【更新停止中】ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第三話:砂漠の宿屋

「うっわー……」

「……」

「やっぱり、あっっっつぅいぃ~…」

「いやはや、この熱は堪えます」

 

遮るものとてなく容赦なく降り注ぐ過酷な陽射しに真っ白に焼け付く砂。自分は頭に乗せた神官帽をずらし、額に滲んだ汗を手巾で丁寧に拭ってから位置を直す。

 

サントハイム(我が国)の南にも砂漠はありますが、それよりも数倍は広いと言われていますね。隅から隅まで歩いて確かめた者がいるわけではありませんので詳細は不明ですが」

 

ブランカの東方には、陸路で南のアネイルやコナンベリーへと向かう旅人にとって大きな障害となっている茫漠な砂漠地帯が広がっている。

どんなに強健な旅人でも、この暑熱の中を一人で歩いて砂漠を越えるというのは無理難題だ。ただでさえ過酷な暑さに容赦なく吹きつける熱風、時に襲い掛かる砂嵐に加え、危険な魔物までもが出没する。

大抵は大人数で馬車を連ね、厳しい陽射しを遮る幌付きの馬車の中で交代で体を休ませ、体力を温存させながら進む。そうでなければ旅は難しい。

 

「バルザックが言うには、この砂漠の宿屋には馬車の持ち主がいるらしいのですが」

 

当然ながら、そんな隊商にとっての馬車とは大切な生命線であり、なくてはならない商売道具であり、ある意味では愛着ある『家』そのものですらある。例え金を出すから譲って欲しいと切り出しても、簡単に頷いてくれる者がいるとは思えない。

 

「あれね」

 

砂漠の陽射しに目を細めていたミネア嬢が後ろを振り向き、呟く。

自分たちも宿屋の横で水桶に首を突っ込んでいる見事な体躯の馬に視線を向ける。飼い主が毎日の世話を欠かしていないのだろう。毛並みも良く、水桶から顔を上げてこちらを見る円らな目も賢そうだ。

馬小屋の隣には空の馬車も停められている。これもまた幌付きの立派な馬車だ。

 

「なんだ、お前らは。オレのパトリシアをジロジロと見やがって。さっさと帰れ!」

 

だが、そこで扉を開けて出てきた青年がひどくつっけんどんな態度で刺々しく吐き捨て、しかし馬に対して向ける目は一転して優しい。

 

「ああ、すまなかったな。お前に言ったわけじゃない。さあ、食べろ。この前、南から来た隊商からソレッタ産のトウモロコシを買ってみたんだ」

 

飼い葉桶に飼料を入れ、丁寧に手で混ぜる。馬が食べ始めると、優しく首を撫でている。それ自体は別に自分が文句を言う立場ではないが、仮にも宿屋を経営する側の人間とも思えない態度だ。客商売の人間が、本当にそれで良いのだろうか。

 

「これ、ホフマン! お前はまた、お客様に向かって、なんという態度を……」

「うるせえ!」

 

騒ぎを聞きつけたのか、母屋の方から出てきた父親らしい年配の男性が息子の名前を呼んで叱りつけるものの、全く聞く耳を持たずに馬の世話ばかりしている。

 

「全く、この馬鹿息子が。……申し訳ございません。息子が、とんだ失礼を。もし砂漠を渡られるのでしたら、出発前に一休みなさっていかれてはどうでしょうか。幸い、今は他の客もおりませんので。お泊りになるのでなければ料金は結構です」

 

息子の無礼の詫びに、と、そう言ってくる父親の方がよほど良心的だ。実際、この暑熱は堪える。皆が顔を見合わせ、宿の主人の好意に甘えることにする。

 

「では、水ぐらいは汲んで行こう」

「お手伝いします」

「助かる」

「クリフト、先にハッカ飴だけもらってっていい? この暑さじゃどうせすぐに溶けちゃうだろうから、皆で分けちゃおうと思って」

「かしこまりました」

 

