ドラクエ4のバルザックに転生した   作:葛轍偲刳

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第四話:疑う心

「あ?」

 

オレは険悪に唸った。

 

「宿屋の御主人に聞きました。昔、仲の良い友人たちと東の洞窟に行って、でも血まみれになったあなただけが馬の背に乗せられて帰ってきた、と」

「あのクソ親父、余計なことを……」

 

目の前の年下の少年は、澄んだ青い目でオレの顔を真っ直ぐに見つめている。その純真さが、ひどく癇に障った。まるで()()()()()()()()()()()で。

 

「あの洞窟が『裏切りの洞窟』と呼ばれているらしい、という話も。その上で、あなただけが……」

「うるせぇっ!」

 

聞いていられずに大声を上げて言葉を遮る。思い出したくない。思い出したくないのに、記憶が勝手にフラッシュバックする。

 

――親友だと信じていたアイツが満面に浮かべる醜悪な笑み。

 

はじめは驚き、次に制止し、最後は懇願するオレの返り血にまみれて、それでもアイツは()()()()()()()()

 

「とっとと何処へなりとも行っちまえ! 二度とオレの前に顔を出すな!」

 

砂漠で誰が野垂れ死にしようが知ったことか。いや、むしろ、どいつもこいつも死んでしまえばいい。誰も彼もがいなくなってしまえば、自分を裏切る人間もいなくなる。

 

「……」

 

言葉に詰まり、唾を飲みこみ、しかしそれでも動こうとしない。()()()()()()()()()()。水でもぶっかけてやろうかと思い、しかしそれでも動かなかったらどうするかと考え――だが、暴力に訴えるという選択肢だけは真っ先に捨てる。

かつて親友に裏切られ、殺されかけた自分が、今度は他の誰かに手を挙げる。それは、その時点で、オレもアイツと同列に堕ちるということだ。

 

「失せろ。今すぐ」

 

精一杯の凄みを声に籠める。目に威圧と嫌悪を剥き出しにする。ありったけの拒絶と敵意を叩きつける。なのに、目の前の相手は、それでも動かない。

 

「お願いがあります。自分たちと一緒に、あの洞窟に入ってもらえませんか」

「何だと?」

 

思わず聞き返してしまって、そうしてしまってから失敗を悟る。今のは無視するべきだった。でなければ、鼻で笑って相手にしなければ良かった。そうすれば、断れた。問いを投げかけた時点で、自分の心が動いたと認めてしまったようなものだ。

 

「探索を手伝って欲しい、とは言いません。そもそも、あの洞窟に魔物は出ないと聞いています」

「……」

 

知っている。オレもまた、あの洞窟には魔物が出ないから安全だと、もし万が一のことがあったとしても友人たちと一緒だから大丈夫だと、そう信じていたのだ。

 

「もし、洞窟で()()()()()()()()を見つけることが出来たなら。それはあなたのものです」

「!?」

 

一瞬、自分の顔が思わず引き攣るのを自覚する。例え洞窟の中には魔物が出なかったとしても、この宿から洞窟に辿り着くまでの道中は別だろう。危険を冒し、わざわざ時間と労力を費やしてまで洞窟の中を探し回り、そうして苦労して見つけ出したはずの宝を、見ず知らずのオレにあっさりと譲り渡すと言うのか。

 

「信じられるかよ。そんなことを言っても、どうせ口先だけだ。いざ宝を見つけたらオレを裏切るつもりなんだろうが!」

 

目を真ん丸にした、その澄んだ青い目が自分の顔を映している。醜い顔だ。不信感と猜疑心に満ちている。あの時のアイツと、今のオレと、一体どれほどの違いがあるというのか。

 

「……それは思いつきませんでした。なるほど、そういうこともあり得るんですね」

 

勉強になりました、などと暢気なことを抜かしやがる。今度こそ怒鳴りつけて追い返そうとした瞬間、

 

