俺の名前は
個性は『着替』
他人の服を別の服へ変えることができる。便利だが欠点もある。相手が今どこにいるのか把握していないと発動できない。つまりまず探さなければならない。
服飾とは情報戦である。
「違うと思う」
耳郎が即座に否定した。最近このクラスメイトはよく否定してくる。なぜだ?
屋内戦闘訓練当日
組み合わせ発表で俺と緑谷がヒーローチーム、爆豪と飯田がヴィランチームになった瞬間、クラスの空気が少しだけ重くなった。瀬呂と上鳴が顔を見合わせ、麗日が微妙な表情を浮かべる。
「大変そう」
「そうかな」
「衣替君とかっちゃんだから」
双方に問題がある前提だった。
訓練開始後、俺と緑谷は建物内を進んでいた。思っていた以上に静かだ。爆豪が相手だからどこかで爆発音でもするかと思っていたが全く聞こえない。
「かっちゃんこういう時は結構慎重なんだ」
緑谷が小声で言う。なるほど、確かに見つからない。服を変える以前の問題だった。
廊下を進み部屋を確認する。誰もいないのでまた進む。誰もいない。俺が服のことを考え始めた頃、緑谷が急に足を止めた。
「待って」
俺も止まる。
「誰かいる」
言われてみれば気配があった。さすが緑谷だ。俺は全然気付かなかったのに。ヒーロー科としてそれでいいのか少し不安になる。
次の瞬間壁が爆散した。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
いた!俺は反射的に指を鳴らした。
パチン。
爆豪のヒーロースーツが消える。代わりに現れたのは黒いフリルだらけのゴスロリドレスだった。
爆豪が固まる。
緑谷も固まる。
俺もちょっと感動した。
似合うな。予想以上に似合う!
「布切れ野郎ォォォォ!!」
爆豪が叫びながら爆発した。今度は怒りで壁を蹴り、そのまま別の通路へ消えていく。
「あっ」
「見失ったね」
「見失った」
仕方ない。位置が分からない。
「なんで残念そうなの!」
その後は追いかけっこだった。
爆豪を見つける
パチン
ウェディングドレス
爆豪がキレる
見失う
探す
発見
パチン
メイド服
爆豪がキレる
見失う
探す
発見
パチン
魔法少女
「ぶっ」
緑谷が吹き出した。
「ごめんかっちゃん」
笑いながら謝っていた。説得力ないぞ。
監視室ではもっと酷かったらしい。上鳴は床を叩き、瀬呂は崩れ落ち、麗日は涙を流して笑い、耳郎は頭を抱えていたそうだ。
気付けば戦闘訓練なのか鬼ごっこなのか分からなくなっていた。飯田は途中から爆豪をなだめる係になっているし、緑谷はその隙に着実に目標へ近付いている。
「爆豪君!冷静になりたまえ!」
「なれるかァ!!」
「服装は後で考えろ!」
「今考える問題だろうが!!」
最終的に目標を確保したのは緑谷だった。ヒーローチーム勝利である。爆豪は二十回近く着替えさせられ、俺は三十回近く見失った。
訓練終了後爆豪がこちらへ歩いてくる。礼なら気にしなくていいのに。
「布切れ野郎」
「はい」
「テメェ覚えとけ」
「次は季節感を意識しようと思う」
「聞いてたか?」
「夏物中心で」
「聞けェ!」
大爆発で俺は吹き飛んだ。
こうして俺は雄英高校で最初のあだ名を手に入れた。
屋内戦闘訓練終了後俺は保健室にいた。爆豪に吹き飛ばされ壁にめり込んだからだ。
リカバリーガールに治療されながら考える。少しやり過ぎたかもしれない。いや二十回くらいだからそんなでもない気もする。
「反省してないね?」
リカバリーガールが言った。なぜ分かったのだろう?雄英には思考を読む人が多い。
教室へ戻ると爆豪がいたので数秒見つめ合う。
爆豪の額に青筋が浮く
微笑んでみよう
「布切れ野郎」
無視されてしまった
「はい」
「次やったらマジで殺す」
「善処します」
「やる気満々じゃねぇか」
なぜバレる?
昼休み食堂
俺は服のカタログを見ながらご飯を食べていた。
海外ブランド
国内ブランド
コスプレ衣装
ドレス
制服
見ていて飽きない。服は芸術であるからだ。
「それ食事中に見るもん?」
耳郎が呆れていた。
「見たい時が見時」
「意味分かんない」
上鳴と瀬呂も来て二人とも俺の隣に座る。
「なぁ、お前の家の倉庫ってマジでデカいの?」
「うん」
「どのくらい?」
「体育館くらい」
「デカすぎだろ」
向こうから女子組が歩いてきた。八百万に芦戸だ
「衣替」
「何?芦戸」
「ちょっと聞きたいことあるんだけど」
「うん」
「その個性って女子の服も変えられるの?」
男子全員が耳を立てる。峰田は既に前のめりだった。
「変えられるよ」
「へぇー」
「でも似合う服しか着せないよ」
「なんでだよ?!」
数秒後峰田が女子達にボコボコにされていた。
翌日基礎訓練
相手の個性への対処法を学ぶ授業らしい。教師は相澤先生。
「例えば衣替の個性への対処法は何だ?」
耳郎が手を挙げた
「見つからないこと」
「その通り。位置が分からないと発動できないからだ。」
確かにそうだ。敵を見失えば無力化できるので理屈としては正しい。
「つまりかっちゃんが正解だったんだね」
「ァ?」
「訓練中ずっと視界切ってたし」
「当たり前だろ」
爆豪が鼻で笑いやがった。その時俺は気付いた、いや気づいてしまった。爆豪の制服は今日も少し着崩している。ネクタイも緩いじゃないかシャツも出ている。
つまり
コーディネートの改善余地がある。
パチン
爆豪の制服が消え代わりに現れたのは、女子用雄英制服。
教室が静まる
爆豪が固まる
俺も固まる
あれ
ちょっと待て、これも思ったより似合う。
「衣替装」
爆豪がゆっくり立ち上がる
「はい」
「今授業中だよな」
「うん」
数秒後教室の窓から俺が飛んでいった。
今日も俺は学びを得た。爆豪には女装が似合う。