「ふん。また来たのか」
煮炊きに使う薪を割るために小屋の外に出た年老いた木こりは、小屋の裏で木を削っただけの簡素な墓の前に跪く人影に気付くと低く吐き捨てた。
「相変わらず陰気臭い面をしおって。ガキが」
「生憎と、不景気な面は生まれつきでな」
墓の横には古びた一振りの
ソレに心当たりがあるのか、ないのか。そもそも興味が無いのか。あるいは
「泊まっていくのなら勝手にするがいい」
使い古された手斧で淡々と薪を割りながら木こりは呟いた。小屋の扉から飼い主と同じくらいに老いた犬が顔を出し、微かに鼻を鳴らした。
「いや、俺はここに泊まる資格はない」
「こんな小屋に泊まるのに、いちいち資格だの許可だのを誰が求めるってんだ」
薪を割る手を止めることなく無愛想にボソッと呟く木こりに、ローブ姿の青年は薄い琥珀色の瞳を細めた。
「天におわす全知の神様とやらが、じゃないか?」
「なんだそりゃあ。ずいぶんとまあ御大層な言い回しをしやがって」
「で、許しもなく勝手なことをすると雷を落としてきやがるんだろうよ」
「……」
老いた木こりは、振り上げた手の動きを急停止させる。そのまま、不躾な若造の顔に目掛けて斧を投げつけてやろうかと迷うように視線を向ける。
「おい」
「悪かった。俺はもう、多分ここには二度と来ない。次にノコノコ顔を見せたら、その斧で頭をカチ割られそうだからな」
詫びるように目を伏せて、素早く一歩後ずさる。
「だから、二つだけ言っておく。一つ目は、クソッタレの全知の神様とやらはずっと天に居座るわけじゃない。いつか地に叩き落とされる。まあ、理由の半分は間抜けな神の自業自得だが」
「……」
「もう一つは……いや、すまん。やっぱり言わないでおいた方が良さそうだ」
わけがわからないことをほざく若造に、老いた木こりの手斧を握る手に力が入る。
「ただ、あと数日ほどしたら、
「なんだと?」
思わず聞き返した木こりに、しかし答えは返ってこなかった。迂闊に舌を回して言う必要もないことを口にしてしまった己の失態から逃げるように、それこそローブの裾を踏みつけて無様にスッ転びかねないほどに、まさに脱兎の如くの勢いで脇目も振らず逃げ出していたから。
その背を皺深い目を剣呑に細めて見送っていた木こりは、しかしやがて振り上げていた手斧を持った腕を下ろした。
「何をわけのわからんことを」
木こりは独り言ちた。擦り寄ってくる老犬が隣で甘えるように喉を鳴らすと、小さく頷いて再び薪を淡々と割る作業に戻る。やがて薪を割り終えると、老犬と共に小屋に戻っていく。物音が絶えた森には再び静けさが戻った。
――…それから数日後。こんな鬱蒼とした森の奥にある小屋にはあまりに不釣り合いな大人数の客が訪れて、いきなり賑やかになることも。その客の中に、
この時の木こりは、未だ知る由もないことだった。