名無しの怪人は酒を買って帰る   作:変身ヒーローはロマン

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幕間:おっさん視点外の狂騒9

 

対怪人局の地下深くに位置する、第一解析室。

地上のお祭り騒ぎのような熱狂が1ミリも届かないこの密室で、

解析班のチーフは、集計が終わったばかりの最新の戦闘被害報告書をデスクに置いた。

 

「特区周辺の怪人消滅事案、最終リポートです。

世間では『聖域化計画』だの『弱者への慈愛』だのと騒がれていますが……

調査により、それらはすべて否定されます。彼はただ怪人を一撃で処理しただけで、

市民への接触も、声かけも一切行っていません。無言のまま、即座にその場を離脱しています」

 

局の幹部は、眼鏡の奥の目を細めて報告書に目を落とした。

「我々が扱うのは事実のみだ。それで、結論は?」

 

「結論から申し上げれば、今回も同様です。

怪人の出現から完全消滅までに要した時間は、わずか数秒。

特区周辺の防衛ラインが突破される直前、最も効率的なタイミングで介入しています。

結果として、局の消耗はゼロ、民間人の死傷者もありません」

 

幹部は、画面に表示された黒の守護者の離脱ログを見つめた。

「……しかし、これだけの戦闘を行っておきながら、現場にはなにも残っていないな」

 

「ええ。問題はそこです。これほどの圧倒的な力を持ち、

これほど完璧に痕跡を消すことに長けた存在が、なぜ組織に属さないのか。

局の包囲網を嘲笑うかのように闇に潜み、戦い続ける……。

一体どれほどの意図、どれほどの『底知れない計画』を秘めているというのか……。

もし単なるスタンドプレーであれば、

どこかで必ず自己顕示欲や、報酬への欲求といった足跡が残るはずです。それが一切ない」

 

チーフは画面を切り替え、

過去数十年の怪人災害および公的・私的な戦闘記録の統計グラフを提示した。

 

「これほど痕跡がないということは、少なくとも我々が想定している動機では説明できません」

 

幹部は椅子の背もたれに体を預け、部屋の天井を仰いだ。

「フー……欲求もなし、顕示欲もなしか……どこぞの馬鹿どもにも見習わせたいものだ」

「例のアレ……ですか?」

思い当たる節があるのか、チーフは苦笑混じりに言葉を濁した。

 

「そうだ。神代レンの敗北でメンツが丸潰れになった上の連中が、

必死になって進めている『黒の守護者捕獲計画』だよ、なんともお粗末な代物だ。

捕獲手順もなく、メディア露出や、局の秘密兵器としてアピールといった捕獲後についてばかり、現実的なことは一切なしで、だ」

「そうですね、まず能力が違いすぎますし、

行動原理は不明、思考パターンも不明、

会話が通じるのかさえ分からない、そんな相手ですからね」

 

 

「つまり、わからないことだらけの存在だ」

幹部はそこで言葉を切り、ふと眉をひそめた。

「……待て。そもそも、『ヤツ』は本当に我々人類を守っているのか?」

 

「そういった懸念は理解できますが、これまでの実績から見れば可能性は低いでしょう。

ですが、未知の存在である以上、完全には否定できません」

「そう……だな、すまない少し疲れているようだ……」

そう述べ、幹部は目頭を押さえた。

チーフはそんな相手に対し、仕方がありませんよ、といった顔を浮かべ、最後にこう告げた。

 

「しかし。『わからない』だからこそ警戒する必要があります。

彼は、我々には見えていない何かと戦っている可能性も否定できません。

引き続き、最大級の警戒を維持し、奴の動向を注視する必要があります」

 

プロたちの高い知性と、過去の歴史への信頼。

それらが完璧に噛み合った結果、対怪人局の頭脳たちは、

どこまでも冷静に、「勘違いの迷宮」へと足を踏み入れていく。

 

世界は、彼の戦果と行動に「計算され尽くした大計画」を見出し、

国家規模の警戒網を敷いていく。

 

幕間 了

 

 

 

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