ライアン殿と自分が井戸で水を汲んでから宿に入ると、皆はそれぞれ思い思いに腰を下ろしてくつろいでいた。

 

「シンシアも、ここでなら顔を出してもいいんじゃない? いつまでもその外套を被ったままじゃ暑いし、きついでしょ?」

「うん、ありがとう」

 

幸い、宿の主人も今は席を外してくれている。マーニャ嬢の声に応じて、フードを下ろしたシンシア嬢が息を吐く。

室内も暑いと言えば暑いが、体に直接陽射しを浴びずに済む分、体感的にはまだマシだ。汲んできた水で各自が手や顔を洗い、水で喉を潤して一息つく。姫様からハッカ飴を分け与えられた女性陣は口の中の飴玉を舌の上に転がして頬を緩めている。

 

「こういう暑い時のハッカ飴は特に美味しいわね」

「そうね。口から喉がスッとするから、涼しく感じるわ」

「ボクも同感だけど、ここで舐め切っちゃうと砂漠の中で恋しくなりそうだなあ」

 

姫様とマーニャ嬢とミネア嬢が楽しげにお喋りをしている中で、シンシア嬢は隣に座るソロ殿と微笑みあっていた。

 

「美味しい?」

「とっても。村の花畑で、ソロとお昼寝しながら薄荷の茎を噛んでたのを思い出すわ」

「ああ、うん。……確か、池の近くにヒバリが巣を作った時だったっけ」

「そうそう。親鳥が卵を温めてるのを二人で見守ってた時の」

「あの時の雛も、そろそろ大きくなったかな。村は無くなっちゃったけど、周りに人はいなくなったから、安心して巣を作れるようになったと言えなくもないかも」

 

小さな声で親しげに語り合っていた二人は、そこでふと何かに気付いたように周りを見回す。いつの間にか二人の会話に皆が聞き入っていたからだろう。

 

「あ、あの……」

「ええっと、その、……そ、そう! あの馬車を手に入れないと、って話でしたよね!」

 

羞恥と気まずさを誤魔化すようにソロ殿は話題を変える。特に生温かい目で見守っていたマーニャ嬢の方は見ないようにして、自分やブライ様といった男性陣に顔を向けている。どうか助けて欲しい、と言わんばかりの眼差しだった。

 

「はい。バルザックによれば、あの青年の根深い人間不信は説得や交渉でどうにかなるものではない、と」

 

自分が応えると、やや大袈裟ではないかと思えるほどに胸を撫で下ろしていた。

 

「そこで必要になるのが、ここから東にある『裏切りの洞窟』なる場所から『信じる心』を持ち帰ってこなくてはならない、というのですが」

 

バルザックから聞かされた話をそのまま語ると、何とも微妙な沈黙が流れた。驚きではない。ここにいる全員が、一度は一通りの話は聞いている。自分が語ったのも、ただの確認以上の意味はない。しかし。

 

「なんていうか……何度聞いても、よくわからないよねー」

 

真っ先に姫様が苦笑交じりに小首を傾げる。

 

「バルザックを疑うつもりはないんだけど。そもそも『裏切りの洞窟』って名前からしてさ、もう中で何が起きるか予想できるでしょ? その上で、中に入って、持ち帰ってくるのが『信じる心』っていうのが……」

「そもそも心を見える形に出来るものなら、世の中の争いはずいぶんと減るでしょうね」

 

それに続いてトルネコ殿は頭に乗せていた帽子を脱いで、顔を仰いだ。

 

「もし世界のどこかに『妻への愛』などというものがあるとするなら、わたしは喜んで妻への贈り物にするのですが」

「はいはい、ごちそうさま。だったら今度は帰りに花束でも買っていってあげたらどうかしら? 高いけど、真っ赤な薔薇とかは特におすすめよ? サントハイムのお城の庭にも色々と花が咲いてたし」

 

