【緊急報道特番:対怪人局・合同記者会見】
(フラッシュが激しく、執責なまでに焚かれる会見場。演壇には対怪人局の厳格な広報官と、
まだ首元に痛々しい包帯を巻いた新人女性職員が立っている)
「救助された職員の方にお伺いします! 巷で噂の『黒い怪人』……
ネットで言う『黒の守護者』と直接対峙されたそうですが、
彼は本当に人類の味方なのでしょうか!?」
「……味方、という言葉が正しいのかは分かりません。ただ……」
女性職員は、胸元のエンブレムを震える指でそっと包み込んだ。
その瞳にあるのは、単なる怯えではない。
強大すぎる存在を間近で見た者だけの、深い畏怖だった。
「私を襲っていた怪人を、言葉も交わさず、
ただ一撃で粉砕したんです。助けられた私が言うのもおこがましいですが、
そこには正義の味方というような生易しい感情はなく、もっと……
何か、絶対的な規律のようなものを感じました。
あの圧倒的な姿を思い出すと、今でもただ、言葉を失ってしまいます……」
広報官がすかさずマイクを引き寄せ、厳しい口調で補足する。
「会見は以上です。現段階で、当該個体が『人類の味方』であるという確証はありません。
市民の皆様は、決して近づかないよう――」
だが、生中継のスタジオに画面が戻ると、キャスターは興奮を隠しきれない様子で身を乗り出し。
『――なるほど! 局員のあの表情、単なる恐怖ではなく、命を救われたが故の深い『畏怖』、
そして言葉を超えた何かを感じ取ったようですね! 何も語らずに去るというストイックさが、
逆に生々しく伝わってきます!』
――その頃。
薄暗い室内に、カマキリ怪人が粉々に砕け散った瞬間の映像が、
何枚ものホログラムとなって浮かび上がる。
解析班の面々は無言だった。
ここは対怪人局・戦術解析室。
怪人災害の分析を担う彼らは今、一つの「理解不能」と向き合っていた。
「……間違いない。一昨日、あまねという配信者を救った個体と同一だ。
だが、やはりおかしい。
今回も現場周辺の防犯カメラの『死角』を完全に突いている。偶然じゃない、
街全体のカメラの配置を完全に把握して動いているぞ」
「室長、問題はそこじゃありません。解析の結果カマキリ怪人の外殻は、局の特殊合金弾すら弾く超高密度構造です。それを、ただの一撃……
いえ、これを見てください。エネルギー効率のグラフです」
画面に、殴打の瞬間の極小のグラフが表示される。
「怪人核が残っておらず、観測データと結果が一致しません」
「……」
室長は腕を組み、冷徹な目で画面を見つめたまま、深く眉をひそめた。
「これほどの力を持つ存在が、なぜここまで徹底して痕跡を消す。なぜ組織に属さない。
局の包囲網を嘲笑うかのように闇に潜み、戦い続ける……。
その行動原理が、まるで見えてこない。
……だからこそ、不気味だ。」
プロとしての「困惑」と「警戒」は、彼らの知性を経由することで、最悪の方向へと解釈されていく。
【ネットの怪人災害対策掲示板】
【人類の盾】黒の守護者、対怪人局の職員をワンパンで救う【公式会見】
1: 名無しの避難民
今日の会見見たか? 助かった局員の女の子、
ガチで畏怖というか、圧倒されて言葉失ってるじゃん。
14: 名無しのミリタリー
怪人の最強の鎌を素手でキャッチして、そのままワンパンで爆散。
会見だと「絶対的な規律のようなものを感じた」って言ってたけど、
これ完全に言葉の通じない神か何かの領域だろ。強者のムーブが極まりすぎてて濡れる。
28: 名無しの避難民
局員の女の子の証言を翻訳すると
『言葉という不完全なツールを捨て、
圧倒的な暴力をもって怪人を絶滅させるという冷徹な覚悟』ってことだな。
31: 名無しの避難民
いや普通に怪人側のマッチポンプっしょ。
信じてる奴お花畑かよ。www
43: 名無しのエンジニア
防犯カメラに絶対に映らないのも、自分が有名になって戦いに支障が出るのを嫌ってるからだろ。局の解析班ですら「足跡が一切ない」って困惑してるらしい。
どこまでストイックなんだよあの人。
55: 名無しの避難民
命を賭けて戦って、誰にも褒められず、ただ無言で闇に消える男。
お前らが叩いてる間も、彼は世界のどこかで孤独に拳を振るってるんだぞ。
64: 名無しの避難民
公式が「味方とは認めない」って言ってる時点で怖すぎんだが……
82: 名無しの避難民
64
そりゃあんな超越的な存在、国家からしたら不都合の塊だろ。
マジで #人類の盾 だな。国が認めないなら、俺たちがネットで彼を支持し続けるしかない。
そして、その波紋は広がっていく。
【某所】
暗い部屋。ディスプレイだけが光る。
『黒の守護者まとめWiki』
『神の一撃』
『徹底考察』
『切り抜き動画』
『黒の守護者グッズ化希望スレ』
次々と開かれていく。
しばらくの沈黙。そして。
「これ使えるな……」
(幕間・了)