名無しの怪人は酒を買って帰る   作:変身ヒーローはロマン

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幕間:おっさん視点外の狂騒3

 

あの日を境に、世界は一つの「答え」を得た。

それまで正体不明の都市伝説、あるいは不気味な象徴でしかなかった

【黒の守護者】が、ついにその仮面を脱いだのだ。――と、誰もが信じた。

しかもその素顔は、若き大企業の御曹司。

メディアが、大衆が、これ以上ないほどに好む「完璧なヒーロー」の誕生だった。

 

テレビのワイドショーは朝から晩まで神代レンの特集を組み、

コメンテーターたちは我が物顔で彼を称賛した。

 

『――ご覧ください、この洗練された戦闘スタイル!

従来の対怪人局のような泥臭い時間稼ぎではなく、圧倒的なテクノロジーで怪人を【駆逐】する。

これこそが人類が待ち望んだ新しい時代の戦い方です!』

 

ネット上では、最初に救出された被災者であるあまねが、生配信を行っていた。

「私が見た人は、やっぱり間違っていなかったんだと思います……。

ちゃんと、誰かを助けようとしていた。だから、少しだけ安心しました」

普段の配信のノリは、そこにはなかった。

 

 

同接数十万人のコメント欄は、彼女に同調するファンの涙と、レンへの黄色い声援、

そして溢れんばかりの投げ銭の赤色で爆速で流れていく。

SNSのトレンドは一連のワードで固定され、

イラストレーターたちはこぞって

漆黒のスタイリッシュなスーツを纏うレンのファンアートを投稿。

「理想のヒーロー」が次々と描き直されていく。

それは瞬く間に数万リツイートされ、世界中に拡散されていった。

 

大衆は飢えていたのだ。「勝てない天災」である怪人に怯えなくていい日々に。

だからこそ、降って湧いた、顔の見える『無敵の救世主』という極上の娯楽に、

誰もが狂ったように群がった。

 

 

神話の誕生を、商売のプロたちが逃すはずがなかった。

「神代レン」というコンテンツは、世に放たれた瞬間から巨大な利権へと変貌していく

神代グループの株価は連日ストップ高を記録。

それだけに留まらず、大手玩具メーカー、アパレルブランド、

さらには飲料メーカーまでもが、狂ったような速度で商品化へと動き出した。

 

『――限定予約受付開始! 「黒の守護者・神代レン」

公式レプリカスーツ&高周波ブレード玩具!』

 

『――神代レン着用モデル・漆黒のカーボンジャケット、

先行販売で即完売!』

 

街を歩けば、巨大なビルボードに最新鋭のスーツのヘルメットを小脇に抱え、

爽やかに微笑むレンの姿が映し出されている。

エナジードリンクの缶には彼のシルエットがプリントされ、

若者たちはそれを「推し活」としてSNSにアップする。

 

 

 

もちろん、ネットの地下深くには、いつの時代もノイズが存在した。

とある匿名掲示板。

 

7:名無しの避難民

なんか初期の動画と比べて、今回のレン様のやつ、攻撃軽そうに見えね?

 

13:名無しの避難民

それ思った。初期の繁華街のやつとか、

怪人の肉が消し飛ぶっていうか空間ごと消えてる感あったけど、

レンのは普通に爆発して光ってるだけっていうか……。

 

22:名無しの避難民

見た目も最初のって生っぽくなかった? レン様のは完全プラモデルじゃん。

 

 

しかし、そんな雑な違和感は、一瞬でマジョリティの光の中に掻き消される。

 

 

23:名無しの避難民

出たよ逆張り陰謀論者www

 

28:名無しの避難民

神代様が命がけで戦ってくれたのに、ケチつけるとか最低だな。

じゃあお前あのカニトカゲの前に立てんの?

 

33:名無しの避難民

レン様じゃない「本物」とやらが別にいるなら、そいつ今どこで何してんだよw 出てこいよww

 

世界は、神代レンという「記号」を答えとして受け入れていった。

 

 

 

世界中が光に包まれる中、その光が届かない地下深く――

対怪人局の中央解析室だけは、まるで切り離された深海のように静まり返っていた。

 

大型モニターに表示されているのは、

世間が熱狂する「神代レン公式コラボ」の華やかなニュースと、

その横に並べられた、冷徹な地下スキャンデータ。

 

「……局の上層部は、神代レンを公式名誉顧問に任命する通達を正式に承認しました。

もう止まりません」

 

徹夜明けの職員が、くしゃりと顔を歪める。

解析班がいくら

「あれは黒の守護者ではない」

「怪人は地下で再生している」

と報告書を上げても、すでに神代グループの利権と世論の狂騒を呑み込んだ上層部は、

聞く耳を持たなかった。

彼らにとって、真実よりも、

世間が求める「神話」の維持の方が遥かに重要だったのだ。

 

「世間は彼を神だと信じ込んでいる。……けれど、データは嘘をつきません」

 

職員が操作すると、モニターに都心の地下、広大な下水道網の3Dマップが映し出された。

その一角が、不気味な赤色で脈打つように点滅している。

 

「神代レンが『倒し損ねた』個体。

中途半端なダメージの影響で変異を始め、自壊サイクルが完全にバグってます。

地上に出てきますよこれ。……おそらくですが、以前とは違う、怒り狂ったような暴性を持って」

 

上官は深く、深く溜め息をついた。額に冷たい汗が伝う。

 

「世界が都合のいい神話をおもちゃにしている間に、

最悪のカウントダウンが進んでいる、か……」

 

上官は、狂ったように神代レンの名を叫ぶモニターの音を、

ただ苦々しく見つめることしかできなかった。

誰もが答えを得たと盲信する中、本当の破滅への秒読みは、音もなく始まっていた。

 

 

(幕間・了)

 

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