すみません、投稿予約設定の日時を間違えて明日にしていました(;'∀')
「で、アネイルの英雄として祀られてる戦士リバストの鎧が、実は偽物だって話があって、」
「ああ、本物はここからずっと北東の海鳴りの祠にある。近くにはメダル王の城もあるから、一度そこまで船で行けば次からはルーラで――」
世界中から集まってきた商人や船員、船大工や職人らで賑わうコナンベリーの宿屋に併設された大きな酒場に、椅子を蹴って立ち上がる音が幾つも響く。
「「「なんでそんなことを知ってる
一番声が大きかったのはホフマン殿だが、ソロ殿とシンシア殿も異口同音に叫んだ。
わざわざ席を立って叫んだりはしなかったが、自分も全く同感である。少なくとも、アネイルの教会に保管されているのが本物ではないと薄々察していたとしても、本物の鎧の行方を知る人物など街の住人の中には一人もいなかったはずだが。
逆に、もう慣れたように何も言わずに首を振ったり肩を竦めているのはマーニャ殿とミネア殿。そしてアリーナ姫様とクリフト殿、ブライ殿。
「ああ、そういうのは訊いても無駄よ。昔からこんな感じで、私たちも『なんで知ってるの?』って繰り返し訊いたことは何度もあるけど」
「私も姉さんも、一度もまともに答えてもらえたことはないわ。言ってることに何一つ嘘が無くて、大体当たってるから信じるしかなくなっちゃうんだけど」
ソロ殿たちやホフマン殿が渋々と席に腰を下ろす。そして実際、バルザック殿は何事もなかったかのように話を進める。
「天空の鎧のある場所がわかっていたとしても、海鳴りの祠は強力な魔物の巣窟だ。おそらく、今の状態では一戦で半壊、二戦目で全滅する可能性が高い。だから、様子見で軽く立ち入ってみるのは構わないが、中を覗いたらすぐに離脱しろ。クリフト、ミネアは特に深入りしそうなアリーナとマーニャを引き留めろ」
まるで実際に中に入って見て来たかのような具体的な指示を出す彼に、半信半疑ながら訊いてみたいと思った。
「バルザック殿」
「なんだ、ライアン?」
「もしや、他の天空の武具の場所もご存じでは?」
自分が問いを投げると、バルザック殿は周りをチラリと見回した。それに倣って自分も周りの気配を探るが、酒場の他の客にこちらを窺っている様子はない。飲んで、酔って、騒いで。誰もが余暇を大いに満喫している。
無論、マーニャ殿やミネア殿、アリーナ姫など人目を惹く容貌の持ち主に下衆な目を向ける酔漢が皆無というわけではないが、いずれもこちらの会話に聞き耳を立てているというほどのものではない。
それを確認してから、バルザック殿は特にもったいぶりもせずに首肯した。
「ああ」
「お伺いしても?」
「兜は北西の水の都スタンシアラの王が。盾は北のガーデンブルクの女王が、それぞれ持っている。ガーデンブルクはブライの爺様に持たせたマグマの杖があれば入れるだろうが、問題は剣だな。ここから東の世界樹の一番高い枝に刺さっているんだが、周りは岩山に囲まれていて手が出せない。――
誰からともなく深い溜め息が幾つも漏れた。不信や疑念を抱くのを通り越して、ある種の脱力感を抱いたのだろう。顔にこそ出さないが、自分も似たようなものだ。
勇者を探して
八つ当たりとはわかっていても、『自分の苦労は何だったのか』と言いたくなるかもしれない。少なくとも自分は言うつもりはないが。
「まあ、今の時点では、まだまだ先の話だ。ひとまず頭の隅にでも置いといてくれればいい。次は何をすればいいのか、どこに行けばいいのかわからなくなった時にでも思い出してくれれば、それで十分だ」
「はいはい、わかったわよ」
互いの気心が知れていると一目で見て取れるほど気安い調子で軽く流したマーニャ殿が、そこで少し言葉を躊躇い、
「……ねえ、バルザック、お父様は?」
「大丈夫だ。オーリンがついている。心配なら、この後でミネアと一緒に顔を見に行ってきたらどうだ?」
「うん、そうするわ」
「姉さん、何かお土産でも買っていきましょう。さっき、酒瓶の中に小さな船の模型が入ったのを見つけたの。あれ、どうやって作ったのかしら?」
「あ、ボクもついてっていい? クリフトとブライも一緒にお見舞いしたい」
「エドガン殿の見舞いであれば、自分も是非」
「そういうことでしたら、わたしもポポロと一緒に」
どうやら全員でついていくことになりそうだと思ったところで、会話の流れから一人取り残されたホフマン殿にバルザック殿が顔を向ける。
「そういうことなら、俺たちは男同士で酒でも飲みながら親睦を深めるとするか、ホフマン。お前に話もあるしな」
「オレに?」
「そうとも。悪い話じゃないと思うぞ?」
バルザック殿は明らかに含むところのある人の悪い笑顔を向けた。それに対して、ホフマン殿は警戒と猜疑を隠し切れないように眉を寄せた。そんな二人を見たマーニャ殿は呆れたように頭を大きく振り、ミネア殿は手元に理力の杖が無かったことを残念がっているように拳を握った。
「バルザック、ホフマンをあまり悪い道に引き込んじゃダメよ?」
「日頃からシンシアに悪いことを教えようとする姉さんがそれを言うのはダメだと思うわ」
「じゃあ、代わりに自分が言います。バルザック、ホフマンを利用するつもりなら、ちゃんと正直に言ってください」
「そうだな。大いに利用して、大いに世界の役に立ってもらって、ついでにホフマンにも悪いことにはならないようにする。……これでいいか?」
「ダメに決まってるでしょうがぁっ!」
ソロ殿が釘を刺しても全く堪えた様子のないバルザック殿に、背後に回り込んだアリーナ姫様が軽く肘鉄を入れた。後頭部に一撃を入れられたバルザック殿が椅子に座ったまま思わず前のめりに突っ伏した。
「ホフマン! バルザックの悪だくみに付き合う必要はないからね!?」
「あ、ああ」
「そうそう。もしおかしな話を聞かされたら、私か姉さんに言ってくれればいいから」
どちらかというと、肉体言語で言う事を聞かせるアリーナ姫様の方に引いてしまっている様子のホフマン殿だったが、残念ながらそれについては気付いてもらえていないようだった。