はじまりの魔女様。   作:まぐろの大トロ

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1章 悲鳴───Echo of Zenith────
1-1 管轄外


 

 

「潜入捜査ぁ?」

 

 

 バルトローグから言い渡された任務に、氷の隊は疑問を呈していた。あくまで彼らは捕縛隊であり、捜査に関しては別の隊が担当するものだ。蜘蛛の隊のような捕縛も並行して行う捜査隊もいるが、それでも彼らの専門は情報を精査すること。蜘蛛の隊の捕縛はサブ業務といったところである。

 捕縛隊には似合わない任務に氷の隊は困惑していた。

 

 

「なんでこれまた俺たちに?」

「先日君たちが捕まえたアカルガを、裏で操っていた黒幕。それ自体は魔女様が捕まえたが目的はやはり金だったようでね」

 

 

 やはり…という顔をする面々。4人とも同じような顔をしたのが面白かったのか、バルトローグの口角がほんの少しだけ上がった。

 

 

「そしてブラックマーケットで最近流通し始めたある素材を買い上げて悪事を働こうとしていたようなので、それを探ってほしい」

「…やはり私たちの仕事ではないのではないですか?」

「それなんだけどね…皇帝陛下が心を痛めていらっしゃるようだ。皇宮からご指名さ」

「拒否権なしかー」

 

 

 逆らえば初手牢獄、最悪処刑場である。

 

 

「皇帝陛下の命で、他の隊にも秘匿される任務になる。つまりは他の隊へ救援要請も送れないわけで、危険度も高い任務になるのだが。受けてくれるね?」

「魔女様は…来れないのですね」

「そうだね、魔女様は大変目立つ方だ。潜入の意味がないだろう?」

「そりゃ当然だな」

「それに、潜んでいる犯罪者が飛び出してしまうかもしれない。最悪、近隣の地方都市が被害に遭う可能性だってあるわけだ」

「やるしかないですね!皆さん現場で頑張ってくださいね!」

「ツツマキくん、君も現場だよ」

「ぐえぇぇっ」

 

 

 オペレーターがどしゃりと崩れ落ちた。女の子の出していい声ではないものを口から漏れ出させながら、デスクのバルトローグを見上げる。

 

 

「なんでえぇぇ…」

「ツツマキ先輩、これ秘匿される任務だって統括隊長言ってましたよ」

「うぇー!戦いは得意じゃないのにィー!」

「そもそも捜査任務だって言っていたろう。大丈夫だ、戦闘前提じゃないんだから」

「ツツマキ、頑張ろうな!」

「みんなすっごい笑顔!眩しいな!でも実際、私役に立たないですよ!オペレートしかできませんよ?」

 

 

 バルトローグ曰く、ブラックマーケットは警察を歓迎しない。そのため、彼らを避けるためまたは追い出すために厳重な警備が敷かれている。外部へ[座標の魔術]による座標送信や[念の魔術]による会話送信を行えば警備用の[界域の魔術]に引っかかり、捜査どころではなくなるのだとか。

 

 逆に、内部でそういった規制はされていないので、中に入ってオペレートすれば良いということらしい。

 

 

「ぐうぅっ、さらばオペレータールーム…!」

「マーケットの警備網…そこまで分かっているのですね」

「先に潜入している捜査官の貴重な連絡で判明した事実だ。しかし人数が足りなくて捜査がうまく進んでいないようなので、支援に向かってもらう。まずは彼女と合流して、詳しい話を聞いてくれ」

「了解!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、現在氷の隊は指定された座標にて合流を待っている。

 美しい内海を望む帝都から、直線距離で約300km。山頂から噴煙を上げてなお美しい藤山を背景とした地に、ブラックマーケットはひっそりと存在していた。藤山の名の由来となった藤の樹界に隠れて、様々な事情を抱えた人間達が集合している。

 帝国領内であるが、そういう場所として黙認されるような形で存続している。光あるところに闇あり、仕方のないことだと皇帝は割り切った。

 

 なお、ブラックと言ってはいるものの100%全員が犯罪者というわけではない。通常流通しない品物や、所持することすら憚られる忌み物など、もっぱらグレーな物が取引されている。法律的にしょっぴけないギリギリのものがほとんどなので、警察側からすれば手出しがし辛すぎるというわけである。

 

 

 

 指定された場所はマーケットから距離を少し置いた場所。近くもなく遠くもない場所故に、マーケットの利用者すら通らない絶妙な座標が指定されていた。

 

 

 

 

「既に時間過ぎているのだが。時間も守れん奴が先遣隊だと?たるんでるな、全く」

「まあまあ、ルルー。何かあったのかもしれないじゃん?はい、あーん」

「もぐもぐもぐもぐ」

 

 