「では、こうします。洞窟の中では、ホフマンさんに自分たちの武器を預けます」

「――…は?」

「もし、洞窟の中で魔物が出たら。あるいは、武器を使う必要に迫られたら。その時は、ホフマンさんに武器を渡して下さいとお願いします。ホフマンさんが自分たちを()()()()()()と思えたら、その時は武器を渡してください」

 

なんだそれは。自分が誰かを信じるなど()()()ありえない。それは、つまり。

 

「おい。そんなことをして、もしオレが襲い掛かったらどうするんだ」

「?……しないでしょう?」

「……」

 

小首を傾げられ、そして当たり前のように言われてしまって、思わず絶句する。そうだ。親友に裏切られたから、誰かを裏切る。そんなことは、自分はしない。()()()しない。だって、そうしてしまったら、オレは――。

だが。しかし。なんでそこまでオレを信じられる。見ず知らずの、ここまで拒絶を剥き出しにしたオレを。

 

「自分は『信じるべき時と、場合と、相手を見極めろ』と教わりました。。洞窟に行くまでの道中は魔物が出るので、武器がないと困ります。ですが、洞窟の中には魔物が出ないので、武器がなくても困りません」

「……で?」

 

とうとう、無視でも拒絶でもない、相槌を打ってしまう。ここまでのことを言える相手に、その先を促してしまう。

 

「それで武器が必要になった時、ホフマンさんは考えます。『この武器を渡して、もし襲い掛かられたらどうする』って」

「ああ、そうだ。オレは必ずそう考える」

 

だから渡さない。()()()だ。

 

「でも、それを言うなら洞窟の外でも同じでしょう? なんでわざわざ洞窟の中でホフマンさんを襲う必要があるんです?」

「……そ、れは」

「洞窟の外でなら、『ホフマンさんは魔物に襲われて死んでしまった』って言えます。わざわざ魔物の出ない洞窟まで連れて行く必要もありません」

 

勿論そんな事はしませんけど、と、お気楽に青い目が笑う。そうだ。なんでアイツは、わざわざ洞窟の中で――いや。いいや、違う。そんなわけがない。そんなはずがない。アイツは、オレを裏切った。あの洞窟の中で。

 

「オレが知るかよ、そんなこと。どうせ人目につかない場所の方が良かったとか、そんな理由だろうよ」

「はい、そうかもしれません。なので、()()()()()()()()()()()()()()()を信じます」

「どういう意味だ」

「洞窟の中で、ホフマンさんが自分たちの武器を全て持っていて下さる限り、例え自分たちの中で誰かが裏切ったとしても殺し合いにはなりません。魔法という手段もありますけど。魔力が尽きるまで薬草と回復魔法で耐えれば、それまでです」

「……」

 

オレは、武器を渡さない。()()()だ。だからこそ、もし万が一誰かが裏切ったとしても、こいつらは相互に安全が確保される。

 

「……オレは預かり所かよ」

「なら、返していただく時は手数料をお支払いしないとダメでしょうか」

 

大真面目に抜かしやがる相手に、思わず毒気が抜けた。

 

「要るかよ。商売でもねえってのに」

「良かった。あ、いや、良くないのかな? もしホフマンさんが商売をなさるのであれば、トルネコとも話が合うと思うんですけど」

「誰だよ。知らねえよ」

 

気付けば、いつの間にか普通に会話が成立していた。オレは手で顔を覆った。外では何故かパトリシアが楽しげに嘶いていた。

 




まだ先の話ではありますけど、砂漠を超えた先のアネイルでは、やっぱり温泉にいる女性との掛け合いネタは拾いたいじゃないですか。
なのでアネイルの温泉シーンで男性陣視点と女性陣視点、どちらで読んでみたいかアンケートを実施したいと思います。

アネイルの夜の温泉に登場する女性との掛け合いシーンは、どちらの視点で読んでみたいと思われますか?(具体的に誰の視点になるかは未定です)

  • 男性陣(可能性としてはホフマンも含む)
  • 女性陣(パトリシア? さすがにそれは…)
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