恥ずかしげもなく堂々と奥方への惚気を口にするトルネコ殿の言をマーニャ嬢がスパッと切って、話題の流れを元に戻す。

 

「いっそ、あのホフマンって人を一緒に連れてくってのはどうかしら?」

「それでボクたちを信じてくれるようになるかな?」

「違うわ。姉さんが言ってるのは、あの人に私たちを信じてもらうというより、洞窟の中で()()()()()()()()()()()()()()を見せつけるってことじゃないかしら?」

 

さすがは姉妹というべきだろうか。即座に真意を見抜いたミネア嬢の言葉に、パチパチと姉は手を叩く。

 

「さすがミネア、自慢の妹よね!」

「それはそうよ。私が一体どれほど姉さんに約束を破られてきたことか……」

「ちょっ……!」

 

そう言われると心当たりがあるのか、慌てて腰を浮かしかけてからあらぬ方に顔を背けて、強引に何も聞かなかったことにしたようだった。

 

「う、うんっ、それはともかく、問題の『裏切りの洞窟』に誰が行くかよね!」

「バルザックによると、最低でも三人以上が必要ということでしたが」

 

皆が少し黙る中で、真っ先に手を挙げたのは他ならぬ勇者ソロ殿だった。

 

「自分は行きます。『信じる心』っていうのが何なのかはよくわかりませんけど、自分は行かなきゃならない。そういう気がするので」

「ソロが行くなら、私も」

「じゃあ、私も」

「姉さんが行くなら」

 

ソロ殿とシンシア嬢。そしてマーニャ嬢とミネア嬢が立候補する中で、逆にトルネコ殿は辞退する。

 

「すみませんが、わたしは商人なので。妻と息子以外の方を心から信じるというのは難しいのです」

「ゴメン。今回はボクもやめておくね。父上から聞かされたんだ。『政治の場では王族たる者は何者も信じてはならぬ』って」

 

姫様が同行を拒まれるというのであれば、自分はそれに従うだけだ。

 

「自分は姫様と共に」

「儂もじゃな」

 

最後に、一人だけ何も言わないライアン殿に皆の視線が集中する。

 

「自分は洞窟の入り口までは同行いたそう。ホフマンという青年の護衛という意味でも、万が一に備えるという意味でも、自分が入り口で見張りをしていた方が良いと思うが」

 

皆の意見が揃った。姫様が各自の意向を整理する。

 

「じゃ、纏めるよー。『裏切りの洞窟』に突入するのはソロとシンシア。マーニャとミネア。この宿で待機するのはボクとクリフト、ブライとトルネコ」

 

そこで一度言葉を切り、首を捻る。

 

「あ、でもさ。あのホフマンって人を洞窟まで一緒に行こうって誰が誘うの? バルザックをルーラで連れて来れば出来る? かな?」

 

確かにバルザックなら出来てしまいそうではあるが、今回は同行していない。『裏切りたくない』とだけ言って。それでマーニャ嬢とミネア嬢が納得していたのだから、それ以上は自分や姫様たちも何も言えなかった。

 

「自分が、話してみます」

 

再びソロ殿が名乗りを上げた。

 

「あの村で、トルネコやバルザックを信じたから、今こうしてシンシアと一緒に旅が出来ているのなら。それ自体が、一つの『信じる心』だと思うんです。だから、あのホフマンっていう人にも、それを見せて証明するのも、勇者なんじゃないかって思うので」

「では、ソロ殿が説得に成功した場合は自分がその護衛を。説得に失敗した場合でも、洞窟の入り口までは同行いたそう」

 

最後をライアン殿が締めて、各自の役割分担は決まった。

 

「それじゃ洞窟に入る上で各自の装備品と、持って行く物を決めよう! トルネコ、よろしく!」

「かしこまりました。それでは初めにソロさんから。防具は鉄仮面と、はぐれメタル鎧と鉄の盾。武器は鋼の剣ですね。次に――」

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