 だがしかし、合流時間になっても先に潜入したという女性巡検官は現れず。4人は待ちぼうけを食らっていた。

 否、ルルーだけはアマキの膝に座り、アマキの携帯食料を食らっている。

 ルルーの座高がそう高くないのもあって、見た目は完全に雛鳥に餌をやるソレである。

 

 

「はあ〜あ、ルルーさんいいなぁイチャイチャしちゃって」

「お前彼氏いないのか?」

「なんですかイナサさん?オペレーター(私の仕事)に出会いなんてあるわけないじゃないですか」

「ごめんて」

「そういうイナサさんこそどうなんですか?そろそろ結婚を考えるような年ですよね」

「うるせぇやい」

「…寂しいですね、私たち」

 

 

 2人(カップル)を横目に寂しい2人は嘆息する。

『潜入任務だし、いつもみたいに距離取らなくていいよねですよね隊長』の言葉を軽い気持ちで許可した自分を殴りたい。30歳を越えて交際経験のないイナサは正直羨ましかった。だって、入隊してちょっとで交際開始だよ?え?おじさんそんなこと学校でも無かったのになぁ??思えば出会に恵まれなかったような気がする。きっとそうに違いない。

 

 

 

 しかしこの2人、ずっといちゃいちゃしている。アマキに髪の毛を梳かせているルルーを見てツツマキも疲れた顔をしているし、少し控えさせようか。

 

 

 イナサがそう考えて声を掛けようとした時だった。

 

 

 

 

 

 ───2人の背後から鎧が飛んできたのは。

 

 

 

「がはっ」

 

 

 イナサとツツマキの間を豪速で飛んだ鎧は、藤の木にぶつかり墜落した。苦悶の声を漏らしながら、逆さの体制でずり落ちぐったりしている。

 鎧は細やかな装飾がなされており、ただの鎧という訳ではないようだった。

 握られたままの刀は一見普通の刀に見えるが、鍔に細かい羽の彫刻が施され、やはりこちらも普遍的なものには見えない。

 

 彫られた羽は孔雀のそれに見える物。

 しかし、ゆらめく炎のようなデザインが目に留まる。

 

 

 

「その刀…あんたもしや」

「そこをどけッ…!」

 

 

 

 鍔に心当たりのあったイナサが声をかけるが、拒絶されてしまう。

 

 ───と同時に、背後の魔力の起こりを感じ取った。

 

 鋭く尖った魔力。

 急接近する気配は、明確に殺意を抱いていた。

 

 

 

 

「ちぇらあぁっ!!」

「…!」

 

 

 

 

 

 瞬間、イナサの魔術が炸裂した。振り返ることすらせずに発動した氷の術は、切り掛かってきた剣士を一瞬にして絡め取り、牢獄へと変貌する。

 

 

 

「な……武………!」

「頭を冷やしなァ」

 

 

 氷に四肢と口を封じられた剣士はしばらく暴れていたものの、大人しくなった。双眸は凍り付かず、メラメラと燃えたまま。

 

 

 

「んで?鎧のあんちゃんはどうすんだい?」

「貴様…武士と武士の真剣勝負に割り込むとは…!」

「巻き込まれた側なんだがね…」

 

 

 ひっくり返っていた鎧の方は、いつの間にやら立ち直り刀の(きっさき)をイナサに突きつけていた。怒り経つ鎧兜の中身は窺うことすらできないほど暗く見えないが、口調からして激しく顔を歪めているのだろう。

 

 

「貴様がコイツの代わりに私と斬り合うというのなら、楽に斬り殺してやろう」

「まるで勝てるとでも言わんばかりだな?」

「ああ、決着はすぐだろうさ。ほら、さっさと氷で刃を研いで、私と斬り合え…!!」

「あー…はいはい、そうしますよ」

「ちょっとイナサさん?!」

「心配すんなアマキィ!そこで見てな」

 

 

 

 心配する後輩に後ろ手を振って応え、歩を進める。

 鎧もそれに応えるように、刀を鞘に収める。

 

 

 

「決闘のマナーは知っているか?」

「まずはお辞儀。その後名乗り」

「その通りだ」

 

 

 

 両者は向かい合い、深くお辞儀をした。

 

 

 

「我が名は野干童子(ヤカンドウジ)

「我が名はイナサ」

 

 

 すらりとした刀身を、再び鞘から抜き放つ。

 空を掴むように伸ばされた手には、既に氷の刀が握られている。

 

 

「いざ尋常に────」

 

 

 

 

 

 

 





藤山…活火山。かつては国の象徴とも言えるほどに有名な山で、山頂にかかる雪化粧が非常に美しかったのだという

鎧…孔雀の羽の意匠が彫られた鍔をもつ刀を振るう。弱いわけではない

孔雀…絶滅した鳥。飾り羽根の美しさは、現代でも伝えられるほど

決闘…お辞儀をするのだイナサ


Q,潜入捜査なのに偽名使わなくていいの?
A,面倒な上覚えることが増えて作品を楽しめないのでオミットしました

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