戦闘にならないのであれば、それが一番ですとも。わたしの出番ですな」

 

ここまでは、話が上手くいった場合の想定である。バルザックは最悪の想定も口にする。

 

「もし村が既に全滅している場合、勇者の身柄の捜索を優先する。村人の遺骸を埋葬して弔うのはクリフトが中心になって行う」

「……はい」

「あるいは、既に村が戦場となっている場合。そして、俺たちが加勢しても敗色が濃厚で勝利が難しい場合。まず優先するのは勇者の保護であることは変わらない。トルネコに持たせたキメラの翼で護衛役のスコットとロレンスと共に勇者を逃がす。行先はフレノールの街だ」

 

アリーナが手を挙げる。

 

「どうしてここ(サントハイム城)やエンドールじゃないの?」

「今のエンドールは賑わっていて、人目につかない場所などない。そんなところにボロボロの勇者を連れ込めばすぐに大騒ぎになる。サントハイム城はキングレオの謀略を何度も防ぎ、今やエンドールとボンモールの戦争を止めた有名人のアリーナ姫の本拠だ。俺が魔物を操る側の立場なら間違いなく監視の目をつけている」

「いや、それって全部バルザックが……」

「ああ、一つ言い間違えた。()有名人のアリーナ姫の本拠だったな」

「違う! そこじゃない!」

 

歯を剥いて立ち上がったアリーナをクリフトが懸命に宥め、バルザックは素知らぬふりで話を続ける。

 

「フレノールの街とは海を挟んで反対側のレイクナバの街も考えたが、やはり有名人になったトルネコの故郷でもあり、真っ先に逃げ込む候補として敵に疑われる恐れもある。その点、フレノールの街はエンドールからもサントハイムの城からもほぼ等距離で離れている。ひとまずの避難先として敵の目につきにくく、予想されにくい場所を選んだだけだ」

 

頬を膨らませながら自分を睨みつけているアリーナから目を逸らし、荷物袋から取り出したキメラの翼をトルネコに渡す。

 

「ルーラ要員のブライの爺様には前衛のライアンとアリーナ姫とクリフトを逃がすタイミングを見誤らぬようにお願いする。敵の目を散らすという意味で、その場合はサントハイム城に逃げ込んでもらっても構わない」

「それは構わぬが。おぬしはどうする?」

「俺はミネアと一緒にマーニャのルーラで逃げるから、心配は要らない。最悪それこそモンバーバラの街に逃げてもいいしな」

 

冗談半分、本気半分の口調で答えたバルザックは、二人の姉妹に軽く目配せをした。マーニャとミネアは小首を傾げつつも揃って頷きを返す。

 

「出発は三日後の朝。トルネコはクリフトと協力して物資の確保を。メイたちがアリーナ姫と間違われて襲われる可能性もあるから、念のために身躱しの服ぐらいは渡してやってくれ」

「わかりました」

「ライアンは刃の鎧かはぐれメタル鎧を鉄仮面と共に装備して、アリーナ姫と手合わせの相手を頼む。少しでも装備に慣れて、ついでにアリーナ姫の腕も上げておきたい」

「承知した」

 

分担と準備を指示したバルザックが最後にサントハイム王に目を向ける。

 

「陛下。最後に何かございましたら」

「うむ」

 

水を向けられたサントハイム王はおもむろに席から立ち上がる。

 

我が娘(アリーナ)にクリフトとブライ。マーニャとミネア。そしてトルネコとライアン。これほどの『導かれし者たち』が我が国(サントハイム)に集ってくれた幸運に感謝する」

「……」

「勇者の保護は、確かに世界の命運を握る重大事ではある。が、余は、あえて言おう。()()()()()()()()と」

 

胸の前で拳を握りしめてサントハイム王は断言した。

 

「国のため。世界のため。綺麗ごとならば幾らでも言葉を飾れよう。だが。しかし。余は、斯様な虚飾で勇者を縛ることを望まぬ。何故ならば、余が王たらんとするのは(サントハイム)のためにあらず。まず第一に、余が心から愛した亡き妃のためである。であるのならば、勇者が世界を救う動機もまた、勇者自身の望みの先になければならぬ。そうでなければ、まず誰よりも勇者が救われぬ」

 

バルザックがゆっくりと頭を垂れた。アリーナも、クリフトとブライも。マーニャとミネアも。トルネコとライアンまでもが。

 

「諸君らの全てがサントハイムの民というわけではない。ゆえに余が命じる筋合いではないことは承知している。だが、余は王である前に一人の男として、父として、諸君に依頼する。()()()()()()()()()()()()()というだけの理由で命を狙われるという理不尽から、一人の子供をどうか守ってやって欲しい、と」

「任せて!」

 

サントハイム王国第一王女アリーナが決然として応えた。

 

「ボクが、ボクたちが必ず勇者を守ってみせるよ! そうすることがサントハイムの王族としての、あるべき姿だから!」

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